庶民院 (イギリス)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。霧木諒二 (会話 | 投稿記録) による 2016年2月27日 (土) 00:24個人設定で未設定ならUTC)時点の版 ({{改名提案}} および 不要になった {{otheruseslist}} を除去。)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

庶民院
House of Commons
紋章もしくはロゴ
種類
種類
役職
ジョン・バーコウ(無所属)、
2009年6月22日より現職
アンドリュー・ランズリー保守党)、
2012年11月4日より現職
影の院内総務
アンジェラ・イーグル労働党)、
2011年10月7日より現職
構成
定数650
院内勢力
  保守党 (330)
[1]
  労働党 (232)
  緑の党 (1)
  無所属 (1)
  議長 (1)
任期
5年(解散あり)
歳費・報酬£65,738 per annum
選挙
単純小選挙区制
前回選挙
2015月5月7日
次回選挙
8 May 2015
選挙区改正Boundary Commissions
議事堂
ウェストミンスター宮殿
ウェブサイト
House of Commons

庶民院(しょみんいん、英語: House of Commons of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)は、イギリスの議会を構成する議院のひとつで、下院に相当する。

議院構成

貴族院(House of Lords)と共に両院制を構成している[3]

会期は1年1会期で、通年開会。ただし休会はある。

定足数は40人。しかし以前から、定足数確認動議が禁止されているので、事実上は議長のほか、与野党1人ずつが出席すれば審議は開始できる。この点、貴族院並みとなった。

2議席以上を有する政党には、2000年より補助的な政党助成制度が導入され、政策開発助成金が支給されるようになった(en:Political Parties, Elections and Referendums Act)。ただし、議会での宣誓もしくは確約も要件にあるため、女王への宣誓を拒否し、そのため登院も拒否しているシン・フェイン党は支給の対象外となっている[4]

定数

定数は650人(2010年選挙より)。法律で定められた定数には幅があり、その範囲内で境界委員会(Boundary Commission)が選挙区を制定するため、人口の増減などで変化する。2007年現在、議員一人当たりの人口は約9万4,000人。

選挙

選挙制度は、一選挙区・一当選・比較多数・一回投票で、いわゆる単純小選挙区制

勢力分布としては、20世紀初めまでは自由党と保守党、20世紀初め以降2010年までは労働党と保守党による二大政党制が完全に定着していたが、かつての二大政党の一方であった自由党の後裔である自由民主党も一定の支持を有し、主要政党党首討論でも公共放送たるBBCをはじめとする各報道機関の選挙報道でも、労働・保守・自民の3党が並ぶのが基本形で、「主要政党は2つだけ」という状態ではない。

なお、2010年の総選挙で保守党、労働党のいずれも単独過半数をとることができず、その結果として保守党と自民党の連立政権が発足した。一方、その後は公約を次々と反故にし、保守党への「歯止め」役も果たしていない自民党への信頼・支持は2014年までに急速に低下しており[5]、政治に対する不満を抱えた庶民の受け皿としてイギリス独立党 (UKIP)が急速に台頭。2014年には保守党を離党してUKIPから改めて立候補し、補欠選挙を戦って圧勝する議員が相次いで2人誕生するなどしており[6]2015年の総選挙では自民党に代わり得票率3位(12.6%)となったが、UKIPの地盤は保守党と重複するため1議席に留まった。また、スコットランドでは労働党に代わってスコットランド国民党の支持が拡大し、スコットランドの殆どの選挙区で同党の候補者が当選したため、スコットランド国民党が保守・労働に続く第三党に躍り出ている。

選挙制度改革の検討

単純小選挙区制度では民意を正確に反映できないとして、比例代表制の導入など選挙制度の改革を求める声も出たこともあった。実際に、制度の改革を要求する声を受け、2010年総選挙で支持率が高かったにもかかわらず議席は減らした自由民主党が主導的な立場となり、優先順位付連記投票の導入が議論された。しかし結局は、2011年5月5日に行われた国民投票英語版で反対が70%近くという大差で否決され、選挙制度改革は実現はしなかった[7][8]

イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドそれぞれの特色

イギリスは4つの構成要素から成る連合王国であり、国家の中枢的な存在であるイングランドと、ウェールズスコットランド北アイルランドとでは、国会議員当選者の構成がかなり異なる。例えば、イングランドでは主に「保守党か労働党か」という構図が続いてきたが、スコットランドでは保守党は弱小勢力である。また、スコットランド、ウェールズでは、地域政党が無視できない勢力を持っており、2015年の総選挙ではスコットランド国民党がスコットランドの議席の殆どを取っている。また、北アイルランドに至っては当選者の所属政党は地域政党のみである(ただし、北アイルランドのいくつかの政党にはブリテン島の主要政党との連携がある)。

選挙資格と被選挙資格

選挙資格及び被選挙資格同じで、法律によって定められる。

任期

任期5年だが、解散の場合には期間満了前に終了する。しかし、2011年7月に任期固定制議会法が成立し、庶民院からの不信任決議可決による解散権を除いて、首相は庶民院を自主的に解散する場合は、庶民院の3分の2以上の同意が必要となった[10]

院内勢力

院内勢力別所属議員数 (2015年5月現在)[1]
院内勢力 議員数 政党(議員数) 議席率
与党 0330 保守党 (330) 050.77%
野党 0319 労働党 (232) 035.69%
スコットランド国民党 (56) 008.66%
民主統一党 (8) 001.23%
自由民主党 (8) 001.23%
シン・フェイン (4) 000.62%
プライド・カムリ (3) 000.46%
社会民主労働党 (3) 000.46%
アルスター統一党 (2) 000.31%
緑の党 (1) 000.15%
イギリス独立党 (1) 000.15%
無所属 (1) 000.15%
議長 0001 議長 (1) 000.15%
欠員 0000
合計 0650 100.00%
庶民院構成別議席数(2015年5月現在)

議院組織

役員

議長

議長は「スピーカー」(Speaker of the House)と呼ばれる。議事運営の殆どを司り、金銭法案の認定権を握るなど、権限は大きいが、中立公平を貫き先例に従って慎重に行使するべきとされている。

政府と野党の中立公平を守るために、大臣経験者ではなくあまり政府に関わりの無かった重鎮議員が好まれる。任期は庶民院解散までであるが、総選挙後の新議会でも希望する限りは全会一致で再度選出される習わしである。従って政権が交代したとしても議長は交代せず、また政府与党と議長の出身政党は必ずしも一致しない。総選挙の際には議長の選挙区には対立党(主に保守、労働、自由民主の主要政党)は候補を出さないなどの配慮がなされる。地域政党やミニ政党が議長の選挙区に対抗馬を立てることはあり、選挙戦が行われる事はある。

議長の引退や死去によって新たな議長を選出する際には、従来は二大政党からそれぞれ一人ずつ候補が出され、両名のうちから記名投票で選出していた。しかし2000年の選挙英語版では与野党とも党内での候補者の絞り込みが行われず、13名の候補者(そのうち1名辞退)が出馬した。その際、従来の方法に習ったため、2名の候補者から1名を選ぶ投票を11度繰り返し、他のすべての候補に勝利したマイケル・マーティン英語版が最終的に選出された。翌年に制度が改正され、2009年の選挙英語版 は、全候補者を対象とする無記名投票を行い、過半数を獲得する候補が現れるまで、得票最少の候補と得票率5%未満の候補を除いて投票を繰り返す方法で行われた。出馬には12名以上の議員の推薦が必要であるが、そのうち3名以上は候補者と異なる政党に属していなればならない。また複数候補への推薦かけもちは認められない。

かつては法服かつらをまとう慣行があったが、1992年に女性として初の議長となったベティ・ブースロイド英語版がかつらの使用をとりやめ、後継の男性議長らもかつらを着用していない。またマーティン以降は服装も簡略化されている。

副議長

副議長の定員は3名で、歳入委員長と歳入副委員長を兼務する。副議長は、本会議の議事宰領を議長と交代で担当する。また本会議場で行われる全院委員会は副議長のみが担当する。議長同様に不偏不党の立場で職務に臨むが、議長と異なり議会選挙の際は政党公認候補として出馬し、対抗候補も立てられる。

議員6人以上10人以下の推薦が必要で、単記移譲式投票で選出する。ただし議長を含めた4人のうち、全員を同じ性別とせず、かつ出身政党を与野党同数とする当選枠が適用される[11]

院内総務

与党の院内総務は内閣閣僚の一員で、首相により任命される。

議事運営

法案は三読会制。伝統的に本会議(ないし全院委員会)審議を重視してきたが、最近は案件別(日本米国のような所轄省庁別ではなく)常任委員会の設置など、委員会制度化へ向けての取り組みも見られる。金曜日を除き8時間を超えるロングラン本会議である。しかも会期中平日は毎日開会されている。

その上、終了間際に延会動議が提出され、それの審議のためと称してさらに30分ほど審議を続行する。この30分間は毎日一人ずつの議員が、自分の選挙区の問題や社会の関心を集めている問題について政府に質問し対応を求める時間として使われており、特に無名の平議員にとっては活躍のチャンスとなる。

議事日程

一般的な議事日程は以下の通りである(11:30開始の場合)

  • 11:30 -
    • 祈祷(Prayers) - 司祭により行われ、議長が着席する
    • 諸手続
  • 11:35
    • 口頭質問(Oral Questions) - 大臣に対する質問
  • 12:00
  • 12:30 以降は討論(Debate)の時間となる。
    • 政府報告 - 政府の方針や重要事項などがあれば大臣が発表
    • 政府提出法案(Public Bill)の討論と採決
    • 緊急討論(Emergency Debate)
  • 19:00
    • 延会討論(Adjournment Debate)
  • 19:30 延会

基本的な開会時間は以下のとおり。ただし、開会時間は基本的なもので、自由に変更できる。

  • 月曜 - 14:30-22:30
  • 火曜 - 14:30-22:30
  • 水曜 - 11:30-19:30
  • 木曜 - 10:30-18:30
  • 金曜 - 9:30-15:30(ただし金曜に開会することは少ない)

庶民院の優越

1911年に制定された議会法イギリスの憲法の一)によって、庶民院の優越が定められている。

連続2会期(つまり足かけ2年)、庶民院で可決した法案は、貴族院が否決・修正しても、庶民院案のまま法律となる。貴族院は成立を13か月引き延ばせるだけということになる。金銭法案[12]であると庶民院議長が認定した法案は、貴族院で1か月しか成立を遅らせることができない。

貴族院で不信任されても首相は辞職の必要はないが、庶民院が不信任した場合、首相及び内閣は国王に庶民院を解散するよう助言し庶民院を解散するかまたは総辞職しなければならない。首相信任への優越は憲法的習律(慣習法)である。

歴史

庶民の召集される議会の誕生

かつて王会(キュリア・レジス、Curia Regis)から発展した英国議会「The Parliament」は貴族国王が中心だったが、1254年シモン・ド・モンフォールが反乱を起こし、1265年に彼が招集した議会では各州を代表する2名の騎士と各特権都市を代表する2名の市民(ブルジョワ)が選ばれて招集された。註:ここで言う庶民(Commoner)とは、貴族(Peer)ではないという意味で、選ばれるのは騎士とブルジョワであり、いわゆる一般庶民ではない。

その後、1295年エドワード1世がこの方式を採り入れて招集した議会は「模範議会」と呼ばれ、後世の議会召集のモデルとなった。

庶民院の独立と発展

当初は庶民は貴族たちと一緒に会議を開いていたが、貴族の前では自由に発言しづらかったため、エドワード3世の頃に、本会議から分かれて協議をするようになった。その後国王と貴族が待つ本会議へ一同出向き、議長が代表して庶民の決議を伝えた(議長を「speaker」と呼ぶのは、これに由来する)。

こういう歴史的経緯から、議長は国王の不興を買いやすかったため、議長が選ばれた際には、新しい議長はその危険な職務を嫌がる仕草を見せ、それをまわりの議員が無理矢理議長席に連れて行くというパフォーマンスが儀式となって残っており、ジェフリー・アーチャーの小説『めざせダウニング街10番地』でも、この儀式が描写されている。

脚注

  1. ^ a b Current State of the Parties - UK Parliament 2015年5月12日閲覧
  2. ^ 英国・公的機関改革の最近の動向”. 内閣官房. 2020年7月2日閲覧。
  3. ^ 英国議会は、二院制ではなく国王を含めた三院制であるとする古い法律学説もある。この点は、イギリスに於ける庶民院の発展史・学説史をたどる際の知識である。
  4. ^ 間柴泰治 「2000年政党、選挙及び国民投票法」の制定とイギリスにおける政党助成制度
  5. ^ “Can Nick Clegg survive another meltdown for the Lib Dems?”. ガーディアン. (2014年5月11日). http://www.theguardian.com/commentisfree/2014/may/11/nick-clegg-lib-dem-meltdown-rawnsley 2014年11月24日閲覧。 
  6. ^ “Nigel Farage: after Ukip’s Rochester win general election is unpredictable”. ガーディアン. (2014年11月21日). http://www.theguardian.com/politics/2014/nov/21/nigel-farage-ukip-rochester-win-mark-reckless-general-election-unpredictable-tories 
  7. ^ “英国民投票:下院の選挙制度改革を否決、連立政権内で緊張の兆し”. ブルームバーグ. (2011年5月7日). http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920012&sid=aolG2F8abi8Q 2011年5月7日閲覧。 
  8. ^ “英下院の選挙制度変更、国民投票で大差の否決”. 読売新聞. (2011年5月7日). http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110507-OYT1T00644.htm 2011年5月7日閲覧。 
  9. ^ 主要国の議会制度
  10. ^ イギリス連立政権と解散権制限立法の成立%20-%20小松浩
  11. ^ イギリス下院議事規則の改正
  12. ^ 歳入や歳出を決定する法案。イギリスには統一的な「予算」はない。各税法等や各支出法の総体が、その年の財政の現況であるにすぎない。

関連項目

外部リンク