インドネシア高速鉄道計画

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インドネシアジャワ島の高速鉄道計画

インドネシア高速鉄道計画(インドネシアこうそくてつどうけいかく)は、2015年7月にインドネシア政府が発表した高速鉄道計画[1]。首都ジャカルタ西ジャワ州バンドン間150kmを結ぶ計画で、将来的にインドネシア第二の都市である東ジャワ州スラバヤへの延伸が計画されている。東南アジアにおいて最初に開通する高速鉄道となる予定である[2]

日本および中国が高速鉄道システムの売り込みを行い、入札を競った[3]。インドネシア政府は2015年9月3日、高速鉄道計画の撤回を発表し、入札を白紙化したが、直後の9月29日、財政負担を伴わない中国案の採用を決定した[4][5]

2015年9月の落札時点では、2015年に着工し2019年に開業する予定[6]とされていたが、起工式は2016年1月21日にずれ込んだ[7]

歴史[編集]

日本案[編集]

2008年より、日本はインドネシアに対し新幹線の輸出を働きかけていた[8]2009年には、ジャカルタ - スラバヤ間730kmを時速300kmで結ぶ高速鉄道計画のフィジビリティスタディが行われた[3]。当区間はインドネシアで最も人口密度が高い区間であり、旅客および貨物輸送において慢性的な渋滞が発生している[9]国際協力機構により、高速鉄道の建設費を円借款による低金利の融資で賄うことが提案された[10][11]

新提案では複数の期間に分けて建設することになった。第一期はジャカルタ - バンドン間150kmを35分で結ぶ計画となり、建設費は50兆ルピアとされた。2014年1月、国際協力機構は詳細な事業化調査を開始した。

当初、日本案は有利であるとみられていた。2014年10月にスシロ・バンバン・ユドヨノが任期満了で大統領を退任し、新たにジョコ・ウィドドを大統領とする政権に代わると、2015年1月、ジョコ政権は高速鉄道計画を費用がかかりすぎるとして中止を表明した。

それでも日本案の有利は揺るがないと見られていたが、2015年3月に中国が受注競争に参加することを表明した[12]

2015年3月、ジョコ大統領は東京と北京を訪問。3月22日から25日までの東京滞在期間中、日本の安倍晋三首相と会談を行い、ジャカルタの都市鉄道路線ネットワークにおいて日本の支援を得ることで合意をしたが、高速鉄道計画においては進展が見られなかった。

中国案[編集]

中国案のCRH380A

2015年4月、中国はインドネシア高速鉄道計画の入札を表明した[13]

2015年3月26日、ジョコ大統領が北京を訪問し、中国の習近平国家主席と会談を行った。中国側はインドネシア高速鉄道計画への支援を大々的に発表した[3]

2015年7月、インドネシア政府はジャカルタ - バンドン間の高速鉄道建設計画において競争入札を行うことを発表した[1]。2015年8月、中国はジャカルタのショッピングモールにおいて高速鉄道技術展示会を行った[14]

日本案と中国案の競争は熾烈なロビー活動に及んだ。高速鉄道計画の受注は経済的理由に留まらず、東南アジアにおける両国の戦略的影響力を競うものとなっていた[15][16]

一時的計画凍結[編集]

ジョコ大統領は9月上旬に高速鉄道計画の落札者を発表するものと見られていた。しかし、9月3日、インドネシア政府は高速鉄道計画の凍結を発表し、代替案としてより費用の安い低速鉄道に計画変更すると発表した[2][17]

ジョコ大統領は、政府対政府のアプローチではなく、民間対民間のアプローチを歓迎し、インドネシア政府による財政支出や債務保証を望まないと述べた[3]。この発表後、中国は水面下でのアプローチを続けたとみられる。

落札[編集]

9月中旬、中国は新提案を提出した。新提案ではインドネシア政府の要望に全面的に応え、インドネシア政府の財政支出や債務保証を必要としない計画とされた[18]。9月29日、インドネシア政府は中国案の採用を発表した。採算を考慮してあくまでも政府による債務保証に拘った日本案と明暗が分かれた[6]。中国側はインドネシアのために競争的な融資パッケージを用意し、その結果が功を奏して日本に勝ったとみられる[19]

日本の菅義偉官房長官は、「経緯について理解しがたい。極めて遺憾」と述べた[12][18]。リニ・スマルノ国営企業相によると、財政的な理由により、日本案とは違い財政支出や債務保証を求めない中国案を採用することを決定した。[20]

中国案の採用は、同時に中国側が計画の採算面でのリスクを引き受けることを意味する[3]

中国側がリスクを引き受けるのは、アジアにおけるインフラ計画に対する中国の見方を表す。インドネシアにおいて合弁会社を設立し、高速鉄道だけでなく、都市鉄道、路面電車などにおいても車両の輸出を目論む一方、インドネシア以外のアジア諸国に対するアピールにもなる。今回の入札において、リスクを中国側に引き受けさせることに成功したインドネシアが最大の勝者であるという見方もある[3]

合弁会社[編集]

インドネシア高速鉄道の建設において、中国鉄建(CRCC)はインドネシア国有企業連合との合弁会社を設立する[21]

計画費用は80兆ルピア(55億米ドル)に達すると見られている。そのうち、中国の国家開発銀行は75%の融資を行う。合弁会社の出資比率はCRCCが過半数をとり、インドネシア国有企業連合は30%、インドネシアの民間企業が数%となる[21]

起工後[編集]

2016年1月21日、合弁会社などはバンドンで起工式を開催した[7]。2018年末までに工事を終了させる予定に変更がないと関係者はコメントし、建設認可も「事務処理を残すのみ」としていた[7]。しかし、起工式から約1か月が経過した時点でも着工には至っていない[22]。これは中国側からの書類提出が完了しておらず、提出された書類も大半が中国語で審査が進んでいないことが要因という[22]。また、中国側はインドネシア政府に当初の条件とは異なり、債務保証を求めてきているとも報じられている[22]。 着工から1年たった2017年1月末現在も、土地価格の高騰、民間工業団地の移転補償問題などで土地収用も85%しか進まず、鉄道用地に不法占拠者に対する立ち退き交渉も有り、中国側の融資の条件の高速鉄道用地の全区間確保が出来ていないため有志が実行されず、地元業者による整地工事のみが行われている状態[23]

外部リンク[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b “INDONESIA PRESS-Govt to hold "beauty contest" for high-speed train project - Jakarta Globe”. Daily Mail. (2015年7月14日). http://www.dailymail.co.uk/wires/reuters/article-3160185/INDONESIA-PRESS-Govt-hold-beauty-contest-high-speed-train-project--Jakarta-Globe.html 2015年10月1日閲覧。 
  2. ^ a b “Indonesia dumps plans for high-speed rail line: ambassador”. The Jakarta Post. (2015年9月4日). http://www.thejakartapost.com/news/2015/09/04/indonesia-dumps-plans-high-speed-rail-line-ambassador.html 2015年10月4日閲覧。 
  3. ^ a b c d e f Harner, Stephen (2015年10月1日). “Japan's Rail Project Loss To China: Why It Matters For Abe's Economic Diplomacy And For China's”. http://www.forbes.com/sites/stephenharner/2015/10/01/japans-rail-project-loss-to-china-why-it-matters-for-abes-economic-diplomacy-and-for-chinas/ 2015年10月4日閲覧。 
  4. ^ “Indonesia to award fast train contract to China - Japanese embassy official”. Reuters. (2015年9月29日). http://www.reuters.com/article/2015/09/29/indonesia-railway-idUSL3N11Z3HQ20150929 2015年10月1日閲覧。 
  5. ^ “Indonesia awards multi-billion-dollar railway project to China over Japan”. ABC. (2015年9月30日). http://www.abc.net.au/news/2015-09-30/indonesia-awards-major-rail-contract-to-china/6818082 2015年10月1日閲覧。 
  6. ^ a b Ben Otto and Anita Rachman (2015年9月30日). “Indonesia’s Handling of High-Speed Train Project Adds to Business Confusion, Mixed messages to Japan, China come as Indonesia courts foreign investors”. The Wall Street Journal. http://www.wsj.com/articles/indonesia-to-break-ground-on-first-high-speed-railway-this-year-1443596942?mod=rss_Business 2015年10月1日閲覧。 
  7. ^ a b c “インドネシア、高速鉄道の起工式 19年初開業”. 日本経済新聞. (2016年1月21日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM21H67_R20C16A1FF2000/ 2016年2月21日閲覧。 
  8. ^ JICA in Indonesia-Japan Expo 2008”. 2015年10月15日閲覧。
  9. ^ Zakir Hussain, The Straits Times/ANN (2013年10月28日). “Jakarta mulls high-speed rail system”. The Jakarta Post (Jakarta). http://www.thejakartapost.com/news/2013/10/28/jakarta-mulls-high-speed-rail-system.html 
  10. ^ Robin Harding in Tokyo, Avantika Chilkoti in Jakarta and Tom Mitchell in Beijing (2015年10月1日). “Japan cries foul after Indonesia awards rail contract to China”. Financial Times. http://www.ft.com/intl/cms/s/0/eca4af84-67fa-11e5-97d0-1456a776a4f5.html#axzz3nL45xCH2 2015年10月1日閲覧。 
  11. ^ Java High Speed Railway Development Project (Phase I)”. Japan International Cooperation Agency (2010年). 2015年10月1日閲覧。
  12. ^ a b “Japan loses Indonesian high-speed railway contract to China”. The Japan Times. (2015年9月30日). http://www.japantimes.co.jp/news/2015/09/30/business/japan-loses-indonesian-high-speed-railway-contract-china/#.Vg1ynv4w-70 2015年10月1日閲覧。 
  13. ^ Shannon Tiezzi (2015年10月1日). “It's Official: China, Not Japan, Is Building Indonesia's First High-Speed Railway”. The Diplomat. http://thediplomat.com/2015/10/its-official-china-not-japan-is-building-indonesias-first-high-speed-railway/ 2015年10月1日閲覧。 
  14. ^ Yu Yang: “Chinese High-speed Rail Expo Held in Indonesia” (2015年8月14日). 2015年10月4日閲覧。
  15. ^ Craig P. Oehlers (2015年8月22日). “Race for Indonesia’s high-speed railway part of a big game”. The Jakarta Post (Jakarta). http://www.thejakartapost.com/news/2015/08/22/race-indonesia-s-high-speed-railway-part-a-big-game.html 2015年10月1日閲覧。 
  16. ^ Try Reza Essra (2015年8月13日). “Kereta api cepat Tiongkok disebut canggih dan murah”. http://www.antaranews.com/berita/512262/kereta-api-cepat-tiongkok-disebut-canggih-dan-murah 2015年10月1日閲覧。 
  17. ^ “Government turns to semi-high-speed rail”. The Jakarta Post. (2015年9月4日). http://www.thejakartapost.com/news/2015/09/04/government-turns-semi-high-speed-rail.html 2015年10月4日閲覧。 
  18. ^ a b “China chosen over Japan for Indonesian rail project”. Jiji Press. (2015年9月29日). http://the-japan-news.com/news/article/0002457868 
  19. ^ Peter Cai (2015年10月2日). “China's high-speed rail bet pays off”. Business Spectator. http://www.businessspectator.com.au/article/2015/10/2/china/chinas-high-speed-rail-bet-pays 2015年10月2日閲覧。 
  20. ^ “Indonesia defends bidding process for high-speed rail project after Japan angered at being rejected”. The Strait Times (Singapore). (2015年10月2日). http://www.straitstimes.com/asia/se-asia/indonesia-defends-bidding-process-for-high-speed-rail-project-after-japan-angered-at 2015年10月2日閲覧。 
  21. ^ a b Vincencia NLS (2015年10月2日). “China Railway Construction Corp to form JV with Indonesia’s Wijaya Karya for $5.5b HST”. Deal Street Asia. http://www.dealstreetasia.com/stories/china-railway-construction-corp-to-build-5-5b-hst-in-jv-with-indonesias-wijaya-karya-14322/ 2015年10月6日閲覧。 
  22. ^ a b c “中国に騙された! 起工式から1カ月、高速鉄道計画は悪夢かも - インドネシア”. GLOBAL NEWS ASIA. (2016年2月21日). http://www.globalnewsasia.com/article.php?id=3114&&country=10&&p=2 2016年2月21日閲覧。 
  23. ^ 日本経済新聞2017年2月15日掲載、鉄道ファン2017年5月号173頁「RAIL NEWS」