学生鞄

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 学生鞄(がくせいかばん)とは、日本の学生が通学用に用いるのことをいい、スクールバッグスクバ制カバン学バンなどとも呼ばれる。ランドセルなど小学生用のものや大学生が使うものは通常含まれず、中高生が使用するものを主に言う。狭義には革製の手提げ鞄(抱鞄(かかえかばん)とも呼ばれる。詳細は鞄#鞄の種類を参照。以降、本稿では単に「革製の手提げ鞄」という。)を指し、この場合スクールバッグとは呼ばれないことが多い。

 また、中学とりわけ公立の中学では、肩から斜め掛けする肩掛けカバン(以降、本稿では「肩掛けカバン」という。)が、学校指定の通学用のカバンとして、かつては一般的だった。この肩掛けカバンは、丈夫な帆布がメインに使われており、長年、我が国の中学校の通学用カバンとして主流の地位を占めていた(詳細は、次の項「学校指定の肩掛けカバン」を参照)。

 しかし、平成に入ってからは、背中に背負ったり、肩から斜め掛けしたり、手提げにしたりできる、いわゆる3WAYバッグに切り替える中学が増え、現在では、3WAYバッグが大半を占めている。

 校章入りの学生鞄の使用などが校則によって指定されている[1]場合から、全くの自由とされている場合まで幅がある。他の校則と同様、中学校の方が高等学校より厳しく指定されている。制服などと同様に、生徒がオリジナリティや個性をアピールする時にアレンジやカスタマイズされる対象となり、ファッション性を持つ。

 また、学生鞄の補助的に用いられる鞄を補助鞄、サブバッグなどと呼ぶ。これも学校指定のものと、生徒が自主的に選んで使うものがある。過去にはマジソンバッグが流行した。また、有名ブランドショップで購入商品を入れられる紙袋(紙製とは限らない)を継続使用することも流行した[2]

流行やバリエーション[編集]

 学生鞄は、明治14年ごろから使用され、ズック製(帆布製)の肩掛けのものが主流であった。昭和30年以降になると、まだ肩掛けカバンも多く混在していたものの、主流は革製の手提げ鞄となっていった。当初は、天然皮革による手提げ鞄であったが、高度成長期に倉敷レーヨン(現在:クラレ)人工皮革クラリーノを開発して以降、人工皮革による手提げ鞄が普及していくこととなった[3]

 ところが、中学校では、一部の私立中学を除きほとんどの学校では、従来の肩掛けカバン(次の項「学校指定の肩掛けカバン」参照)がそのまま使われ続けた。

 1990年代に入ってからはボストンバッグ型の鞄などを指定にする学校や、独自のバッグを指定するところが多く現れるようになり、さらに自由化する学校も多くなった。[4]  自由化された学校では、他校指定や他校の名称や校章が記されたナイロン製のボストンバッグが一部流行している[5]。3wayバッグ、デイバッグトートバッグリュックサックなど、学生鞄以外の用途でも使われるを使用する生徒も多い。

 現在では革製の手提げ鞄を指定している学校やこれを持つ学生は、かなり少数のものになっており、衰退傾向にある[6]
 また、中学校で使われ続けてきた肩掛けカバンも、ほとんどの学校で廃止された。


革製の手提げ鞄(狭義の学生鞄)[編集]

学生鞄

 革製の手提げ鞄の素材は、大きく分けて人工皮革クラリーノ等。合革ともよばれる)、天然皮革(主に牛革。本革ともよばれる)の2種類に分けられる。あくまで一般的な傾向ではあるが、前者の学生鞄は、比較的軽いが耐久性がない。後者の学生鞄は、比較的重いが耐久性がある。

 持ち手は一本手で、持ち手や錠前などは金属で補強されており、ベロ革が前面の左右に2ヶ所あるのが特徴である。内部はいくつものスペースにわかれている。主に黒色のものが用いられ、濃紺色などのものもある。学生鞄が校章入りなどで、学校によって指定されているところもある。
 大きさやマチの太さ、錠前の形など細部はメーカーなどによって異なる。マチが一定程度、内部のベルトによって自由に調節できる鞄もある。

鞄潰し等のアレンジ[編集]

芯抜きして極めて薄く潰し、持ち手を改造して赤テープを巻いた学生鞄

 地域差もあるが、1970〜1980年代を中心に意図的にマチを細く改造した革製の学生鞄がかっこいいものとして流行した[7][8][9]。一方で、マチの太いカバンはブタカバンと呼ばれ嫌悪された[10]
 この流行は、男子生徒、女子生徒を問わず広まった。なお、現在においては、革製の手提げ鞄自体の衰退や流行の変遷により、鞄潰しはほぼ絶滅した。

 一般的な鞄潰しの方法としては、鞄にをかけて革を柔らかくして重石などで潰すものがある。他に、寝押ししたり安全ピンでとめたり内部の仕切り板を取り払ったりするなど様々な方法があり、それを組み合わせた複合的なやりかたをとる。
 これをさらに発展させ、芯と呼ばれるマチにある金属まで工具で取り払ってさらに薄くした鞄もあった。その場合、マチの部分を切り取ってしまったり糸で縛ったり接着剤でくっつけたりなどして、マチが広がらないようにすることがしばしば行われる[11]

 なお、鞄を薄くすることにしたがって内部の容量は当然少なくなる。鞄に入りきらない持ち物は、サブバッグ等に入れるか、学校に置いていく(置き勉)という方法が取られる[10][11]

 鞄潰しや置き勉といった行為は、学習習慣の欠如、ひいては非行につながると考えられ[12]、校則違反であるところも多く「カバンの薄さは、知能(知識)の薄さ」という標語もあり戒められた[13]

 検査が行われ罰則が存在するところがあった。しかし、社会現象といっていいほどの広がりだったため、黙認されていたところも少なくない[14]

 なお、1990年代後半にはほぼ絶滅した鞄潰しと違い、置き勉は現在でも見られる。

 この流行は喫煙飲酒制服のアレンジなどと同様に、当時の管理教育全盛期という時代背景の下、規則に縛られることから逃避したいという思春期の反抗の一種であると思われる。教科書や学用品を持ち歩かず、勉強進学といった世俗的な価値規範から距離を置いて、それを表現し、自我を支える一つの方法である。

 なお、校則では必要以上の荷物を持ち帰らせることもあり、「置き勉」は反抗といった意味合い以外に単純に物理的に荷物を軽くしたいという意向もあると思われる。

 アレンジのより派手な改造方法としては、持ち手を改造することがあった。もともとの取っ手を取り外し、ベルトやチェーンを用いるなど長くして、持ちやすいようにするなどの方法による。そして、持ち手の部分をといった派手な色テープで巻いたり、喧嘩の武器となるよう内部に鉄板を入れるなどアレンジも存在した。
 赤テープをまくことは「喧嘩上等」などの意思表示とみなされ、白テープや青テープにも意味が付されることもあったようだ[15][16]

 また、もとよりマチがほとんどないような極めて薄く軽い手提げ鞄も販売され、チョンバッグ(またはチョンバック)と呼ばれた。それらの薄い鞄は、変形学生服などとともに不良っぽさを顕示するものであった[17]

 その他、ステッカーやカッティングシートを貼ったり[11]落書きをするなど改造の方法は多岐にわたる。

 学生鞄の持ち方に至っても、肘から下げたり脇に挟むなど手提げ以外の方法をとるものがあった。そうすることで、手が自由になりポケットに手を入れることが可能になる。

 サブバッグも同様に薄くすることが一部流行した。

学校指定の肩掛けカバン(中学指定カバン)[編集]

 中学校の通学用指定カバンで肩から斜め掛けするタイプのカバンを指す。中学に入学すると、通学用のカバンとして一律にこのタイプを使用することが校則などで取り決められていたことから、「指定カバン」ともいう。

 地域によって、さまざまなタイプと呼び方があり、高齢者は「雑嚢(ざつのう)」と呼ぶこともあるが、一般的には「肩掛けカバン」「白カバン」などと呼ぶ。素材は帆布がメインであることから「ズックカバン」という地域もある。いずれにしても、肩から掛けるタイプである。

 地域によっては、男子中学生のための通学カバンとされており、女子は他のタイプのカバンという場合もあったが、男女を問わず、肩掛けカバンが使用されていた地域もある。

中学校指定の肩掛けカバン 表面だけナイロン製の色付きタイプは珍しいタイプ

 カバンの作りは、シンプルなデザインであることが多い。

 入学間もない頃は、ごわごわした使い慣れないカバンでも、在学中の3年間の使用で、自然に汚れやほどよい傷が付いて、ほどよくなじみ、使用感が出てくる。自然な使用感に加えて、わざと汚したり、アレンジしたりして、個性を出す生徒も出てくる。

 いわゆる不良でなくても、ファッションに敏感で、好奇心旺盛な思春期の生徒にとっては、軽い気持ちから落書きしてみたり、何のためらいもなく鞄を潰したりすることがある。こうした行為は、学校単位でとどまっていることもあるが、近隣の学校やもっと広域的に流行していくパターンもある。
 カバンをアレンジする流行は、高校に進学した学生が、手提げの革鞄を改造したり、アレンジしたりする行為に自然に結びついていった。
 一種の若者文化という側面があり、そのときの時代背景や若年層のファッションの動向により、生徒の肩掛けカバンに対する考え方や接し方も大きく変わる。

特長[編集]

 肩から掛けるのが専用のカバン。しかし、市販のショルダーバッグとは全く別のジャンルにある。通常は、入学時に学校納入業者がその学校向けに特別仕様にしたものである。価格は、5000円程度。

肩掛けカバン(女子用) 赤い肩掛けカバンは女子用として使われた。近年では、男女で色の区別をなくした学校が多い。

 一番の特徴は、帆布で作られていることである。内側は、どのカバンも共通して帆布素材である。肩ベルトも帆布。

 このため、基本、カバンの色は、生成りの白となる。ただ、ベロ(開け閉めする蓋の部分)だけは表側を帆布ではなく、PVCなどのナイロン素材を使う場合もあり、この場合には、表側だけをさまざまな色にすることができるが、一般的には、白が多い。

肩掛けカバンの内側 生成りの帆布が基本

 内側には、薄い物を入れるためのポケットが付いている。

 カバンが膨らみすぎないように、3か所に留め具があるのが一般的。

 表側には、端の方に校章がプリントされていることが多い。

 肩ベルトは、成長に合わせ、伸長できるように調節することが可能。最近では、登下校時の交通安全対策のため、肩ベルトの幅よりも小さい幅で、反射テープがさらに縫い付けられていることもある。

 接合部は、太い縫糸で縫われている。肩ベルトも二重構造となっているため、縦に5~6行程度でライン状に縫われている。

 さらに、カバンの型崩れを防ぐため、接合部には、補強材が埋め込まれており、ベロの角にも補強材が入っていることが多い。

 かつては、帆布は汚れやすいというイメージがあったが、帆布でも簡易防水処理がされており、多少の雨に濡れても、中まで浸透することはなく、泥水がかかったとしても、撥水するので、通常に使う分には汚れは問題とならない。

掛け方[編集]

 一般的には、片方の肩(右か左)に肩ベルトを掛けて、ななめ掛けする。たすき掛けともいう。
 しかし、カバンの掛け方も時代や地域により流行があり、「標準的」な掛け方以外には、肩ベルトを極端に短くしたり、逆に長くしたりする。
 カバンを掛けときのカバン本体の位置は、人それぞれで、体の真横にする場合も、真後ろにする場合も、前にする場合もある。カバン本体の位置は、お尻の斜め後ろになるのが「標準的」な掛け方である。

 肩ベルトの長さ調節と掛けたときのカバン本体の位置によって、印象はかなり異なる。それゆえ、見た目を気にする生徒たちにとって、掛け方1つでも、重要な関心事となる。たとえば、肩ベルトを最短にして、カバン本体を体の前に位置するように掛けるには、度胸も必要で、「不良だけに許された掛け方」という具合になる。

 以上がななめ掛けした場合であるが、この他には、片方の肩から肩ベルトを掛けることまでは同じだが、ななめ掛けせず、カバンをそのまま地面に向かって下の方に掛ける使い方もある。また、肩ベルトを短くし、または肩ベルトをカバンほんにしまい込んで、カバン本体をそのまま手にとって持つという使い方もある。

 さらに、女子生徒が使う場合として、カバンを肩から掛け、ななめ掛けすることまでは同じだが、カバン本体を両腕で抱きかかえて、胸のあたりまで持ち上げて持つという使い方もある。

 いずれにしても、着こなしや見た目に注目して、その世代の流行している掛け方をすると、カバンの収納するという基本的な機能性は二の次となる。

ぶたカバン 中に詰め込みすぎるカバンは揶揄された。

 ファッション性を重視する生徒は、カバンを掛けたときの見た目をよくするために、肩掛けカバンには学用品を詰めない。カバンに詰め込みすぎるのは、「ぶたカバン」として揶揄されたのだ。
 詰め込みすぎる生徒は、たいてい生真面目で、控えめな性格か、ファッションには無頓着な生徒であった。まじめすぎるのはかっこ悪いという時代的な風潮の中で、肩掛けカバンの掛け方ひとつで、生徒への周囲の評価がまるでリトマス紙のように測定することができたのだ。

カスタマイズ[編集]

 肩掛けカバンを購入当初の状態で、そのまま大事に、きれいに使おうとせず、自分なりにカスタマイズすることが流行したこともある。
 大きなカスタマイズのパターンとしては、大きく3つの時期に分けられる。
 まず、バブル経済崩壊までの平成の初期までは、ツッパリやヤンキーといったキーワードでくくられる不良っぽくするのがかっこいいとされた時期。この時期がもっとも長く、不良少年、不良少女以外の生徒を含めて多くの生徒が多かれ少なかれカバンのカスタマイズを経験した。
 平成時代に入って間もなく、ITバブルが起こり消滅するまでは、それまでとは異なり、いわゆる女子高生がマスコミなどで取り上げられ、汚ギャル、地べたリアンなどのキーワードでくくられる退廃的なファッションが流行し、カバンのカスタマイズに女子生徒が多く加わるようになった。
 最近においても、男子生徒よりも女子生徒の方がファッションやおしゃれに凝る傾向が強く、「カワイイ」肩掛けカバンを目指して、デコという言葉をキーワードにさまざまなカスタマイズ行為の大半が女子生徒に重心が移っていった。

 当然、校則などで、肩掛けカバンに落書きしたり、改造したりしてカスタマイズすることは禁止されており、「中学生らしい品のある服装」をするように求められていたが、学校全体、地域全体に蔓延したカバンへのカスタマイズ行為を封じることはできず、学校側も生徒指導などで注意はするものの、散発的に起こる生徒の行為を完全に抑え込むことはできなかった。
 肩掛けカバンのカスタマイズ行為は、時代や地域によって大きく変わる。
 昭和時代の代表的な流行は、上記「革製の手提げ鞄」の項で記述されている高校生が使う学生鞄のアレンジと軌を一にしている。高校で革の手提げ鞄が次々に廃止されていったが、その後もなお、中学校においては、通学用の肩掛けカバンのカスタマイズ文化は、そのまま残り続けた。

 肩掛けカバンは、基本、帆布製なので、革製のカバンとは異なる注意が必要だった。たとえば、洗うと型崩れして、みずぼらしくなるので決して洗濯はしないことが挙げられる。しかし、それはまじめな生徒に言えることで、わざと洗濯をしたり、お湯を帆布の部分に掛けたりして、型崩れさせることもある。

型崩れした肩掛けカバン 表面が波打って使用感が出る。わざと型崩れさせることもある。

 カスタマイズは、上級生や兄姉の見よう見真似ですることに加え、部活動やクラスメートなどの仲間同どうしでの情報交換が果たす役割が大きかった。
 また、校則による規制よりも、生徒どうしの上下関係の中で、上級生以上の目立つ行動は自制しなければならないという暗黙知があり、このいわば掟を破ることはご法度であった。このため、生徒は、肩掛けカバンをカスタマイズするにも、自由気ままに自己表現できるわけではなく、校則、親の目、教師の目、上級生の目、クラスメートの目などを配慮して、学年相応にできることの限界を探りながらカスタマイズにチャレンジしていったのであり、小さい社会の中の社会性は身に着けていなければならなかった。
 肩掛けカバンは、白色の部分が多いため、鉛筆、ボールペン、油性マジックなど、中学生が日常的に使うもので、簡単にできるため、いったん学校や地域で流行すると、学校側が手を焼くほどに過熱化することもあって、学校現場を悩ませた。
 主なカスタマイズの方法は、次のとおりである。
 なお、カスタマイズは、肩掛けカバンの材質、質感、色によって、やりやすいものとやりにくいものがある。このため、指定されている肩掛けカバンがカスタマイズがやりにくいものが使われていた学校では、カスタマイズは限定的だったが、そうでない学校、とりわけ新興住宅地域周辺のいわゆる荒れた学校では、高度にカスタマイズ行為が発達した。

(1)落書き[編集]

 最もありふれた、一般的なものは、落書きである。最初は、小さな文字で遠慮がちだったものが、徐々にエスカレートしていく。初めは鉛筆やボールペンで書いていても、細い油性マジック、中太の油性マジック、さらにはカラーマジックを使うようになる。肩掛けカバンの材質がすべて帆布の場合には、一度、油性マジックで書くと消せないから、慎重になる。

 昭和の時代では、発色性のよい油性マジックを生徒が入手できなかったため、カラーマジックとはいっても黒、赤、青、緑といった単純色がほとんどだった。しかし、平成に入ると、ポスカに代表される各社から安価な発色性のよいカラーマジックが登場すると、肩掛けカバンへの落書きは、より派手なものとなった。
 落書きする部分の代表的な場所は、肩掛けカバンの表、肩ベルト、カバンの底、カバンの内側の底などである。まず、はじめに遠慮がちに表側の1か所にワンポイントで書く。それが次第に数を増やし、また大きなものを書くようになる。

肩掛けカバンの内側への落書き 他人から見えない部分だけに大胆な落書きがされることもある。

 落書きの内容は、生徒の個性や趣味によって千差万別だ。基本的に生徒にとって憧れの対象やかっこいいと思われているものが落書きの内容となる。アイドル歌手グループの名前、かっこいいと思われているロゴ(F1のレース旗など)、自分の名前、若者の挑発的な言葉(喧嘩上等、夜露死苦、闘魂など)、その他の抽象柄である。中には、漫画チックなイラストのようなものもある。生徒がフリーハンドで下書きもなく、フリーハンドで描くケースがほとんどだったため、1つ1つの完成度は、ラフなものが多かったが、大胆なものも多かった。
 昭和の時代には、男女ともに、勇ましさ、反抗心、競争心がもてはやされたが、時代が下ると、そのようなものは、なりをひそめ、かわいらしさ、見た目の美しさが重視されるようになる。

(2)シール、缶バッジ[編集]

 市販されているシールのほか、キャンペーン等の景品などで入手できるシールやワッペン、缶バッジを肩掛けカバンの表面に貼り付けることが、もう一つの典型的なカスタマイズの手段である。内容は、上記の落書きと共通である。大きなものから、小さなものまで、思い思いに取り付けたり貼り付けたりするため、落書きと同様に、生徒の趣味や傾向を映し出す。
 シールと貼り付けるという方法は、生徒にとって最も簡単な方法であるが、肩掛けカバンは、基本が帆布であり、シールの貼付は、肩掛けカバンの表面がつるつるした素材の場合に可能となる。シール貼りがきっかけでカスタマイズを始めることも多かった。シールが貼れない肩掛けカバンの場合は、やはり落書きがきっかけになって、カスタマイズを始めることになる。
 平成に入ると、シールやバッジも、比較的安価なものが100円ショップや雑貨店に入手できるようになり、生徒の好みに応じて自由な発想でカスタマイズを楽しむことができるようになった。とりわけ、女子中学生の間では、携帯電話やスマホ、化粧品関連の市場の発達によって、カスタマイズ商品が簡単に入手できるようになったことから、女子独特のカスタマイズ行為、いわゆるデコ文化が発達した学校や地域もある。

(3)改造(エイジング)[編集]

 改造行為のうち、使用感を出す行為をエイジングという。昭和の時代から脈々と受け継がれてきた行為で、「新品で真新しいものはかっこ悪い」という価値観に基づく。近年においてジーンズをエイジング加工することが一般的になっているが、イメージとしては、この感覚に近い。しかし、肩掛けカバンの場合には、ジーンズと違って、洗わずに使用感を出すことが必要となる。洗ってしまうと、肩掛けカバンが型崩れをして、みすぼらしい印象になってしまうからである。
 しかし、普通に使っていたのでは、使用感が出るまでに卒業を迎えてしまうため、わざと上履きで踏みつけたり、地面に放り投げるように置いたりして、これを続けていくうちに、早めに使用感を出すのである。その他に、たとえば、部活動中には、炎天下の日中に、日差しの照り付ける場所に置きっぱなしする。雨に濡れてもかまわない。要するに丁寧に扱わないことによるのであるが、それだけではなく、もっと積極的に、肩掛けカバンの材質自体をエイジングさせることも、ひそかに行われていた。
 使用感を出すことによって、落書きをしても自然にカバンと調和する。もし、新品に落書きをすれば、落書きだけが目立ちすぎて浮いた感じになってしまうだろう。ここで注意すべきは、使用感を出すといっても、不潔となってはならないことである。不潔かどうかは、生徒の尺度と大人の尺度では異なるかもしれないが、かっこよくするために使用感を出すのが目的である。
 ただ使用感を出す程度も生徒によって異なり、ある程度になれば満足する場合もあれば、「汚いカバン」と他人から評価されるまでにエスカレートさせる場合もある。

(4)改造(破損)[編集]

 

(5)アイテム[編集]

 肩掛けカバンには、交通安全のお守りを付ける生徒がいたが、これは、むしろ親が持たせたもので、ここでいうカスタマイズには入らない。
 小さな鈴やキーホルダーを肩ベルトの根本に着けることは、よく見受けられた。
 学校側が許容できるのは、せいぜいこのくらいまでで、キーホルダーの大型化すると生徒指導の対象となる。キーホルダーのほかには、チェーンなどというものもあった。平成に入ると、女子中学生の間では、ぬいぐるみを付けることが流行し、1つのカバンにいくつも付けることもあった。

平成時代の肩掛けカバン[編集]

 肩掛けカバンは昭和の末期頃までは、全国の中学で多数使われていたが、平成に入ると、背中から背負うことができる3WAYタイプのカバンを学校指定とする中学が増え、従来の肩掛けカバンは、減少の一途をたどる。

 しかし、経済不況やエコ意識の高まりにより、兄弟姉妹が使用していた「お下がり」を使用したいという声もあり、一斉に新タイプのカバンに移行することをせず、移行措置として従来の肩掛けカバンと併用することを認める中学も多かった。

 このため、しらばくの間は、同じ学年でも、2種類のカバンがみられた。従来型のカバンの使用を望む声は完全には消滅しなかったため、移行措置は3年以上たっても継続していた学校も多かった。

女子生徒の肩掛けカバンの落書き 最近では男子に比べ女子の方が派手な落書きをすることがある。

 ところが、大人社会においてショルダーバッグがカバンの主流を占める時期が到来すると、生徒の中には、それまで「レトロ」「昭和のカバン」「ダサい」などと揶揄されがちだった従来の肩掛けカバンが、「かわいい」をキーワードに一部の地域で生き残り続けた。わざわざ肩掛けカバンを買い足したり、卒業生を頼りに譲り受けたりして、大多数の3WAYカバンに紛れて、ひときわ目立つアイテムとして、ファッションに敏感な生徒や自己主張が強い生徒が肩掛けカバンを使用し続けた。

 とりわけ女子の間で支持する声があったのは、折しも、デコブームが到来し、携帯電話や学用品などに自分らしさを表現したいという欲求に応える環境があったからで、その対象は、肩掛けカバンがうってつけであった。

 このように生徒側、保護者側のそれぞれの都合により、かろうじて使用され続けてきた肩掛けカバンではあるが、カバン製造業者が国内で激減し、移行措置期間から10年以上を経過していることもあり、全面的に3WAYバッグに切り替える中学が急増したため、東京の芝中学のような伝統校などの例外を除き、ほとんどすべての中学校において、肩掛けカバンは消滅した。

ボストンバッグ型の鞄[編集]

ボストンバッグ型の学生鞄(スクールバッグ)
右のセーラー服の女子高生が指定鞄を背負っているのに対し右の2名の生徒は異なったカバンを携行していることに注意。

 現在は一般的にボストンバッグ型が多く用いられている。材質はナイロン性が多いが、柔らかい革製(合革)の鞄もある。かぶせがなく、ファスナーで開閉する。色は、グレーなど。
 旧来の学生鞄に比べ、全体的に柔軟性に富み、持ち手が長く肩にもかけられるようにできている。
 肩にかける場合二本の持ち手のうち、あえて一方のみをかけて、片方は垂らして持つ方法がある。他にリュックサックのように背負うように持つなどの持ち方がある[18]。スクールバッグやスクバと呼ばれる場合、上記の革製の手提げ鞄ではなく、こちらのボストンバッグ型のものを指す場合が多い。
 予期的社会化の表現として、自身が在籍していないが在籍を希望する憧れの有名私立校の指定カバンやデザイン性のよい公立中学校の指定カバン持つことが流行っているところもある[5][19]

 こちらについては、さほどアレンジの方法は一般化されていない。ポスカなどで落書きをしたり、キーホルダーぬいぐるみをつけるなりすることもある。[20]縫製をほどいたり内部の防水シートをはがしたり、洗濯したりワイヤーを抜くなどして硬さをなくす方法もある[5]。カバンを改造を施し華美にすることを「デコる」と呼ぶ。

ショルダーバッグ型の鞄[編集]

 特に男子生徒に好まれ(また指定)、白の帆布などの柔らかい生地のショルダーバッグもある。
 また、スポーツ系の部活をする生徒は、エナメルの大きなショルダーバッグを持つこともある。これらはエナメルバッグスポーツバッグと呼ばれることもある。

関連項目[編集]

  • ランドセル
  • 校則
  • 学生服
  • 服装の乱れ
  • 不良行為少年 - スケバン
  • 中学生日記 - 1980年4月20日放送分にて「ふといカバン」というタイトルで放送された。これは鞄潰しを主題とするもので、クラスメイトのように学生鞄を潰したいと思う優等生の葛藤が描かれた。2006年に「中学生日記アーカイブス」で再放送が行われた。
  • 横浜銀蝿 セカンドシングル「ツッパリHigh School Rock'n Roll (登校編)」の歌詞中に「赤テープ」という言葉がある[21]が、これは上述にある「学生鞄の持ち部に赤テープを巻いている者」という意味に解される。また、「ツッパリHigh School Rock'n Roll (試験編)」歌詞中に「つぶし」という言葉がある[22]が、これは上述にある潰し鞄であると解される。

脚注[編集]

  1. ^ 坂本秀夫『こんな校則あんな拘束』(朝日新聞社、1992年、p44-45)では、合成皮革の学生用の鞄、補助鞄としてナップサック、ポケットバッグと、第三カバンまで指定されている例が挙げられている。少なくとも「第二かばんまで指定する例は多」く、「第一鞄は握り手一つの古典的な学生かばんか、男子の場合、布製の肩かけかばん。『肩かけかばんはけさにかけて歩行する。極端に長くしたり短くしない……(後略)』」など持ち方も指定される例もある。ただし、現在はこれよりも緩和されているものと思われる。
  2. ^ 「ショップの袋 色柄形にバリエーション(ウチらのはやりモン)」『朝日新聞』2003年7月6日、朝刊、29面。
  3. ^ 株式会社小山鞄製 「学生鞄の歴史」及びアトナ商会「日本のスクールバッグの歴史」から
  4. ^ 富山県の例を示す。「手提げカバンからリュック型へ。富山市内の中学生の通学スタイルが、ここ数年で変わってきた。かつて、手提げカバンは学校が指定、義務付けていたが、持ち物の『自由化』傾向とともに少数派に。」このような趨勢は富山県にとどまらず全国的なものと思われる。(「手提げ・肩かけ…カバン『自由化』で中学生は(リポート富山)」『朝日新聞』1998年4月3日、朝刊、富山面。「聞蔵IIビジュアル」にて閲覧。)
  5. ^ a b c 秋田県で、東京の高校のスクールバッグが人気があると報道する記事がある。また、東京のスクールバッグを販売する秋田のリサイクルショップの店主は「芯を抜いたり、洗濯して、使い込んだ感じを出してから使用するのだそうです」と語っている。(「ブランド感覚、中高生に人気 東京のスクールバッグ」『朝日新聞』2006年2月18日、朝刊、秋田全県・2地方面、p30)
  6. ^ 高知新聞ニュース「学生かばん今は昔… 主役ザックに交代」から。記事中には、「清和女子中高は『(生徒たちが)かばんをぺちゃんこにするので、機能を果たしていない』などを理由に、5年ほど前にナイロン製手提げバッグ(約450グラム)に移行」とあるように、後述する潰し鞄の流行への対策で革製の手提げ鞄から転換するところもある。これは、逆説的に潰し鞄の流行の大きさを示す一つの例ともいえる。
  7. ^  難波功士によると、70年代、ツッパリスケバンが改造制服とともに「男女ともにペチャンコにした学生鞄を提げていた。」こうしたファッションは、「80年代前半にツッパリ(ファッション)の大衆化(と同時に陳腐化)が加速し、」「学生服を中心とするツッパリ文化も次第に流行遅れのものとされ、消滅への途をたどっていく」という流行の変遷が紹介されている。(難波功士『ヤンキー進化論 不良文化はなぜ強い』光文社新書、2009年、p102-105から抜粋)。
  8. ^ gooランキング 「今思い出すと恥ずかしい学校制服の着こなしランキング」では、「ぺちゃんこにした学生鞄」が一位となった。潰し鞄の一般的な流行がわかる一つの証左だろう。
  9. ^ 改造した潰し鞄を「ペチャカバン」と呼ぶこともあった。千葉県教組が出版した『私たちの授業創造シリーズ・生活指導編』を紹介する記事で、その指導書から引用して、「ペチャカバンは、学生カバンをペッタンコにしてシールを張ること」であり、「最近の非行の中身や前兆の一例」に挙げられている(「千葉は非行対策の先進県? 教組が指導書 画一化心配の声も」『朝日新聞』1985年5月14日、p22)。
  10. ^ a b 置き勉については、このような解説がなされる。「高校生は、副教材、ノート、辞書、体操服やお弁当まで、荷物が多い。太くて重くなったカバンは「ブタカバン」となって好まれない。そこで、必要最小限のものだけをカバンに入れて持ち帰り、ほかの教科書類は学校においておく。これが『おきべん(置き勉)』である」(「おきべん 高山勉(青春譜)」『朝日新聞、大阪本社版』1996年6月8日、夕刊、p2。「聞蔵IIビジュアル」にて閲覧。)
  11. ^ a b c 「カバンを持たず、手ぶらで通学するヤンキーもいたが、(中略)カバンは極限まで薄くするものと決まっていた。」ヤンキー仕様の学生鞄の作り方としては、「手順としては、まず芯を抜き、お湯に漬け、ふやかしたあとで両端を糸でグルグル巻きにする。」と紹介される。また、ヤンキーの学生鞄の内容物については、「財布とタバコくらい」で、「教科書ぐらい入らないわけではないが、無理に入れる必要はない。机の中に入れっぱなしにしておけば何の問題もない」として、置き勉との親和性が語られる。そして、鞄のさらなるデコレーションとしては、「有名なチーム(暴走族)」、「愛羅武勇(あいらぶゆう)」「愛死天流(あいしてる)」「アイドルの名前が入った『命』モノ」などのステッカーが「男女問わずカバンに貼られるようになってい」った。(『俺たちの好きなBE-BOP-HIGHSCHOOL―ツッパリ青春漫画の傑作と80年代ヤンキー伝説(別冊宝島)』宝島社、2003年、p76)。
  12. ^ 「ぺちゃんこカバン追放など非行対策」のため、中学生の通学用鞄にランドセルを指定する学校もあった。この学校では、「生徒の通学時カバンは、手提げ、肩掛けなどバラバラで、肩掛けカバンの場合、ベルトを長く伸ばすなどだらしない姿勢をとる生徒が多い。また手提げの革カバンをぺちゃんこにして持ち歩く生徒も少なくなく、対策に悩ませてきた。」この当時の、ぺちゃんこカバンなどに見られる鞄の逸脱性の流行の大きさを示すひとつの事例だろう。ただしランドセルといっても、小学生が使用するようなものではなく、色合いや形状などが異なる特注のものであった。(「中学生にランドセル義務付け 非行対策?それとも、おしゃれ?」『朝日新聞』1988年3月17日、朝刊、p31)
  13. ^ 一例として、『カメレオン』1巻p30に「カバンのうすさは知能のうすさ」という言葉を教師と生徒で唱和する描写がある。
  14. ^
     鞄を薄くすることが校則で禁止されていたことを示す一つの記事を引用する。「現実の『校則』の中には、靴下の色や三つ折り、カバンをぺちゃんこにしないといった細々としたものや丸刈りといったものも含まれているが」と記者に問われ、河上亮一は「細かい校則があって、それを守らせていることがマスコミで強調されるが、ほとんどの教師は生徒に強く指導していない。遅刻しないという基本的なことだって生徒に守らせることが危なくなっているのに、どうして靴下や鞄なんかを守らせることができるでしょうか。」と回答している(「学校と社会の常識は違うのか 河上亮一さん(ゴ問ゴ答)」『朝日新聞』1990年11月6日、朝刊、p16)。ここからは校則には潰し鞄の禁止が挙げられているが、そこまでを厳密に取り締まることができず黙認の状況があったことが伺える。
  15. ^ 難波功士は、横浜銀蝿 セカンドシングル「ツッパリHigh School Rock'n Roll (登校編)」の歌詞を分析して、「〈タイマンはりましょ赤テープ同士で〉となる。ペチャンコにした学生鞄に巻いたテープの色は、ケンカの売り買いの印」という解説を書いている。(難波功士『ヤンキー進化論 不良文化はなぜ強い』光文社新書、2009年、p107-108)
  16. ^ 「ペラペラの手提げカバンのニギリの部分に赤色のテープを巻くと『喧嘩売ります』の意になる。また、白テープを巻いた場合は『喧嘩買います』の意になる。」と色テープの意味が解説されている。(『俺たちの好きなBE-BOP-HIGHSCHOOL―ツッパリ青春漫画の傑作と80年代ヤンキー伝説(別冊宝島)』宝島社、2003年、p124)
  17. ^ 記事に、「ちょっと前まで、街のあちこちに生息していた不良たち」の容態として「鳥の巣みたいなリーゼント。長ラン背負ってドカンを引きずり、エナメル靴にぺちゃんこカバン、つば吐きながらガニ股歩き」と素描されている。ぺちゃんこにした潰し鞄が、不良を表す記号となっていたことを示す記述だろう。(「不良 ツッパリはオシャレじゃない?!(若者博覧会:5)」『朝日新聞』1990年5月13日、朝刊、神奈川面。「聞蔵IIビジュアル」にて閲覧。)
  18. ^ 日刊アメーバニュース「ポケベル、ミサンガ…… 平成生まれには通じない!? 30代の学生時代の思い出」では、「肩にかけて持つ学生鞄を、リュックみたいに背負うのが流行った」という声が紹介されている。
  19. ^ ただし当の学校の生徒に出会った場合、気まずい思いを経験することになる。
  20. ^ ある女子高生は、友達の出身中学指定の学生かばん(紺のナイロンバッグ)を使用し、「ローマ字の校名とアンパンマンマスコットが私らしさ。みんなと同じだけど、微妙に違うのが大事なんです」と語っている。(「『なんちゃって制服』増殖(「制服」異変 女子高生は今)」『朝日新聞』2003年4月15日、朝刊、23面。)
  21. ^ Yahoo!ミュージック - 横浜銀蝿 - 歌詞 - ツッパリHigh School Rock'n Roll(登校編)から
  22. ^ Yahoo!ミュージック - 横浜銀蝿 - 歌詞 - ツッパリHigh School Rock'n Rollから

外部リンク[編集]