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ワイルドハント

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ワイルドハント英語: Wild Hunt)、ヴィルト・ヤークト[1]ドイツ語: wild Jagd[注 1])、ヴィルト・ヘール[1]ドイツ語: wild Heer, wildes Heer[注 2])は、ヨーロッパの大部分の地域に古くから伝わる伝承である。

荒ぶる狩り[2]、「荒々しい狩猟」[3]などとも訳される。その主催者は「野の狩人」[注 3]「狩魔王」[4]ドイツ語: wilde Jäger)などと称される。

いずれの地域においても伝説上猟師一団狩猟道具を携え、猟犬と共に大地を大挙して移動していくものであるといわれている[5]

概要

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『ワイルドハント』ペーテル・ニコライ・アルボ

猟師たちは死者あるいは妖精民話の中で、死と関連する妖精)であり[6]、猟師の頭領亡霊多神教、あるいは精霊(男女を問わない)、または歴史上や伝説上の人物であると言われる。例を挙げれば、東ゴート王テオドリックデンマーク王ヴァルデマー4世ウェールズ霊魂冥界に導くとされるグウィン・アプ・ニーズ、または北欧神話の神オーディン、またアーサー王のこともある[5][7][8]

この狩猟団を目にすることは戦争疫病といった大きな災いを呼び込むものだと考えられており、目撃した者はを免れなかった[6]。他にも狩猟団を妨害したり、追いかけたりした者は彼らにさらわれて冥土へ連れていかれたといわれる[9]。また、彼らの仲間に加わるを見ると魂が肉体から引き離されるとも信じられていた[10]

オーディンとの関連

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ハロウィーンからユールの時期

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オーディンのワイルドハント ハーパーズ・ニュー・マンスリー・マガジン1873年1月号より

北欧神話ではオーディンの狩猟団とされており、「オーディンの渡り」とも呼ばれる[11]。ワイルドハントが始まるのは10月31日で翌年4月30日までは終わらないといわれた。この2つの日は特に大事である。10月31日、太陽は九つの世界へ行き精霊や妖怪がこの世を放浪するようになるからである[12]狩猟月の先端が暗闇に浮かぶと嵐が吹き荒れる時期となり、アンシーリーコートの時期でもあり、ワイルドハントは暗い日、10月31日から冬至の休閑期に集中する[13]。元々はユールと十二夜の間に、8本足のスレイプニルにまたがったオーディンが魔物や精霊たちや遠吠えするを従えてやってくるとされていた。オーディンがスレイプニルにまたがって天に駆け出すと、雷のような音が轟き、風が吹きはじめ、やがて耳をつんざくような音へと変わる。他の悪魔や精霊の馬のの音もこの音に加わり、犬たちも同様にやはり耳をつんざくような吠え声を上げる[14]。かつてのゲルマン世界でクリスマス前後の燻し十二夜の頃は雪嵐が多く、その嵐にオーディンの到来を人々は重ね合わせた。また、この頃祖先の霊が帰ってくるという言い伝えがあり、今も特に北欧ではこの習慣が守られていて、故人の好んだ料理を作って並べ(ユール・ボード)、馬の手綱を解いて故人の霊が乗れるようにしておくという[15]

冬の風が吹いて、ユールの火がともされる頃は、家の中にいるべきだ。

暗闇の小道からも、野生のヒースからも閉ざされていて安全だ。

ユールの夜にあてどもなくうろつく者は、樹上からのさらさらと言う音を耳にする。

それは風の音だろう、でも他の木はしんとしている。

でもその次に、犬の吠える声を聞こえる、軍団の首領が舞い降りてくる。

目から火を吹く黒い猟犬、黒い馬のいななき。
クエルドルフ・ハーゲン・グンダルソン、マウンテン・サンダー、(Towrie 2005)

ユールの間中ワイルドハントの動きも最高潮に達し、死者がワイルドハントの一員となって現世をうろつく。リーダーであるオーディン、その後に黒くて吠え続ける犬を連れて、狩りの角笛を吹きならす死んだ英雄たちが続く[16]。オーディンの8本足の馬スレイプニルのために古代のゲルマンやノルマンの子供たちは、冬至の前の夜にブーツを暖炉のそばに置き、スレイプニルのために干し草砂糖を入れ、オーディンはその見返りとして子供たちに贈り物を置いていったという。現代ではスレイプニルは8頭のトナカイとなり、灰色の髭のオーディンは、キリスト教化により聖ニコラウス、そして親切なサンタクロースとなったのである[17]。ブーツ以外に靴下を置き、やはり中にスレイプニルの食物や干し草を入れておくと、やはりオーディンから子供たちへのキャンディがその中に入っているといわれる[14]。もし、戸外でワイルドハントに出逢った人は、心の純粋さと、このワイルドハントに象徴されるような恐ろしい光景に敬意を払えるか、一種の度胸試しがなされ、さらにユーモアのセンスが試される。もしそれに合格すればその人は靴を黄金で一杯にするか、食べ物と飲み物をもらって帰ることができる。しかし不運なことに合格しなかった場合、その人は恐怖に満ちた夜の旅へ生涯連れまわされることになる[16]。ワイルドハントに命を奪われ、魂がその後何年もこの軍団と共に空を駆け巡った者は、邪悪な者や嘘つきといわれるが、ユールの時期に祖霊へのご馳走を怠ったからだとも広く伝えられる[14]。かつては死が間近な病人の場合、狩りに加われるように部屋の窓が開けてあった[18]。サンタクロースがワイルドハントに由来するというこれらの説は、ヘレーン・アデリーン・ガーバーらによって唱えられたものだが史料による確認はなされていない。

ワルキューレ アルボ作

その他の時期

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北欧では夏至の前夜にもみられることがある。空で犬をけしかける声がして、地域によってはケルヌンノスに率いられている。夏至の夜はヨーロッパでは妖精の夜、魔女の夜でもある。リアノン・ライアルの著述には『ウエスト・カントリー・ウィッカ』の中で、儀式を伴う魔女の集会はイングランド西部で何世紀も続いているとある[19]。ワイルドハントは春分秋分の頃にも出現する。これはその季節の暴風と関係があるとされ、また、オーディン自身が死者の魂を運ぶ風とする説もある[11]。また、オーディンがもたらす風が翌年の豊穣を約束するともいわれた[15]

「オーディンの軍団」本来の姿

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時が経つに連れ、オーディンの群れは魔物化していき、多くの精霊や妖怪、悪事を働いた者や非業の死を遂げた者をも引き連れた軍団へと変化していった。ワイルドハントに出逢ったら通り過ぎるのを待つか、三つの十字架を前に並べるともいわれる。この三つの十字架には、キリスト教の影響が窺える。これは日本の百鬼夜行にも通ずるものがある。かつては物忌の象徴であったものが、いつの間にか恐ろしい物の怪の集団となっていったのである[15]。また別の地域では、聖ニコラウスの日に「オーディン(ヴォーダン)」をはじめとし、麦わらの妖精シャープ、さまざまな精霊や、化け物の格好をした人々の行列が練り歩く。先頭は道案内の神のエケハルトで、大天使のミヒャエルと共にサンクト・ニコラウスがやってくる。行列のさらに後ろからは、毛皮を着て、色とりどりの面をつけ、角を生やした鬼が続くと言われる[20]。オーディンが引き連れているのはワルキューレという説もある[12]

ヨーロッパ各地での伝承

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イングランドとウェールズ

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多くの人々が、大勢の猟師たちが狩りをしているのを、目または耳にしていた。彼らは黒く、巨大で醜く、黒いまたは雄のヤギに乗っていた。彼らの連れていた犬は漆黒で、皿のような耳をしていて、恐ろしかった。ピーターバラのディアパークの、正のその空に見えた。その町からスタンフォードまで、森づたいに、その光景が見えていた。その夜修道士たちは、彼らがを吹いているのを耳にした。
著者不明、アングロサクソン年代記、a b Garmonsway, G.N., The Anglo-Saxon Chronicle, Dent, Dutton, 1972 & 1975, p. 258.
デボンのウィストマンウッドの森
サー・フランシス・ドレイク

ワイルドハントは時を経るに従ってオーディン以外の神や、民話の英雄が狩猟団の頭領となっていく。それはアーサー王であったり、ダートムアの民間伝承ではサー・フランシス・ドレイクであったりする。サマセットキャドバリー城近くの古い道はキング・アーサー・レインと呼ばれており、19世紀の時点でも風の強い冬の夜はアーサー王が犬を連れてそこを疾駆するという話が信じられていた[7]。英国のある場所では、この狩猟団は宗教上の大罪を犯した者や、受洗していない者を追いかける地獄の猟犬であると言われている。デボンでは、イェス(ヒース)またはウィシュトハウンドと呼ばれ、コーンウォールではダンドーと犬たち、またはデビルとダンディードッグと呼ばれる。ウェールズではクンアンゥン(地獄の猟犬)、サマセットではガブリエル・ラチェッツまたはレチェッツ(犬)、デボンでは特にウィストマンウッドで見られ[21]、ウィストハウンドという名もある[13]。このガブリエル・ラチェッツ(ラチェットは犬のこと)、またはガブリエルハウンズとは、古い表現で「死体」を意味する。セブンホイッスラーズ(夜の間中飛び回る七羽の、恐らくは死んだ鉱夫漁師の霊)と似通ったものがある。このセブンホイッスラーズの鳴き声は天災の前兆とされた[14]

古代ヨーロッパでは犬は守護神であり、亡霊を食らうものだった。これはも同様だった。「肉が骨と切り離されるまでは魂は来世で自由になれない」と信じられており、犬たちは肉体を食らってその人を自由にするとされた。サウスウォーウィックシャーでは、キリスト教が伝わる前の冬至の祭りでワイルドハントと共に見られたお化けのような猟犬の一団は、ナイトハウンズやヘルハウンズ(正確には「ノルマンの女神のヘルハウンズ」)と呼ばれた。シャックまたはショックとも呼ばれたこれは、古代英語の悪魔(スクッカ)が起源と思われる。北欧神話のバーサーカーと狼は、いずれも死を表し、古代英語での狼(ウルヴズ)は放浪者や犯罪者のような「社会的に死んだ者」と同義であり、彼らがワイルドハントの一因となっている理由とされる[14]

ワイルドハントの後に暖炉のそばに小さな黒い犬がいたら、見つけた人がその後1年世話をし労わらなければならず、きちんと世話をしないと悲惨な結末が待ち受けているといわれた。また、夜に黒い犬を見るのは、間近な死の前兆とされた[14]

イングランドで主にワイルドハントの首領と考えられるのは、イングランド オーディン[22]、オーディンの一形態であるヘルラ[23][24]サクソンの富豪でノルマンに盾突いたエドリック[25]、アーサー王、サー・フランシス・ドレーク、ダラム地方ではイェスまたはウィッシュハウンドなどである[5][7]。ヘルラ(ハーン)は頭に雄鹿頭蓋骨を飾り、体中から燐光を放って、冬の真夜中ウィンザーの森に現れる精霊で、不吉の前兆とされる。ウィリアム・シェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』には、このヘルラが登場する[26]。ヘルラに関しての12世紀ウォルター・マップの次のような文章もある。

ヘルラ王の一族は、ヘンリー2世の治世の最初の年に、ウェールズとヘレフォードの境界地方で目撃された。

昼間のことで、我々と同じように馬車に乗って、馬に荷物を載せ、馬の荷鞍に荷籠、に猟犬、そして男女が集まっていた。

この一行を最初に見た者は、国を挙げて彼らを敵に回しラッパを吹いて、叫びをあげた。

なぜなら彼らは、話しかけるための言葉をひねり出せない。

武器を突きつけ、彼らに答えさせようとしたが、彼らは宙に浮かんですぐさま消えてしまった。

クエルドルフ・ハーゲン・グンダルソン、マウンテン・サンダー、(Towrie 2005)

ウェールズではグウィン・アプ・ニーズのほかに、マリュティノス(マチルダ・オブ・ザ・ナイトまたはナイト・マリュト)の伝承もある。マリュティノスはかつては不信心な貴婦人で、狩りが大好きで「天国に狩りがないのなら、行かない方がいいわ」と口にしてしまったため死後はその望み通りになり、暴れ馬に乗ってアラウンと共に泣きわめくような声を上げながら、クリスマス大晦日アヌンウンの犬の亡霊を走らせるという[27]。この犬は、ガブリエル・ラチェッツと同じ犬ともいわれる[28]

グウィン・アプ・ノーズはウェールズの五月祭(カランマイ)に現れる[12]

ドイツ

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ペルヒタ

時に狩猟団がドラゴン悪魔を連れているという話がある。猟師たちは馬、または馬車に乗っている場合が多く、何頭かの犬を引き連れている。特に若い女性は罪があろうとなかろうと彼らの獲物となる。この話の多くはワイルドハントに出くわして難を逃れた人々によるもので、もし彼らの道を塞ぐようなことをすれば罰せられ、もし彼らの手助けをすれば金や黄金、あるいはかなり高い確率で死者や死んだ動物の脚が与えられる。この人間や動物たちは呪われて逃れられなかった者たちである。

この場合その人は聖職者魔術師に頼んでワイルドハントを撃退してもらうか、塩をねだって脚を取り戻させるように仕向ける。ワイルドハントは塩を渡すことができないからである。多くの場合、狩猟団が通過する間、道の中央より右側にいた人は安全だと言われる[29][30][31]。ドイツでは、ヴォーダン(オーディン)、ベルヒトルトディートリッヒ・フォン・ベルンホルタペルヒタビルデヒャイトローデンシュタインハンス・フォン・ハッケルベルクの従者(2人とも安息日を破った罪人)[32]などが首領とされている。

ザクセンの神話では、オーディン、またはヴォータンは戦死した兵士をワルハラに連れていき、蘇らせてからエインヘリャルを編成した。毎日兵士たちは戦死し、夜に蘇って酒宴を楽しんだ[33]

ザクセンには次のような伝説もある。ある王子が少年を切り裂いた。少年はヤナギの皮をはいで笛を作った。王子は少年が木を傷つけたため罰を与えたのである。王子は少年の腸をヤナギの周囲に巻き付けた。また、鹿を狩った農奴にも残酷な刑を科した。

王子は狩りの途中カバノキに激突して死に、永遠に狩りをすることになった。この王子の集団は十字路では転落し、また広い通りを避ける[18]。また、1123年、このザクセンのヴォルムスの司教管区の住民たちは、毎晩のように大勢の武装した騎士たちが隊列を組んで山から下りてきて、また山に引き返すのを目撃していた。

彼らの前に十字架を押しやってそのうちの一人に尋ねたところ、彼らは実は皆死んでいるのだと答えた。この騎士たちは戦死した者の魂だったのである[33]オーストリアの民族学者であるアレクサンダー・スラヴィクは、ワイルドハントが「来訪する死者」「来訪する亡くなった隣人」への昔からの信仰を示唆すると考えた[34]

ワイルドハントを率いるといわれる、ハンス・フォン・ハケルンベルク(ハッケルベルク)という人物は1521年または1581年に没したといわれる。後世の民話ではハケルンベルクは猪を殺したが、牙で脚を負傷し毒が回って死んだ。彼は死んでから天国へ行くことは望まない代わりに狩りをさせてくれるように望んだ。

彼の願いは聞き届けられ、あるいは呪われ、夜空で狩りをすることになった。この話のもう一つ別の形として、生前の罪の罰として軍団を率いるようになったというのもある。この話にはもっと昔のものではないかとも思われる。また、ハッケンベルクとは、単に古代サクソン(ザクセン)語でボーダン(オーディン)のあだ名であるハコルベランドがなまったものだともいわれている[28]

グリム兄弟は「怒れる軍団」(ワイルドハント)は、オーディンの軍に起源があるとしている[35]

フランス

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1133年ノルマンディー聖職者オルデリック・ヴィタリスによると、1091年1月1日、亡霊たちからの伝言を依頼された聖職者のボンヌヴァル・ウォルシュランは、彼らを無視し乗り手のいない馬を一頭盗もうとした。しかし赤く焼けた手綱と盗みで彼を取り押さえた騎士の手で焼かれてしまう。ウォルシュランは兄弟のとりなしで難をのがれたが、死んでからはワイルドハントに加わったと言う[14]

パリ近くのフォンテーヌブローの森にはル・グラン・ヴェヌール(大頭領)がいて、森の中を風が吹けばル・グラン・ヴェヌールが現れたといわれる[18]

ドイツに近いアルザスの住人であるジャン・ガイレ・カイゼルベールは、1516年にワイルドハントについて次のように書いている。「神の決断が下される前に世を去ったものは、ワイルドハントの一員となる。彼らは、突き刺されたり、吊るされたり、水におぼれたりして死に至ったもので、神の決断が来るまで、死後もこの世に留まっているのである」

フランスでは、ワイルドハントを率いるのは必ずしもオーディンや、シャッセマカベイ、シャッセアルトゥ、そしてメスネデレキン(死の女神エル)[14]だけではなくアルザスではホレのおばさんペルヒタのこともある。また、ワイルドハントが大人にならないうちに死んだ子供たちの集団である場合もある。これは子供だけが見ることができるが、これを見た子供たちに危害は加えられずワイルドハントの一員として引き込まれることもない。むしろ、この集団を率いるホレおばさんは子供たちに贈り物(しばしば小さな食物)をくれ、これが、アルザスのクリスマスイブに子供たちにプレゼントをくれる白いドレスの女性、クリストキントの発祥になったといわれている。(現代のサンタクロースとは別物である)

20世紀の始め、アルザスには冬至の近くに仮面を付けて幽霊や動物に扮し、できるだけ大きな音を立てて歩く祭があった。彼らは村中を歩き、特にその年死者が出た家からはなかなか離れようとしなかった。夜にはオーディンの戦場でよみがえった戦士に扮したダンサーによる饗宴があり、その時に祭の王が選ばれた[35]

また、「提督の狩猟」というクリスマスの時期の恐怖話(プレ)もある。フランス海軍提督でサン=ジャン=ローヌ付近のフランソに領地を持つシャルニ伯フィリップ・ド・シャボは、非回心の狩人と呼ばれ、1541年、領地に近いジュラの付近にオオカミが沢山出るということでクリスマスイブの礼拝をすっぽかして狩猟に行こうとするが、夫人に促され教会に出かけた。しかし、ミサのさなかに伯爵領にオオカミが出たとの連絡が入り、そのまま連絡に来た貴族と共に教会を出ていった。その後、教会の中にフクロウが降りてきてろうそくの火が消えたり、クモが降りてきたりで、人々を不安に陥れる。その後、遠くで狩猟の音が聞こえる中を夫人や子供たち、召使たちは城に戻るが、夜が明けて狩猟の音がやんでも提督は2度と戻らなかった。その後、この地域ではイブのミサが始まるころ狩猟の音が聞こえるという。このシャルニ伯フィリップ・ド・シャボはほぼ同時代に実在し、この話とは違った運命をたどる[36]。(en:Philippe de Chabot

オークニー諸島

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オークニー諸島の中心都市カークウォール

オークニーにも、ワイルドハントの伝説が残っている。妖精やトロールが、時折り、夜中に白馬や雑草でできた馬[37]に乗り、空を飛ぶと言われる。盗んだ雌牛に乗っているともいわれる。ヨーロッパ中で、ワイルドハントはいろんな時期に現れるが、ユールの時期が最も一般的だといわれる。この時期は、超自然的な存在が現世を訪れる時期で、特に死者の霊が家に帰るのを許される時期でもある。この考えが、ワイルドハントは死者の集まりということになり、オークニーでもそれが当てはまる。オークニーのトロールは元々は生霊、あるいは幽霊と考えられていた。そしてユールや、ハロウィン大晦日に悪さをするのである[28]

スウェーデン

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北欧では、オーディンのワイルドハントは耳にはしてもめったに見られない。典型的なものとしては、オーディンの2頭の犬が1頭は騒がしく、1頭は弱々しく吠えるということである。この吠える声は誰にでも聞き分けられる。多くの地域では、この声が聞こえると天候が変わると言われているが、戦争や社会不安の前兆の場合もある。幾つかの報告によると、静かな森で犬が鼻を鳴らす音と吠える声だけが聞こえたという。

スウェーデンでは特にイェータランドにこの伝承が広まっている。ここは古くからオーディン信仰があった地域でもある。民間伝承のオーディンは、神話で見せる姿とは違い外部からの影響が大きいのは特筆すべきことである。キリスト教以前の時代から今に至るまで、オーディン信仰は人々の信心に強い影響を与えている。

黒ヤギが引くトールの馬車

ワイルドハントは古代ゲルマン信仰が発祥なのは明らかである。近年のオーディンの伝承がオーディン自身と彼の神性とを結びつけようとしないのは、注目されるべきである。何世紀もにわたりオーディンはエウヘメロスの説に基づいて、伝説の人物であり、悪魔のように恐ろしく、危険な存在とされてきたが、北欧神話の主神とのはっきりした関連付けは見られなかった。スウェーデン西部、また東部でも、オーディンは貴族でありですらあった。日曜日にも狩りをし、そのためこの世の終わりまで超自然的なものを追い詰め、狩ることを運命づけられたのだと言い伝えられている。

オーディンは、馬ではなくやはり北欧神話に登場するトールが乗っているような馬車で駆け回っているともいわれている。オーディンが現れるという地域にはそれぞれの伝説があるようで、オーランドのガルドローサでは、オーディンが険しい岩山に馬を繋ぎ、馬が繋がれた綱を強く引っ張ったところ、岩山は粉々に砕け、そして馬も地上に落ちて底なし沼ができたと言われる。スモーランドのある地域では、犬たちが疲れてくるとオーディンは大きな鳥たちを使って狩りをしたという話がある。その鳥はスズメの群れを変身させたものであるという。また、かつて通った道に家が建っていればその家は燃やされてしまう。またある伝説によれば、雄牛にくびきを付けている時はオーディンは狩りをしないといい、オーディンが狩りをしている時は、地面に身を投げ出して悪いことをされないようにするのが一番いいやり方だという。

スモーランドのアルグールトでは、クリスマスに教会に行く時はパンをひとかけらと金属を一片持っていくのが一番良いといわれ、もしつばの広い帽子を被った狩人[注 4]に出会った場合、自分の前に金属を投げ、犬に最初に出会った場合は、その代わりにパンを投げるのが良いとされる[5]

ノルウェー

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ノルウェーではオスコレイと呼ばれる。20世紀初頭まで、ノルウェーの若者は、冬至にワイルドハントの再演を行っていた。扮装した若者たちは、伝統行事を破壊する、大抵はビール穀物を盗む人々に罰を与えた。この若者たちに食べ物や飲み物を与えると繁栄がもたらされると言われた[14]

その他

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女神ヘカテー

カタルーニャ州リポイ貴族アラナウ伯爵はその残忍さ、とりわけ神父への残忍さで知られ、その祟りとして田舎を火を吹く黒い「地獄の乗馬」に乗って獰猛な地獄の猟犬と走り回ることになった。イタリアでは、ヘロディアス、のちのストレゲリアアラディアの伝承がある。イタリアの魔女を引き連れて海で邪悪な水兵を狩る[13]

ギリシア神話ヘカテーは、月の出ない夜に遠吠えをする不気味な犬の一団を連れて放浪する[28]。ヘカテーも元々はワイルドハントのリーダーと考えられており、他にもテュンリドル(妖婆ハッグの乗り手たち)、ガンドライド(魔女の騎行)という名もあって女性が率いるものであったともいわれる[18]

デンマークでは首領としてホルガー・ダンスクポーランドではヤドヴィガ女王セルビアではマルコ王子の名が挙げられる[14]

中央ヨーロッパでは、ワイルドハントをよけるためを沢山いれた木の容器を家の正面の木の上に置く。また、マレー半島イロコイ族にも似た伝説がある[18]

オランダ南部とベルギーリンブルフ地方には、雄ヤギに乗って空を飛ぶ魔女や亡霊という「ヤギ乗りオランダ語版」の伝承がある。

分類

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頭領

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その他の地域の例

メンバー

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  • 輝く馬車、燃える馬車
  • 首のない騎士
  • 空を飛ぶ兵士、騎士、騎馬、馬車
  • 人外(悪魔、ドラゴン、天使、幽霊、精霊、豚、犬…)

類似の例

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Cŵn Annwn
ウェールズの神話。異界アンヌンの王アラウンのワイルドハント
Mallt-y-Nos
クロウン英語版が「天国に狩りがなければ、行きたくない!」と言った結果、異界アンヌンの王アラウンと共に永遠に狩りを強制されている。
シュヌグーダ (la chenegouda)
スイスヴァレー州に伝わる集団幻聴。各村で話が異なる。「冬の夜暴れる悪意のある騒々しい悪霊の集団」「鈴、鎖、鎌、シャベル、大きな叫び声などの混じったもの」などがある[44]
ムオーデル(綴り字不明、英語・ドイツ語資料確認できず)
日本の書籍で、以下のように紹介されている。オーストリアに伝わる伝説の幽霊の軍隊である。夜になると、四辻を地面から1尺程浮かんで飛んでいくという。この時、物凄い叫び声や吼え声、の響きが聞こえる。ムオーデルの先頭では、白馬に乗った男が角笛を吹きながら「そこを退け、そこを退け、退かぬ者は危ないぞ!」と警告を発する。軍勢は、徒歩や騎馬だけでなく、火の馬車や黒い馬車に乗って現れる。
ムオーデルの軍勢に出会った場合は、近くにある十字架にしがみつき、目を閉じていなければならない(目を開くと盲目になってしまう)。そうすれば軍勢は何もしないで通り過ぎる。また、近くに十字架がない場合、両足を閉じ、両腕で十字架の形を作り寝るとよいとされている(立ったままでいると引きずられてしまう)。[45]

脚注

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注釈

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  1. 猛々しい狩りの意。
  2. 猛々しいの意。
  3. 井上は"「ヴィルト・ヤークト」(Wild Jagd) =「野の狩人」"としているが[1]、厳密には狩人はJägerなので、調整する。
  4. オーディンを指していると考えられる。

出典

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  3. トルラア 著、久保栄 訳『解放されたウオタン [Der entfesselte Wotan]』原始社〈原始社プレイレツト ; 第5〉、1926年、12頁。NDLJP:1019404
  4. 高木昌史柳田國男とヨーロッパ:口承文芸の東西』三交社、2006年、283頁。ISBN 9784879195890
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  31. Simrock, Karl (2002 reprint of 1878 edition) (in German). Handbuch der deutschen Mythologie mit Einschluß der Nordischen. Elibron Classics. Adamant. pp. 191, 196ff. ISBN 1-4212-0428-2.
  32. Ruben A. Koman, Dalfser Muggen Profiel, Bedum 2006.
  33. 1 2 Ed LeBouthillier. The Wild Hunt”. Hlidskjalf. Eurofolk Asatru Community Association. 2011年10月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年10月4日閲覧。
  34. A・スラヴィク 著、住谷一彦 訳『日本文化の古層』ヨーゼフ・クライナー、未来社、2015年6月(原著1984年9月)。ISBN 9784624200459
  35. 1 2 La Chasse Sauvage – Les Portes du Sidh (フランス語). 2023年3月4日閲覧。
  36. ジョルジュ・ビドー ド・リール 著、堀田郷弘、 野池恵子 訳『フランス文化誌事典 祭り・暦・気象・ことわざ』原書房、1996年11月1日、658頁。ISBN 978-4562028603
  37. Orkneyjar - The Trows and the Norwegian Bride
  38. Carlo Ginzburg, Storia Notturna – Una decifrazione del sabba, Biblioteca Einaudi
  39. Hole, Christina. Haunted England: A Survey of English Ghost Lore. p.5. Kessinger Publishing, 1941.
  40. 宮廷人の閑話 著: ウォルター・マップ.
  41. Briggs 1967, p. 436, "Wild Hunt".
  42. DPG Media Privacy Gate”. myprivacy.dpgmedia.nl. 2023年3月4日閲覧。
  43. Briggs 1967, p. 51.
  44. 加太宏邦「口碑のヴァレー地方」『商学論究』第39巻第1号、関西学院大学商学部商学論究編集委員会、1991年4月、39-57頁、doi:10.15002/00003071ISSN 0287-2552NAID 120000993992
  45. 山崎光子編『オーストリアの伝説』改訂版、名著普及会、1980年、12頁。

参考文献

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関連書籍

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  • フィリップ・ヴァルテール『中世の祝祭-伝説・神話・起源』原書房、2007年(第2版2012年)、第3章および補遺
  • Moricet, Marthe. "Récits et contes des veillées normandes". In: Cahier des Annales de Normandie n° 2, 1963. Récits et contes des veillées normandes. pp. 3–210 [177-194]. [DOI: Récits et contes des veillées normandes] ; www.persee.fr/doc/annor_0570-1600_1963_hos_2_1
  • Jean-Claude Schmitt, Ghosts in the Middle Ages: The Living and the Dead in Medieval Society (1998), ISBN 0-226-73887-6 and ISBN 0-226-73888-4
  • Carl Lindahl, John McNamara, John Lindow (eds.) Medieval Folklore: A Guide to Myths, Legends, Tales, Beliefs, and Customs, Oxford University Press (2002), p. 432f. ISBN 0-19-514772-3
  • Otto Höfler, Kultische Geheimbünde der Germanen, Frankfurt (1934).
  • Ruben A. Koman, 'Dalfser Muggen'. – Bedum: Profiel. – With a summary in English, (2006).
  • Margherita Lecco, Il Motivo della Mesnie Hellequin nella Letteratura Medievale, Alessandria (Italy), Edizioni dell'Orso, 2001
  • HUTTON, RONALD. "THE HOSTS OF THE NIGHT." In: The Witch: A History of Fear, from Ancient Times to the Present. NEW HAVEN; LONDON: Yale University Press, 2017. pp. 120–46. Accessed March 14, 2021. doi:10.2307/j.ctv1bzfpmr.11.

関連項目

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外部リンク

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