海兵遠征部隊
海兵遠征部隊(かいへいえんせいぶたい、Marine Expeditionary Unit、MEUとは、アメリカ合衆国海兵隊の海兵空地任務部隊 (MAGTF) の一種。常設されている最小規模の部隊で、海兵遠征旅団(Marine Expeditionary Brigade、MEB)よりも小さく、危機対応特別目的海兵空地任務部隊(SPMAGTF)よりも大きい。
他の日本語訳には、海兵隊遠征大隊'や海兵機動展開隊[1]がある。なお、以前は海兵両用部隊(MAU: Marine Amphibious Unit)と呼ばれていた。
概要
海兵遠征部隊(MEU)は、増強された海兵隊歩兵大隊を基幹として、混成ヘリコプター飛行中隊、兵站部隊、そして司令部部隊より編成されている。指揮官は海兵隊大佐、総兵員は約2,200名で、アメリカ陸軍の旅団戦闘団のほぼ半分の規模、日本の陸上自衛隊では連隊戦闘団(RCT)に相当する。
MEUの特徴は、このような低い階梯において、航空・地上戦闘部隊と兵站部隊とを統合し、独立した作戦行動能力を有する戦闘単位として常設したことにある。[2]MEUの地上部隊は、1個歩兵大隊を基幹として、砲兵・戦車・工兵などの各兵科を加えた諸兵科連合部隊であり、独立した作戦単位として戦闘可能である。MEUはまた、部隊を空中機動させ、また直援火力として期待しうる規模の航空戦力を有している。また、MEUは、独自の兵站部隊によって、15日間に渡って完全に独力での作戦行動が可能となっているが、長期間にわたって、その火力の全力を発揮し続ける正規戦に対応する能力は備えていない。
このように、小規模の部隊で統合作戦能力を実現したことにより、MEUは、アメリカ合衆国の政治指導者に対し、地域紛争、さらには戦争以外の各種活動について、まったく新しい選択肢を提供できるようになった。MEUは、海軍の遠征打撃群 (ESG) に組み込まれることで、これらの事態に対処するための最善の即応兵力となる。このとき、MEUはESGの揚陸艦に乗艦して、洋上機動によって紛争地域の沖合いまで進出し、上陸用舟艇および航空機によって上陸、展開する。この際、MEUの航空兵力およびESGの艦対地火力がMEUの展開を援護し、また、ESGの護衛艦は、イージスシステムによって、地対地ミサイルから有人攻撃機に至るまでの航空攻撃から、地上に展開したMEUを防衛することができる。これにより、アメリカ軍は、紛争の早期の段階で、沿岸域から地上の戦闘空間の全域にわたって支配を及ぼし、また、後続部隊のための橋頭堡を確保できる部隊を迅速に配備する能力を手に入れた。
編成と装備
地上戦闘部隊
地上戦闘部隊(Ground Combat Element、GCE)は、MEUにおいては、大隊上陸チーム(BLT)を中核とした諸兵科混成部隊である。1個歩兵大隊(972名)[3]を基幹として、戦車、対戦車、砲兵、軽装甲偵察、水陸両用強襲、工兵の各部隊を有しており、兵力は通常1200名程度である。
- 歩兵大隊
- 本部中隊 - S-1 (人事), S-2 (情報), S-3 (作戦), S-4 (補給), S-6 (通信) の各幕僚が配置されている。
- A中隊 - AAV7水陸両用強襲車による強襲を主任務とする。
- B中隊 - CRRCによる隠密上陸、山岳戦など、特殊戦闘を主任務とする。
- C中隊 - ヘリコプターによる空中強襲を主任務とする。
- 武器中隊 - 通常、3個小隊に分割されて運用されており、ハンヴィーによる車両機動を主とする。
- 迫撃砲小隊 - M252 81mm 迫撃砲を運用する。
- 軽対戦車小隊 - SMAW ロケットランチャー、およびFGM-148 ジャベリン対戦車ミサイルを運用する。
- 対戦車小隊 - 長射程の対戦車火力としてのTOW対戦車ミサイル、対人/軽装甲火力としてのM2 12.7mm重機関銃またはMk 19 40mm自動擲弾銃を装備した自動車化部隊。威力偵察、遅滞戦闘あるいは後方撹乱に特別な有効性を有する。
- 砲兵中隊 - 155mm榴弾砲[4] 6門を有する。
- 軽装甲偵察中隊 - LAV-25装輪装甲車を有する。
- 水陸両用強襲車小隊 - AAV-7水陸両用強襲車を有する。
- 戦車小隊 - M1A1戦車を有する。
- 戦闘工兵小隊
- 海上特殊目的部隊 - Maritime Special Purpose Force, MSPF
- 直接行動小隊 - Direct Action Platoons : DAP
- 海兵隊無線偵察小隊 - USMC Radio Reconnaissance Platoon
-
CRRCによる上陸を試みる海兵隊員
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行軍中の第31 MEU
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警戒しながら甲板上を移動する第22 MEU 立検隊
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上陸するAAV-7水陸両用強襲車
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LAV-25A2装輪装甲車
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M1A1戦車
航空戦闘部隊
航空戦闘部隊(Aviation Combat Element、ACE)は、MEUにおいては、3つの他の型のヘリコプターと1つの分遣S/VTOL部隊によって増援された中型/重量級ヘリコプター飛行隊により編成された海兵隊混成飛行隊(強化)である。 以下の航空機を含む。
- CH-53E スーパースタリオン (Super Stallion)
- CH-46 シーナイト (Sea Knight):MV-22B オスプレイ (Osprey)に更新予定
- UN-1N イロコイ(Iroquois)
- AH-1W スーパーコブラ(SuperCobra)
- AV-8B ハリアー II (Harrier II)
-
AH-1W攻撃ヘリコプター
-
CH-46に乗り込む海兵隊員
-
「イオー・ジマ」に着艦するV-22
-
重量物の吊下を準備するCH-53E
兵站戦闘部隊
兵站戦闘部隊(Logistics Combat Element、LCE)は単独での作戦に必要なあらゆる兵站専門の部隊である。医療、歯科、整備、工兵、その他の技術の専門である。戦闘補給支援グループ(MEU Service Support Group、MSSG)とも通称され、また、かつては戦闘補給支援単位(Combat Service Support Element、CSSE)と呼ばれていた。
指揮部隊
指揮部隊(Command Element、CE)は、海兵遠征部隊司令官とその幕僚を含み、他の3つの実戦部隊に対し指揮統制(Command and Control)を行なう。その中には海軍砲火、偵察、監視、特殊通信、電子偵察、広報活動の特別な分遣・協力部隊が含まれる。
遠征打撃群
近年は海兵遠征部隊は中東と西太平洋において遠征打撃群(Expeditionary Strike Group、ESG)の一部として、そして紛争や戦争が無ければ定期的に大西洋とインド洋にほぼ6ヶ月間、派兵されていた。 遠征攻撃グループは通常、ミサイル巡洋艦(CG)やミサイル駆逐艦(DDG)、原子力潜水艦(SSN)に護衛され、必要な将兵を乗せた3隻の両用戦艦船より編成される。
なお、ESGの編成が開始される以前は、洋上展開する海兵遠征部隊は、両用即応グループ(Amphibious Ready Group、ARG)の一部として派遣されていた。現在のESGは、ARGに水上戦闘群(SAG)を編入したものと言うことができる。
主要装備一覧
陸上戦闘部隊 (GCE) | 兵站戦闘部隊 (LCE) | 航空戦闘部隊 (ACE) | |||
---|---|---|---|---|---|
AAV7水陸両用強襲車 | 15両 | キャタピラー D7ブルドーザー | 3両 | AH-1W 攻撃ヘリコプター | 4機 |
LAV装輪装甲車 | 16両 | TX51-19Mフォークリフト | 6両 | UH-1N汎用ヘリコプター | 3機 |
M1A1戦車 | 4両 | MTVR 7tトラック | 30両 | CH-46中輸送ヘリコプター | 12機 |
155mm榴弾砲[4] | 6門 | LVS/LVSR 大型輸送車 | 4両 | CH-53E重輸送ヘリコプター | 6機 |
M252 81mm 迫撃砲 | 8門 | LMT 3000浄水装置 | 1基 | AV-8B攻撃機 | 6機 |
M224 60mm 迫撃砲 | 8門 | 逆浸透膜浄水装置 | 2基 | MANPADSチーム | 45セット |
TOW対戦車ミサイル | 8基 | ||||
ジャベリン携行対戦車ミサイル | 8基 | ||||
ハンヴィー | 63両 |
小火器
海兵遠征部隊のサイクル
- 中間期/造成期
- 部隊展開の完成に向けて海兵遠征部隊は世界中の事件に対応するために、約一ヶ月間の「特殊作戦能力」を維持する。完成されたその時点で、従属する主な戦闘部隊を開放して指揮単位だけとなる。
- 指揮単位は人員を選び、新たに従属する主な戦闘部隊を加える計画を始め、能力向上訓練を行なう、新たなサイクルに入る。従属する主な戦闘部隊を配下に収めると、海兵遠征部隊は6ヶ月間の激しい派兵前トレーニングをはじめる。(訳注:「能力向上」と訳した元の英単語work-upには「ゴミ」という意味もある。)
- 能力向上訓練期間
- 6ヶ月の能力向上訓練期間はただ「這う、歩く、走る」だけだといわれる。海兵と水兵は、個人単位で、小さな単位で、さらに戦術単位での理論と実習を通じた教育によって、海兵遠征部隊の多数の小さな部隊が統合された時に、団結し柔軟で力強い戦力を身に付ける。
- 能力向上訓練期間は以下の課程よりなる:
- 市街地狙撃
- 山岳戦闘
- 機械化強襲
- 非戦闘的退避作戦
- 偵察泳法
- 大量負傷者
- 人道援助作戦
- 能力向上訓練期間での訓練は以下を含む:
- 両用戦隊―海兵遠征部隊 統合訓練(PMINT)
- 都市環境演習での訓練(Training in an Urban Environment Exercise、TRUEX)
- 遠征攻撃グループ訓練(Expeditionary Strike Group Exercise、ESGEX)
- 特殊作戦能力認定演習(the Special Operations Capable Certification Exercise、CERTEX or SOCCEX)
- かつて、海兵遠征部隊が特殊作戦能力の認定をうけると「海兵遠征部隊(特殊作戦可能)」(MEU(SOC))と呼ばれるようになっていた。現在では、全ての海兵遠征部隊が特殊作戦を遂行できるという海兵隊の立場から、この名称は使われなくなっている。
- 派兵
- 海兵遠征部隊は能力向上訓練の後、6ヶ月間広域戦闘司令官の下に派遣される。この時、海兵遠征部隊は、自己完結戦力を持ち特殊作戦と通常作戦のさまざまな状況に応じて、戦闘司令官の命令を完遂することが出来るので、前方展開されることになる。
- 任務は以下を含む:
- 従来型作戦(両用強襲と急襲)
- 航空機と乗員の戦術的奪還(Tactical Recovery of Aircraft and Personnel、TRAP)
- 非戦闘員の退避作戦(Non-Combatant Evacuation Operation、NEO)
- 警備作戦
- 人道援助作戦(Humanitarian Assistance Operations、HAO)
海兵遠征部隊のリスト
公式名称 Official Name |
記章 Insignia |
司令部 Headquarters |
---|---|---|
11th Marine Expeditionary Unit |
Marine Corps Base Camp Pendleton, California | |
13th Marine Expeditionary Unit |
Marine Corps Base Camp Pendleton, California | |
15th Marine Expeditionary Unit |
Marine Corps Base Camp Pendleton, California | |
22nd Marine Expeditionary Unit |
Marine Corps Base Camp Lejeune, North Carolina | |
24th Marine Expeditionary Unit |
Marine Corps Base Camp Lejeune, North Carolina | |
26th Marine Expeditionary Unit |
Marine Corps Base Camp Lejeune, North Carolina | |
31st Marine Expeditionary Unit |
Marine Corps Base Camp Hansen |
脚注
- ^ 平成18年版 防衛白書 第4章 日米安全保障体制の強化。防衛省政策会議 議事要旨 平成22年2月9日(火) {{{1}}} (PDF)
- ^ アフガニスタンでの戦闘中、アメリカ陸軍は、歩兵中隊に榴弾砲1門と兵站分遣隊、民事部隊を配属し、独立行動可能な中隊戦闘群として組織することで良好な実績を上げているが、これはあくまで臨時編成であり、しかも、航空戦闘部隊は統合されていない。
- ^ MCCDC (1998年10月). “Organization of Marine Corps Forces” (PDF) (英語). 2012年8月21年閲覧。
- ^ a b 現在、M198 155mm榴弾砲からM777 155mm榴弾砲に更新中。