禁色 (小説)

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禁色
Forbidden Colors
著者 三島由紀夫
イラスト 林武
発行日 1951年11月10日(第一部・禁色)
1953年9月30日(第二部・秘楽)
発行元 新潮社
ジャンル 小説
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 上製本 布装
ページ数 300(第一部)
306(第二部)
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禁色』(きんじき)は、三島由紀夫長編小説。『仮面の告白』と並ぶ代表的な男色小説。社会的禁忌を真向うから素材にし、男色者の主人公を登場させ、『仮面の告白』同様にセンセーションを文壇に巻き起こした。セクシャリティや美の観念、芸術論、社会風俗、社会批判などがぎっしり詰まり、質量ともに戦後の三島の作家的地位を不動のものにした作品である。

目次

概要 [編集]

『禁色』第一部は1951年(昭和26年)、文芸雑誌「群像」1月号から10月号まで連載された(11月号に第一部の結末を変更する「改訂広告」を載せる)。第二部は『秘楽』と題されて1952年(昭和27年)、「文學界」8月号から翌年1953年(昭和28年)の8月号まで連載された。第一部と第二部の間には10ヶ月の休止期間(作者の世界旅行のため)がある。

単行本は新潮社より、1951年(昭和26年)11月10日に『禁色 第一部』が刊行(連載時と異なる結末)。1953年(昭和28年)9月30日に『秘楽 禁色 第二部』が刊行された。現行版は合冊され新潮文庫で重版され続けている。

作中に登場するゲイバー・ルドンは実在の店「ブランスウィック」をモデルとした。店には、主人公・南悠一のモデルとなった実在の人気ボーイがいて、当時、その美青年に三島は憧れていたという[1]。また、その店で野坂昭如もアルバイトしていたことがあるという[2]

坂本龍一が作曲した映画『戦場のメリークリスマス』のテーマ曲に、デヴィッド・シルヴィアンが詞をつけた『禁じられた色彩』という楽曲は、本作品から着想された。デヴィッド・シルヴィアンは三島の大ファンで、『禁色』は愛読書だという[3]

あらすじ [編集]

時代は1950年(昭和25年)夏から1951年(昭和26年)秋頃まで。

檜俊輔はすでに還暦を5つ越えた老作家。今まで全集を3度刊行し揺ぎない地位を確立していた。しかし、今まで3人の妻をはじめ、心を寄せた女たちから手酷い目にあわされて続けてきた。それでいながら懲りることもなく、今は美少女の康子を追って伊豆半島の南端の海岸へやって来ていた。そして、その海で偶然、ギリシア彫刻のような美青年・南悠一に出会う。悠一は康子の許婚であったが、同性愛者の彼は結婚をためらい、それを老作家・俊輔に相談する。俊輔は、悠一が決して女を愛さない美青年ということを利用し、今まで自分を傷つけた女たちへの復讐を企てる。俊輔は、悠一の母の療養費を出す見返りに自分の指示通りに動くことを彼に契約させた。そして康子との結婚を強く勧める。康子も俊輔の復讐の対象であった。

俊輔は、かつて自分を美人局で嵌めた鏑木元伯爵夫人や、振られた穂高恭子に悠一を引き合わせる。悠一の魅力で彼女たちを翻弄させる計画だった。悠一は、俊輔の活き人形となって女たちを手玉にとる一方、ゲイバーで知り合った同性愛者の少年や男たちとの刹那的な関係を謳歌する。

クリスマスのゲイ・パーティーに参加した悠一は、そこに現われた鏑木信孝元伯爵と出くわし、お互い驚く。鏑木信孝も同性愛者で、仲間内では「ポープ」と呼ばれていた。悠一はポープの誘惑に負け一夜を共にしてから、彼の愛人となる。そして彼の秘書として邸宅に出入りするようになった悠一は、鏑木夫人に鏑木信孝との同性愛現場を見られてしまう。鏑木夫人は激しい衝撃を受け失踪する。

失踪先から鏑木夫人の長い手紙が悠一宛に届いた。それは悠一への真摯な恋の告白と、自分がしていた娼婦まがいの暮らしの告白であった。その手紙に感動した悠一は、その手紙を俊輔に見せ、自分は鏑木夫人を愛していることがわかったと言う。俊輔はその言葉を笑い飛ばしながらも、今度は自分が悠一に恋していることに徐々に気づく。

鏑木信孝と別離した後、悠一は偶然に会った俊輔の旧友・河田弥一郎と愛人関係となり、河田の会社で事業人となる野心が芽生える。その一方、俊輔の指示で穂高恭子を騙し、傷つけることに成功する。やがて妻・康子が出産し、それに立ち会った悠一は女なるものと、自分の赤ん坊とに向かい合い、徐々に刹那的な男色の世界の戯れに退屈を覚える。そんな折、動物園で知り合い親しんだ少年・稔の養父・本多福次郎の嫉妬により、悠一は同性愛者であることを母や妻・康子に密告される。彼は窮地に陥り、京都にいる鏑木夫人に助けを求める。悠一に母性的な無私の愛を抱くように変化していた鏑木夫人は悠一のため尽力して、危機を救った。2人の間には友愛のような関係が生まれる。

やがて悠一は俊輔から独立しようと、河田との別離の手切金を持って俊輔宅を訪問する。すでに老作家・俊輔は、徐々にそういう成り行きを予感し、また、自分がいつの間にか悠一を愛していることをはっきりと自覚していた。俊輔は全財産を彼に譲る遺言を残し、悠一の傍らで、眠るように自殺をする。

登場人物 [編集]

(年齢は数え歳

南悠一(22 - 23歳)
主人公。女性を愛さない同性愛者の美青年。某私立大学生。母のための持参金目当ての結婚を躊躇していたが、檜俊輔の強い勧めで結婚を決意する。檜俊輔の活き人形となって女たちを誘惑する。
檜俊輔(66 - 67歳)
全集を3度も出している老作家。一生を女に裏切られつづけてきた。悠一に自分を裏切った女性の復讐をさせる。
康子(19 - 20歳)
俊輔の復讐相手の一人。百貨店専務の父親と悠一の亡き父が古い親友同士で、悠一の許婚となる。悠一と結婚し、渓子を出産する。旧姓は瀬川。
南未亡人(56 - 57歳)
悠一の母。慢性腎炎を患う。
鏑木信孝元伯爵(43 - 44歳)
元伯爵の名でいくつもの会社の名目代表となり暮している。実は同性愛者。ゲイ仲間からはポープと呼ばれる。
鏑木元伯爵夫人(41、2歳)
昔、夫の元伯爵・信孝と組んで美人局で俊輔を嵌め、3万円を捲き上げた。俊輔の復讐相手の一人。夫が会長の会社の取引に関係ある進駐軍の要路相手に回春接待をしている。
穂高恭子(31、2歳)
10年前に俊輔を退けて他の男と結婚した。俊輔の復讐相手の一人。
英ちゃん(19歳くらい)
レストランの給仕。悠一の初めての相手。悠一にゲイバー・ルドンを教える。
ルディー(40代)
有楽町にあるゲイバー・ルドンの店主。クォーター混血
君ちゃん
ダンスホール「オアシス」のボーイ。ルドンの常連。
乾物屋の息子。ルドンの常連。
鈴木
ルドンで悠一を見かけ、大学で声をかけてきた青年。
ジャッキー
かつての美青年で今も若く見える。イギリス人やインド人の富豪のパトロンがいたこともある。戦時中はフランス大使館参事官の秘書だった。
ポープ(43 - 44歳)
鏑木信孝元伯爵。ジャッキー主催のクリスマス・パーティで悠一と鉢合わせする。
亮介(18歳くらい)
ジャッキー主催のクリスマス・パーティで悠一に見初められた少年。ポープ(鏑木信孝)と悠一を取り合う。
河田弥一郎(50歳)
河田自動車の社長。独身。
稔(17歳)
子供の頃、東京大空襲で孤児となり、親戚の家に引き取られたが、16歳の時に本多福次郎の養子となる。それまでの姓は渡辺。
本多福次郎(39歳)
稔の養父。神田で喫茶店を営んでいる。ボーイとして働いていた渡辺稔を養子にした。5、6年前に妻に逃げられた。
渓子(1歳)
悠一と康子の間に生まれた長女。
きよ
南家の女中。
松村(31、2歳)
薬品会社の二代目社長。河田弥一郎の知り合い。

作品評価・解説 [編集]

雑誌連載時の第一部(第18章まで)の結末は、鏑木夫人は失踪の後、自殺する終わり方となっていたが改訂され、生きかえらせている。のちに三島は、「夫人を自殺させることは、当初のプランでもあつたが、(中略)計画どほりに夫人を殺してから、私は早まつたと思つた。この人物には書くにつれて愛着が増して来てをり、殺すには惜しい女だつたからである」[4]と述べている。

野口武彦は、「すでにこの時期の三島氏の感性、戦時中に“日本浪曼派”に育まれた作家気質は、早くも俗悪な現実への復讐と“美”の征覇によるその成就という二つの契機(モメント)を抱懐している。(中略)南悠一は明らかに『仮面の告白』の“私”、あの一人称主人公の同性愛者の後身であるけれども、現実への復讐者である檜俊輔、この悠一という“作品”の創作者であり、その劇の演出者である老作家によって独自の“生”を与えられるのである。かくして“ヘレニズムの理想”を体現した美青年は、俊輔が構図するラクロ風の心理幾何学の世界で生活しはじめることになる。“現実の存在”としての資格を欠いた悠一が俊輔の復讐のパトスによって生きさせられることで生きることを開始するという設定は巧妙であり、作者はこの器用に“物語化”された虚構の中に私(ひそ)かに『仮面の告白』以来の主題、戦後社会で不適格者である自分の“感受性”と“気質”との救済の問題を盛り込むのである。そしてまた同時に、戦後の現実に対する兇暴な復讐の意欲をも」[5]と評している。

臼井吉見中村光夫との対談の中で、「とにかく、ふてえ小説だね。あんなの、今までないんじゃないかな。あれだけ挑戦的な、あれだけ本格の構想をもって挑みかかった小説は」[6]と本作について述べている。

石原慎太郎は、既成の価値への「挑戦と復讐」を、「面白くて、ぞくぞくして読んだ」[7]と回顧している。

ドナルド・リチーによると、三島は1952年(昭和27年)にニューヨークを訪れた際、当地でしたいこととして、聖セバスチャンの絵をある限り見ること、シュトラウスサロメメトロポリタン歌劇場で観ることとともに、執筆中の『禁色』のために実際のゲイ・バーへ行ってみたいと案内役のドナルド・リチーに頼み、二人でグリニッジ・ビレッジのゲイバーを訪ねたという[8]

舞台化 [編集]

おもな刊行本 [編集]

  • 『禁色 第一部』(新潮社、1951年11月10日)
    カバー装幀:林武。布装。カバー(表)下辺に三島の文章
  • 『秘楽 禁色 第二部』(新潮社、1953年9月30日)
    カバー装幀:林武。布装。カバー(表)下辺に三島の文章
  • 文庫版 『禁色 上巻』(新潮文庫、1954年11月10日)
    第1章 - 18章。付録・解説:大井広介
  • 文庫版 『禁色 下巻』(新潮文庫、1954年11月15日)
    第19章 - 33章。
  • 文庫版 『禁色』(新潮文庫、1964年4月30日。改版1969年、1988年)
    上下合冊。付録・解説:大井広介
    ※ 改版1969年より、解説が野口武彦に変更。
  • 英文版『禁色―Forbidden Colors』(訳:Alfred H. Marks)(チャールズイータトル出版、1969年1月。他)

脚注 [編集]

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  1. ^ 木村徳三『文芸編集者の戦中戦後』(大空社、1995年)(底本『文芸編集者 その跫音』(TBSブリタニカ刊、1982年)
  2. ^ 野坂昭如『赫奕たる逆光 私説・三島由紀夫』(文藝春秋、1987年)
  3. ^ デヴィッド・シルヴィアン『禁じられた色彩』(ヴァージン・ジャパン)、坂本龍一戦場のメリークリスマス』Soundtrack(ミディ)にも収む。
  4. ^ 「あとがき」(『三島由紀夫作品集3』)(新潮社、1954年)
  5. ^ 野口武彦「解説」『禁色』(新潮文庫、改版1969年)
  6. ^ 臼井吉見『対談・三島由紀夫』(中村光夫との対談)(文学界 1952年11月号に掲載)
  7. ^ 石原慎太郎『「禁色」試論―描かれざるカタストロフ』(国文学 1976年12月号に掲載)
  8. ^ Japan Journals: 1947-2004 by Donald Richie

参考文献 [編集]

  • 文庫版 『禁色』(付録・解説 野口武彦)(新潮文庫、改版1969年)
  • 松本徹『三島由紀夫を読み解く(NHKシリーズ NHKカルチャーラジオ・文学の世界)』(NHK出版、2010年)
  • 『決定版 三島由紀夫全集第42巻・年譜・書誌』(新潮社、2005年)
  • 『決定版 三島由紀夫全集第3巻・長編3』(新潮社、2001年)
  • 佐藤秀明『日本の作家100人 三島由紀夫』(勉誠出版、2006年)

関連事項 [編集]