日本の中高一貫校

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中高一貫校(ちゅうこういっかんこう)とは、中学校から無試験あるいはそれに近い形で併設・連携の高等学校に進学できるシステム(中高一貫教育)を取っている学校のことをいう。また、最近では既存の中学校と高等学校を統合した中等教育学校のことも俗語的にこう呼ぶこともある。

概説

元々は私立の学校がほとんどであったが、個々の生徒の能力に合わせた教育をするためには中学校と高等学校で全く別な教育をするよりも、一貫性を持たせた教育をした方がよいという考えから、近年では中学校と高等学校の教育を統合した公立の中高一貫校が徐々に作られてきている。

また、一部では小中高一貫校を作ろうという動きもある(早稲田大学系属早稲田実業学校初等部・中等部・高等部など)。

歴史的な観点から見ると、旧制中学校(5年制)が、新制高校に移行する過程で併設された新制中学と連続して教育を行う、旧学制の名残りということもできる[1]

本来、中等教育学校の場合は途中で外部に出ることを想定しなくてもよいが、中学校は卒業時点で内部進学以外の進路も取れるような対応がなされていることが望ましい。しかし、実際には、大学進学重視型の中高一貫校では中学校の就職指導や他学校への進学指導がおろそかになりがちである[要出典]

中高一貫校には、高校からも外部からの生徒募集をおこなう学校と、おこなわずに併設中学校の卒業生のみをそのまま入学させる、完全中高一貫校がある[2]。近年の傾向としては完全中高一貫校への移行が多い。完全中高一貫校は実質的には中等教育学校と形態はほぼ変わらないが、完全中高一貫校が中等教育学校へと移行する動きは見られない。その理由は、高等学校からの生徒募集を行わずに、完全中高一貫教育を行う私立の中高一貫校が少なくないことを考えれば、私立の完全中高一貫校の場合はわざわざ中等教育学校に改める必要はないからである[3]

公立の中高一貫校

従来の中学校・高等学校というもの以外に、中等教育における学校制度の複線化・多様化を実現する観点から推進されている。公立の中高一貫校には3つのタイプがある[4]

中等教育学校

中等教育6年間を一体のものとして教育を施す学校。うち、中学校に相当する3年間を前期課程、高等学校に相当する3年間を後期課程と呼ぶ。

6年間を一体のものとして教育が出来るため、中学校と高等学校の重複している内容を整理、精選して教育することが出来る。また、中学校で一部高等学校の内容を先取りすることも出来る。

前期課程を修了したものには中学校を卒業したものと同じ資格が与えられる。また、前期課程を修了した後他の高等学校を受験する道は閉ざされていない。

併設型中高一貫校

同じ設置者(都道府県や市町村)が中学校と高等学校を併設し、接続して中高一貫教育を行うもの。特徴は他の中学校からもその高等学校に進学できることである。高等学校では内部進学生と外部生が切磋琢磨して学校生活を送る。

基本的に併設されている中学校の生徒はそのまま高等学校に進学するが、他の高等学校を受験する道は閉ざされていない。

主に、都市部に設置される。

連携型中高一貫校

主に、地域と結びつきの強い高等学校とその地域の中学校が連携して取り組む事例が多い。連携中学校から連携高等学校へは簡便な選抜方法によって進学することが出来る。調査書や総合的学習の時間、中学校での取り組みをまとめた書類などを提出して審査を受ける。また、連携していない中学校からも一般の入試で受験することができる。連携中学校から他の高等学校への進学も可能である。

中学校の教師が高等学校で授業を受け持ったり、高等学校の教師が中学校の授業に参加し、中学校の教育内容の理解を深めたりする。また、中学校と高等学校が合同で部活動を行ったり、芸術鑑賞会を合同で鑑賞したりして生徒同士が交流を深めている。

ただし、他の高校に進学するものや連携中学校以外からも生徒が入学してくるため、他のタイプに比べ大幅なカリキュラムの変更が出来ないという欠点がある。

私立の中高一貫校

私立の中高一貫校には、大きく分けると完全中高一貫校と併設型中高一貫校の2つがあるものの、厳密には次のような3つのタイプがある。この項目では、『平成12年度版 全国 注目の中高一貫校』(学習研究社、1999年8月発行)の「第1部 「中高一貫校」これだけは知っておきたい!」のうち「中高一貫校タイプ別分類(システム編)」(pp.30-33)で記載されている内容に基づいて記載する。

完全中高一貫校

完全中高一貫型の学校では、高等学校での生徒募集を行わない。ただし、高等学校での生徒募集数を欠員補充程度にしたり、若干名の帰国子女などの通学圏外からの転居者を受け入れる完全一貫制の中高一貫校もある。
完全中高一貫校のメリットは、前掲の「1 完全一貫型」(p.30)に次のように記載されている。

中高完全一貫校のメリットは学習指導だけでなく、情操教育やしつけ教育なども、6年間の長いスパンのもとに、効率的に行えることにある。特に学習指導の面では、中高6年間にわたる学校独自のカリキュラムを編成して、無駄のない学習指導を行っている。

併設型中高一貫校(別クラス型)

別クラス型の中高一貫制の学校では、高等学校から入学した生徒と中学校から入学した内部進学の生徒とは、3年間別クラスになる。
前掲の「2 別クラス型」(p.31)には、次のように記載されている。

別クラス型一貫校とは、中学校を卒業した内部進学生(以下内進生)が高校に進学する際、高校から入学してくる外部進学生(以下外進生)とクラス編成を別にするもので、内進生は高校卒業まで外進生とは別のクラスで授業を受ける。つまり、中学から入学した生徒は、高校では持ち上がりクラスになり、6か年一貫のカリキュラムに従って学習する。
内進生と外進生の学習進度の違いを考慮して生まれてきた合理的なシステムであるともいえる。

併設型中高一貫校(混合型)

混合型の中高一貫制の学校では、中学校から入学した内部進学の生徒と高等学校から入学した外部進学の生徒を混合する時期が、高等学校第1学年から、高等学校第2学年から、高等学校第3学年からの3つのパターンに分類される。
前掲の「3 混合型」(p.32)の「混合する時期に3パターン」には、次のように記載されている。

中高一貫進学校のうち、60%以上の学校が、内進生と外進生を一緒にクラス編成をする混合型を採用している。混合する学年は、高1から、高2から、高3からの3タイプがある。
混合型で気になるのは、内進生と外進生の学習進度の違いをどうするかという問題であるが、高2からの混合型が最も多いのもその辺の事情をあらわしている。
高1から混合する場合でも、高1の数学は内進生と外進生は別クラス、高1の英語・数学・物理と国語の一部は別授業といったように進度差の大きい教科においては別授業を行う学校が少なくない。
また、外進生に対して放課後補習や夏休みの補習などによって内進生の進度に追いつくようにしている学校もある。


高等学校から第3学年から、中学校から入学した内部進学生と高等学校から入学した外部進学生を混合する場合は、高校入学後最初の2年間は内進生と外進生は別クラスになるほか、高等学校第3学年の生徒は学年の途中で満18歳の誕生日を迎え、国連子どもの権利条約第1条本文による子どもではなくなるとともに、中高一貫校に相当するドイツ連邦共和国ギムナジウム(Gymnasium)の上級段階(第11学年~第13学年)については、第11学年(日本の高等学校第2学年・中等教育学校第5学年)では学級単位で授業が行われるが、第12学年(日本の高等学校第3学年・中等教育学校第6学年)・第13学年(日本の大学教養部)では共通の授業集団としての学級が廃止され、生徒が選択した教科毎に授業集団が形成される[5]以外に、高等学校第3学年は旧制高等学校高等科若しくは大学予科の第1学年又は旧制専門学校高等師範学校若しくは女子高等師範学校の第1学年に相当する[6]ことから、高校3年からの外部混合については、準別クラス型の併設型中高一貫校に分類されることもある。

問題点

近年首都圏を中心に私立の中高一貫校への進学熱が加熱しており、ある程度の家計の豊かさを象徴するものとして、公立中学進学者との間に英国流の階級差となって現れることを懸念する向きもある。

公立中高一貫校は私立中高一貫校に比べて学費が安いが、公立中高一貫校に生徒が集中すると、一般の地元公立中学校には教育意欲に乏しい貧困家庭の生徒ばかりとなる恐れがあり、地方自治体が格差拡大に加担しているという批判がある[7]

小学校の成績上位者が中高一貫校を目指し、地元の公立中学に進学しなくなるという問題も指摘されている。公立中高一貫校の大館国際情報学院が設立された秋田県大館市では、同校に近い各小学校から成績上位者十数人がそれぞれ抜けるという事態が起こり、廃校すれすれ、クラス減すれすれの地域の中学校にとっては死活問題だという[7]。また、地元の公立中学が荒れているという風評が立っている地域では、富裕層の子供や成績上位者だけでなく、中流層の子供や学力中堅層までが私立中学や国立大学付属中学、公立中高一貫校などに流出してしまうため、さらに地元公立中学の荒廃に拍車がかかり、教育機関としての機能すら果たせなくなってしまうという悪循環に陥ってしまっているようなケースもみられる。

教育学者の藤田英典は以下の点で公立中高一貫校には問題があると指摘している[8]

エリート校化
いくら、一貫校を受験エリート校にしないため、学力試験による選抜を認めない[9]といっても、広域募集・広域選抜を行う限り、一貫校が「選ばれた生徒だけの特別の学校」になるのは構造的な必然である。普通の小学生が遠くの学校を自主的に選ぶということは一般的にはありえず、親の関心・選択が優先することになり、一貫校は教育熱心な恵まれた家庭の子供ばかりになる可能性が高い。
一貫校は特別の期待の下に設立されるので、予算面や施設面、運営面や教員配置の側面で一般の中学や高校よりも優遇される。
中等教育の複線化
小学生は、中学入学段階で広域募集・広域選抜を行う中高一貫校か、区域内の生徒を無選抜で受け入れる3年制中学校のどちらに進学するかを選ばなければならないことになる。かくして、一貫校に通う生徒と非一貫校に通う生徒、中学受験を経て入った一貫校の生徒と無試験で入った地元の中学校の生徒というように、中学生に実質的にも象徴的にも地位の分化が起きることになる。一貫校の方が高い評価を得るであろうから、この地位の分化は水平的ではなく、垂直的・序列的なものになるのは必至である。
一貫校がある程度多くなると確実に中等教育に新たな歪みを持ち込み、3年制公立中学の教育を今より遥かに難しいものにする。
学校選択の不公平
公立中学校の選択の自由は原則的に認められていないが、公立中高一貫校には選択の自由がある。そのため、一貫校の入学者と3年制の公立中学校の入学者の間で不公平が生じることになる。
中学受験の弊害
中高一貫校のメリットとして、高校入試が無いのでゆとりのある教育が実現できることが挙げられているが、実際には高校入試が小学校の段階に移るだけである。
選択肢としての各学校の違いは単なる好み(個性)の違いとして表れるのではなく、優劣・序列の差となって表れるから、受験競争の弊害が確実に小学校の教育に影を落とすことになる。中学校も現に序列化されている高校と同じ問題が起きるようになり、特に、相対的に、低位に位置づく学校が今より遥かに大きな難しさを抱え込むであろうことは想像に難くない。

その他

1959年東京都立世田谷工業高等学校が附属中学校を設置、技術者志望の学生を中高一貫教育で育成しようとした。公立校における中高一貫教育の試みとしては先駆的なものではあったが、技術者教育の高度化から大学高等専門学校への進学が多くなるにつれボーダーフリーに等しい状態になったことから[要出典]1973年に附属中学校を廃校している。

脚注及び参照

  1. ^ 現在の中高一貫校と修業年限が近い教育機関として旧制7年制高等学校も挙げられるが、7年制高校は旧制中学校の課程を4年制の尋常科で修めた後に3年制の高等科に学ぶ場所であり、中等・高等教育を一貫して行う点が、中等教育のみを前期・後期まとめて行う現在の中高一貫校と異なっている。学制改革に際して、7年制高校の高等科は新制大学に、尋常科は新制中高に移行したが、旧制武蔵高等学校の場合は全課程が新制武蔵中学校・高等学校武蔵大学に改組されている。
  2. ^ 例として、女子学院中学校・高等学校桜蔭中学校・高等学校双葉中学校・高等学校麻布中学校・高等学校武蔵中学校・高等学校駒場東邦中学校・高等学校などがこの形を採る。
  3. ^ 学研編集部編『中学受験実践ブックス 中学受験はじめの一歩から』(学習研究社、2002年10月初版発行)の「第3章 学校選び編」のうち「中等教育学校ってナニ」(pp.90-91)による。
  4. ^ 文部科学省ホームページ
  5. ^ 文部科学省編『諸外国の初等中等教育』(2002年3月発行)の「ドイツ」(丹生久美子執筆)の「2 教育内容・方法」の「(5) 授業形態・組織」のうち「ギムナジウム」に基づく。
  6. ^ 昭和23年文部省告示第47号(学校教育法施行規則第150条第4号に規定する大学入学資格に関し高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者)(抜粋)(1948年5月31日告示)の第1号、第2号及び第3号による。
  7. ^ a b 本間正吾公立中高一貫校のある景色 - 秋田県の公立中高一貫校を訪ねて -」『ねざす』第38号、神奈川県高等学校教育会館、2006年11月、2008年12月24日閲覧 
  8. ^ 藤田英典『教育改革…共生時代の学校づくり』岩波書店岩波新書〉(原著1997年6月20日)、pp. 79-86頁。ISBN 400430511X 
  9. ^ ただし、公立中高一貫校で行われる適性検査は実質的には学力試験と変わらない難易度と言われていて、適性検査の対策を指導している学習塾が多い。適性検査#国公立中高一貫校の入学者選抜における適性検査も参照のこと。

関連項目