キンモクセイ

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キンモクセイ
Osmanthus fragrans
Osmanthus fragrans
神戸市
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 Core eudicots
階級なし : キク類 Asterids
階級なし : 真正キク類I Euasterids I
: シソ目 Lamiales
: モクセイ科 Oleaceae
: オリーブ連 Oleeae
: モクセイ属 Osmanthus
: モクセイ O. fragrans
変種 : キンモクセイ O. f. var. aurantiacus
学名
Osmanthus fragrans Lour.
var. aurantiacus Makino[1]
シノニム
英名
fragrant orange-colored olive
品種[2]

キンモクセイ(金木犀、巌桂、学名: Osmanthus fragrans var. aurantiacus)はモクセイ科モクセイ属常緑小高木樹で、モクセイ(ギンモクセイ)の変種

中国では、正しくは丹桂がこれに当たるが、一般には桂花の名で呼ばれることがある。しかし、桂花は木樨属におけるひとつの名であり、金桂(ウスギモクセイ)、銀桂(ギンモクセイ)などを含む全ての亜種変種品種を総括するものである。

名称

和名の由来は、この樹皮サイ(犀)の足に似ているため中国で「木犀」と名付けられ、ギンモクセイの白い花色に対して、橙黄色の花を金色に見立ててキンモクセイ(中国名:丹桂)と言う[3][4]

中国ではモクセイのことを「圭」と書き[5]、白花の種はギンモクセイ(中国名:銀桂)、黄白色はウスギンモクセイ(中国名:金桂)とよばれていて[3]、キンモクセイはギンモクセイの変種である。

分布

中国南部原産。日本には江戸時代に雄株が渡来し、これが挿し木で北海道と沖縄以外の日本中に増やされた。栽培北限は、東北南部(太平洋側は岩手県紫波郡矢巾町[6]、日本海側は秋田)。日本には自然の分布はなく[4]、庭などに植えられている[3]

形態・生態

ふつう高さ4メートル (m) ほどになる常緑小高木[3]雌雄異株である。条件が良いときには、高さは10 mから18 m、幹の直径は50センチメートル (cm) から1 mあまりに生長する[5]。樹皮は皮目が目立つ。は対生で、広披針形である。葉は波打っており、縁にわずかに鋸歯がある。ギンモクセイはキンモクセイよりわずかに鋸歯が強いので、そこが見分けるポイントの一つだが、どちらもヒイラギモクセイほどはっきりした鋸歯はなく、見分けづらいこともある。

花期は(9 - 10月)[3]は、葉腋に小さいオレンジ色のものを無数に咲かせる。雌雄異株の植物で一般的に言えることだが、たくさんの花を咲かせて花粉を雌株まで届かせる必要のある雄株の方が花の数が多い。花の数はギンモクセイよりも多い。雄しべが2本と不完全な雌しべを持つ。花は芳香を放ち、ギンモクセイよりも濃厚で甘い香りで、夕方などに強く感じられる[4]。芳香はギンモクセイよりも強い。香りの主成分はβ-イオノンリナロールγ-デカラクトン、リナロールオキシド、cis-3-ヘキセノールなど。このうち、γ-デカラクトンなどはモンシロチョウなどへの忌避作用があることが判明している[7][8][9]

雌株は冬にクコの実ほどの小さな実を付け、熟すと紫色になる。ただし、日本では花付きの良い雄株しか移入されていないため、中国まで行かないと実を見ることはできない。なおギンモクセイやウスギモクセイは日本にもごくまれに雌株が植えられており、これが実を付けた時にキンモクセイの実だとしばしば勘違いされる。

日本には雄株しかないため、挿し木で増やす[4]。雄株と雌株を受粉させて種を得なくても、挿し木で簡単に増やすことが出来るので、日本には雄株しかない。丈夫で育てやすく、花も楽しめるので、庭木でも鉢植えでも人気がある。挿し木だと、開花までは早くても5年はかかるが、苗を買ってきて植えれば、早ければ植えた年に花が咲く。すぐに大きくなるので、鉢植えよりも庭に植える方が適しているが、鉢植えにするならなるべく大きい鉢に植える。

庭木としては、半日陰のようなところに植えると良く、日当たりが悪いと花付きが悪くなり、日当たりが良すぎると葉焼けを起こす。すぐに大きくなって樹形が崩れるので、数年に1回は大きく刈り込むと良い。剪定は、花が終わってから新芽が吹く翌春までに行う。害虫は、夏にハダニが湧くことがあるので注意。

日本の「キンモクセイ」は中国の「丹桂」に相当するが、そもそも日本の「キンモクセイ」と中国の「丹桂」が本当に同一であるか、日本のキンモクセイと同じ遺伝子を持つ丹桂が本当に中国に存在するかどうかは議論の余地がある。そもそもキンモクセイ自体が、日本だけで特異的に広範囲で育てられているモクセイの変種の一つに過ぎないが、中国ではモクセイとその変種は桂花茶の原料として重要な栽培植物であり、品種改良によってさまざまな品種が生み出されて大規模に栽培されている。「丹桂」に分類されているモクセイの変種だけでも、高級桂花茶の原料として知られる大花丹桂や朱砂丹桂を始めとして、大量の品種がある。日本のキンモクセイと完全に同じ遺伝子を持つモクセイの変種が中国に存在しない可能性もあり、その観点から、「キンモクセイは中国ではなく日本で生み出された」という説もある。

人間との関わり

桂花茶(左)と桂花醤(右) 桂花茶(左)と桂花醤(右)
桂花茶(左)と桂花醤(右)

主に常緑の庭木街路樹として好まれ、観賞用に植えられている[4]。果実ではなく花を愛でたり食べたりする植物で、しかも受粉させて種を取らなくても挿し木で簡単に増やせるので、庭木や街路樹としては、花が少ない雌株よりも花が沢山咲く雄株が植えられることが中国でもほとんどである。

花冠白ワインに漬けたり(桂花陳酒)、に混ぜて桂花茶と呼ばれる花茶にしたり、蜜煮にして桂花醤と呼ばれる香味料に仕立てたりする。また、桂花蟹粉(芙蓉蟹の別名)、桂花鶏絲蛋、桂花豆腐、桂花火腿などのように、鶏卵の色をキンモクセイの花の色に見立てて名づけられた卵料理は多く、正月用の菓子である桂花年糕のようにキンモクセイの花の砂糖漬けを飾るなど実際にこの花が使われる料理もある[10]

キンモクセイの花は甘めでしっかりした強い香りであることから、日本において汲み取り式便所が主流で悪臭を発するものが多かった時期には、その近くに植えられることもあった[11]。そのことから1970年代初頭から1990年代前半までキンモクセイを模した香りが、トイレ芳香剤として主流で利用されていたため、一部年齢層においてはトイレを連想させることがある[11]

秋の季語である。

薬用

花を薬用にする。花には、蝋質、オスマンα-ツヨンなどの精油グルコースフルクトースマニトールステアリン酸など含まれている[3]。精油には、味覚神経を刺激して唾液や胃液の分泌を促進させる芳香性健胃作用があり、血液循環にも役立つといわれている[3]。精油以外の成分には、滋養保険の効果があるといわれる[3]

滋養保険、食用増進に乾燥させた花を煮出して、フラワーティー(花茶)として用いる[3]低血圧不眠症には、焼酎1リットルに生の花150グラム、乾燥花の場合は30グラムの割合で浸し、冷暗所に3か月保存してからかすを除いて木犀花酒をつくり、就寝前に盃1杯飲むと良いとされる[3]

都道府県・市区町村の木に指定している自治体

脚注

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Osmanthus fragrans Lour. var. aurantiacus Makino”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2013年10月16日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司; 梶田忠 (2003-). “BG Plants簡易検索結果表示”. 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList). 千葉大学. 2013年10月16日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j 田中孝治 1995, p. 135.
  4. ^ a b c d e 辻井達一 1995, p. 280.
  5. ^ a b 辻井達一 1995, p. 281.
  6. ^ “盛岡タイムス掲載記事より”. (2020年10月9日) 
  7. ^ 広島大学生物圏科学研究科・化学生態学研究室. “チョウ成虫の採餌行動”. 研究内容紹介. 広島大学. 2011年12月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年10月16日閲覧。
  8. ^ 大村尚「チョウ成虫の採餌行動と嗅覚情報物質」『比較生理生化学』第23巻第3号、日本比較生理生化学会、2006年、134-142頁、doi:10.3330/hikakuseiriseika.23.1342018年9月28日閲覧 
  9. ^ Hisashi Ômura; Keiichi Honda, Nanao Hayashi (2000). “Floral Scent of Osmanthus fragrans Discourages Foraging Behavior of Cabbage Butterfly, Pieris rapae”. Journal of Chemical Ecology英語版 26 (3): 655-666. doi:10.1023/A:1005424121044. ISSN 0098-0331. 
  10. ^ 全国調理師養成施設協会編 編『調理用語辞典』(改訂)全国調理師養成施設協会、調理栄養教育公社(発売)、1998年。ISBN 4-924737-35-6 
  11. ^ a b 田幸和歌子 (2006年10月24日). “トイレの「キンモクセイの香り」が衰退した理由”. Excite Bit コネタ. エキサイト. 2013年10月16日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク