PC-100

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

PC-100(ピーシーひゃく)は、日本電気(NEC)が1983年10月13日に日本国内向けに発売したパーソナルコンピュータ、およびその商品名である。

メモリ規格のPC100とは、まったく関係ない。

概要[編集]

日本のパソコン史上初の、マウスによるグラフィカルユーザインターフェース(以下GUI)をサポートしたマシンである。アスキー西和彦の提案により、日本版「Alto」を目指して開発された。

PC-8800シリーズを開発していたNECの電子デバイス事業グループ[1]主導で、開発をNECとアスキーおよび京セラ傘下のサイバネット工業[2]の3社、製造を京セラがそれぞれ担当した。実際の設計は日本マイクロハード松本吉彦らが担当した。

ハードウェア[編集]

基本仕様[編集]

CPUとしてIntel 8086のNECによるセカンドソース品であるμPD8086-2(8MHz動作モデル)を搭載し、CPUクロックを7MHzに抑える事により、128KBを標準搭載するメインRAMをノーウェイトアクセスで動作させる。また、容量360KBの5.25インチ2D(両面倍密度)フロッピーディスクドライブ(FDD)を、model 10は1基、他のモデルは2基を標準搭載する。model 10についても1基を追加搭載可能である。

VRAMはmodel 10とmodel 30は128KB、model 30は512KBを搭載。

GUI実現の上で重要なCRTコントローラDMAコントローラ、それにI/OコントローラなどにASICによるカスタムチップを積極的に採用して高速化と周辺回路の簡素化を実現し、設計当時としても決して強力とは言い難いCPUで実用に足る応答性能を実現している。

画面仕様[編集]

専用ディスプレイは縦置き・横置きを切り替えて使用可能である。専用ディスプレイのチルトスタンドに縦置き・横置きを検出する機械式スイッチが搭載されており、画面の表示モードもこれに合わせて自動的に切り替わる。

ディスプレイ横置き時に画面解像度720×512ドット、縦置き時は512×720ドットのビットマップグラフィックを表示可能。論理的には1024×1024ドットのグラフィック画面を備えており、ウィンドウ機能によりグラフィック画面の一部をディスプレイに表示する。これにより画面を上下左右に自由にスムーズスクロール可能としている。

テキストもビットマップ表示で行うため、専用のテキストVRAMを持つPC-9800シリーズと比べて表示速度が遅いという欠点があった。そのためVRAMを複数プレーン分重ね合わせて持ち、同時に読み書きする事により表示の高速化を図っている。

model 30はカラーボードと称する増設VRAM 128KB×3プレーン実装ドーターボードを標準搭載し、512色中16色のカラー表示が可能である。model 10とmodel 20は標準ではモノクロ表示で、カラーボードを追加搭載することで model 30と同様のカラー表示が可能である。

その他[編集]

GUI実現のキーデバイスであるマウスは、アルプス電気が開発してOEM供給した、初代マイクロソフトマウスの同等品を同梱する。

キーボードもアルプス電気製で、筐体デザインやこのキーボードの外装デザインなどはPC-8800シリーズと同様の意匠となっている。なお、キーボード右側面にマウス接続コネクタを装備する。

ソフトウェア[編集]

当初よりアスキーが国内代理店を務めていたマイクロソフトMS-DOSVer.2.01 を標準OSとして同梱し、VISUAL COMMAND INTERFACE(VISUAL SHELL、通称:VSHELL)と呼ばれるマウスオペレーションによるGUIシェルプログラムを搭載して、各種アプリケーションもこれらの環境で動作させることを前提として操作体系を極力統一する方針で設計されている。このVSHELLは、MS-DOS上にグラフィカルなシェルを実装するアプローチとして、のちにPC-9801のMS-DOS環境にいくつかのメニューソフトを派生させたルーツとも言われ、またMS-DOS 4.0で実装されたMS-DOS Shellに影響を与えたとも言われている。

その一方で、先進的なハードウェアに合わせて、BASIC全盛のこの時代にあっても、ROM-BASICを搭載していない。

この様な事情から、発売開始時点では市販アプリケーションのラインナップ整備が困難と判断され、ジャストシステムが開発した日本語ワードプロセッサ「JS-WORD」および単文節仮名漢字変換FEP「KTIS」や表計算ソフトMultiplan」、それにマイクロソフトが標準BASICとして普及を推進していたGW-BASICを基本にマウス入力などへの対応を図ったN100-BASICなどのMS-DOS用アプリケーションが標準添付されている。「JS-WORD」と「KTIS」は後に一太郎およびATOKへと形を変えることとなる。「Multiplan」はMicrosoft Excelの前身である。

また、マイクロソフトが標準BASICとして普及を推進していたGW-BASICを基本にマウス入力などへの対応を図ったN100-BASICなどのMS-DOS用アプリケーションが標準添付されている。また、ゲームソフトロードランナー」も同梱されている。

ユーティリティソフトとして、N88-DISK BASICで作成されたプログラムをN100-BASICのプログラムに変換する「FILCON」を搭載し、従来の8ビット機用ソフトウェアをPC-100で活用できるようにした。なお、DISK-BASICのファイルフォーマットをサポートしているため、DISK-BASICで作成したファイルから直接MS-DOS形式のファイルに変換可能である。また、ラインエディタである「EDLIN」の他に、スクリーンエディタとして「MS-NOTEPAD」が付属した。

ワードプロセッサと表計算ソフトによるオフィススイート環境の実現、デバイスドライバ方式によるFEPの組み込み、マウスオペレーションの大胆な採用など、MS-DOS環境での日本語処理環境やGUI環境の基礎となる概念・技術を初めて実装した存在ともいえ、当時の水準では傑出した先進的な製品だった。

標準でGUIに対応していたため、マイクロソフトが開発したWindows1.0をPC-100で動作するようにしデモを行った。しかし、タイルウインドウ表示のWindowsは注目されず日本向けに製品化されることはなかった。

PC-100の境遇[編集]

数々の先進的な機能を装備し、様々な画期的アプリケーションソフトを同梱する一方で、PC-100の置かれた境遇は、決して恵まれていたとは言えなかった。

当時NEC社内で主導権を争っていたのは、パーソナルコンピュータ市場で発展してきたPC-9800シリーズと、PC-9801シリーズのハードウェア・アーキテクチャのルーツでありオフコン市場で存在感を持っていたN5200シリーズである。PC-100は社外開発という事情から社内で重視されることはなかった。また、先進的な機能を盛り込んだために、model 30と専用カラーディスプレイ、プリンターのセットでは、実に100万円近い高価格で、それがネックとなり営業面でも熱心に販売されることはなく、普及にも繋がらなかった。

その後、市場はPC-100の後を追うようにアプリケーションのプラットフォームをBASICからMS-DOSへと急速に移行し、1980年代後半には、NECが社運をかけて売り込んだPC-9800シリーズの全盛時代となって行く。

このような経緯から、PC-100は商業的には失敗作とされ、マニアの間で不遇の名機として語られるところとなった。XEROXStarワークステーションによって提示されたGUIを指向しながらその高価格ゆえに失敗した、同じ1983年に登場したアップルコンピュータLisaとも、その広視野なコンセプトに相反する結果を辿ったことで、通じる点がある。

なお、PC-100は当初PC-9801を超えるものとしてシリーズ名をPC-10000として計画されていた。しかし、当時、PC-9800シリーズ用周辺機器は後年に統一名称となったPC-9801-xxだけではなく、PC-98xxと付番されていたものもあり、製品ラインナップ上の整合性の問題などからPC-100に変更された。周辺機器などの型番がPC-10000-xxとされていたことは当初のシリーズ名の名残である。

その後のPC-100[編集]

一般のパソコン市場ではPC-9800シリーズ全盛となった1980年代後半、姿を消したPC-100は、秋葉原などの中古・ジャンク市場に安価に出回り、主にマニアの間で細々と取引されていた。

マニアたちは、PC-9801用のMS-DOS(Ver2.11やVer3.10等)をPC-100で動作させるためのパッチなどを作成し、CPUの8086をピン互換のV30に換装して高速化、FDDを5.25インチ2DD(両面倍密度倍トラック 容量720KB)に乗せ替える等した上で、PC-9801用のバンクメモリカードを用いてメモリをフル増設し、さらにSASISCSIなどのインターフェイスを増設してHDDまで接続し、もっぱらMS-DOS互換環境として扱っていた。

PC-100はどのモデルでもソフト、ハードともに2DDドライブに対応しており、FDドライブを2Dから2DDに交換するだけで2DDのFDを利用できた。PC-100がその成立にまつわる事情から、ハードウェア的にPC-9801およびPC-8801シリーズのいずれかから流用した部分が多く、仕様も多分に重複していたため、心得たマニアにはこれらの増設パーツや補修部品の調達が容易だった。

アプリケーションについても、市販アプリケーションこそ供給されなかったものの、MS-DOSジェネリックなソフトウェアは当時の市場やパソコン通信などの世界にありふれていた。また、フリーソフトパブリックドメインソフトの一部には、PC-100対応版やPC-100対応モード等が専用に用意されるものや、未対応の一部のアプリケーションについてもPC-9801用のバイナリにパッチを当てて流用する手段が提供された。そのため、PC-100をMS-DOS互換環境として扱う限り大きく不足を感じる要素は無かった。

派生品[編集]

一時期、PC-100をCG用(FDDを5.25インチ2DDにアップグレード、HDDも内蔵)にカスタマイズしたものが、サードパーティーからシステム販売されていた事もある。

仕様[編集]

  • CPU:μPD8086-2(Intel 8086互換)7MHz
  • ALUIntel 8087実装可能(本体基板にソケットを実装)
  • メモリ
    • メインRAM:128KB標準装備(256KBまたは512KB単位で増設、最大640KB)
    • VRAM:128KB標準装備、カラーボード(増設VRAM 128KB×3プレーン)により最大512KB
      • model 10,20:カラーボード・オプション
      • model 30:カラーボード・標準搭載
    • ROM:32KB標準装備(ブート、診断プログラム、キャラクターフォントBIOS
  • 画面解像度
    • ディスプレイ横置き時
      • テキスト(英数カナ表示):80文字×25行、90文字×25行、90文字×32行、120文字×64行
      • テキスト(日本語表示):80文字×25行、90文字×25行
      • グラフィック:720×512ドット(VRAM空間上は1024×1024ドット)
    • ディスプレイ縦置き時
      • テキスト(英数カナ表示):64文字×45行、85文字×45行、85文字×90行
      • テキスト(日本語表示):64文字×45行
      • グラフィック:512×720ドット(VRAM空間上は1024×1024ドット)
  • 画面表示色
    • model 10,20:モノクロ(カラーボード搭載時:512色中16色指定)
    • model 30:カラー(512色中16色指定)
  • 補助記憶装置
    • FDD:5.25インチ2D(両面倍密度:360KB) - フロッピーディスクドライブは、PC-8801mkII以降に用いられていたものと同一の5.25インチ2Dドライブ(TEACのFD55B)であるが、MS-DOSのFAT12フォーマットを用いたため、フォーマット後の容量は360KBとなった。
      • model 10:1台(1台増設可)
      • model 20,30:2台
    • FDC:μPD765AC
    • HDD:PC-98H33、PC-98H31を接続可能(5インチ固定ディスクインタフェースボード経由)
  • キーボード:セパレートタイプ
  • マウス:キーボード接続方式、マイクロソフトマウス
  • 割り込みμPD8259A(エッジトリガー方式)
  • インタフェース
  • 汎用I/Oスロット
    • 72PINボード用スロット(縦差し式:本体カバーを外して装着)
      • カラー使用時:2スロット(1スロットをカラーボードで占有)
      • モノクロ使用時:3スロット
  • BASIC:N100-BASIC(MS-DOS上で稼動)
  • 外形寸法
    • 本体:幅400mm×奥行き350mm×高さ100mm
    • キーボード:幅408mm×奥行き195mm×高さ35mm

型番[編集]

本体[編集]

  • PC-10010(PC-100 model 10):398,000円(FDD1台搭載)
  • PC-10020(PC-100 model 20):448,000円(FDD2台搭載)
  • PC-10030(PC-100 model 30):558,000円(FDD2台、カラーボード搭載)

周辺機器[編集]

純正の周辺機器、拡張ボードには、PC-10000-nn(nnは数字)という型番が与えられている。

  • PC-10000-03:カラーボード(増設VRAM 128KB×3プレーン、model 10,20用)
  • PC-10000-05:256KB増設RAMボード
  • PC-10000-06:512KB増設RAMボード
  • PC-10000-08:5インチ固定ディスクインタフェースボード
  • PC-10000-09:ユニバーサルボード(インタフェース自作用)
  • PC-10000-11:増設フロッピーディスクドライブ(model 10用)
  • PC-10000-12:PC-IN501用パラレルインタフェースボード

専用ディスプレイ[編集]

チルトスタンドに縦置き・横置きを検出する機械式スイッチを搭載する。デガウス(消磁)機能付き。

  • PC-MD651:専用モノクロディスプレイ(59,800円)
  • PC-KD651:専用カラーディスプレイ(198,000円)

参考文献[編集]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 後に日本電気ホームエレクトロニクスへ移管。
  2. ^ PC-8800シリーズの製造も担当していた。1982年10月に京都セラミツク(京セラ)と合併。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]