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ダンス・ダンス・ダンス

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ダンス・ダンス・ダンス』は、村上春樹の長編小説1988年講談社より発刊。上下巻。1991年講談社文庫刊。

概要

俗に言う鼠三部作の続編。よって作中の「僕」は『風の歌を聴け』の主人公と同一人物。他の村上作品と同様、翻訳多数あり。

やや抽象的・奇抜な表現や台詞の多かった前三作に比べて作風はずいぶんと変わり、活字の量・物語性が増している。ただし、村上自身は前三作同様に自由に書いたものであるとしている[1]。また、それまでの村上作品に一貫したテーマである、資本主義の高度発展への社会批判、空虚感と孤独感が特徴として挙げられる。

『ノルウェイの森』がザ・ビートルズの曲名であるのと同様に、『ダンス・ダンス・ダンス』もアメリカのバンド、ザ・ビーチ・ボーイズのヒットソング名でもある。村上本人はこの小説のタイトルの由来について、「どちらでもいいようなものだけど」と前置きしつつも、「ザ・デルズという黒人バンドの曲名から取った」と述べている。これは、村上が渡欧前に日本で作り持って行った自作オールディーズテープに偶然入れていて、なんとなく聴いているうちに題名に使うことを思い立ったとのことである[1]

この作品の英語翻訳は、未成年の飲酒・喫煙のシーンや、文化的に英語圏の人間にはわかりづらい箇所、ボーイ・ジョージに関する描写などが諸々の理由からカットされている。


注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。


ストーリー

1983年。フリーのコピーライターとして「文化的雪かき」に従事する「僕」は、何かに呼ばれているような焦燥を感じていた。それを確かめるためには、もう一度「いるかホテル」に戻らなければならない。そこでは誰かが「僕」を求め、「僕」のために涙を流しているのだ。

登場人物

僕(主人公)
元翻訳事務所勤務。現在はフリーライターとして「文化的雪かき」に従事している。
キキ
前作「羊をめぐる冒険」に登場した、耳に特別な力を持つ「僕」の元恋人で元高級コールガール
五反田君
「僕」の中学時代の同級生で、人気映画俳優。フルネームは五反田亮一。映画「片想い」でキキと共演する。
ユキ
「僕」が「ドルフィン・ホテル」で出会った13歳の美少女。特別な感受性を持つため周りに馴染めず、不登校。煙草はバージニア・スリムを愛飲している。
アメ
ユキの母親で新進写真家。独創的で力強い写真を撮る。写真のこととなるとユキを放ったらかしにして旅行に行くなど、熱中すると周りが見えなくなる性格の持ち主でもある。
牧村拓
ユキの父親。落ち目の作家。自分の作家としての才能はアメとユキによって吸い取られてしまったと思っている。女遊びなどが原因でアメとは離婚し、辻堂で書生と暮らしている。
ディック・ノース
詩人でアメの付き人。ベトナム戦争で片腕を失った。
メイ
キキの同僚だったコールガール。「僕」とセックスをした後に何者かに殺される。
マミ
キキの同僚だったコールガール。メイとともに「僕」と五反田君に買われる。
ジューン
ハワイに行く「僕」に牧村拓が買ってくれたコールガール。
ユミヨシさん
「いるかホテル」の跡地に建てられた「ドルフィン・ホテル」のフロントで働く眼鏡の似合う女性。「僕」が思いを寄せる。
書生のフライデー
牧村拓の付き人。ユキ曰くゲイらしい。
羊男
羊の皮を被った謎の男。ドルフィン・ホテルでいつまでも「僕」を待つ。
前作「羊をめぐる冒険」で死亡した「僕」の親友。
文学
「赤坂高級コールガール(メイのこと)殺人事件」を担当する赤坂署の刑事。昔の文学青年を髣髴とさせる見た目から「僕」がそう名づけた。
漁師
その同僚。漁師のように黒く焼けているため「文学」同様「僕」が名づけた。
「いるかホテル」の元支配人
かつての「いるかホテル」の支配人だったが、高級ホテル造成のため立ち退きを迫られた際に、新しいホテルに「いるかホテル」の名前を残す事を条件に土地を明け渡した。「僕」曰く「この時代の変化にとうてい生き残れるはずのない人間」。

特記事項

作品中に登場する牧村拓(まきむら ひらく)は、村上春樹(むらかみ はるき)のアナグラムである。このアナグラムは日本語としては成立しないが、英語アルファベット表記において成立している (MAKIMURA HIRAKU - MURAKAMI HARUKI)。このアナグラムは、村上作品英訳の研究者 塩濱久雄が、神戸で行われた作品の朗読会の場で村上に質問し、村上自身がそれを認めている(塩濱は現 神戸山手大学准教授で、自論文中で経緯の記述がある)。本作品における牧村拓は、純文学作家として当初成功するものの、すぐに行き詰まり、世界各地へ出かけて得た奇抜な体験を書き散らす「冒険作家」として描かれている。

村上は本書にハワイが出てくる理由について、本書執筆の大半を費やしたローマの家があまりにも寒かったので、完成したらハワイに行こうと妻に提案し、それからはハワイのことを考えながら執筆を続けたからであるとしている[1]

村上は本書を執筆した動機について、『羊をめぐる冒険』を書いた後に、「主人公に申し訳ないことをした」という思いを抱いたことであると語っている[要出典]

また本書の続編を書くつもりはないとも語っている[2]

本書は2002年時点で、単行本・文庫本を合わせて229万部が発行されている。

脚注

  1. ^ a b c 村上春樹『遠い太鼓』(講談社文庫)
  2. ^ 村上春樹『「そうだ、村上さんに聞いてみよう」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?』(2000年8月 朝日新聞社)、15頁

関連項目