サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦

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サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦
艦級概観
艦種 ドック型輸送揚陸艦 (LPD)
艦名 アメリカ合衆国の都市
就役期間 2006年-就役中
前級 トレントン級
次級 (最新)
性能諸元[1]
排水量 軽荷: 19,208 t
満載: 25,883 t
全長 208.5m
全幅 31.9m
吃水 7.0m
機関 CODAD方式
コルト-ピルスティク16PC2-5 STCディーゼルエンジン(10,400 bhp 4基
可変ピッチ・プロペラ 2軸
速力 最大22ノット
航続距離 8,000海里 (18kt巡航時)
乗員 個艦要員: 士官29名+曹士351名
上陸部隊669名+予備人員101名
兵装 Mk.46 30mm機関砲 2基
Mk.26 12.7mm機銃 2基
Mk.49 21連装近SAM発射機 2基
艦載機 MV-22Bティルトローター 2機
C4I AN/USQ-119C(V)27 JMCIS
SSDS Mk.2
レーダー AN/SPS-48E 3次元式 1基
AN/SPQ-9B 低空警戒用 1基
AN/SPS-73(V)13 対水上捜索用 1基
電子戦
対抗手段
AN/SLQ-32A(V)2 電波探知装置
Mk.53 連装デコイ発射機 2基
Mk.137 6連装デコイ発射機 4基
AN/SLQ-25A 対魚雷デコイ装置

サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦(サン・アントニオきゅうドックがたゆそうようりくかん、英語: San Antonio-class amphibious transport dock)は、アメリカ海軍ドック型輸送揚陸艦(LPD)の艦級。

来歴

1980年代より、アメリカ海軍は海兵隊と共同で、揚陸艦の近代化・輸送力向上のための研究に着手していた。この結果、従来は様々な種類の艦を寄せ集めて適宜編成されていた両用即応グループ(ARG)の構成艦の均一化が計画された。この新編成においては、強襲揚陸艦(LHAまたはLHD)とドック型輸送揚陸艦(LPD)、ドック型揚陸艦(LSD)1隻ずつで構成されることとされていた。当時、トーマストン級およびアンカレッジ級LSDの老朽化が進んでいたことから、まずこれらを代替するホイッドビー・アイランド級およびハーパーズ・フェリー級12隻が建造された。続いてLPDとして建造されたのが本級である[2]

1988年より、まず種々の選択肢の検討による暫定要求仕様の準備が着手された。1989年から1992年にかけて可能性研究、1993年から1994年にかけて予備設計、1994年から1996年にかけて契約設計が行われた。ネームシップの建造は1996年度計画で認可され、1996年12月、エイボンデール造船所が建造契約を落札したものの、入札で敗れたインガルス造船所の抗議のために、実際の建造契約は1997年4月まで遅延した[2]

設計

横図
断面図

設計にあたっては、アメリカ海軍の揚陸艦として初めてステルス性への配慮が導入された。特にマストについては周囲が八角柱に近い構造のパネルにより覆われた先進型閉囲マスト/センサーとなっており、外部からのレーダー波を反射し、自艦の電波は透過するようになっている。前檣の頂部ドームにはAN/SPQ-9B低空警戒レーダー、本体内にはAN/SPS-73(V)13対水上捜索レーダーが、また後檣にはAN/SPS-48E 3次元レーダーが装備される[2]。これらの配慮により、レーダー反射断面積(RCS)はオースティン級の1パーセント程度にまで低減されている[1]

居住区は、士官用のものは上部構造物に、海兵隊員用を含む大部分は主船体内の車両甲板の直前に設けられている。就寝時・起床時兼用寝台(Sit-up berth)の採用や艦内広域ネットワーク(SWAN)による電子メール送受信など、艦内生活の質的向上にも意が払われた[2]

主機関はホイッドビー・アイランド級およびハーパーズ・フェリー級と基本的に同構成で、ターボチャージャーを備えたコルト-ピルスティク16PC2-5 STC中速ディーゼルエンジン[1][3]4基によって構成されており、可変ピッチ・プロペラ2軸を駆動するCODAD方式である。また煙突は左右非対称の配置となっており、右前部と左中部にある。機械室と補機室は横隔壁によって複数区画に分割されており、被害極限による生残性向上が考慮されている[2]

能力

輸送揚陸機能

本級は、オースティン級クリーブランド級およびトレントン級を含む)のみならず、チャールストン級貨物揚陸艦ニューポート級戦車揚陸艦をも代替するものとして設計された[4]

貨物揚陸艦のようなクレーンによる重量物の舷側揚陸能力、戦車揚陸艦のような擱座着岸能力、従来のドック型輸送揚陸艦のような揚陸指揮艦能力には欠けているが、これら3艦種とLSDを合わせたほどの輸送揚陸能力を備えている[3]1990年代の揚陸艦はいずれも車両搭載能力が不足していたことから、本級では3層・計2,323 に及ぶ車両甲板が確保されている。物資搭載能力は963 であり、また弾薬についてはパレット搭載分708 m³、弾薬庫1,007 m³に収容できる。このほか、ジェット燃料(JP-5)1,196 m³、ガソリン38 m³も搭載できる。また逆浸透膜による海水淡水化装置5基を備えており、それぞれ毎日45,000リットルの真水製造能力を備えている[1]

病院船機能として、手術室2室と病床24床が設けられており、また必要であれば更に病床を100床に拡張することができる[1]

LPDはもともと強襲揚陸艦に近い性格を備えていた[3]ことから、本級も優れた航空運用能力を備えている。上部構造物の後端はハンガーとされており、MV-22Bティルトローターであれば2機、CH-46E輸送ヘリコプターであれば4機を収容できるほか、AV-8B垂直離着陸機の支援も可能である。また艦尾甲板はヘリコプター甲板とされており、発着スポット2個が設定されている。またヘリコプター甲板直下のウェルドックはオースティン級と同程度の面積であり、LCACであれば2隻、LCUであれば1隻、AAV7であれば14両を収容できる[1]

個艦防御機能

アメリカ海軍では、全てのヴィークルが協力しあって交戦することを構想しており、このために本級にもかなり強力な戦闘指揮システムが導入されている。戦術情報処理装置としてACDSブロック1が搭載されており、これを含めた統合システムとして艦艇自衛システム(SSDS)Mk.2が構築されている。統合戦術情報伝達システム(JTIDS)が搭載されているほか、共同交戦能力(CEC)も導入されている[1]

各級指揮官の情報共有・戦術状況評価のためのC4IシステムとしてAN/USQ-119C(V)27 JMCISが装備されているほか、水陸両用作戦の指揮・統制のため、AN/KSQ-1強襲揚陸指揮システム(AADS)も装備されている[1]

武装として、近距離の空中目標に対してはRAM近接防空ミサイルの21連装発射機2基、水上目標に対してはMk.46 30mm機関砲が搭載されている。当初計画では、上部構造物直前にESSM個艦防空ミサイルのためのMk.41 VLS16セルの搭載が予定されていたが、まず当初3隻分から、その後最終的に全艦で削除された。しかし後日装備可能なように容積・重量の余地は確保されている[1]

同型艦

2014年3月までに9隻が就役している。1番艦の建造費は約14億USドルであった。

# 艦名 建造所 起工 進水 就役
LPD-17 サン・アントニオ
USS San Antonio
エイボンデール 2000年
12月9日
2003年
7月12日
2006年
1月14日
LPD-18 ニューオーリンズ
USS New Orleans
2002年
10月14日
2004年
12月11日
2007年
3月10日
LPD-19 メサ・ヴェルデ
USS Mesa Verde
インガルス 2003年
2月25日
2004年
11月19日
2007年
12月15日
LPD-20 グリーン・ベイ
USS Green Bay
エイボンデール 2003年
8月11日
2006年
8月11日
2009年
1月24日
LPD-21 ニューヨーク
USS New York
2004年
9月10日
2007年
12月19日
2009年
11月7日
LPD-22 サンディエゴ
USS San Diego
インガルス 2007年
5月23日
2010年
5月7日
2012年
5月19日
LPD-23 アンカレッジ
USS Anchorage
エイボンデール 2007年
9月24日
2011年
2月12日
2013年
5月4日
LPD-24 アーリントン
USS Arlington
インガルス 2008年
12月18日
2010年
11月23日
2013年
2月8日
LPD-25 サマセット
USS Somerset
エイボンデール 2009年
12月11日
2012年
4月17日
2014年
3月1日
LPD-26 ジョン・P・マーサ
USS John P. Murtha
インガルス 2012年
6月6日
2014年
10月30日
2016年
(予定)
LPD-27 ポートランド
USS Portland
2013年
8月2日
2017年
(予定)

登場作品

小説

『日中開戦7 不沈砲台』 ISBN 978-4-12-501348-0
佐世保基地内で修理中だった「グリーン・ベイ」が出撃し・・・

ゲーム

大戦略シリーズ
マーセナリーズ2 ワールド イン フレームス
ミサイル駆逐艦」という名称で登場。国連軍が使用する揚陸艦という位置づけになっている。

参考文献

  1. ^ a b c d e f g h i Eric Wertheim (2013). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 16th Edition. Naval Institute Press. pp. 866-867. ISBN 978-1591149545 
  2. ^ a b c d e 吉原栄一「ドック型輸送揚陸艦「サン・アントニオ」級 (特集 アメリカ海軍の新型艦艇) -- (アメリカ海軍の新型艦艇)」『世界の艦船』第623号、海人社、2004年3月、98-101頁、NAID 40006087510 
  3. ^ a b c 「アメリカ揚陸艦史」『世界の艦船』第669号、海人社、2007年1月、1-135頁、NAID 40015212119 
  4. ^ 阿部安雄「アメリカ揚陸艦の歩み」『世界の艦船』第669号、海人社、2007年1月、137-143頁、NAID 40015212119 

外部リンク