人斬り (映画)

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人斬り
Hitokiri
監督 五社英雄
脚本 橋本忍
原作 司馬遼太郎『人斬り以蔵』 (参考文献)
製作 村上七郎法亢堯次
出演者 勝新太郎仲代達矢
三島由紀夫石原裕次郎
音楽 佐藤勝
撮影 森田富士郎
編集 菅沼完二谷口登司夫
製作会社 フジテレビ勝プロダクション
配給 大映
公開 日本の旗 1969年8月9日
上映時間 140分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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人斬り』(ひときり)は、1969年(昭和44年)8月9日公開の五社英雄監督による時代劇映画大映配給。フジテレビ勝プロダクション製作、勝新太郎主演。上映時間140分。

概略[編集]

動乱の幕末時代を舞台に、の都を震撼させ、その名を轟かせた土佐の最強の剣士・岡田以蔵の半生を描いた歴史劇作品。司馬遼太郎の小説『人斬り以蔵』をモチーフとしている。折りしも同年3月には、戦国時代を背景に山本勘助を描いた東宝映画『風林火山』が、三船敏郎率いる三船プロ製作によって封切られ、いずれも壮大なスケールによって作られた東西のチャンバラ映画のビッグプロジェクト対決を見ることとなった。

主演は勝新太郎。『座頭市』シリーズに代表されるように迫力満点の殺陣シーンを展開、期待を裏切らずスケールと貫禄を充分に主人公・岡田以蔵に扮した。劇中の以蔵は、多くの作品に見られるような冷徹な殺人マシーンというイメージではなく、どこか泥臭く人間味がある硬骨漢として描かれ、希望を宿し挫折を味わい、絶望の淵から這い上がろうとする様を、どこまでも哀切に演出。かつてない以蔵のイメージ像の開拓に成功した。一方で、以蔵の生涯を大きく脅かす存在となる土佐勤皇党盟主・武市瑞山役には重厚な演劇者として名高かった仲代達矢がキャスティングされ、前半は清廉な革命家として、物語後半は冷徹、かつ非情な都の独裁者として描き、時代の風向きがいかに勤皇に傾いていったかを際立たせている。武市とともに、異なる手法で倒幕を図る坂本龍馬役には石原裕次郎が訥々と扮し、時に人斬りの道を邁進する以蔵を静かに諌め、また以蔵の苦境を救う存在として登場した。更に以蔵と対極した「人斬り新兵衛」こと薩摩藩士・田中新兵衛を演じた三島由紀夫は、劇中においても鮮烈な印象を残したが、その翌年、自身も壮絶な死を遂げることとなり、この作品の価値をセンセーショナルな話題を呼ぶものとした。以蔵をとりまく女性たちに倍賞美津子新條多久美ら実力派女優陣が演じ花を添えている。

ストーリー[編集]

時は幕末文久年間の土佐剣術の才覚がありながら、藩内の厳しい身分制という壁に阻まれ立身を望めず、いまだその日暮らしに甘んじていた青年・岡田以蔵。彼は、背に腹は替えられぬ思いで、ついに家の隅で埃をかぶる先祖伝来の鎧兜を質屋に売り払うも相手にされず悲嘆に暮れる。そんなとき、土佐随一の政治力を握るに至った武市半平太は、参政・吉田東洋をクーデターによって追い落とし、自ら取って代わることを宣言。以蔵は半平太に呼び出され、東洋暗殺の現場を視察せよと命じられる。その夜が、以蔵を変えた。人を斬る、とはこうすることなのか。以蔵は、次第に人斬りとしての本能を呼び醒ましてゆく。そして耳にした「天誅」という言葉を心の中で何度も繰り返した。

数年後、京に上洛し、瑞山と号した武市は勤皇一派の中心人物となり、都で栄華の限りを尽くしていた。そして以蔵もまた武市の下で多くの謀略・破壊工作の実行役として加担。名うての人斬りとして鳴らしていた。もはや昔の以蔵ではない。土佐勤皇党はこの自分で持っているようなものだ、とまで得意の絶頂を誇示する以蔵の前に、武市とは異なる道を選んだ男・坂本龍馬が現れる。本間精一郎井上佐一郎らを新たに葬った以蔵だが、龍馬は以蔵に人斬りをやめるよう忠告する。はじめは聞き入れるつもりもなかった以蔵であったが、龍馬が、身分を誰も気にすることのない時代を切り開く、の言葉に次第に共鳴を覚えてゆく。それは、かつて武市に随行した際に逗留した、攘夷派の急進的公卿・姉小路公知邸を訪れた際に出逢った美しい姫の存在を忘れる事が出来ずにいたからであった。その姫は、姉小路卿の妹・綾姫といった。惚れた想いを告げるどころか、以蔵の容姿に恐怖を覚え「けだもの」と蔑んだ姫。だが、想いは一層強くなり、いずれ自分が武市の下で立身するか、龍馬が言う新しい時代になったとき、その姫を自分のものにできるかもしれない、以蔵が宿したささやかな希望であった。

だが、勤皇派が以前から内密に計画していた大天誅・石部宿襲撃の先遣隊から自身が外されたことを知るや、以蔵は無我夢中で駆け出して、襲撃に合流。目覚しい働きをみせるも、藩名と自身の姓名を声高に叫んだ失態を武市は厳しく叱責。以蔵は武市から離反する動きを起したが、武市の政治力を恐れた諸藩は以蔵を雇い入れることを拒んだ。以蔵の妾・おみのは、武市に謝罪することを薦めたため、以蔵はやむなく人斬りの運命から逃れる事が出来なくなっていった。武市の密命で、姉小路卿までも斬った直後から以蔵は酒に溺れるようになり名声は凋落。浪人狩りの網にかかった以蔵は武市からも見捨てられ厳しい拷問にかけられた。そんな以蔵に手を差し伸べたのは龍馬であった。ようやく以蔵は、赦免されたのち、龍馬の門人として新しい時代を築くために残りの人生を尽くそう、と思い始める。だが、武市は以蔵を消し去ろうと図り、かつて以蔵が目をかけた弟分・皆川に毒殺役を命じてしまう。しかし、以蔵は生きながらえた。以蔵はこのことで、自らの行なってきた謀殺と勤皇一派が働いた計画の全てを晒し、勤皇党の幕を下ろそうと決意した。5月、土佐では春祭りである。龍馬は、以蔵を迎えにやってくる。だが以蔵は龍馬に従い九州へわたることは遂になかった。祭囃子を遠くにききながら、以蔵は磔を命じられ、その生涯を閉じるのである。

スタッフ[編集]

キャスト[編集]

エピソード[編集]

田中新兵衛役を演じた三島由紀夫高祖父は、田中新兵衛が切腹してしまったことで、不注意の咎で閉門を命ぜられた永井尚志である。三島は友人・林房雄宛の書簡(1969年6月13日付)の中で、「明後日は大殺陣の撮影です。新兵衛が腹を切つたおかげで、不注意の咎で閉門を命ぜられた永井主水正曾々孫が百年後、その新兵衛をやるのですから、先祖は墓の下で、目を白黒させてゐることでせう」と記している[1]

脚注[編集]

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  1. ^ 『決定版 三島由紀夫全集第38巻・書簡』(新潮社、2004年)

関連項目[編集]