慣習法

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慣習法(かんしゅうほう)とは、一定の範囲の人々の間で反復して行われるようになった行動様式などの慣習のうち、としての効力を有するものをいう。不文法の一つである。判例法を慣習法に含める考え方もある。

慣習がいつ(国内法としての)慣習法になるかについては、人々の「かくあらざるべからずとの意識」(opinio necessitatis) の支えによるとする立場と、国家が法として容認するときとする立場とがある。

日本法における慣習法[編集]

一般原則[編集]

日本では、法の適用に関する通則法3条が慣習法の法的地位に関する一般原則を定めている。これによると、公の秩序又は善良の風俗(公序良俗)に反しない慣習については、法令の規定により認められたもの及び法令に規定のない事項につき、成文による法令(形式的意義における法律)と同一の効力(法源たる慣習法としての効力)が認められることになる。強行法規は、公の秩序を定める法律であるから、これに反する慣習は認められない。

法令による規定のない事項について慣習に効力を認めるものであることから、法令と慣習法との間に矛盾がある場合は、一般原則として、法令の規定が優先する。

民法における慣習法[編集]

上記の通則法3条とは別に、民法92条にも慣習の効力に関する定めがある。これによると、任意法規(当事者が異なる特約を設定することが認められる規定をいう。)と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者が、この慣習による意思を有するものと認められる場合は、慣習による意思の方が優先して適用される。法令と慣習の優先関係について通則法3条とは異なる規定となっていることから、通則法3条と民法92条との関係が問題となる。

この点については、通則法施行前の法例2条(通則法3条に相当)と民法92条との関係につき、法例2条に規定する慣習は慣習法であるのに対し、民法92条に規定する慣習は慣習法ではなく法規範性のない事実たる慣習と解するのが伝統的な考え方であった。

しかし、この論によれば、慣習法の効力が法例により任意法規に劣るにもかかわらず、法規範性が認められない事実たる慣習は、民法により任意法規に優先する効力が認められる点が矛盾との指摘がある。そのため、法例の規定と民法の規定との関係について議論が生じた。また、法例にいう慣習と民法にいう慣習を区別するのは妥当ではないとする見解も強い。

このため、法例2条と民法92条との関係につき、(a) 法例2条は制定法一般に対する慣習の地位に関する規定であるのに対し、民法92条は私的自治の原則(「契約自由の原則」とも言う。)が認められる分野に関する慣習の地位に関する規定であり、法例の規定の特則であるとする見解(「特別法は一般法に優先する」という法原則が働く)、(b) 法例2条にいう「法令ノ規定ニ依リテ認メタルモノ」の一つが民法92条であり、法律行為の解釈については、当事者が反対しない限り慣習が優先するとする見解などが主張された。

通則法は法例を全面改正して成立したが、民法92条との関係に関する解釈問題に変更を加えるものではないとされている。

商法における慣習法[編集]

商法の分野では、商法1条2項が商事に関する慣習法(商慣習法)の地位につき定めている(なお、条文上は、会社法制定前は「商慣習法」となっていた。会社法制定に伴う改正により「商慣習」と変わっている)。商法の規定を最優先するが、商法に規定がない場合は商慣習法を適用し、商慣習法がないときは民法を適用することになる。商法に規定がない事項については、民法に該当する規定がある場合でも商慣習法を優先して適用する建前である。

商慣習法は、民法との関係では優先する効力があり、商法との関係では劣後する。商法の分野においては、経済事情の変遷のために商事の生活関係が著しい変化を余儀なくされることが多い。商法中の強行法規と解される規定であってもそれが事実上死文化し、商法の規定に優先する商慣習法の成立を認めた判例があれば具体的な紹介があるとよい。

商法の規定にかかわらず、商法中の任意法規に対する商慣習法の優先的効力を認める見解がある。明確かつ合理的な商慣習法が存在しそれが実際上適切である場合は、商法中の強行法規に対して商慣習法を優先するとする考え方もある。公序良俗に反する法律は無効であるとする民法第90条の規定を参考にするとよい。

行政法における慣習法[編集]

行政法とは、行政機関が公権力を行使する際の手続きや制限を定めたものである。行政法の分野においては「法律による行政の原理」が妥当する。オットー・マイヤーを中心として、行政法においては慣習法は法源性を有しないとする見解を強く主張した。

今日では、行政機関の慣習として、慣習法の成立の余地を認めるのが通説である。例えば、既に存在する行政法規に反しない慣習については、慣習法が成立する余地がないわけではなく、特に公物利用権に関しては地域的な慣習が、行政機関の判断基準としての慣習法として認められる例があるとする立場がある。

慣行水利権は、河川法に基づいて、河川法施行以前から河川の水を利用していた者に対して与える特許である。主として、江戸時代からの慣習によって利用権を有していた者や、河川法施行以前に設定によって利用権を取得していた者に対して与える。慣行水利権は、河川法施行以前から河川の水の利用権を有していたことを確認して与える。判断基準は、河川法に規定がないため行政機関の慣習によって行ってきた。河川法によれば、慣行水利権は河川法施行以前から河川の水の利用権を有していた者に対して与えるものである。河川法施行後において、河川の利用を始めた者に慣行水利権を与えることはない。

司法における慣習法(判例法)[編集]

最高裁判所判例は、下級審裁判所の判断を事実上拘束する。下級審裁判所が、判例に反する判断を下したときは、上告受理申立理由となる。

最高裁判例は、私法慣習についても下級審裁判所の判断を規制するが、私法慣習自体について規制するものではない。例えば、何が公序良俗違反に当たるかという私法慣習に対する最高裁判例は、それ以降の下級審裁判所の判断を規制するが、それによって、私法慣習が固定されるものではない。

国際法における慣習法[編集]

国際法においては、慣習国際法条約と並ぶ重要な法源の一つであり、実際、長い間不文法として法規範性を有していた。なお、国際司法裁判所規程38条1項bによると、国際法の法源として「法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習」(international custom, as evidence of a general practice accepted as law) を準則として適用するとされている。

慣習国際法が成立する要件としては、同様の実行が反復継続されることにより一般性を有するに至ること(一般慣行, consuetudo)と、国家その他の国際法の主体が当該実行を国際法上適合するものと認識し確信して行うこと(法的確信, opinio juris sive necessitatis)の二つが必要であると考えるのが一般的である。

もっとも、前者の要件については、いかなる範囲の国家によって、どの程度実行されていれば要件を満たすのかにつき問題となることが多く、後者の要件についても、関係機関の内面的な過程を探求することはほとんど不可能であるため、外面的な一般慣行から推論せざるを得ないことが多い。

詳しくは国際法#種類の「慣習国際法」の項目を参照のこと。

関連項目[編集]