ユダの手紙

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ユダの手紙』(ユダのてがみ)は新約聖書中の一書。わずか25節の短い書簡である。ユダ書ともいわれる。

著者および成立時期[編集]

本文中で著者は自らを「イエス・キリストの僕にしてヤコブの兄弟ユダ」と名乗る。文字通り受け取るなら、イスカリオテのユダでない方の弟子ユダ(イエスの親族)と主張していることを意味する。[1] [2]

歴史的キリスト教会はこの書を正典と認めてきたが、若干の学者は使徒(17-18節)と伝統(3節)への言及があることから議論して、1世紀の終わりから2世紀の終わりにペンネームで書かれたと考える。この書はギリシャのスタイルとグノーシス主義に対する批判とされる。教会の伝承においてもユダをイエスとヤコブの兄弟とするものからそうでないとするものまで様々である。[3]

しかし、保守的な学者は66年から90年にこの書が書かれたとする。[4]「2世紀の終わりまでにユダ書が、広く正典と認められたという証拠が非常に注目に値する。」[5] クレメンステルトゥリアヌスムラトリ正典目録はこの書を正典と認めた。聖書学者尾山令仁はこの書が66年頃に主の兄弟ユダによって書かれたものと考えている[6]

聖書学者ノーマン・ペリン[7]は「この手紙は新約聖書の他の書物と同じように単にユダの名を借りて書かれたものである」という[8]。著者が本当に「ラビ」(マタイによる福音書10:3)と呼ばれ「タデオ」(マルコによる福音書3:18)とも呼ばれたユダなのかどうかは議論に決着がついていない。オリゲネスは彼の時代には著者について疑念があったことをほのめかしているが、彼自身はそのような考えには与しなかった。エウセビオスは本書簡を「論争中の書」であるとしている。しかし最終的に正典に受け入れられた。(ムラトリ断片正典表にも含まれている。)他の新約聖書の諸書と大きく異なるのは外典からの引用を含んでいる事である。

具体的にいうと、『ユダの手紙』(以下ユダ書)で議論となってきた事は旧約聖書外典でエチオピア正教会のエチオピア語聖書正典であるエチオピア語の『第一エノク書』60章8節と1章9節からの引用を含んでいる事である。『エノク書』は死海文書に含まれる通り、もともとユダヤ教の間で読まれ、キリスト教徒達にも引き継がれたが、ヤムニア会議においてユダヤ教の正典から除外され、歴史の中から抹消された。

『第一エノク書』60章8節 「アダムから七代目にあたるエノク」
『第一エノク書』1章9節「見よ、主は無数の聖徒たちを率いてこられた。」

その上に、ユダ書1章14節の文法は異例だ:著者は、与格を使用して(「彼らに預言して言った」)、属格(「彼らについて」)を使用していない。[9]

宗教改革期には再びユダ書の正統性が議論となったが、20世紀に入って聖書の学術的研究が進むと、ユダ書は2世紀の前半に無名の著者によって書かれたものという認識が研究者の間で固まっていく。特に著者について、旧約聖書の引用がセプトゥアギンタに基づいている事、『エノク書』や『モーゼの黙示録』などの知識がある事からおそらく使徒を直接知るものがユダヤにおいて書いたという事が定説になっていく[要出典]

様式・内容[編集]

『ユダの手紙』はわずか25節しかない。本書はもともと個人や特定のグループに宛てたものでなく、各地の共同体で広く読まれる為に書かれたものである。文面から読みとれる事は著者が『エフェソの信徒への手紙』などのパウロ書簡を読んでいるという事である。

更にギリシア語原文の文体を見ると著者がギリシア語に通じていた事がわかる。書簡は冒頭にあるように「すべてのキリスト者」に宛てられており、偽教師の教えに警戒するよう説いている。本書の成立時、教会には仮現論(ドケティズム)、マルキオン派の教え、グノーシス主義などが入り込んでいて、警戒されていた。書簡の文体はきわめて攻撃的で情熱的なものである。著者は反対者達の悪行を批判し、警戒を求める。本書に見られる批判の言葉は新約聖書中で最も激しいものであるとさえいえる[要出典]

本書簡の最後にある栄光唱は聖書に現れるものの中でも最も完成度の高い美しいものである。

ユダ書と『ペトロの手紙二』との類似性は早くから指摘されており、どちらかが片方を参照して書いたという事がわかる。研究者達はユダ書の方が短い事や、表現方法が多彩な事から『ペトロの手紙二』の著者がユダ書を参照して書いたのであろうという結論に達している[要出典]

脚注[編集]

  1. ^ Chester, A and Martin, RP (1994), 'The Theology of the Letters of James, Peter and Jude', CUP, p.65
  2. ^ Bauckham,RJ (1986), Word Biblical Commentary, Vol.50, Word (UK) Ltd. p.14
  3. ^ Norman Perrin, (1974) The New Testament: An Introduction, p. 260
  4. ^ Bauckham,RJ (1986), Word Biblical Commentary, Vol.50, Word (UK) Ltd. p.16
  5. ^ Bauckham,RJ (1986), Word Biblical Commentary, Vol.50, Word (UK) Ltd. p.17
  6. ^ 尾山令仁『聖書の概説』羊群社
  7. ^ Norman Perrin
  8. ^ ノーマン・ペリン『新約聖書への招待』(The New Testament: An Introduction, p. 260)
  9. ^ ユダ書1章14節:与格 τούτοις (彼らに)を使用し, マタイ福音書15章7節などの属格περὶ τούτῶν(彼らについて)を使用していない。Daniel B.Wallace著Greek Grammar Beyond the Basics.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]