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チシマザサ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
チシマザサ
栽培種/ロシア極東部のサハリン州(樺太)にて撮影。
栽培
ロシア極東部のサハリン州樺太)にて撮影。
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
階級なし : ツユクサ類 Commelinids
: イネ目 Poales
: イネ科 Poaceae
亜科 : タケ亜科 Bambusoideae
: タケ連(広義) Bambuseae
: ササ属 Sasa
: チシマザサ S. kurilensis
学名
Sasa kurilensis (Rupr.) Makino et Shibata (1901)[1]
シノニム
和名
チシマザサ
ロシア極東部のサハリン州にて撮影。

チシマザサ(千島笹[3]学名: Sasa kurilensis)は、イネ科タケ亜科ササ属英語版に分類される、大型のササ(笹)の一種。高山地帯に生え、ササ類では最も北に分布する。タケノコはアクが少なく、食用にされる。

[注 1]の基部が状に曲がっていることから、山菜名としてネマガリダケ(根曲竹[4]、根曲がり竹[5])の別名があるほか[1][3][6]、エチゴザサ[1]、ガッサンダケ[4]、クマイザサ[7]、クマダケ[6]、ジダケ(地竹)[6]、ササダケ[6]、チゴタケ[7]、チゴダケ[4]、ヤマタケ[7]などともよばれる。

分布と生育環境

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ササの仲間では最も北部に分布し、主な分布域は、朝鮮半島、日本の北海道本州東北地方関東地方北部・長野県鳥取県大山以北の日本海側)[3][4]千島列島南部、樺太(サハリン島)。山地の林下に群生し、特に日本海側ではブナ林内に大きな集団で群生する[3]。主に標高1000メートル前後の山地は、山の斜面を埋め尽くすほどの大群落をつくることが多い[7]

形態・生態

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5 - 6月ごろ、横に這った地下茎から新芽(タケノコ)が生えてくる[7]。タケノコは細長く、皮は淡紫赤色で、横向きに出てから弓なりに伸び上がる[4](かん)の基部が湾曲して斜めに立って伸び上がり、笹としては大型で高さ 1 - 3メートル (m)、直径1 - 2センチメートル (cm) になる[3][7]。根元は豪雪地における雪の重みで曲がるといわれている[8]。節が多くあり、で包まれている[7]。節はふくらまず、全体に毛がない[4]。稈の先端部でひとつの節から1本ずつ密に枝分かれし、枝の先に葉が数枚つく[3][7]。葉は長さ10 - 20 cmで、表面は緑色でつやがある[7]。節や葉の裏面は無毛である[7]

花は穂状で、約60年に一度とめったに咲かないが、咲くときは群落全体が咲き、結実後、枯死する。

日本では、モウソウチク(孟宗竹)が全国規模で普及する時代以前、すなわち、薩摩藩支配下にあった琉球王国経由でモウソウチクが移入されるより前の時代には、チシマザサは日本を代表する竹・笹類の一つであった[5]

分類

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下位分類

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チシマザサの、変種を含む品種を列記する。

フォーム
葉の先端が黄色の曙状。
稈が金明型(黄地に緑の縦筋)のタカラネマガリ。
1968年昭和43年)、兵庫県にある氷ノ山で、開花後の実生中から得られたものであり、葉に微小白点が霜降り状に無数に散在する。
稈や葉に黄緑条斑を持つ。
矮性のキンメイチシマ。
矮性のマキバネマガリ。
矮性のシモフリネマガリ。
葉がねじれる。
変種

利用

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[注 1]農作物の支柱や竹細工に利用される。タケノコは食用にする。東北地方でタケノコとりといえば、チシマザサのタケノコ(ネマガリダケ)をとりに行くことを言い、春を代表する山菜として有名である[7]

食用

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チシマザサの筍(タケノコ)は5 - 6月ごろに収穫でき、先端の3分の1(10 cmほど)が山菜として食べられている[3][7]。タケノコは、生え際を持って左右に倒すと簡単に折れて採取できる[8]。採れたての新鮮なものは灰汁が少ないので、皮を剥いて灰汁抜きせずに味噌汁や鍋、煮物天ぷらにしたり[8][4]、生で皮付きのまま焼いたあと、先端から湯気が出たら火からおろして皮を剥いて、醤油を落としたり味噌などをつけて食べたりする[3][9]。収穫してから時間が経つとアクが強くなるため、大量に取れたら保存も考慮して、できるだけ早く皮ごと米のとぎ汁で煮て、水にとって皮を剥く[3][4]。茹でたものはおひたしあんかけ田楽和え物、卵とじ、煮物に、と一緒に炊き込んでタケノコご飯にと、その利用範囲は広い[3][9][4]

北海道や富山県では、おでんの具として親しまれている。富山県では、すすたけと呼ばれ、富山おでんの具材として使われている[10][11]

東北地方ではネマガリダケ(タケノコ)をサケ(鮭)の水煮の缶詰と一緒に煮物にする[3]。煮切った酒を加えた昆布だしでタケノコを煮て、やわらかくなったところに鮭缶を汁ごと開けて、ひと煮たちさせてから塩や醤油で味を調えて作られている[12]

同様に長野県北信地方新潟県上越地方の山間部では、ネマガリタケ(長野県側の呼称)またはタケノコ(新潟県側の呼称、姫竹とも)と呼ばれるチシマザサの新芽が採れる時期に、サケではなくサバ(鯖)の水煮缶詰と一緒に味噌汁にして食べる習慣がある[13]。作り方や材料は各家庭によって違うが、基本は沸騰した鍋の中に、チシマザサと、缶詰から取り出した鯖を入れ、しばらくしてから地元特産の信州味噌あるいは越後味噌を入れ、ひと煮立ちさせて完成する。この味噌汁は、当該地域では春の特産として風物詩として親しまれている。

また産地の一つ青森県津軽地方の山間部で採取されるものはタケノコ(筍)と呼ばれ、当該地域では身欠にしんワカメのみをともにした素朴な味噌汁として同様に親しまれている。

道具の素材

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かつては豪雪地の冬の家内作業の一つとして、かんじきや魚籠(びく)、などが作られた[8]。チシマザサで作られたそれらの細工物は、堅牢かつ弾力性に富み、根強い愛好者もいるという[8]

チシマザサは、アイヌ語ではトㇷ゚と呼ばれる。アイヌ民族はチシマザサをの素材として用いた。鏃にトリカブトの根から得た矢毒を塗りこめ、アマッポ(仕掛け弓)に仕掛けてヒグマなど大型の獲物を狩った。また、アイヌ音楽の楽器のひとつ・ムックリ口琴)はチシマザサから作られていた(現在では本州産の竹が使われる)。

シャープのラジカセでスピーカーに採用されていた「ホロファイン振動板」には、チシマザサの幼稈パルプが用いられていた[14]

薬用

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春の新鮮な葉を採取して薬用にする。葉に含まれる葉緑素を利用し、胃炎への効果を期待して、葉を細かく裁断して水を適量加えてミキサーで青汁を作り、1回量5 - 10ミリグラム (mg)、1日当たり3回服用する民間療法が知られる[7]。葉緑素、ビタミンCKB1B2カルシウムを多く含むため、血液中の弱アルカリ性化と、葉緑素の胃炎に対する効果が期待されている[7]。また、ササの葉に含まれるサンソッコウ酸による殺菌・防腐作用があるため、食べ物を包むのにも利用される[7]

脚注

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注釈

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  1. ^ a b (かん)とは、イネ科植物などに見られる、中空構造の

出典

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  1. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sasa kurilensis (Rupr.) Makino et Shibata チシマザサ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年5月6日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sasa kurilensis (Rupr.) Makino et Shibata f. pseudokurilensis (Nakai) Sad.Suzuki チシマザサ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年5月6日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k 高橋監修 2003, p. 154.
  4. ^ a b c d e f g h i 金田初代 2010, p. 109.
  5. ^ a b 食彩の王国』”. tv asahi (ウェブサイト). テレビ朝日 (2012年7月14日). 2012年7月14日閲覧。 “夏にタケノコ?と驚きますが、実は春に出回る孟宗竹は18世紀に中国から伝来した外来種。古来、日本の山林に自生していたのはこうした笹類のタケノコだったのです。”:第434回「夏たけのこ」 7月14日放送回(紹介記事は「食材のリスト」経由で閲覧可能)。
  6. ^ a b c d 戸門秀雄 2007, p. 75.
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 主婦の友社編 2016, p. 110.
  8. ^ a b c d e 戸門秀雄 2007, p. 76.
  9. ^ a b 戸門秀雄 2007, p. 78.
  10. ^ 富山県富山市のかに面おでんと海鮮とろろ丼 孤独のグルメ”. BSテレ東. 2023年9月11日閲覧。
  11. ^ vfc_toyama. “すすたけ(ネマガリタケ)採りへ”. 野菜ソムリエコミュニティ富山(旧称ベジフルコミュニティ富山). 2023年1月30日閲覧。
  12. ^ 高橋監修 2003, pp. 154–155.
  13. ^ 高橋監修 2003, p. 155.
  14. ^ 大林国彦、鈴木晶久、廣島幸美「スピーカ用振動板素材ホロファイン」『シャープ技報』第51巻、シャープ研究開発、1991年12月、55-58頁、ISSN 02850362 

参考文献

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