カキストクラシー
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カキストクラシー(kakistocracy)とは、政府がまともな統治の意志や、適切な統治技術・知識を持ち合わせない、その国家・集団・社会における最も低劣で無軌道な集団に支配されている政体。最劣等者支配。壊人政府。悪人政治。
衆愚政治を通り越した政治における最悪の状態で、aristocracy（優れた者たちによる支配）の対極に位置する。
語源
古代ギリシャ語でκακιστος (kakistos, “最悪”) + -κρατια (-kratia, “権力、支配、政府”)が組み合わさってできた語。
概要
主として、民主制など民衆の参加、少なくとも民主的な掛け声の元で政権が決まる環境において、国家・社会の全体構造が把握できない大衆の即物的欲求に応える事を題目に政権を獲得するものの、実際には有害な政策ばかり行う集団に対して用いられる[1]。通常、君主制など民衆の意志と関係なく権力者が選ばれる貴族制に類する政体には用いられない。
中国語では"悪人政治"と訳されるが、意図的に社会に害を与えようとしているかいないかは必ずしも関係ない。まともな統治をする意志がない者は元より、誤った思想に取り憑かれた者、有効な統治技術を持ち合わせていない者、統治知識と関係のない下層階級を母体とする集団などが民衆の支持によって政権についた結果、社会に大きな害をもたらすときkakistocracyであると呼ばれる。
事例
アジア
- 秦末に「王侯将相いずくんぞ種あらんや」と農民の身から反乱を起こし張楚という王朝まで建てたが、軍事・統治技術の欠落から敗北して御者に殺された陳勝
- 塩の密売人として民衆の支持を得、長安を占領して唐を実質滅亡に追い込んだが、知識人の殺害や略奪を繰り返して支持を失い滅亡した黄巣
- 流賊を糾合して北京を占領し明朝を倒したが、恐怖政治の元、略奪・強姦・殺人など蛮行を許し、四十日で天下を失った李自成
- 屠蜀と呼ばれる大虐殺を行い、蜀の人口を激減させた明代末期の農民反乱指導者張献忠
- 毛沢東による3600万人の餓死者を生み出した大躍進政策、同じ毛沢東主導で下層民による知識人の虐殺、文化の破壊が横行した文化大革命
- 毛沢東主義に影響を受けたカンボジアのポル・ポトによる民主カンプチア
アフリカ
- 第二次大戦後に欧州の植民地から独立したアフリカの諸国、特にビアフラ戦争を引き起こし、汚職や政治腐敗の横行するナイジェリア、ルワンダ虐殺時のフツ系政権、第二次コンゴ戦争時のコンゴ民主共和国、ダルフール紛争時のスーダン政府など[2]
- リベリアのチャールズ・テーラー[3][4][5]
- 産業技術を持つ白人を追放し、231,000,000%という歴史的なインフレーション[6]と95%という失業率[7]を招いたジンバブエのロバート・ムガベ[8]
ヨーロッパ
- 「共和国は学者を必要としない」とラヴォアジエら知識人を処刑し、リヨンを筆頭に虐殺・文化・都市の破壊を行った恐怖政治時代のフランス革命
- ソヴィエト連邦崩壊後に誕生した諸国の内、混乱期のロシアやオレンジ革命を必要としたウクライナ、チューリップ革命の起きたアスカル・アカエフ政権など。特に首相を含む五人の閣僚らが殺害されたアルメニアがもっともその色が強い。バルト三国は除く。[9]
脚注
- ^ "To characterize this new type of regime the definition of ‘kakistocracy’ has been introduced, which means a merger between the state structures and the oligarchic elements as a result of the systematic plunder of national assets and establishment of a rule of lawlessness and illegal usurpation of power under the slogans of democracy and market economy." Vahram Abadjian 「Kakistocracy or the true story of what happened in the post-Soviet area」
- ^ Herbert Ekwe-Ekwe 『Readings from Reading. Essays on African Politics, Genocide and Literature』 pp5-6
- ^ Max Ahmadu Sesay 「Politics and Society in Post-War Liberia」 『The Journal of Modern African Studies』 Vol. 34, No. 3 (September, 1996), pp. 395-420
- ^ Stephen Cottle 「Co-opting Warlords: A Strategy for Success?」 『Trierer Arbeitspapiere zur Internationalen Politik, Nr. 12』 ,Department for International Relationships and Foreign Policy at the University of Trier, (October,2006)
- ^ 『Fragile States and Development in West Africa』 United Nations Economic Commission for Africa (February 2012)
- ^ Zimbabwe's inflation rate surges to 231,000,000% | World news | guardian.co.uk
- ^ Zimbabwe Unemployment rate | index mundi
- ^ Joseph Noko 「Dollarization: The Case of Zimbabwe」
- ^ Vahram Abadjian Kakistocracy or the true story of what happened in the post-Soviet area
参考文献
- Leonard Read 「Kakistocracy」 『THE FREEMAN』 (August 01,1963)
- Edwin Vieira, Jr. 『The Kakistocracy Exposes Its Hand』 (May 28, 2007)
- Vahram Abadjian 「Kakistocracy or the true story of what happened in the post-Soviet area」 『Journal of Eurasian Studies』 Volume 1, Issue 2, (July 2010), Pages 153–163
- Ronnie V. Amorado 『Kakistocracy: Rule of the Unprincipled, Unethical, and Unqualified』 (2011) (講演に用いられた絵図)
- Herbert Ekwe-Ekwe 『Readings from Reading. Essays on African Politics, Genocide and Literature』 African Renaissance (May 2, 2011) ISBN-13: 978-0955205019
- Joseph Noko 「Dollarization: The Case of Zimbabwe」 『Cato Journal』Volume.31 No.2 (June 15, 2011)
- 西部邁 総選挙－大衆社会の退屈きわまる大行事
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