阪神5500系電車
阪神5500系電車・阪神5550系電車 共通事項 | |
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主要諸元 | |
編成 | 4両編成 |
軌間 | 1,435 |
電気方式 |
直流1,500V (架空電車線方式) |
最高運転速度 | 91 |
設計最高速度 | 110 |
起動加速度 | 4.0 |
減速度(常用) | 4.5 |
減速度(非常) | 5.0 |
主電動機 | かご形三相誘導電動機 |
駆動方式 | TD平行カルダン駆動方式 |
制御装置 | VVVFインバータ制御 |
保安装置 | 阪神・山陽・阪急形ATS |
阪神5500系電車(はんしん5500けいでんしゃ)は、阪神電気鉄道が所有する各駅停車用の通勤形電車(ジェットカー)で、8000系をベースにモデルチェンジした、阪神初のVVVFインバータ制御車である。続いて登場した9000系や9300系などの急行系車両とともに1990年代後半から2000年代前半の阪神を代表する車両形式である。
本項では2010年12月28日に営業運転を開始した5550系電車[1]についても記述する。
5500系
阪神5500系電車 | |
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ファイル:Hanshin-5500.JPG 阪神5500系電車(連結器交換済) | |
基本情報 | |
製造所 | 武庫川車両工業、川崎重工業 |
主要諸元 | |
編成 | 4両編成(全電動車) |
車両定員 |
先頭車 座席48人・立席84人 中間車 座席50人・立席82人 |
編成重量 |
先頭車 34.0 t 中間車 35.0 t |
全長 |
先頭車 18,980 mm 中間車 18,880 |
全幅 | 2,800 |
全高 |
先頭車 4,060 mm 中間車 4,160 |
主電動機 | 東洋電機製造 TDK-6145-A |
歯車比 | 99:14 (7.07) |
編成出力 | 110kW×16=1,760kW |
制御装置 |
GTOサイリスタ方式VVVFインバータ制御 三菱電機 MAP-118-15V55 (1C8M) |
制動装置 | MBSA 回生制動併用全電気指令式電磁直通制動 |
震災と代替計画
1990年代前半の阪神は、初期の急行系車両の老朽化が進行していたことから、8000系を大量増備してこれらの車両の置き換えを推進していた。一方、普通系車両については1983年までに製造された5001形(2代)と5131・5331形によって「ジェットカー」第一世代の代替が完了していたことから、これらの形式の4両固定編成化改造と更新工事を推進していた。しかし、5151形や5261形、5311形といった「ジェットカー」第二世代を中心とした冷房改造車グループは車齢も高く、苛酷な走行環境によって老朽化も進行[2]していたことから、これらの工事の対象外となり、8000系の増備が終了する1995年以降に普通系車両の新系列を投入して、5151・5261・5311の各形式を置き換える予定であった。
しかし、その1995年1月17日早朝に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)によって予定されていたスケジュールは変更を余儀なくされた。普通系車両は急行系車両ほど大きな被害を受けなかったが、それでも8両が被災廃車されており[3]、震災前に比べると2編成分が不足することとなった。これらの被災車両の代替として、この時点で設計計画がほぼ固まっていた普通系新系列車両の投入予定を前倒しして対応することとなり、同年秋に2編成8両が落成し、その後当初置き換え予定の普通系車両および急行系車両の代替として7編成28両が落成した。
このような経緯で本系列は登場したが、次世代ジェットカーの標準系列として数年前から計画されていたために、車体塗色の変更やTDカルダン方式、VVVFインバータ制御の採用をはじめ数々の新機軸を採り入れて登場した。
この5500系の導入により、日本の大手私鉄全社でVVVFインバータ制御が採用されることになった。
概要
本系列は内外装とも8000系「タイプIV」とほぼ同一の車体設計で製造されるなど、1980年代後半に確立された阪神の車両スタイルを継承しているが、機能面で随所に改良点が見られるほか、車体塗色や搭載機器などは後に登場する各系列の基本モデルとなった。また、本系列は新型のジェットカーであることから、雑誌等ではしばしば「ニュー・ジェットカー」と紹介されることがある。
編成は、普通運用が4両編成であることから、3両ユニット基本の急行系車両とは異なり、制御電動車の5501形と阪神の普通系車両では初の中間電動車である5601形の2両ユニットを2組連結して4両で組成され、他系列と同様に、車両番号の末尾が奇数の車両が大阪側、偶数の車両が神戸側に連結される。ただし、5601形のパンタグラフは2両とも車両の大阪側車端に設置されているなど、全く同じものを背中合わせに二つ連結しているわけではない。また、本系列は高加速度と加速時の粘着力を確保するため阪神の普通系車両では標準の全電動車編成であるが、車体の軽量化と主電動機の高出力化に伴って編成中の電動車と付随車の比率(MT比)が半分にも満たないことさえ普通となっていたこの時期の鉄道車両では極めて珍しい構成となっている。
車体は普通鋼製であるが、屋根や床下等腐食しやすい箇所はステンレス製となっている。車体長および客用扉数は、阪神はじめ関西の多くの私鉄で標準としている19m級の3扉車で、側面窓配置は5501形がd1D3D3D2、5601形が2D3D3D2(dは乗務員扉、Dは客用扉を表す)となっており、客用扉間の4か所が開閉可能となっているほかはすべて固定窓となっている。前面は8000系とは大きくイメージを変えたものとなり、8000系の「額縁」スタイルから、窓ガラスの支持にHゴムが復活したものの平滑化されたほか、貫通扉上半部と前照灯、種別表示器および行先表示器周りがブラックフェイス化され、前面下部の尾灯は白熱球から埋め込み式のLED式となり、灯具周りの金属枠が廃止された。このような変化のほか、車体断面が変更されて丸みがきつくなったことから、8000系に比べると柔らかい雰囲気の前面となった。屋根は前述のようにステンレス製となったことから長手方向にビードが入っており、屋根上には集約分散式冷房装置 (CU703) 2基/両[4]を搭載したほか、前述のように5601形の大阪側には下枠交差式のパンタグラフを搭載している。連結器は8000系同様ユニット端部になる5501形前面にバンドン式密着連結器を、5601形奇数車神戸側および偶数車大阪側には廻り子式密着連結器を装備し、ユニット中間は棒連結器を搭載、併せて5601形奇数車神戸側および偶数車大阪側には簡易運転台を設置して工場入場時の構内入換に配慮している。
内装は基本的に8000系タイプIV後期製造車を踏襲し、座席はバケットタイプのロングシートや路線図と電光掲示板を一体化した車内案内表示装置[5]、フットライン入りの床、車椅子スペースを設置するが、座席モケットは車体塗色に合わせた空色[6]となり、ドアには開閉予告ブザー[7]が新たに設置された。運転台は阪神初となるデスク型(前後動作式(水平回転軸)の主幹制御器と左右回転動作式(鉛直回転軸)のブレーキ設定器から構成される2ハンドル式)を採用して機能的ですっきりとしたものとなった。。
台車や電装品などの走行機器は、台車が阪神初のモノリンク式ボルスタレス台車である住友金属工業製SS-144を採用、くら型軸受の採用によって整備が容易になったほか、車輪径については従来のジェットカー標準の762mmから急行系車両と共通の860mmとなった。主電動機は東洋電機製造製のTDK-6145-A(出力110kW)を搭載し、制御装置は阪神初のVVVFインバータ制御である三菱電機製MAP-118-15V55を5601形に搭載した。
起動加速度を維持する定加速度領域を従来の約35km/hから65km/h強にまで上げ、これによって従来の「青胴車」の弱点だった中高速域の加速の伸びは向上したが、反対に低速域では起動加速度、減速度ともに従来よりも0.5km/h/sずつ落とされたものの、結果的に相殺以上の性能となっており、起動から80km/hまで21秒、営業最高速度である91km/hまでも25秒という驚異的な性能を有しているほか、乗り心地も滑らかなものとなった。
補助機器については、サービス電源を供給する静止形インバータ (SIV) は東芝製のINV094-HOを、電動空気圧縮機 (CP) はC-2000-Lを5501形に搭載している。
新塗色
外部塗色は登場当時に「震災を乗り越えて新たに出発する」という気持ちを込めて従来の「青胴車」のイメージを一新し、かつて8233の新造時に実施された試験塗装のうちの1案をもとに、長年利用者に親しまれている「普通=青色」のイメージを継承しながらも、36年ぶりの新色として、上部をアレグロブルー(空色)、下部をシルキーグレイ(淡灰)というパステル調のツートンカラーが採用された。このパステル調のツートンカラーは、2001年に登場した急行系一部セミクロスシート車の9300系にも、「優等列車=赤色」のイメージをもとにした上部「プレストオレンジ」下部「シルキーベージュ」が採用され、利用者や沿線住民に新車の登場を印象付けた[8]。
登場・増備
5501Fは1995年10月27日に竣工、11月1日に梅田駅で出発式を実施後、営業運転を開始した。引き続いて12月に竣工した5503Fが翌1996年1月から営業運転に投入され、両編成とも阪神本線と西大阪線(現・阪神なんば線)の普通運用に充当された。この時点で被災廃車の補充が完了したことから、1年以上本系列の増備は行われなかった。
1997年には、5505F・5507F・5509Fの4両編成3本が製造された。このときの増備は1998年2月の直通特急運転開始に伴うダイヤ改正によってダイヤパターンが従来の12分ヘッドから10分ヘッドに変更され、データイムの快速急行が西宮折り返しの急行に変更されたことに伴って普通系車両の運用数が増加するとともに、急行系車両の運用が減少したことから、運用増に対応するとともに3000系3102F+3101Fおよび3103F+3104Fを代替した。この増備車では客用扉に複層ガラスが、車両間に転落防止幌が採用されるなどのマイナーチェンジがなされ、以降の増備車に継承された。5501F・5503Fは武庫川車両工業で製造されたが、この3本は川崎重工業で製造されている。
1998年4月から1999年1月にかけて、前年に引き続いて5511F・5513F・5515Fが再び武庫川車両工業において製造された。この時の増備から本系列本来の目的である5261形等の置き換えを実施、1999年3月に5261形1次車の残存全車と5311形5311 - 5312、7801形7835 - 7935 + 7936 - 7836が代替廃車された。2000年2月には5517Fが落成し、5261形で最後まで残っていた2次車の5271 - 5272 + 5273 - 5274を代替、ジェットカー第二世代の置き換えを完了するとともに、この時点で5001形(2代)を抜いて普通系車両の中で最大勢力となった。
変遷と現状
2010年時点で、座席のモケットは9300系と同じデザインのものに張り替えられているが、青系であることには変わっていない。また、転落防止幌は2006年に5501Fにも追加設置されたほか、同年以降2009年3月20日に開始した近畿日本鉄道(近鉄)奈良線との直通準備として、先頭車の連結器はバンドン式密着連結器から廻り子式密着連結器に換装された。ただし、本系列は9000系のような近鉄直通対応工事は施工されていない。
定期運用としては2006年10月のダイヤ改正までは新開地駅が運行区間の西限であったが、このダイヤ改正で運行区間が短縮された準急の代わりに普通が山陽電気鉄道本線東須磨駅まで乗り入れることになったことから、定期運用としては初めて山陽電鉄線内に入線することとなった[9]。2009年3月20日改正で山陽電鉄線への乗り入れは廃止された。
2010年3月現在、4両編成9本36両が在籍しており、本線の普通列車で使用されている。西大阪線(現・阪神なんば線)では2009年1月23日から近鉄直通列車用の車両の試運転が開始され、同時に営業列車は6両編成での運転になったため、同年1月22日をもって営業運転を終了した。
テレビ番組での登場
1998年に阪神電気鉄道社員で鉄道ファンの河渕則彦が、『ザ!鉄腕!DASH!!』(日本テレビ系)に「日本一(起動加速度の)速い電車」として書き込みをしたことから、同番組の「リレー対決!○○ VS TOKIOシリーズ」の企画で5500系とTOKIOの5人が深江駅(2回目は打出駅)で250m競争[10]をしたことがある。
5550系
阪神5550系電車 | |
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5550系 甲子園駅にて | |
基本情報 | |
製造所 |
車体:アルナ車両 艤装:阪神車両メンテナンス |
主要諸元 | |
編成 | 4両編成(3M1T) |
編成重量 | 134.5t |
主電動機 | 東洋電機製造 TDK-6147-A |
歯車比 | 97:16 (6.06) |
編成出力 | 170kW×12=2,040kW |
制御装置 |
IGBT式VVVFインバータ制御 三菱電機 MAP-174-15V163B (1C4M) |
2010年12月28日に営業運転を開始した[1]、5500系のマイナーチェンジ車両である。車両製作は全て阪急阪神東宝グループ内で行われ、車体はアルナ車両が、艤装以降は阪神車両メンテナンスがそれぞれ担当している。
5500系と基本的な外観は変わらず車体塗装も「アレグロブルー」と「シルキーグレイ」のツートンカラーである。ただし客用扉の幅は9300系、1000系と同一の1,300mmに変更された。種別・行先表示器は5500系の字幕式からフルカラーLED式に変更されている。
客室設備や電装品は1000系に準ずる装備[11]である。主電動機は東洋電機製造TDK-6147-A(出力170kW)を採用し、5500系のTDK-6145-Aより出力が向上していることから、ジェットカー史上初めて神戸側先頭車が制御付随車となった3M1T編成 (Mc - M1 - M2 - Tc) とされ、Mc - M1車とM2 - Tc車でユニットをそれぞれ構成する。制御装置は高耐圧IPMにIGBT素子を組み込んだ三菱電機MAP-174-15V163Bを各電動車に搭載し、1基のインバータ装置で4個の主電動機を制御する1C4M方式となっている。歯車比は1000系と同一の97:16 (6.06) で、設計最高速度は110km/hである。パンタグラフは5500系では下枠交差式をM1、M2車の大阪側に搭載しているのに対して、この5550系ではシングルアーム式を各電動車の神戸側に搭載する。台車は住友金属工業製のモノリンク式ボルスタレス台車で、電動車はSS171M、制御付随車はSS171Tをそれぞれ装着する。補助電源装置である静止形インバータは東芝INV146-LOを中間電動車各車に、電動空気圧縮機はC-2000-MLを両先頭車にそれぞれ搭載する。
車内案内表示装置は5500系で採用されたマップ式ではなく、1000系と同じ文字スクロール表示のみの方式となった。車内は蛍光灯カバーが省略された直接照明を用いている点など1000系とほぼ共通であり、座席モケットは5500系と同じ青色(優先座席はグレー)となっている。
乗務員室の構成は5500系とほぼ共通だが、運転台の主幹制御器の形状がデッドマン装置を組み込んだことで変更されたほか、運転台パネルにモニタ装置の情報表示器が設置されている。
2010年8月5日には尼崎 - 石屋川間で試運転を実施した。5550系の日中の走行はこれが初めてである[12]。その後しばらくの間尼崎駅西側に留置されていたが、同年12月28日より営業運転を開始した[1]。
脚注
- ^ a b c 阪神5550系が営業運転を開始 - 交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース 2010年12月31日
- ^ 5001形 (初代)や5101・5201形、5231形、5151形といったジェットカー第一世代に属する各形式は、冷房改造を受けた5151形を除いて製造後20年前後で廃車された。同時期に製造された3561・3061形や3301・3501形などの急行系車両が30年前後で廃車されたことに比べると、冷房化の時期に重なったとはいえ廃車の早さに高加減速運用の苛酷さを窺い知ることができる。
- ^ 内訳は5151形2両、5261形4両、5331形2両。
- ^ 西日本旅客鉄道(JR西日本)223系などと類似の形状。
- ^ 阪神なんば線開業後は、廃止された西宮東口駅部分と旧西大阪線部分(尼崎 - 西九条間)をシールで目隠しして点灯表示されないようになっている。ただし旧西大阪線部分に貼られたシール上に阪神なんば線の路線図が印刷されている。
- ^ 優先座席部分のみ他車と同じ灰色である。
- ^ 扉開閉時に「プー」という音を発する。
- ^ 急行系車両の新塗色は2002年に登場した8000系リニューアル車にも採用されている。
- ^ 臨時列車としては乗り入れ実績あり。
- ^ TOKIOは50m×5人のリレーであった。
- ^ 『ホッと!HANSHIN』 2010年4月号 「みなさまの足阪神電車」より。
- ^ 阪神5550系が日中試運転 - 交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース 2010年8月6日
参考文献・出典
- 『鉄道ピクトリアル』1997年7月臨時増刊号 No.640 「特集:阪神電気鉄道」 2011年2月号 No.844 「阪神電気鉄道5550系」 電気車研究会
- 『関西の鉄道』 No.49 特集「阪神電気鉄道 山陽電気鉄道 兵庫県の私鉄PartII」 関西鉄道研究会
- 『サイドビュー阪神』 1996年 レイルロード
- 『車両発達史シリーズ 7 阪神電気鉄道』 2002年 関西鉄道研究会
- 『NEW JET-CAR 5500』 1995年 阪神電気鉄道配布