数詞
数詞(すうし)とは、数を表す語である。言語および数詞の種類により、名詞・形容詞・限定詞などの下位の品詞に分類される。文法上の数とは異なる。基数詞、序数詞など種別がある。
種類[編集]
数詞にはいくつか種類がある。最も基本的なのは基数詞であり、他の種類の数詞は一般に基数詞の変化形あるいは派生語である。
基数詞[編集]
基数詞(きすうし)とは、基数、すなわち分けて数えられるものの個数を表す数詞である。日本語の「いち」「に」「さん」は基数詞である。
インド・ヨーロッパ語族、オーストロネシア語族など、多くの言語では基数詞が安定しており、比較言語学において言語の系統の重要な手掛かりとなるが、中国周辺では漢数詞の借用がよく見られる[1]。タイ語の基数詞は中国語に由来する。日本語・朝鮮語・ベトナム語などでは固有の数詞と漢数詞を併用する。
単独の基数詞は一般に名詞である。日本語・中国語などの多くの言語では、基数詞単独では名詞と結び付かず、助数詞と結び付けて数を数える(例:個数を表す「~個」、人数を表す「~人」)。英語・フランス語などの限定詞を持つ言語では、名詞句と結びついた基数詞は不定の限定詞と見なされる。特に、1 を表す基数詞は不定冠詞の起源である。
大きな数や、小数や負の数の表現も基数詞に含まれる(「命数法」も参照)。
序数詞[編集]
序数詞(じょすうし)あるいは順序数詞(じゅんじょすうし)とは、順序数、すなわち分けて数えられるものの順番を表す数詞である。なお同音の助数詞と混同しないこと。
インド・ヨーロッパ語族、アフロ・アジア語族などでは、序数詞は形容詞であり、固有の形態を持つ。通常は基数詞から規則的に求められるが、小さい整数では不規則変化や補充形が見られる。例えば英語の序数詞は、first , second は補充形、third は不規則、fourth からは規則的(但し、21以降は一の位の数に従う)であり、フランス語では premier は補充形、deuxième からは規則的である。
日本語では単独で序数詞を表すものはないが、「第-」を漢数詞(助数詞が付く場合は、算用数字で表すこともある)の前に付けるか、「-目」「-位」を助数詞の後に付けて表現される。
- 第二、第二回
- 二番目、二回目、二個目、二人目、二日目、二位
反復数詞[編集]
反復数詞(はんぷくすうし)とは、回数を表す数詞である[1]。英語の once, twice, thrice は反復数詞である。
日本語では基数詞と、「回」あるいは「度」を使うので、基数詞と区別される反復数詞はない。
集合数詞[編集]
集合数詞(しゅうごうすうし)とは、複数のものからなる組を表す数詞である[1]。ロシア語の двое, трое は集合数詞である。また、複数形のみで単数形を持たない名詞に対しても用いる。リトアニア語などにも存在する。日本語では基数詞と「組」とを用いて「三人組」などとするので、独自の集合数詞はない。
「タプル」の項目も参照
ソロ (solo)、デュオ (duo)、トリオ (trio)、カルテット (quartet)、クインテット (quintet) などは、主に音楽に使われる人の集合数詞であるが、日本語では名詞と変わりがなく、基数詞とのつながりはない。
倍数詞[編集]
倍数詞(ばいすうし)とは、何倍であるかを表す数詞である。英語には二系統あり、twofold, threefold, fourfold などは基数詞から規則的に導かれるが、double, triple, quadruple などの表現(詳細は「倍#西洋数学における n 倍を表す表現」を参照)は語源上はともかくとして、現在の基数詞との語形の繋がりはなく独立の語である。
分数詞[編集]
分数詞(ぶんすうし)とは、分数の分母を表すのに用いる数詞である。ヨーロッパの諸言語では序数詞を用いるが、補充形を用いることもある。英語では 1/3 は a third 、1/5 は a fifth であり、分母は序数詞と同じであるが、1/2 と 1/4 は例外で、1/2 は a half、1/4 は a quarter であり、序数詞と異なる。
日本語・中国語などでは、基数 + 「分之(ぶんの)」 + 基数という複合語を用いるので、分数詞は「半」のみ(「漢数字#分数」も参照)。
位取り[編集]
多くの言語では、大きい数を表す数詞を、一定の規則に従って構成する。数詞の規則は「N進法」と呼ばれる物で、何かの数の冪乗で数詞を形成する。
例えば日本語では、四十七を表す基数詞は「よんじゅうなな」であり、「4×10(10) + 7」を意味する。日本語の数詞は底が十(2×5)である十進法である。世界的には十進法が圧倒的に多いが、十二進法(底が4×3)や二十進法(底が4×5)も世界各地で見られる。
ニューギニア島は最も言語密度の高い地域として知られ、エスノローグには 1071 個の言語が記されている[2][3]。従って、位取りの底も多様であり、二進法・四進法・六進法・十進法・十五進法・二十進法・二十四進法・六十進法が存在する[4][5]。
各言語における数詞[編集]
日本語[編集]
日本語の数詞には、原日本語に由来すると考えられている固有の和語の数詞(ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ/よん、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ、とお、…)と、漢字とともに中国から持ち込まれ日本語化した漢語の数詞(イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、シチ、ハチ、ク/キュウ、ジュウ、…)の2つの系列の数詞が併用されている。
ただし、現代日本語で和語の数詞が普通に用いられるのは「ひとつ」 (1) から「とお」 (10) までに限られる。「はたち」 (20) は年齢について専ら用いられる。本来は数(あるいは個数)そのものを表す「みそじ」 (30)、「よそじ」 (40) などには「三十路」「四十路」という漢字が当てられ、末尾の「じ (ぢ)」が年齢を表す助数詞(単位)である「歳」または「歳代」を意味する接尾辞のように誤解されている。その他には、「ようか」(8 日)、「はつか」 (20 日)、「みそか」 (30 日) のような形(カは、複数のヒ(日)を表す)、さらには、「いすず」 (五十鈴、「い」が 50 という意味の数詞)、「ちとせ」 (千年、千歳、「ち」は 1000 の意味) などの形で、多くは固有名詞の中で痕跡的に用いられるのみである。
本来、和語の数詞で数そのものの概念を表しているのは「ひと、ふた、み、よ、…」の部分であると考えられる。しかし、実際にはこの部分が単独で用いられることはなく、数または個数を表す場合には「-つ」などの接尾辞を伴って、「ひとつ、ふたつ、みつ (みっつ)、よつ (よっつ)、…」という形で用いられるか、具体的な接尾辞または助数詞を伴って、「ひとり、ふたり、みたり (みったり)、よたり (よったり)、…」「ひともと (1 本)」「ふたまた (2 又)」「みとせ (3 年)」「よっか (4 日)」「やくさ (8 種)」などという形をとる。
現代日本語においては 10 以下であっても、「みたり」 (3 人) などのような表現はほぼ消滅し、「ひとよ」 (1 夜) という表現も非常に古風な物言いと感じられる。時間あるいは期間としての 1 日を和語系で「ひとひ」と呼ぶことは現代日本語ではほとんどなく、漢語系の「いちにち」という言い方しか行われない(月の第1日を「ついたち」と呼ぶのは「月立ち」の音便形である)。
和語の数詞で 10 を超える数の読み上げについては、「とおか・あまり・みっか」 (13 日)、「みそとせ・あまり・ななとせ」 (37 年)、「よそじ・あまり・みっつ」 (43 個) などのように、桁ごとに接尾辞または助数詞を繰り返して言う方法しかなく、非常に冗長だった。なお「みそひともじ(三十一文字)」などの語は、このような和語の数詞本来の体系が崩れた後に、漢語の数詞の体系に合わせて生じたものとされる。
これに対して漢語の数詞で 10 を超える数の読み上げについては、「十・三」 (13)、「三十・七」 (37)、「二千・七百・六十・八」 (2768) などと言うように単純かつ体系的であり、「日」「年」「個」などの助数詞は末尾に1度付ければよいという合理性を持ち、また極小から極大まで、あるいは分数表現や割合表現、倍数表現などについても整然とした体系を持っている。このことが、現代日本語での和語の数詞の使用が 1~10 に限られ、11 以上は専ら漢語の数詞が使用されるようになった原因と考えられている。
なお「4」「7」の読み上げについては、漢語の「シ」「シチ」より、和語の「よん」「なな」を使うことが多い(「漢数字#日本語」も参照)。
年月日の読み上げでは、「四月」(しがつ)を除いて「四」を和語の「よん」と発音する以外、全ての数詞を漢語の数詞の読み方で発音するのが慣習である。無線などの雑音の多い環境での会話では、漢語の「イチ」「ニ」「シ」「シチ」などの発音の似ている数の混同を防ぐために和語の「ひと」「ふた」「よん」「なな」などで発音し、例えば「四月二十七日」を「よんがつふたじゅうななにち」と読み上げることもある(「一月」は「正月」(しょうがつ)と読む)。
なお「ひとつ」から「とお」までの和語の数詞のなかには、母音交替により 2 倍を示すものがある。すなわち、ひ (1) - ふ (2) の対、み (3) - む (6) の対、よ (4) - や (8) の対である。いつ (5) - とお (10) を加えることもある。
日本軍における序数と基数[編集]
金田一春彦によれば、西南戦争の際、官軍は二中隊で脇から待ち伏せする中、残り一中隊を前進させて賊軍を引き寄せるために「三中隊、前へ」と号令したところ、意に反して全三中隊とも前進してしまい甚大な損害を被ったため、以後日本陸軍では、序数の場合は「第三中隊」、基数の場合は「三個中隊」という表現とし、明確化するようにした。
朝鮮語・ベトナム語[編集]
固有語と漢語の数詞の併用という現象は朝鮮語やベトナム語にも見られる。朝鮮語では日本語よりも広く、99 まで固有語の数詞が普通に用いられ、特に時刻の表現では「何時何分」の「時」の前には固有語系の、「分」の前には漢語系の数詞が用いられる。
参考文献[編集]
- ^ a b c 亀井孝; 河野六郎; 千野栄一 編「数詞」 『言語学大辞典』 6巻、三省堂、東京、1995年、768-770頁。ISBN 978-4385152189。
- ^ Gordon, Raymond G., Jr., ed. (2005), “Languages of Papua New Guinea”, Ethnologue: Languages of the World (15 ed.), Dallas, Tex.: SIL International 2008年5月3日閲覧。
- ^ Gordon, Raymond G., Jr., ed. (2005), “Languages of Indonesia (Papua)”, Ethnologue: Languages of the World (15 ed.), Dallas, Tex.: SIL International, オリジナルの2009年1月6日時点におけるアーカイブ。 2008年5月3日閲覧。
- ^ Lean, Glendon Angove (1992), Counting Systems of Papua New Guinea and Oceania, Ph.D. thesis, Papua New Guinea University of Technology, オリジナルの2007年9月5日時点におけるアーカイブ。
- ^ Owens, Kay (2001), “The Work of Glendon Lean on the Counting Systems of Papua New Guinea and Oceania”, Mathematics Education Research Journal 13 (1): 47-71, オリジナルの2015年9月26日時点におけるアーカイブ。