怪獣
怪獣(かいじゅう)とは、正体のわからない怪しい獣を意味する日本語俗称である。この場合の「獣」は、本草学上の「獣」や生物学上の哺乳類(獣)のみを指すわけではなく、広義では動物全般を指す。
ただし、怪獣映画などサブカルチャーの範疇での用法は、動物のように動く動物以外の生命体[注 1]が当たり前のように存在する世界観ゆえに、係る定義からはみ出す部分が多分にある(※詳しくは後述)。
怪獣と怪物
ネッシーのような未確認動物 (UMA) は「モンスター(怪物)」とも呼ばれるが、この種の存在を「怪獣」と呼ぶことがある。また、怪物タラスクやジェヴォーダンの獣のような伝説上の「モンスター(怪物)、ビースト(獣)」も、ときとして「怪獣」と表現される(翻訳される)場合がある。 初期の怪獣映画はネッシーのような巨大モンスターを映像化したものであるが、怪獣映画が増えるに連れて「怪獣」の言語的適用範囲は曖昧になり、ファンタジーやSF作品に登場する架空の生命体や、ときとして、生命があるかはっきりしない存在までも怪獣と呼ぶようになった。 このように、「怪獣」と「怪物、モンスター」は、狭義と広義のいずれでも語義的に重なる部分が多いとは言え、卓越した競技者や異端児・風雲児などといった規格外の個人の二つ名としても使われる[注 2]など、後者にはさらなる広義での用法があり、両者は完全に一致するものではない。
日本の創作作品における怪獣
二義的には、第二次世界大戦後の日本において、円谷英二らにより多数製作された怪獣映画や、ウルトラシリーズ(類似のテレビ番組を含む)に登場する、巨大で強力な生物を指す(そのためか恐竜= 怪獣という概念も誕生した)。最も代表的な存在はゴジラである。その多くは、近代兵器によって殺傷することが難しく、人類の科学では解明できない特殊能力(例えば、破壊光線を口から放射する)を持っている。怪獣は架空の存在ではあるが、劇中ではしばしば、太古に存在した生物、あるいは伝承としてのみ伝えられる生物が未開の地域に生息しており、文明の発達によって人間の生活圏が拡がって怪獣の生息域と接触した結果、人間社会に現れるという形で描かれる。
これらの映像作品では、「怪獣」「大怪獣(だいかいじゅう)」などと称する架空の巨大かつ強暴な生物が活躍し、その人気により、二義的な意味での「怪獣」の観念が広く受け入れられるところとなった。映像作品における類似のジャンルに「怪人」などもある。
また、様々なキャラクターが創出されてゆくなかで、「小さい」「可愛げがある」「(見た目からして)可愛い」「弱い」「危険性が無い」「友好的」などといった、元来のイメージとは正反対の特徴を持つ怪獣も考え出されてきた。例えば、特撮番組『ウルトラマン』に登場する小さくて友好的なピグモンも、アニメ『おらぁグズラだど』に登場する愚図で泣き虫のグズラも、子供向け特撮番組『クレクレタコラ』に登場する凶暴ながら間抜けで愛嬌があるタコラも、怪獣である[注 3]。
ハリウッド映画など日本以外の国で製作された映像作品では、二義的な意味での怪獣の描写に成功したものはほとんど無い。その多くは、巨大な恐竜や既知の生物が巨大化したもの(キングコングや巨大なクモなど)として描かれており、二義的な意味での怪獣の概念とは異なる。例えば、トライスター・ピクチャーズが製作した映画『GODZILLA』に登場するゴジラ(『ゴジラ FINAL WARS』で「ジラ」と呼ぶ)は、日本の同種の作品に登場する怪獣ゴジラと同じ名前ではあり、人間よりはるかに巨大で強力ではあるが、最終的にはミサイルなど通常の現用兵器で十分対処可能な生物として描かれている。これは、日本で製作される同種の作品では見られないことである(2008年の映画『クローバーフィールド/HAKAISHA』では、日本的な人知を超えた形質・能力を持つ怪獣の描写が試みられている)。怪獣は英語で言うと "monster(モンスター)" といったところであるが、日本で言う「怪獣」は前述のとおり人知を超えた巨大生物として描かれることが多く、同義とはいいがたい。
脚注
注釈
出典
参考文献
- 映画秘宝編集部・Studio28編 編『あなたの知らない怪獣マル秘大百科』 〈25〉、洋泉社〈映画秘宝COLLECTION〉、2003年6月18日。ISBN 978-4-8969-1734-5。
- 切通理作『怪獣使いと少年―ウルトラマンの作家たち』(改訂版)宝島社〈宝島社文庫〉、2000年6月8日。ISBN 978-4-7966-1838-0。 :同名書 (ISBN 978-4-7966-0671-4) の改訂文庫版。
- 小林晋一郎『形態学的怪獣論』朝日ソノラマ、1993年8月30日。ISBN 978-4-2570-3364-6。
- 町山智浩編 編『怪獣学・入門!』 〈2〉(初版)、宝島社〈映画秘宝別冊 映画宝島〉、1992年。
- 長山靖生『怪獣はなぜ日本を襲うのか?』筑摩書房、2002年11月25日。ISBN 978-4-4808-2351-9。