海城 (城郭)

海城（うみじろ）は、水運を押さえるため海に直面して築かれ、海水を堀に用い、その一部に舟入や船着場を設置または兼用している城^[1]、あるいはその形式。河川や湖沼に隣接する城と併せ、総じて水城（みずじろ）とも呼ばれる^[2]^[3]（福岡県にある遺跡・水城（みずき）とは異なる）。

概要

海城は臨海にあって海を水運（海運）と防御に用いた城郭の形式であり、山城や平城などの立地に基づく分類とは異なり、平城の海城、山城の海城も存在する。海城は海運を押さえるため、舟の運用が不可欠であり、係留する施設として舟入や船着場が設けられたり、水堀の一部を舟入に兼用することが行われている。海城を特徴付けるのは、海に面している城壁と海に直接開いている城門であるとされる^[4]。例えば、五角形の形をした宇和島城の場合、西側の二辺は海を天然の防御線とし、東側の三辺に海水を引き込んだ水堀を設けており、船が出入りできる城門（黒門と黒門矢倉）を備えていたほか、城の周囲に舟小屋や隠し水軍基地も設けていた。

海城は瀬戸内海周辺に多く見られ^[4]、もともと水軍の城が多い海路の要衝に位置している。村上水軍を傘下に取り込んだ小早川隆景（海城の名人と評される^[5]）が築いた三原城や名島城は、水軍が拠点を設けていた場所に築城された。戦国時代末期以降に築城された近世城郭としての海城は海岸近くの低地に建てられるため、平城の一種として扱われることもあるが^[6]、島や半島の小山を城郭化した水軍拠点の城（来島城や後述の水軍城など）は平山城に近い特徴を持つ。

城の立地によっては水に浮かんでいるように見えることから、三原城などは「浮城」の別名がある。また、近世城郭の海城として最初で最大の城と言われる讃岐高松城^[7]は、「讃州さぬきは高松さまの城が見えます波の上」と謡われた。

水軍城

瀬戸内海の水軍は、海路（主に因島から厳島の範囲）を通行する船から警固料（航行料）を徴収するため海上監視の拠点（水軍城）を築いていた^[8]。これらは、芸予諸島や安芸灘に面する陸地や島々に多数設置され、海路を見渡せる小高い丘などに建てられた見張り台と、その近くの入り江などに設けられた船の係留地（舟隠し）などで構成されていた。厳島の宮尾城はこれらを発展・拡張させたものと考えられている^[8]。

なお、因島村上氏の資料館が「因島水軍城^[9]^[10]」と名付けられているほか、発掘調査で礎石建物跡・鎌・瓦などが発見された上関城跡は上関城山歴史公園として整備され、物見台を模した展望台が建てられている^[11]。

主な海城

日本の主な海城は以下の通りである。このうち、高松城（讃岐国）・今治城（伊予国）・中津城（豊前国）は、日本三大海城（あるいは三大水城）と呼ばれている。また、この3城に桑名城^[12]（伊勢国）・三原城（備後国）を加えて、五大水城とも数えられる^[2]。

日本の主な海城

鳥羽城^[13]（志摩国）
赤穂城^[6]（播磨国）
福山城^[要出典]・三原城^[4]（備後国）
桜尾城^[14]（安芸国）
上関城^[15]（周防国）
高松城（讃岐国）
今治城・来島城^[16]・能島城^[17]・宇和島城^[18]（伊予国）
名島城^[5]（筑前国）
中津城（豊前国）
臼杵城^[19]（豊後国）
石田城^[20]・平戸城^[21]・玖島城^[22]（肥前国）

また、萩城（長門国）を海城とする見解もある^[23]。

参考文献

大野信長ほか『日本の城』西東社、2012年、p.262
品川惠保『城と城下町-東の旅』日本通信教育連盟、1998年、p.190
品川惠保『城と城下町-西の旅』日本通信教育連盟、1998年、p.191

脚注

^ 『城の鑑賞基礎知識』（三浦正幸、1999年・至文堂）
^ ^a ^b 『図説戦国武将おもしろ事典』（監修・奈良本辰也、1990年・三笠書房）
^ 水城 - 大辞林第三版（三省堂）
^ ^a ^b ^c 三浦教授インタビュー〜専門家から見た三原城〜 - 三原市
^ ^a ^b 現地説明板「名島城跡（福岡市教育委員会）」では「（小早川）隆景は「海城」を築くのが得意であったため、立花城の出城が置かれていたこの名島に築城した。」と解説している。
^ ^a ^b 赤穂城とは（赤穂城について「変形輪郭式の海岸平城」と解説している） - 国史跡赤穂城跡公式Webサイト（赤穂市教育委員会生涯学習課文化財係）
^ 『ビジュアル・ワイド日本名城百選』（監修・村田修三、小学館・2008年）
^ ^a ^b 『戦乱中国の覇者毛利の城と戦略』（成美堂出版・1997年）
^ 因島水軍城 - 尾道市
^ 昭和58年（1983年）に建設された資料館は、奈良本辰也の監修により城郭風建造物となっている（因島水軍城 - 因島観光協会）。
^ 景観 - 上関町観光協会
^ 揖斐川に臨む水城。
^ 県史跡鳥羽城跡 - 鳥羽市教育委員会生涯学習課
^ 現地説明板「廿日市町指定史跡桜尾城趾（廿日市町教育委員会）」では「城は直ちに海に臨みて内濠を扼し（中略）誠に要害の地なり。」と解説している。
^ 上関歴史探訪史跡 - 上関町観光協会
^ 来島｜観光スポット -SHIMAP しまなみ海道観光マップ（瀬戸内しまなみ海道振興協議会）
^ 能島城跡 - いよ観ネット（愛媛県観光物産協会）
^ 全国城郭管理者協議会監修『日本の名城』碧水社、1997年。
^ 県指定史跡臼杵城 - 日本一のおんせん県おおいた観光情報公式サイト（公益社団法人ツーリズムおおいた）
^ 現地説明板「県指定史跡石田城（福江城）跡（五島市教育委員会）」
^ 平戸城山鹿流で縄張された海城 -日本の城第72号 2014年5月27日（デアゴスティーニ・ジャパン）
^ 大村の歴史｜大村の城下町｜玖島城跡 - 大村観光ナビ（大村市観光振興課）
^ 『CG復元よみがえる天守』（監修・三浦正幸、新人物往来社・2001年）

概要

水軍城

主な海城

参考文献

脚注

関連項目