地獄変
地獄変 | |
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訳題 | Hell Screen |
作者 | 芥川龍之介 |
国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
ジャンル | 短編小説 |
発表形態 | 新聞掲載 |
初出情報 | |
初出 | 『大阪毎日新聞』、『東京日日新聞』1918年 5月1日-22日 |
刊本情報 | |
収録 | 『傀儡師』 |
出版元 | 新潮社 |
出版年月日 | 1919年1月15日 |
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『地獄変』(じごくへん)は、芥川龍之介の短編小説。説話集『宇治拾遺物語』の「絵仏師良秀」を基に、芥川が独自に創作したものである。初出は1918年(大正7年)5月1日から22日まで『大阪毎日新聞』『東京日日新聞』に連載され、1919年(大正8年)1月15日に新潮社刊行の作品集『傀儡師』に収録された。主人公である良秀の「芸術の完成のためにはいかなる犠牲も厭わない」姿勢が、芥川自身の芸術至上主義と絡めて論じられることが多く、発表当時から高い評価を得た。なお、『宇治拾遺物語』では主人公の名の良秀を「りょうしゅう」と読むが、本作では「よしひで」としている。
破棄されたと見られていた直筆原稿のうち2枚が、2007年(平成19年)12月に岡山県倉敷市で見つかり、同時に未完作『邪宗門』の原稿も発見された[1]。
あらすじ
時は平安時代。絵仏師の良秀は高名な天下一の腕前として都で評判だったが、その一方で猿のように醜怪な容貌を持ち、恥知らずで高慢な性格であった。そのうえ似顔絵を描かれると魂を抜かれる、彼の手による美女の絵が恨み言をこぼすなどと、怪しい噂にもこと欠かなかった。この良秀には娘がいた。親に似もつかないかわいらしい容貌とやさしい性格の持ち主で、当時権勢を誇っていた堀川の大殿[2]に見初められ、女御として屋敷に上がった。娘を溺愛していた良秀はこれに不満で、事あるごとに娘を返すよう大殿に言上していたため、彼の才能を買っていた大殿の心象を悪くしていく。一方、良秀の娘も、大殿の心を受け入れない。
そんなある時、良秀は大殿から「地獄変」(地獄を描いた図のこと。「地獄変相図」の略。)の屏風絵を描くよう命じられる。話を受け入れた良秀だが、「実際に見たものしか描けない」と頭を抱える。彼は、地獄絵図を描くため、ある時は弟子を鎖で縛り上げ、またある時はミミズクに襲わせるなど、狂人さながらの行動をとる。こうして絵は8割がた出来上がったが、どうしても仕上がらない。燃え上がる牛車の中で焼け死ぬ女房の姿を描き加えたいが、どうしても描けない。つまり、実際に車の中で女が焼け死ぬ光景を見たい、と大殿に訴える。話を聞いた大殿は、その申し出を異様な笑みを浮かべつつ受け入れる。
数日後、良秀は大殿に都から離れた荒れ屋敷に呼び出される。恐ろしいことに、火にかけられる牛車には良秀の娘が乗せられていた。間もなく牛車に火がかけられ、燃え盛る炎の中に縛り上げられた娘は身悶えしながら、まとった豪華な衣装とともに焼け焦がれて行く。その姿を良秀は、驚きや悲しみを超越した、厳かな表情でただ眺めていた。娘の火刑を命じた殿すら、その恐ろしさ、絵師良秀の執念に圧倒され、青ざめるばかりであった。やがて良秀は見事な地獄変の屏風を描き終える。日頃彼を悪く言う者たちも、絵のできばえには舌を巻くばかりだった。屏風を献上した翌日、良秀は部屋で自殺する。
歌舞伎作品
地獄変 | |
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訳題 | Hell Screen |
作者 | 三島由紀夫 |
国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
ジャンル | 歌舞伎 |
幕数 | 1幕2場 |
初出情報 | |
初出 | 書き下ろし 1953年11月18日 |
刊本情報 | |
収録 | 『ラディゲの死』 新潮社 1955年7月20日 |
初演情報 | |
公演名 | 12月興行 中村吉右衛門劇団大歌舞伎 |
場所 | 歌舞伎座 1953年12月5日 |
ポータル 文学 ポータル 舞台芸術 |
芥川龍之介の原作を元に三島由紀夫が1953年(昭和28年)11月18日に1幕2場の竹本劇(義太夫語りを含む歌舞伎)の歌舞伎台本『地獄変』を書き下ろし、同年12月5日に歌舞伎座で中村吉右衛門劇団により、中村歌右衛門、中村勘三郎らの共演で初演された[3][4][5][6]。これは三島の最初の歌舞伎戯曲で、浄瑠璃の文体を苦労して再現した作品である[7][8]。
始め歌舞伎座の方から劇化の話を受けた三島は、1953年(昭和28年)秋頃に正式に執筆依頼をされて一か月ほどで仕上げた[6][7]。三島は〈現代語や中途半端の新歌舞伎調セリフの新作がきらひ〉で、いつの日か〈形式もセリフもことごとく歌舞伎に則つた新作を書きたい〉と考えていたために、その依頼は〈渡りに舟〉ですぐに快諾した[7][6]。
台本は1955年(昭和30年)7月20日刊行の『ラディゲの死』(新潮社)、1962年(昭和37年)3月20日刊行の『三島由紀夫戯曲全集』(新潮社)などに収録された[6]。翻訳版は、中国の申非訳(中題:地獄図)で行われている[9]。
公演
- 12月興行 中村吉右衛門劇団大歌舞伎
- 9月興行大歌舞伎
- 6月花形歌舞伎
おもな収録本
- 『ラディゲの死』(新潮社、1955年7月20日)
全集収録
- 『三島由紀夫戯曲全集』(新潮社、1962年3月20日)
- 『三島由紀夫全集21(戯曲II)』(新潮社、1974年12月25日)
- 『三島由紀夫戯曲全集 上巻』(新潮社、1990年9月10日)
- 四六判。2段組。布装。セット機械函。
- 収録作品:「東の博士たち」「狐会菊有明」「あやめ」「火宅」「愛の不安」「灯台」「ニオベ」「聖女」「魔神礼拝」「邯鄲」「綾の鼓」「艶競近松娘」「卒塔婆小町」「紳士」「只ほど高いものはない」「夜の向日葵」「室町反魂香」「地獄変」「葵上」「若人よ蘇れ」「溶けた天女」「ボン・ディア・セニョーラ」「鰯売恋曳網」「ボクシング」「班女」「恋には七ツの鍵がある」「熊野」「三原色」「船の挨拶」「白蟻の巣」「芙蓉露大内実記」「大障碍」「鹿鳴館」「オルフェ」「道成寺」「ブリタニキュス」「朝の躑躅」「薔薇と海賊」「むすめごのみ帯取池」〔初演一覧〕
- ※ 下巻と2冊組での刊行。
- 『決定版 三島由紀夫全集22巻 戯曲2』(新潮社、2002年9月10日)
映像作品
映画
地獄変 | |
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監督 | 豊田四郎 |
脚本 | 八住利雄 |
原作 | 芥川龍之介 |
製作 | 田中友幸 |
出演者 | 中村錦之助 |
音楽 | 芥川也寸志 |
編集 | 黒岩義民 |
製作会社 | 東宝 |
公開 | 1969年9月20日 |
上映時間 | 95分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
1969年、東宝製作。1969年9月20日公開。カラー・シネマスコープ作品。95分。
スタッフ
キャスト
- 中村錦之助(堀川の大殿)
- 仲代達矢(絵師・良秀)
- 内藤洋子(娘・良香)
- 大出俊(弟子・弘見)
- 下川辰平(弟子・成岡)
- 内田喜郎(弟子・金茂)
- 中村吉十郎(公卿)
- 鈴木治夫(側近の者)
- 天本英世(家人)
- 大久保正信(使者)
- 音羽久米子(女房)
- 猪俣光世(小女房)
- 沢村いき雄(大史)
- 今福正雄(老人)
- ほか
同時上映
映像ソフト
1997年11月1日、本作を収録したVHSビデオソフトが東宝から発売された。
テレビドラマ
その他
- あらすじで楽しむ世界名作劇場 - 番組内の作品の一つ。市川春猿プロデュースによる影絵と春猿の歌舞伎の併用。
- エスパー魔美 - 「リアリズム殺人事件」の回で本作を忠実に再現しようとした映画監督のエピソードが描かれる。
脚注
- ^ 芥川「地獄変」の直筆原稿2枚見つかる 岡山・倉敷(朝日新聞、2007年12月21日)
- ^ おそらく藤原基経と推測されている。
- ^ 「竹本劇『地獄変』」(歌舞伎座プログラム 1953年12月)。28巻 2003, pp. 220–222
- ^ 井上隆史「作品目録――昭和28年」(42巻 2005, pp. 401–403)
- ^ 山中剛史「上演作品目録」(42巻 2005, pp. 731–858)
- ^ a b c d 浅野洋「地獄変」(事典 2000, pp. 157–159)
- ^ a b c d 「僕の『地獄変』」(毎日新聞〈大阪〉夕刊 1954年9月10日号)。28巻 2003, pp. 337–338
- ^ 千谷道雄「地獄変」(旧事典 1976, pp. 181–182)
- ^ 久保田裕子「三島由紀夫翻訳書目」(事典 2000, pp. 695–729)
参考文献
- 三島由紀夫『決定版 三島由紀夫全集22巻 戯曲2』新潮社、2002年9月。ISBN 978-4106425622。
- 三島由紀夫『決定版 三島由紀夫全集28巻 評論3』新潮社、2003年3月。ISBN 978-4106425684。
- 佐藤秀明; 井上隆史; 山中剛史 編『決定版 三島由紀夫全集42巻 年譜・書誌』新潮社、2005年8月。ISBN 978-4106425820。
- 井上隆史; 佐藤秀明; 松本徹 編『三島由紀夫事典』勉誠出版、2000年11月。ISBN 978-4585060185。
- 長谷川泉; 武田勝彦 編『三島由紀夫事典』明治書院、1976年1月。NCID BN01686605。
- 細川正義「芥川「地獄変」の世界」『人文論究』第24巻第2号、関西学院大学、1974年8月、16-31頁、ISSN 02866773、NAID 110001068571。
関連項目
外部リンク
- 『地獄変』:新字旧仮名 - 青空文庫
- 『地獄変』:旧字旧仮名 - 青空文庫
- 『地獄変』 - 国立国会図書館デジタルコレクション
- 『絵仏師良秀』現代語訳 - マナペディア
- 橋浦洋志「「地獄変」考」『茨城大学教育学部紀要 人文・社会科学・芸術』第35号、茨城大学教育学部、1986年3月、21-34頁、ISSN 0386765X、NAID 40004439103。
- 芥川龍之介「地獄変」への一考察 -<絵師良秀>と<父良秀>- - 大阪教育大学附属図書館
- 木股知史「芥川龍之介『地獄変』覚書 : イメージの相互関連性の視点から」『甲南大學紀要. 文学編』第167号、甲南大学文学部、2017年3月、一-十五、doi:10.14990/00002343、ISSN 0454-2878、NAID 120006246629。