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[[Image:White Petrolatum1.jpg|thumb|300px|皮膚軟化剤]]
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'''保湿剤'''(ほしつざい、moisturizer)は、[[角質層]]に潤いやバリア機能を持たせる[[化粧品]]。健康な皮膚では人体から出る[[皮脂]]の機能である。英語で'''モイスチャライザー''' (moisturizer) は水分を保持する[[保水剤]] (ヒュメクタント、humectant)を含む、天然保湿因子 (NMF) を補って保湿作用を持ち、例として[[尿素]]や[[ヘパリン類似物質]]の含有製品がある。'''エモリエント''' (emollients、皮膚軟化剤) は、油脂の膜を作ることで水分の蒸発を防ぎまた角質層を軟化させるが、例として[[ワセリン]]がある。<ref name="naid130005089547">{{Cite journal |和書|author=大谷道輝 |date=2014 |title=外用剤の適正使用の問題点 保湿剤を中心として |journal=日本香粧品学会誌 |volume=38 |issue=2 |pages=96-102 |naid=130005089547 |doi=10.11469/koshohin.38.96 |url=https://doi.org/10.11469/koshohin.38.96}}</ref>
'''柔軟化粧水'''(じゅうなんけしょうすい、moisturizers)、'''皮膚軟化剤'''(ひふなんかざい、emollients)は、特に[[皮膚]]([[表皮]])を柔軟にするために調製された[[化学物質]]の混合物である。皮膚の[[水]]分の蒸発を低減させることにより保湿するはたらきを持ち、乾燥肌の予防と治療、敏感肌の保護などに用いられる<ref name=mayo2010>[[Mayo Clinic]]: [http://www.mayoclinic.com/health/moisturizers/SN00042 Moisturizers: Options for softer skin] Dec. 16, 2010</ref>。天然に存在する皮膚の[[脂質]]や[[ステロール]]、人工または天然[[オイル]]、{{仮リンク|保湿剤|en|Humectant}}、[[潤滑剤]]が入っていても構わない。[[化粧品]]や医薬品として一般に市販・処方されている。

==呼称==
'''モイスチャライザー''' (moisturizer) の用語の定義に関する、国際的な合意はないが、肌を潤すための販売促進目的で使われてきた。'''エモリエント''' (emollients) は、よく同義語とされるが、脂質が構成成分になっており角質間細胞を満たして水分保持を促し、皮膚を滑らかに柔軟にする。Occlusive は油が原料で疎水性の膜を形成して水分蒸発を抑える。ヒュメクタント (humectant) は、吸湿性の物質で角質層に水分を吸収する。<ref name="pmid29229630">{{cite journal|author=Purnamawati S, Indrastuti N, Danarti R, Saefudin T|title=The Role of Moisturizers in Addressing Various Kinds of Dermatitis: A Review|journal=Clin Med Res|issue=3-4|pages=75–87|date=December 2017|pmid=29229630|pmc=5849435|doi=10.3121/cmr.2017.1363|url=https://doi.org/10.3121/cmr.2017.1363}}</ref>。

==保湿の役割==
[[皮脂]]は、大部分が[[トリグリセリド]]、[[ワックスエステル]]、[[スクアレン]]から構成される角質層を覆っている<ref name="naid130004188849">{{Cite journal |和書|author=河野善行 |date=2002 |title=保湿・肌荒れ防止用化粧品の有用性と製品開発 |journal=日本化粧品技術者会誌 |volume=36 |issue=4 |pages=253-261 |naid=130004188849 |doi=10.5107/sccj.36.253 |url=https://doi.org/10.5107/sccj.36.253}}</ref>。皮脂の分泌の現象は、一般に女性20代後半、男性50代に始まる<ref name="naid130005464692"/>。

角質層では、天然保湿因子であるアミノ酸、ピロリドンカルボン酸、乳酸(また尿素<ref name="naid130004188849"/>)が水分を蓄えており、角質細胞を覆う脂質(角質細胞間脂質)がそれらの流出・蒸発を抑えている<ref name="naid130005464866">{{Cite journal |和書|author=岡本亨 |date=2016 |title=高保湿スキンケア製剤の処方設計の考え方 |journal=日本化粧品技術者会誌 |volume=50 |issue=3 |pages=187-193 |naid=130005464866 |doi=10.5107/sccj.50.187 |url=https://doi.org/10.5107/sccj.50.187}}</ref>。ローションは角質層を通過しにくいが、角質層がない場合クリームよりローションの方が保湿効果がある<ref name="naid130005089547"/>。

つまり皮脂、天然保湿因子、角質細胞間脂質によって皮膚は水分を保持しており、その中で皮脂の役割は小さいという指摘もある<ref name="naid130004188849"/>。

*保水作用
:水分を保持する<ref name="naid130005464692"/>。
:[[グリセリン]]、[[アミノ酸]]、[[ヒアルロン酸]]<ref name="naid130005464866"/>など。グリセリンでは分子量が少なく、容易に角質に浸透する<ref name="naid130005464692"/>。

*油脂膜
:水分の蒸発を防ぐ<ref name="naid130005464692"/>。
:[[油分]]、[[ワックス]]<ref name="naid130005464866"/>など。


== 種類 ==
== 種類 ==
=== 正常な肌の保持 ===
乾燥や脂質、光から皮膚を保護する目的で油っこくない水ベースの柔軟化粧水が用いられる。これには
[[セタノール]]などの軽量油や[[シクロメチコン]]などの[[シリコン]]由来成分が含まれる<ref name=mayo2010/>。


===乾燥肌===
===口腔保湿剤===
ジェル、リキッド、スプレーの順に維持力があり、粘土はジェルでやや大きい<ref name="naid130004553373">{{Cite journal |和書|author1=山垣和子 |author2=北川昇 |author3=佐藤裕二 |author4=岡根百江 |author5=真下純一 |date=2012 |title=口腔保湿剤の物性と義歯の維持力との関係 |journal=老年歯科医学 |volume=26 |issue=4 |pages=402-411 |naid=130004553373 |doi=10.11259/jsg.26.402 |url=https://doi.org/10.11259/jsg.26.402}}</ref>。
乾燥肌には、[[抗酸化剤]]や[[ブドウ種子油]]、[[ジメチルポリシロキサン]](ジメチコン)を含むオイルベースのものが使われる<ref name=mayo2010/>。より乾燥したひび割れ肌には[[ワセリン]]ベースの製品が用いられる<ref name=mayo2010/>。

==使用==
[[手湿疹]]では保湿剤が有効である<ref>{{Cite journal |和書|author1=日本皮膚科学会 |author2=日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会 |date=2018 |title=手湿疹診療ガイドライン |journal=日本皮膚科学会雑誌 |volume=128 |issue=3 |pages=367-386 |naid=130006516356 |doi=10.14924/dermatol.128.367 |url=https://doi.org/10.14924/dermatol.128.367 }}</ref>。

保湿剤の使用時期は、一般に水分を吸収している入浴直後の使用が良いとされるが、実際には1分後と1時間後とでは水分保持量は1時間の方が若干劣るが、有意な差ではない<ref name="naid130005089547"/>。つまり、入浴以外の時間に内部から発散される水分を保持するほうが有用だと考えられる<ref name="naid130005089547"/>。

アトピー性皮膚炎では1日2回以上の保湿剤の使用が適切だと考えられる研究結果がある<ref name="naid130005152170">{{Cite journal |和書|author1=海老島優子 |author2=末廣豊 |author3=岡藤郁夫ほか |date=2016 |title=アトピー性皮膚炎に効果的なスキンケアは? 入浴, 体の洗い方、石けんの使用、保湿剤について考える |journal=日本小児アレルギー学会誌 |volume=30 |issue=1 |pages=75-83 |naid=130005152170 |doi=10.3388/jspaci.30.75 |url=http://doi.org/10.3388/jspaci.30.75}}</ref>。ステロイドとの保湿剤を塗る順序を逆にしても、あるいは混合して塗っても差はない<ref name="naid130004702056">{{Cite journal |和書|author1=大谷道輝 |author2=松元美香 |author3=野澤茜 ほか |date=2013 |title=ステロイド軟膏と保湿剤の併用による塗布順序が及ぼす局所および全身性副作用への影響 |journal=日本皮膚科学会雑誌 |volume=123 |issue=14 |pages=3117-3122 |naid=130004702056 |doi=10.14924/dermatol.123.3117 |url=}}</ref>。アトピー性皮膚炎では症状が落ち着いていれば、ステロイドは1日1回である<ref>{{Cite journal |和書|author1=公益社団法人日本皮膚科学会 |author2=一般社団法人日本アレルギー学会 |date=2018 |title=アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018 |journal=日本皮膚科学会雑誌 |volume=128 |issue=12 |pages=2431-2502 |naid=130007520766 |doi=10.14924/dermatol.128.2431 |url=https://doi.org/10.14924/dermatol.128.2431 |page=2458 }}</ref>。

[[脂漏性皮膚炎]](皮膚常在菌のマラセチア菌への炎症)では、ワセリンを使用すると悪化する傾向がある<ref name="aadtip">{{cite web |author= |title=Seborrheic Dermatitis: Tips for Managing
|url=https://www.aad.org/public/diseases/scaly-skin/seborrheic-dermatitis#tips |date= |publisher=American Academy of Dermatology |accessdate=2018-12-10}}</ref>。


===脂性肌===
==歴史==
古代エジプトのツタンカーメンの墓の玉座には、王妃が[[ごま油]]を塗られている場面が描かれている<ref name="naid130005464692"/>。
脂性肌の場合は肌が乾燥しやすい洗顔後に用いる<ref name=mayo2010/>。[[毛穴]]を詰まらせないような[[角栓]]のリスクが低い水ベースのものが好ましい<ref name=mayo2010/>。


1957年には、天然保湿因子 (NMF) の主成分がアミノ酸で、角質層の保湿に重要だと報告された<ref name="naid130005464692">{{Cite journal |和書|author=岡野由利 |date=2016 |title=スキンケア化粧品のコンセプトの変化 角層を保湿することの重要性 |journal=日本化粧品技術者会誌 |volume=50 |issue=2 |pages=91-97 |naid=130005464692 |doi=10.5107/sccj.50.91 |url=https://doi.org/10.5107/sccj.50.91}}</ref>。1969年に[[皮脂]]の組成が解明された<ref name="naid130005464692"/>。
===敏感肌===
敏感肌用の柔軟化粧水は、[[カモミール]]や[[アロエ]]など刺激の少ないものが使われ、[[香料]]や色素などの[[アレルゲン]]や[[酸]]などの刺激物質は最小限に抑えられている<ref name=mayo2010/>。


== 出典 ==
== 出典 ==
{{Reflist}}
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== 関連項目 ==
==関連項目==
*[[イオントフォレシス]]
* [[化粧水]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
*[http://www.mayoclinic.com/health/moisturizers/SN00042 Moisturizers: Options for softer skin], [[メイヨー・クリニック
* [http://www.ewg.org/skindeep/ Skin Deep Cosmetics Database]
Mayo Clinic]], Oct. 13, 2016.


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[[Category:基礎化粧品]]
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2018年12月18日 (火) 07:00時点における版

白色ワセリン

保湿剤(ほしつざい、moisturizer)は、角質層に潤いやバリア機能を持たせる化粧品。健康な皮膚では人体から出る皮脂の機能である。英語でモイスチャライザー (moisturizer) は水分を保持する保水剤 (ヒュメクタント、humectant)を含む、天然保湿因子 (NMF) を補って保湿作用を持ち、例として尿素ヘパリン類似物質の含有製品がある。エモリエント (emollients、皮膚軟化剤) は、油脂の膜を作ることで水分の蒸発を防ぎまた角質層を軟化させるが、例としてワセリンがある。[1]

呼称

モイスチャライザー (moisturizer) の用語の定義に関する、国際的な合意はないが、肌を潤すための販売促進目的で使われてきた。エモリエント (emollients) は、よく同義語とされるが、脂質が構成成分になっており角質間細胞を満たして水分保持を促し、皮膚を滑らかに柔軟にする。Occlusive は油が原料で疎水性の膜を形成して水分蒸発を抑える。ヒュメクタント (humectant) は、吸湿性の物質で角質層に水分を吸収する。[2]

保湿の役割

皮脂は、大部分がトリグリセリドワックスエステルスクアレンから構成される角質層を覆っている[3]。皮脂の分泌の現象は、一般に女性20代後半、男性50代に始まる[4]

角質層では、天然保湿因子であるアミノ酸、ピロリドンカルボン酸、乳酸(また尿素[3])が水分を蓄えており、角質細胞を覆う脂質(角質細胞間脂質)がそれらの流出・蒸発を抑えている[5]。ローションは角質層を通過しにくいが、角質層がない場合クリームよりローションの方が保湿効果がある[1]

つまり皮脂、天然保湿因子、角質細胞間脂質によって皮膚は水分を保持しており、その中で皮脂の役割は小さいという指摘もある[3]

  • 保水作用
水分を保持する[4]
グリセリンアミノ酸ヒアルロン酸[5]など。グリセリンでは分子量が少なく、容易に角質に浸透する[4]
  • 油脂膜
水分の蒸発を防ぐ[4]
油分ワックス[5]など。

種類

口腔保湿剤

ジェル、リキッド、スプレーの順に維持力があり、粘土はジェルでやや大きい[6]

使用

手湿疹では保湿剤が有効である[7]

保湿剤の使用時期は、一般に水分を吸収している入浴直後の使用が良いとされるが、実際には1分後と1時間後とでは水分保持量は1時間の方が若干劣るが、有意な差ではない[1]。つまり、入浴以外の時間に内部から発散される水分を保持するほうが有用だと考えられる[1]

アトピー性皮膚炎では1日2回以上の保湿剤の使用が適切だと考えられる研究結果がある[8]。ステロイドとの保湿剤を塗る順序を逆にしても、あるいは混合して塗っても差はない[9]。アトピー性皮膚炎では症状が落ち着いていれば、ステロイドは1日1回である[10]

脂漏性皮膚炎(皮膚常在菌のマラセチア菌への炎症)では、ワセリンを使用すると悪化する傾向がある[11]

歴史

古代エジプトのツタンカーメンの墓の玉座には、王妃がごま油を塗られている場面が描かれている[4]

1957年には、天然保湿因子 (NMF) の主成分がアミノ酸で、角質層の保湿に重要だと報告された[4]。1969年に皮脂の組成が解明された[4]

出典

  1. ^ a b c d 大谷道輝「外用剤の適正使用の問題点 保湿剤を中心として」『日本香粧品学会誌』第38巻第2号、2014年、96-102頁、doi:10.11469/koshohin.38.96NAID 130005089547 
  2. ^ Purnamawati S, Indrastuti N, Danarti R, Saefudin T (December 2017). “The Role of Moisturizers in Addressing Various Kinds of Dermatitis: A Review”. Clin Med Res (3-4): 75–87. doi:10.3121/cmr.2017.1363. PMC 5849435. PMID 29229630. https://doi.org/10.3121/cmr.2017.1363. 
  3. ^ a b c 河野善行「保湿・肌荒れ防止用化粧品の有用性と製品開発」『日本化粧品技術者会誌』第36巻第4号、2002年、253-261頁、doi:10.5107/sccj.36.253NAID 130004188849 
  4. ^ a b c d e f g 岡野由利「スキンケア化粧品のコンセプトの変化 角層を保湿することの重要性」『日本化粧品技術者会誌』第50巻第2号、2016年、91-97頁、doi:10.5107/sccj.50.91NAID 130005464692 
  5. ^ a b c 岡本亨「高保湿スキンケア製剤の処方設計の考え方」『日本化粧品技術者会誌』第50巻第3号、2016年、187-193頁、doi:10.5107/sccj.50.187NAID 130005464866 
  6. ^ 山垣和子、北川昇、佐藤裕二、岡根百江、真下純一「口腔保湿剤の物性と義歯の維持力との関係」『老年歯科医学』第26巻第4号、2012年、402-411頁、doi:10.11259/jsg.26.402NAID 130004553373 
  7. ^ 日本皮膚科学会、日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会「手湿疹診療ガイドライン」『日本皮膚科学会雑誌』第128巻第3号、2018年、367-386頁、doi:10.14924/dermatol.128.367NAID 130006516356 
  8. ^ 海老島優子、末廣豊、岡藤郁夫ほか「アトピー性皮膚炎に効果的なスキンケアは? 入浴, 体の洗い方、石けんの使用、保湿剤について考える」『日本小児アレルギー学会誌』第30巻第1号、2016年、75-83頁、doi:10.3388/jspaci.30.75NAID 130005152170 
  9. ^ 大谷道輝、松元美香、野澤茜 ほか「ステロイド軟膏と保湿剤の併用による塗布順序が及ぼす局所および全身性副作用への影響」『日本皮膚科学会雑誌』第123巻第14号、2013年、3117-3122頁、doi:10.14924/dermatol.123.3117NAID 130004702056 
  10. ^ 公益社団法人日本皮膚科学会、一般社団法人日本アレルギー学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」『日本皮膚科学会雑誌』第128巻第12号、2018年、2458頁、doi:10.14924/dermatol.128.2431NAID 130007520766 
  11. ^ Seborrheic Dermatitis: Tips for Managing”. American Academy of Dermatology. 2018年12月10日閲覧。

関連項目

外部リンク

Mayo Clinic]], Oct. 13, 2016.