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ビタミンD

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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ビタミンD2
識別情報
CAS登録番号 50-14-6
日化辞番号 J1.907K
KEGG D00187
C05441
特性
化学式 C28H44O
モル質量 396.65
融点

114-118

特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。
ビタミンD3
識別情報
CAS登録番号 67-97-0
日化辞番号 J2.367A
KEGG D00188
C05443
特性
化学式 C27H44O
モル質量 384.64
融点

84.5-87

特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ビタミンD (vitamin D) は、ビタミンの一種であり、脂溶性ビタミンに分類される。必須栄養素だが、日光浴によって生合成もされる。カルシウムの働きに関わり骨などの健康に関与する。ビタミンDはさらにビタミンD2エルゴカルシフェロール、Ergocalciferol)とビタミンD3コレカルシフェロール、Cholecalciferol)に分けられる。ビタミンD2は大部分の植物性食品には含まれず、キノコ類に含まれているのみであり[1]、ビタミンD3は動物に多く含まれ、ヒトではビタミンD3が重要な働きを果たしている。ちなみにビタミンD1は、ビタミンD2を主成分とする混合物に対して誤って与えられた名称であるため、現在は用いられない。

機能

ビタミンDは、活性型ビタミンD(カルシトリオールまたは、1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール)として、次の方法により血中のカルシウム(Ca2+)濃度を高める作用がある。

  1. からカルシウムの吸収を高め血中濃度を高める。
  2. 腎臓の働きによりカルシウムの血中から尿への移動を抑制する。
  3. から血中へカルシウムの放出を高める[2]

また、ビタミンDは免疫反応などへの関与も示唆されている。作用機構および機能の多様性から、ビタミンAとともにホルモンに分類されることがある。 ビタミンDはコレステロール合成の前駆体である7-デヒドロコレステロールから人体内で合成できるが、消化管からのビタミンDの吸収が低下すると容易にビタミンD欠乏症になる。

生合成

皮膚での生成

皮膚の表皮の層。基底層(図の赤色部分)及び有棘層(オレンジ色部分)での生成が最大となる。

皮膚は、主要な2層で形成されている。内側の層は真皮で、結合組織の大部分を占めており、外側の層は薄い表皮である。表皮は、5層で構成されており、外側から内側に順に、角質層、顆粒層、顆粒膜層、有棘層基底層である。

1923年に、7-デヒドロコレステロールに紫外線を照射することによって脂溶性ビタミンを生成できた。アルフレッド・ファビアン・ヘスは「光はビタミンDと同等である」ということを示した[3]。ドイツのゲッティンゲン大学のアドルフ・ヴィンダウスは、ステロールと関連ビタミンの構造の解明で、1928年にノーベル化学賞を受賞した[4]。彼は、さらに、1930年代にビタミンDの化学構造を確定した。

コレカルシフェロールは、皮膚で7-デヒドロコレステロールから光化学的に生成される。7-デヒドロコレステロールは、ヒトを含むほとんどの脊椎動物の皮膚中で大量に生成される[5]。ビタミンDの生成に効果のある、波長300nm付近の紫外線(UV-B線)は「ドルノ線」と呼ばれる。

ヒトにおいては、日焼け止めクリームを使わない場合、午前10時から午後3時の太陽光を少なくとも週に2回、5分から30分の間、顔、手足、背中に浴びることで十分な量のビタミンDが体内で生合成される[6][7]

日本人に最も多い肌の色スキンタイプIIIで、顔と手のひらだけに紫外線を浴びた場合、7月の北海道札幌市茨城県つくば市沖縄県那覇市では、10µgのビタミンD生成に必要な日光浴時間は10~20分であり、12月では、それぞれ139分、41分、14分となり大幅に増加する[8]。紫外線が皮膚に有害となるのは、その約2倍から3倍の時間浴びた場合である。

ある種の動物では、毛皮や羽根が紫外線の皮膚への到達を妨げている。鳥類や毛皮を持つ哺乳類においては、皮膚から毛皮や羽根に皮脂を分泌し毛繕いすることによって口からビタミンDを摂取している[9]

ハダカデバネズミでは、25-ヒドロキシビタミンDが血中で検出されないように、元来コレカルシフェロール(ビタミンD)を欠損しているように見える[10]。実際、ハダカデバネズミは、完全地中棲であるので太陽光にあたることはない。興味深いことに、ハダカデバネズミは老化に対して耐性があり、健康な血管機能を維持でき[11]齧歯類の中でとび抜けて寿命が長い[12]

生成メカニズム(ビタミンD3

ステロイド核のA-D環及びステロイドの炭素番号
コレステロール

コレステロール合成の前駆体であるプロビタミンD37-デヒドロコレステロール)(下図左)が、皮膚上で紫外線を受けてステロイド核のB環が開き、プレビタミンD3((6Z)-タカルシオール)(下図右)となる。

プレビタミンD3(下図左)は、自然発生的にビタミンD3(コレカルシフェロール)(下図右)へ異性化する。プレビタミンD3からのビタミンD3(コレカルシフェロール)への転移は、室温では12日間で完了する[13]

皮膚で産生されたものであれ経口摂取されたものであれ、ビタミンD3(コレカルシフェロール)(下図左)は、肝臓でC25の位置でヒドロキシ化の代謝を受け 25-ヒドロキシコレカルシフェロール(別名25(OH)D3カルシジオール)(下図右)へと変化し[14]肝細胞に貯えられ、必要なときにα-グロブリンと結合しリンパ液中に放出される。なお、Cの番号はステロイドやコレステロールの構造と炭素の番号に由来する。

カルシジオール(下図左)は、腎臓の尿細管に移送され、2つの種類のビタミンDの型に変化する。一つは活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD3カルシトリオール)(下図右)となる[14]。ヒドロキシ化されたC1は下側リング右側に位置する。 ホルモン作用を有する活性型ビタミンD(カルシトリオール)は、副甲状腺ホルモンに加えて低カルシウム、低リン酸状態により活性化したカルシジオール-1-モノオキシゲナーゼ(1α-ヒドロキシ酵素)によって生成される。

1α-ヒドロキシ酵素が不活性な場合には、別の酵素がカルシジオールのC-24をヒドロキシ化して、もう一つの非活性型ビタミンD(24,25-ジヒドロキシビタミンD3)(下図左)を生成する[14]。この反応によりカルシジオールは生化学的な作用から不活性化される。 また、不要となったカルシトリオールは、カルシトリオール24-ヒドロキシラーゼの触媒作用によってカルシトロン酸(下図右)が生成される。この物質は、水に溶け、尿中に排泄される。

24,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール
カルシトロン酸

作用のメカニズム

カルシトリオールは、循環器系に放出される。リンパ液中の輸送物質であるビタミンD結合タンパク質(VDBP)と結びついてカルシトリオールは、様々な対象臓器に運ばれる[15]。 カルシトリオールは、対象細胞細胞核内に主に所在するビタミンD受容体(VDR)と結びついてその生体効果を発現する[15]。カルシトリオールとビタミンD受容体(VDR)との結びつきは、腸内でカルシウム吸収に関わっているようにビタミンD受容体が(TRPV6[腸内でのカルシウム吸収の第一段階をつかさどる膜カルシウムチャンネル]やカルビンディン[腸及び腎臓でのビタミンD依存型のカルシウム結合タンパク質として初めて発見されたカルシウム結合タンパク質]のような)輸送タンパク質の遺伝子発現を調節する転写因子として作用させることである。

ビタミンD受容体は、ステロイド/甲状腺ホルモン核内受容体の一群に属している。心臓、皮膚、生殖腺前立腺及び乳房を含むほとんどの臓器の細胞で作用している。腎臓及び副甲状腺の細胞でのビタミンD受容体の活性化は、(甲状腺ホルモン及びカルシトニンの補助により)血中のカルシウム及びリン酸の濃度の維持及び骨密度の維持を司っている[16]。 ビタミンD受容体は、細胞の増殖分化に関わっていることが知られている。ビタミンDは免疫システムにも影響を及ぼしているし、ビタミンD受容体は、単核白血球、活性化T細胞及びB細胞を含むいくつかの白血球で作用している[17]

ビタミンD受容体以外の様々なメカニズムの作用が知られている。これらの作用のうち重要なものの一つとして形態形成に関わるホルモンなどシグナル伝達経路によるシグナル伝達の天然の酵素阻害剤としての作用がある[18][19]

摂取

ビタミンD2の前駆物質であるプロビタミンD2エルゴステロール)はシイタケに、ビタミンD3魚類肝臓に多く含有される。紫外線を浴びれば体内でも合成されるが、一般的に不足するので食品から摂取する必要がある。平成16年の国民健康・栄養調査では、男性で平均8.3µg、女性で平均7.5µg摂取しており、必要量を摂取している。[20] ビタミンDは、大部分の植物性食品には含まれない[1]

食事摂取基準

ビタミンDの食事摂取基準(日本、2015年版)[21]
区分 目安量 (AI) 耐容上限量 (UL)
成人(男女) 5.5µg/日
( 220 IU/日 )
100µg/日
( 4,000 IU/日 )
ビタミンDの食事摂取基準 (米国、2011年)[22][23][24]
区分 推奨量
(RDA)
耐容上限量
(UL)
無毒性量
(NOAEL)
成人(男女) 600 IU/日 4,000 IU/日 10,000 IU/日
老人
(70歳以上)
800 IU/日

ビタミンDを多く含む主な食品[25]
食品名 100gあたり含有量
しらす干し 46-61µg
焼き紅鮭 38.4µg
いわし(缶詰) 17-20µg
焼きさんま 15.9µg
さば(水煮缶) 11µg

サプリメント

ヨーロッパではビタミンDが混合されたオイルやサプリメントを日常的に摂取することが一般的で、医者や政府からも推奨されている。おそらく1日あたり600〜800IUを超える必要はない。医師の勧めがない限り、安全な上限と考えられている1日あたり4,000IUを超える摂取は避ける必要がある。可能であれば、サプリメントではなく、食品源からビタミンDを入手することを勧めている。強化乳製品、脂肪の多い魚、干物、キノコはすべてビタミンDが豊富な食品である[26]

太陽光から隔離されるような環境では、上記目安量の摂取では不足することが示唆されている。例えば、潜水艦の乗組員での調査では400IU/日の摂取でも血中ビタミンD濃度を適切に維持できないとの報告がある[27]。 別のパイロット研究では800IU/日を半年続けた場合でも理想的な血中濃度に達した参加者は50%に過ぎなかった[28]。さらに、糖尿病患者ではあるが2000IU/日を18ヶ月間投与した場合でも22%が不足なままだったとする研究がある [29]。 サプリメントからの摂取だけでなく、日光浴も大切である。

D2 と D3

人間では、ビタミンD2とビタミンD3で効果に差はないという報告[30]と、D3の方がより効果的とする報告[31]がある。ラットなどのいくつかの種では、D3よりD2の方が効果が高いと報告[32]されている。なお、海外ではD2とD3の2種類のサプリメントが販売されている。

ビタミンD血中濃度の測定

血中のカルシジオール(25-ヒドロキシビタミンD、25(OH)D)の濃度は、日光浴と食事から摂取したビタミンDの合計量を決定する適切な方法である[33]。しかしながら、血中25(OH)D濃度は、血中以外に蓄えられたビタミンDの総量を示しているわけではない[34]。血中25(OH)D濃度の半減期は、15日間となっている[35]。循環している1,25-ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH)2D)は、ビタミンDの良い指標とは一般的にはならない。なぜなら1,25(OH)2Dは15時間という短い半減期であり、副甲状腺ホルモン、カルシウム、リン酸によって厳密に管理されているからである[35]。ビタミンDの欠乏が極端にならない限り1,25(OH)2Dの濃度は一般には減少しないものである。

体重過多の人の増加脂肪量と25(OH)Dの濃度とは反比例していることが知られている[36][37]。循環している25(OH)Dの濃度は全身に蓄積されている量を示しているわけではないので[38]、この反比例の関係は、ビタミンD濃度が低下している状態と報告された肥満の人で一般に起こっている状態とで混同を引き起こすおそれがあるかもしれない[39]

25(OH)Dの濃度は15 ng/ml (37.5 nmol/L) 以上が望ましいところである。さらに、30 ng/ml (75 nmol/L) 以上の高い濃度が健康を維持する上で望ましいとされているが、これらを支持する明確な証拠は示されていない[40][41][42][43]

十分な日照を受けている日焼けしたハワイ在住の健康な若いスケートボーダーやサーファーの調査対象者の51%が望ましいとされる高いほうの基準である30 ng/mlを下回っていたことが、ある研究で判明した。最も高い25(OH)D濃度は、60 ng/ml (150nmol/L) であった[44]

ハワイでの同じデータを用いた長い期間皮膚に日照を浴びた住民とサプリメントを与えられたウィスコンシンの授乳中の母親との比較の研究では、ハワイの住民は11-71 ng/mLの範囲であった。サプリメントを与えられていた女性の25(OH)Dの血中濃度は、12-77 ng/mLの範囲であった。サプリメントを与えられていたウィスコンシンの住民の濃度が、(同じデータを使用しているので前述のサーファーのデータも含まれている)ハワイの住民のそれよりも高いのは注目に値するものである[45]。ビタミンDの有害性は、サプリメントを過剰に摂取した場合に表れ、25(OH)Dの血中濃度が150 ng/mL (375 nmol/L) 以上のレベルを超えると有害性の兆候が現れてくる[46]

欠乏症

日光浴不足、ビタミンD吸収障害、肝障害や腎障害による活性型ビタミンDへの変換が行なわれない場合、乳製品のない菜食を継続する場合[47]、ビタミンDが欠乏し、カルシウム、リンの吸収が進まないことによる骨のカルシウム沈着障害が発生し、くる病、骨軟化症、骨粗鬆症などが引き起こされることがある。

ビタミンDの不足は、高血圧結核歯周病多発性硬化症、冬季うつ病、末梢動脈疾患、1型糖尿病を含む自己免疫疾患などの疾病への罹患率上昇と関連している可能性が指摘されている[48][49][50][51][52]。また、勃起不全との関連性が指摘されている[53][54][55]

パーキンソン病と低いビタミンDレベルとの間には関連があるが、パーキンソン病が低いビタミンDレベルを引き起こしているのか、低いビタミンDレベルがパーキンソン病を引き起こしているのかはわかっていない[56]

過剰症

高カルシウム血症肝機能障害、腎臓障害、多飲・多尿、尿路結石尿毒症高血圧、易刺激性(不機嫌)、腹痛、発熱、発疹、かゆみ、吐き気または嘔吐、食欲不振、便秘、虚弱、疲労感、睡眠障害、歩行困難、体重減少、貧血、脱毛、痙攣、昏睡など

カルシジオール (25-hydroxy-vitamin D) として人の体内に貯蔵されているビタミンDの半減期は20日から29日である。通常、活性型ビタミンDの生合成は厳密に調節されており、過剰のビタミンDを摂取した場合にのみ毒性が認められる。食品やビタミンD製剤の濃縮レベルは、成人にて毒性を認める量と比較するとはるかに低い量である。

日光浴により、ビタミンDの毒性が認められることは通常はない。というのも、紫外線に当たると、皮膚で合成されるビタミンD前駆体の濃度が(皮膚の色によるが)20分~2時間で平衡に達し、それ以上はビタミンDが生成しなくなる。全身を太陽光に露出した場合の最大体内生成量は、1日当たり250µg (10,000IU) である。

ビタミンDの長期にわたる安全摂取量はわかっていないが、健康な成人においては250µg (10,000IU)/日までは安全とされている。高カルシウム血症を伴うビタミンD毒性が認められたすべてのケースで、1,000µg (40,000IU)/日以上の摂取を必要としている。成人では、継続的に2500µg (100,000IU)/日を摂取すると2~3ヶ月以内に毒性が認められる。米国にて刊行されている"The Nutrition Desk Reference"によると、毒性が認められる閾値は、500~600µg/Kg/日である。米国環境保護庁 (The United States Environmental Protection Agency) は、雌のラットに関するビタミンDのLD50を619mg/kgと公表している。

適応

活性ビタミンD(カルシトリオール)やその他の活性ビタミンD3誘導体などが日本でも認可されている。

活性型ビタミンD3は、血中カルシウム濃度の上昇作用を利用して副甲状腺機能低下症の治療に用いられる[57]。また、ビタミンD3外用薬尋常性乾癬掌蹠膿疱症に用いられることがある。

イタイイタイ病は、ビタミンDの大量投与によりある程度症状が和らぐとされる[58]

副作用

ビタミンD3外用薬の使用によって、高カルシウム血症から急性腎不全を併発する例が報告されている[59]

各種疾病との関連

免疫調節

ビタミンD受容体結合体は、ナチュラルキラー細胞の活動とマクロファージ食作用を活発化させることが示されている[17]。活性ビタミンDホルモンは、バクテリアウイルス菌類によって活性化されるマクロファージで産生される抗菌性ペプチドキャセリシジン英語版を増加させる[60][61][62]

ビタミンDと高緯度で比較的発症例の多い免疫異常が原因の可能性がある多発性硬化症との関係においては、ビタミンDの免疫反応の抑制特性[63]と、多発性硬化症を遺伝的に発症しやすい個人の自己タンパク質と異種タンパク質の相違の識別に必要な組織適合遺伝子(HLA-DRB1*1501(全身性エリテマトーデスの古典的遺伝子マーカーとして知られている))のプロモーターにビタミンD応答配列(VDRE)があるため遺伝子の発現にビタミンDが必要とされること、が関係すると示唆されている[64]。 妊娠中のビタミンDサプリメントの服用が子供の成長ののち多発性硬化症を発症する可能性が低まるかどうかは、まだ分かっていないが[65][66]、ビタミンD の生体防御機構がアレルギー性疾患の蔓延を引き起こしているのではないかとも疑られており[67]、幼児期のビタミンDサプリメントの摂取と成長後のアトピーアレルギー性鼻炎のリスクの増加との関係が見出されている[68]。 しかし、妊娠期のビタミンD不足と子供のアレルギー発症が相関し、また臍帯血のビタミンD濃度と子供のアレルギーにはU字型の相関が見られるという研究もあり、エピジェネティックな仕組みが関与している可能性も指摘されている[69]。 ベテランのビタミンD研究者 のヘクター・デルカは、ビタミンDが多発性硬化症に影響を及ぼすかどうかには疑問を抱いている[70]

インフルエンザウイルスへの効果

ビタミンD生合成の減少は、冬におけるインフルエンザの高い罹患率を説明できる可能性があるが、冬にインフルエンザが流行するのはビタミンD生合成の減少以外の仮説(乾燥、低温、日照殺菌低下等)を立てることができるとしている[71]

2010年3月にアメリカ臨床栄養ジャーナルに発表された無作為抽出二重盲検法プラセボ(偽薬)対照試験の結果では、冬季に毎日1,200IUのビタミンD3を摂取した生徒群は、プラセボを摂取した生徒群に比較して、42%も季節性インフルエンザに罹患する率が低かったとしている[72][73]

2004年における10万人毎の大腸がんによる死亡者数(年齢標準化済み)[74]
  データなし
  2.5以下
  2.5-5
  5-7.5
  7.5-10
  10-12.5
  12.5-15
  15-17.5
  17.5-20
  20-22.5
  22.5-25
  25-27.5
  27.5以上

癌予防との関連

ビタミンDの分子的特質は、癌の防止に関して癌の増殖の主たる細胞メカニズムに幅広い範囲で潜在的に関わっていると考えられている[75]。これらの効果は、癌細胞でのビタミンD受容体を媒介している可能性がある。ビタミンD受容体(VDR)遺伝子多型現象は、乳癌のリスクの増加に関わっている[76]。 女性におけるビタミンD受容体遺伝子の変異は、乳癌のリスクを増加させている[77]悪性黒色腫細胞や白血病細胞にビタミンD受容体が存在し、活性型ビタミンDが腫瘍細胞の増殖を抑制する[14]

米国では日照の少ない緯度の高い地域での大腸癌乳癌卵巣癌多発性硬化症の相対的な多発が指摘されている[78]。13カ国の400万人以上の癌患者のデータを用いた2006年の研究では、日照の少ない国での特定の癌のリスクの顕著な増加が示され、その他の関連研究でもビタミンD濃度と癌の間の相関関係が示されている。この著者は、毎日 1,000IU(25µg)のビタミンDの追加摂取はヒトの大腸癌のリスクを50%減少させ、乳癌と卵巣癌のリスクを30%減少させると示唆している[79][80][81][82]血清中の低濃度のビタミンDは、乳癌関連疾患の進行と骨転移に相関があるとしている[76]。しかしながら、住民のビタミンD濃度は、晒されている日照に依存していないとする報告がある[83][84][85][86]。さらには、高緯度地域で一般的な癌の発生率と死亡率には遺伝的要素が関わっているとする報告もある[87][88]

2006年の研究では、2つの長期健康調査による12万人以上の調査対象者でビタミンDの米国摂取基準(400 IU/日)の摂取により、膵臓癌のリスクを43%減少させたとする[89][90]。しかしながら、男性喫煙者では、25-ヒドロキシビタミンDの血中濃度が最大の群と最小の群(5分割群)を比較して3倍の膵臓癌のリスクがあるとした[91]

2007年6月に発表された無作為に抽出された1200人の女性を対象とした研究では、ビタミンDの摂取(1,100 IU/日)は、4年間の臨床試験で、癌の発生率を60%減少させ、最初の1年後では77%減少させたとしている(なお、ビタミンDの投与前に起因していたと思われる癌は除かれている)[92][93]。ビタミンDの摂取の別の研究で発見された長期間にわたる癌全般の増加を考慮に入れていないことを含め[94]、いくつかの点でこの研究は批判されているにもかかわらず[95]、カナダ癌学会(全国規模の有志による組織)は、成人は1日1,000IU(政府の発表した必要量の5倍)を摂取すべきと2007年に勧告している[96][97]

アメリカ国立癌研究所の研究は、第3回米国全国健康栄養調査のデータにおける17歳以上の16,818人の対象群の血中で循環しているビタミンD濃度と癌死亡率との関係を分析した。その結果、25-ヒドロキシビタミンD と全癌死亡率との関連は見出されなかった[98]。他の研究とは異なりこの研究は、実際の血液検査からビタミンDの総量を測定しようとして、むしろ潜在的に不正確な予測モデルからビタミンD濃度を推論しようとしていたのではないかとも指摘されている[86][99]。アメリカ国立癌研究所は、ビタミンDの摂取が大腸癌及びその他の癌の予防効果について限定されているか証拠が不十分なので、大腸癌及びその他の癌の予防のためにビタミンDサプリメントの摂取を勧奨はしないとした[100]

消化液の胆汁酸が腸内で二次胆汁酸に変化すると、その一部が発癌を促進する。この二次胆汁酸にカルシウムが結合することで無毒化されて便中に排泄されるという説がある。また、カルシウムはビタミンDと一緒に腸粘膜細胞の分化などを正常化する作用も実験的に示されているとしている[101]。また、カルシウムとビタミンDの両方を多く摂取するグループで大腸癌のリスクが低下するとの報告がある[102]

循環器疾患

米国全国健康栄養調査の5,000人近くの調査対象者を含む報告によれば、低濃度のビタミンDは動脈関連疾患のリスクの増加と関連していることが認められた。17.8 ng/mL以下の低濃度のビタミンDは、全体対象者と比較して動脈関連疾患のリスクは80%増加した[50]。夏季に英国の植木職人のコレステロール値の減少が認められた[103]。低濃度のビタミンDは、高血圧及び循環器疾患と関連している。数多くの研究がこの関連を示しているが、2つの研究ではその有用性が認められず、1つはサプリメントの有用性の弱い証拠が認められ、もう1つはいずれの摂取でも有用性は認められなかったとしている.[104][105][106]

食事からのビタミンDはリポタンパク質で動脈壁とアテローム性プラークに運搬され[107]、そこで白血球マクロファージによって活性化されることが認められている.[108]。このことはビタミンDの取り込み効果が、アテローム性動脈硬化の石灰沈着と循環器疾患に、特に非白人の動脈硬化の病因に25-ヒドロキシビタミンDが連座しているのではないかとの疑問を抱かせるものである[109][110][111]。欧州系米国人ではなくアフリカ系米国人の動脈硬化プラークの石灰化にビタミンD血中濃度と関連していることがフリードマンらによって(2010年)発見された[109][84][85][111][112]。「25-ヒドロキシビタミンDの高い濃度は、アフリカ系米国人の冠動脈ではなく大動脈頚動脈の疾患に関連しているように思われる。これは、欧州系の子孫の調査と矛盾している。」

ある研究では、89ng/mL以上のビタミンDの高い濃度の南インドの人々には虚血性心疾患のリスクが高まっていたとしている[110]。インドにおけるビタミンD調査では、十分すぎる日照にもかかわらず25-ヒドロキシビタミンDが低いことを一様に示しており、公衆衛生学的にビタミンDの食事からの十分な摂取が必要となっている[113]。 たとえばインドの田舎で十分すぎるほどの日照を浴びているように熱帯地方の住民にはその他の調査でもインドでの調査と同様に[114]、欧州系住民に典型的に認められるような25-ヒドロキシビタミンDの濃度上昇が認められないとしている[83][115][116]

死亡率

米国全国健康栄養調査の情報を用いて、研究者たちは、一般住人において17.8ng/ml以下の低血中ビタミンD濃度であることは、全死亡率の増加とは無関係であるとの結論を出した[117]。この調査は、20歳以上の13,331人の多様な米国民の全死亡、がん死亡、循環器疾患死亡と低血中ビタミンD濃度の関連性を評価したものである。これらの調査対象者のビタミンD濃度は1988年から1994年の6年間にわたって集められたものであり、2000年にわたって死亡率はそのまま収集したものである。

白血球のテロメアの短縮は、老化した白血球のテロメアの長さの指標であり老化関連疾患の増加を予測するものある。テロメアの長さの減少は、細胞分裂によるものか(老化の場合に一般的な)炎症の増加によるものである。ビタミンDは、人体において最適なビタミンD濃度を維持し、前炎症反応への過剰反応を抑制し、白血球の代謝回転を遅延させ、より長い白血球のテロメア長さを保つものである[118]

複合的な調整メカニズムが代謝をコントロールしており、最近の疫学的な証拠は血管機能を最適化するためにビタミンD濃度が狭い範囲に限定されていることを示唆している。ビタミンDの自然の恒常性よりも高い濃度あるいは低い濃度は死亡率を増加させる[108]。結局、カルシフェロールのシステムにおける過剰又は欠乏は、異常作用や早期老化を引き起こすようである[119][120][121]

メンタルヘルス

ビタミンDの欠乏は、うつ病[122]統合失調症[123]自殺、その他の心理的な問題に何らかの役割を果たしている可能性がある。しかし、研究者は、これらの関係についてさらなる研究が必要であると指摘している。

脚注

  1. ^ a b 動物用医薬品・飼料添加物・対象外物質※評価書 カルシフェロール及び25-ヒドロキシコレカルシフェロール”. 2018年5月17日閲覧。 第39回農業資材審議会飼料分科会配布資料
  2. ^ Voet, Donald; Voet, Judith G. (2004). Biochemistry. Volume one. Biomolecules, mechanisms of enzyme action, and metabolism, 3rd edition, pp. 663–664. New York: John Wiley & Sons. ISBN 0-471-25090-2.
  3. ^ UNRAVELING THE ENIGMA OF VITAMIN D Archived 2013年2月4日, at the Wayback Machine. U.S. National Academy of Sciences
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参考文献

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関連項目

外部リンク