豊饒の海
| 豊饒の海 | |
|---|---|
| 著者 | 三島由紀夫 |
| 発行元 | 新潮社 |
| ジャンル | 小説 |
| 国 | 日本 |
| 言語 | 日本語 |
『豊饒の海』(ほうじょうのうみ)は、三島由紀夫の長編小説。「春の雪」「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」の4部からなり、「浜松中納言物語」に題材をとる。1965年から1970年にかけ、月刊の文芸雑誌『新潮』に連載された。
目次 |
[編集] 概要
「夢と転生」がテーマ。20歳で死ぬ青年が、次の巻の主人公に生まれ変わっていく。仏教の唯識思想、神道の一霊四魂説、能の「シテ」「ワキ」、春夏秋冬、など様々な東洋の伝統を踏まえて書かれている。なお第一巻は和魂を、第二巻は荒魂、第三巻は奇魂、第四巻は幸魂を表すと三島は述べている。
第四部「天人五衰」の入稿日に三島は、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺した(三島事件)。「豊饒の海」とは、月の海の一つである「Mare Foecunditatis」の訳語である。
創作ノートからは、当初の構想は全く異なるものであったことがうかがえる。最終巻の文庫解説(田中美代子)末尾で、掲載終了が当初の予定よりも約1年余り早まったと記述される。
[編集] あらすじ
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[編集] 第一巻・春の雪
生まれたときから貴族であることが約束されている侯爵令息・松枝清顕は自尊心の強い繊細な人物であった。何不自由ない生活を送っていたが、流れるままの生活に何か蟠りを抱えていた。そんな彼にとって、幼馴染の伯爵令嬢・綾倉聡子は特別な存在であった。聡子もいつからか清顕を恋い慕うようになっていた。が、些細なことで自尊心を傷つけられた清顕は突き放したような態度をとるようになる。聡子は失望して洞院宮治典王と婚約する。皇族の婚約者となったことで、聡子との恋が禁断と化したことから、日常生活からの脱却を夢見る清顕は、聡子に関係を迫り、聡子もこれを受け入れる。しかし聡子の妊娠によって、二人の仲は両家に知れ渡り、聡子は大阪の松枝侯爵の知り合いの医師の元で中絶をし、そのまま奈良の門跡寺院「月修寺」に出家する。なおも清顕は聡子との面会を希望するが、聡子は拒絶する。雪中で待ち続けたことが原因で肺炎をこじらせ、清顕は20歳の若さで死ぬが、死ぬ直前に親友・本多繁邦に転生しての再会を約束する。
[編集] 第二巻・奔馬
聡子と結ばれることなく清顕が死んでから19年。彼の親友であった本多繁邦は、大阪控訴院(高等裁判所に相当)判事になっていた。繁邦は、清顕と同じく三つの黒子を持つ少年、飯沼勲と出会う。繁邦は彼から、愛読していたという『神風連史話』を渡される。勲はその精神を以て有志達と「純粋な結社」を結成、決死の何事かを成し遂げようとしていた。清顕の夢日記に符合する出来事が起き、繁邦は彼が清顕の生まれ変わりであると確信を深めるが、勲は財政界の黒幕を殺害し、20歳で鮮烈な自決を遂げる。
[編集] 第三巻・暁の寺
繁邦は、かつて清顕と親交のあったシャム(タイ)の王子と、そのいとこの故郷であるバンコクに来ていた。そこで彼は、日本人の生まれ変わりであると主張する、王女・月光姫(ジン・ジャン)と出会う。繁邦はインドにも旅行し、そこで深遠な体験をする。インドの体験と親友の生まれ変わりに触発され、仏教の輪廻転生、唯識の世界にも足を踏み入れた繁邦。やがて終戦を迎え、来日した姫に繁邦は年齢不相応の恋心を抱き、翻弄される。だが、彼女も20歳でコブラに噛まれ、亡くなる。
[編集] 第四巻・天人五衰
天人伝説の伝わる三保の松原。その近く、清水港の帝国信号通信所で働く聡明な16歳の少年、安永透。80になった繁邦は、透を清顕の第3の生まれ変わりでないかと考え、養子にして英才教育を施す。やがて成長し、転生の話を知った透は、21歳の誕生日に毒を仰ぎ自殺を図り、未遂に終わったものの、失明してしまう。死期を悟った繁邦は、60年ぶりに奈良の月修寺へ、尼僧門跡となった聡子を訪ねるのであった。
なお、当初予定された題名は『月蝕』だった。モデルとなった寺院は奈良市にある『圓照寺』である。
以上で物語・作品・登場人物に関する核心部分の記述は終わりです。
[編集] 登場人物
- 松枝清顕(1巻)
- 第1巻の主人公。松枝侯爵家の一人息子。祖父は明治維新の功臣。幼少期には堂上貴族の綾倉家に行儀見習いとして預けられていた。そこの一人娘で幼馴染の聡子と禁断の恋に落ちるが、かなわず病死する。滝の下で会うという言葉を残す。
- 綾倉聡子,のち月修寺門跡(1巻、4巻)
- 羽林家綾倉伯爵家の一人娘。清顕より2歳年長で、かつては姉弟のように育った。
- 本多繁邦(全巻)
- 全巻にわたって登場し、主人公の転生に居合わせる。清顕の親友。後に大阪控訴院判事となる。後に退職して弁護士になる。このシリーズ全体のキーパーソン。
- 松枝侯爵(1巻、2巻)
- 清顕の父。
- みね(1巻、2巻)
- 松枝の女中で松枝侯爵家の下女。後に飯沼茂之の妻となり、勲を産む。
- 飯沼茂之(1巻~3巻)
- 松枝家の書生。女中であったみねと出奔する。勲の父。後に右翼団体「靖献塾」塾長となる。
- 綾倉伊文伯爵(1巻)
- 聡子の父。
- 蓼科(1巻、3巻)
- 綾倉家に仕える老女。清顕と聡子の逢引の手助けをする。
- 洞院宮治典王(1巻、2巻)
- 皇族、軍人。聡子と婚約し、婚姻の勅許が下りる。
- 飯沼勲(2巻)
- 第2巻の主人公。滝の下で会い、清顕の生まれ変わりと本多に見られる。國學院大學予科学生。剣道3段。昭和の神風連たらんと行動をおこす。南国に居るという様なうめき声を遺す。
- 佐和(2巻)
- 靖献塾の年長塾員。勲の理解者だが、一筋縄ではいかない人物。
- 鬼頭槇子(2巻、3巻)
- 歌人で名高い鬼頭中将の娘で、当人も歌人。鬼頭家と飯沼家は家族ぐるみの付き合いがある。実在の歌人斎藤史をモデルとする。
- ジン・ジャン(3巻)
- 第3巻の主人公タイの王女。勲の生まれ変わりと本多に見られる。
- 久松慶子(3巻、4巻)
- 本多の友人。透に本多の秘密を教える。
- 安永透(4巻)
- 第4巻の主人公。中学卒業後、清水港で通信員をしている。後に本多がジン・ジャンの生まれ変わりだと信じて養子にする。 ポスト三島文学である、村上春樹や山田詠美 の作品の登場人物の「先駆」となるような戦後的人格。ポスト団塊世代。
- 絹江(4巻)
- 自分を美しいと思っている狂女。透が心を許している数少ない人物。
[編集] 影響
- 映画『地獄の黙示録』を監督したフランシス・フォード・コッポラは、撮影の際、しばしば『豊饒の海』を手に取り、作品の構想を膨らませたという[1]。
- 晩年の市川雷蔵は『春の雪』の舞台主演を強く希望していたが、病状悪化と逝去で実現しなかった[2]。なお最初の舞台化は、菊田一夫演出で市川染五郎(のち9代目松本幸四郎)と佐久間良子(最初の舞台主演)の共演で、1969年に上演された。三島も文章を寄せた。
[編集] 現行文献
- 『春の雪』 新潮社〈新潮文庫〉、1977年7月。ISBN 978-4-10-105021-8。解説佐伯彰一
- 『奔馬』 新潮社〈新潮文庫〉、1977年9月。ISBN 978-4-10-105022-5。解説村松剛
- 『暁の寺』 新潮社〈新潮文庫〉、1977年11月。ISBN 978-4-10-105023-2。解説森川達也
- 『天人五衰』 新潮社〈新潮文庫〉、1977年12月。ISBN 978-4-10-105024-9。解説田中美代子、※各2002年に改版
[編集] 参考書籍
- 頼藤和寛 『自我の狂宴 エロス・心・死・神秘』 創元社、1986年8月。ISBN 4-422-11079-9。
- 頼藤和寛 『ココロとカラダを越えて エロス・心・死・神秘』 筑摩書房〈ちくま文庫〉、1999年4月。ISBN 4-480-03473-0。
[編集] 映像化
[編集] 脚注
- ^ エレノア・コッポラ『ノーツ コッポラの黙示録』(原田真人ほか訳、マガジンハウス、1992年 ISBN 4838703945)、新訳版『「地獄の黙示録」撮影全記録』(岡山徹訳、小学館文庫 2002年、ISBN 4094025669)
- ^ 『雷蔵、雷蔵を語る』(飛鳥新社、のち朝日文庫)、藤井浩明によるあとがき
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