ジダンの頭突き問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ジダンの頭突き問題(ジダンのずつきもんだい)は、2006年7月9日にベルリン・オリンピアシュタディオンで行われた2006 FIFAワールドカップの決勝戦(イタリア代表対フランス代表)における出来事をめぐる問題である。フランス代表のジネディーヌ・ジダンがイタリア代表のマルコ・マテラッツィに対して頭突きをしたことにより退場になった。
目次 |
[編集] 経緯
当初、その背景にはアルジェリア移民2世であるジダン自身への人種差別によるものや、のちにマテラッツィがジダンの家族を侮辱したことが原因であるとも言われたが、同年9月5日のイタリアの新聞、ガゼッタ・デロ・スポルトのインタビューでマテラッツィが「ユニフォームよりもお前の姉妹 (sister) の方が欲しい」とジダンに言ったと明かした。マテラッツィは同時に「良くない言葉ではあると思うが、選手のほとんどはこう言った言葉を発しているものである。しかしジダンに姉か妹がいるとは知らなかった(この場合は姉の方)」とも答えていることから、単純にスラングを言っただけではないかとの指摘もある。更にマテラッツィは「先にジダン側が侮辱発言をした」とも語っており、そもそも事の始まりは、マテラッツィの激しいマーク(ユニフォームを掴む行為)に対して、ジダンが「そんなにユニフォームが欲しいのなら、試合が終った後にくれてやるよ」と先に発言したためと弁明(ジダン本人もこの発言は認めている)。またジダンは過去に今回と同じように試合中突如激昂して暴力を振るうことがあった。そのため、結局ジダンがマテラッツィとの挑発合戦に負け、激昂してこの暴挙に及んだだけというのが真相と言われている。
またこの判定が主審や副審ではなく第4の審判からの指摘により下されたが、その際に一部メディアからビデオ判定によるものとの報道をされたため、その真意も含めて判定自体に問題があるのではないかと言われている。その後、主審のオラシオ・エリソンドは「自分では直接見ておらず、副審の手助けがなければ判定を下せなかった」ことを認めた。
[編集] 解説
[編集] フランス代表の決勝までのいきさつ
この大会を最後にサッカー選手としての現役引退を表明していたジダンは、グループリーグのトーゴ戦で出場停止になるなど不調に陥っていた。しかし決勝トーナメントでは強豪のスペインからロスタイムで得点をあげると、続く準々決勝では優勝の大本命といわれたブラジルに対して、ティエリ・アンリのゴールをアシストして快挙に一翼を担うなど、試合を重ねるにつれ往年の輝きを取り戻していった。
この活躍に他の選手たちも、2004年に一度は代表引退を宣言したものの、低迷するチームを救うべく他の選手とともに復帰したジダンを1試合でも多く戦えるようにしようと団結していった。そして準決勝でポルトガル代表戦では33分にゴールをあげ、自身にとっても、またチームにとっても2大会ぶり2度目となる優勝まであと一歩まで迫ることとなった。
[編集] 決勝戦
イタリアとの対戦となったこの試合は、同時にジダンにとって現役最後の試合となった。この晴れ舞台を飾るように試合は動いた。
7分にペナルティーキックのチャンスを得たフランスは、ジダンにキッカーを任せ、見事に成功した(この試合でのPKのきっかけとなったファウルはマテラッツィによるものであった。)。この大会ではそれまで、失点はオウンゴールのみであった(グループリーグ、対アメリカ)相手から早い時間帯にゴールを奪ったことで、試合はフランス有利にいくかと思われたが、19分にマテラッツィのゴールでイタリアが同点にすると、その後は固い守備を誇るチームのゴールマウスを捕らえることなく、試合は延長戦にまでもつれることとなった。延長後半5分にジダンがマテラッツィに頭突きをして退場、数的有利となったイタリアがPK戦で5-3で勝利し、6大会ぶり4度目の優勝となった。
[編集] 人種差別に対する取り組み
この大会では開催前、あるアフリカ系の選手に対する人種に基づく差別が問題視されていた。そこで国際サッカー連盟 (FIFA) は準々決勝を行うにあたり、試合開始前のセレモニーで各チームのキャプテンがそれぞれ人種差別に反対することを宣言する文章をグラウンドで読み上げることを行っていた。
[編集] その後の顛末
この試合で退場処分となったジダンであったが、記者による投票でMVPにあたるゴールデンボール賞を受賞することになった。これは、投票が決勝戦前から受け付けられていたのもひとつの要因であった。しかしながら、言葉による挑発に対して頭突きで反撃するという行為は許されないものであったため、FIFAのブラッター会長から授賞を再考する可能性を示唆する発言があった。FIFAによる事情聴取の後、ジダンには出場停止3試合と罰金7,500スイス・フラン(約71万2500円、2006年7月当時のレート)、マテラッツィに同2試合と5,000スイス・フラン(約47万5000円)が科された。しかし人種差別発言は両者とも否定したため、問題から外された。
その後、マテラッツィが真相を語り、「姉の存在等のことは何も知らなかった」「この問題に巻き込んでしまったジダンのお姉さんに謝りたい」と答えている。この頭突きのペナルティとしてのMVP剥奪の可能性に対して、マテラッツィは「彼は偉大なサッカー選手であり、尊敬している。今回のMVPもそれに値するプレイをしていると思うので、MVP剥奪は好ましくない」とインタビューにて語っている。また、自身の自宅にジダンを招待し、その席で和解を求める構えでいるとも伝えられた。さらに、FIFAのブラッター会長も2人の和を希望、南アフリカのロベン島(同国のアパルトヘイト政策で政治犯が収容された地)で2人を再会させるという構想を持っているといわれる。
しかしその反面、マテラッツィは「ジダンとの握手は時期尚早である」「ジダン側の謝罪も待っている」とも語っている。
2007年8月18日には、8月20日発売の雑誌Tv Sorrisi e Canzoniのインタビューにおいてマテラッツィ本人から問題の発言が「Preferisco la puttana di tua sorella.」であると明らかにされた。「それよりもあんたのプッターナ(puttana)の姉貴のほうがいい。」という発言であるが、売女(ばいた)の意味合いを持つputtanaは英語のbitchに相当し、解釈次第で悪意ある重大な差別発言にもなり得る単語である。
[編集] この問題についての議論
当初、一部メディアが頭突きの原因はマテラッツィの差別発言によるものと報道したため、サッカー界にはびこる人種差別主義に対しての議論が盛んに行われたが、ジダン本人、マテラッツィ本人、及びジダンに発言の内容を聞いたフランス代表のリリアン・テュラムらが差別発言については否定したため、議論は侮辱発言そのものの是非についてに移行していた。
2004年に開催されたEURO2004において、イタリア代表フランチェスコ・トッティがデンマーク代表クリスティアン・ポウルセンに試合中過剰な挑発行為を受け、ポウルセンの顔に唾を吐いたとして3試合の出場停止処分を受けたが、この際挑発した側であるポウルセンには何らペナルティは課されなかった。
また、サッカーのみならず、スポーツにおいて言葉による挑発は日常茶飯事ともいえるため、挑発した側まで処分を下したFIFAの裁定は大いに議論を呼んだ。
[編集] 備考
- インターネット上では、ジダンの頭突きが題材となったゲームが多数作られ、話題となった。
- 中国人がジダンの頭突きシーンを用いたイラストを商標登録し、話題となった。またこの中国人は、ジダンの頭突きをモチーフに作成した木製の像も限定販売し、話題となった(ヤフーニュースでも発表されていた)。
- フランスではジダンの頭突きをネタにした楽曲『Coup de Boule』(歌:La Plage、邦題:『頭突きdeジダンだ!?-ヘッド・バッド・ダンス』)が発表され、フランス国内のダウンロードチャートで1位を獲得するなど話題となった(フランス人が作成したと言われており、歌詞の内容はジダンの頭突きを擁護するものであった。)。
- マテラッツィはこの頭突き問題のジョーク本を執筆することが明らかになった。しかし、ジダンはこれに対して不快感を示し、「本を受け取る気はない」と回答している。
- イタリア代表MFガットゥーゾは、大会後「(あの頭突きがなければ)W杯決勝の試合後に、ジダンのためにピッチ上で引退セレモニーを計画していた。」と明かした。
- ジダン自身、現役時代には頭突きなど暴力行為は行っていたため一部のメディアからは「マテラッツィばかり批判されるのはおかしい」と言われた。

