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=== アメリカ合衆国 ===
=== アメリカ合衆国 ===
[[アメリカ合衆国]]においては、弁護士(attorney-at-law, counselor-at-lawなど)は州ごとの資格である。したがって、厳密にいえば「米国弁護士」という資格はなく、たとえば「[[ニューヨーク州]]弁護士」であったり、「[[カリフォルニア州]]弁護士」であったりするわけである。当然司法試験も各州当局により実施されており、受験資格や合格基準も州により異なるが、多くの州に共通する部分を概説すると次のとおりである。司法試験を受験するためには、原則として[[アメリカ法曹協会]]が認定する[[ロー・スクール (アメリカ合衆国)|ロー・スクール]]において[[ジュリス・ドクター]]の学位を取得する必要がある。ただし、[[英米法]]系の国において同様と認められる法学教育を受けた者や、非英米法系の国で法学教育を受けた後、アメリカのロー・スクールで一定の単位を取った者にも受験資格が認められることがある。
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ほとんどの州においては、司法試験は、主要法域における米国の一般的法理に関する知識を試す択一式の各州共通司法試験(Multistate Bar Examination)と、当該州の州法を中心とした州独自の試験の二本立てからなる。また、一定の与件のもとで意見書等の法律文書を作成させるといった、法律知識のみならず実務能力を試す試験を実施している州もある。さらにほとんどの州では、司法試験の他に、法曹倫理に関する共通試験(Multistate Professional Responsibility Examination)で一定の成績をとることが要求されている。以上のような試験に合格すればその州での法曹資格を得ることができるので、日本の[[司法修習]]のような合格後の訓練制度はない。
ほとんどの州においては、司法試験は、主要法域における米国の一般的法理に関する知識を試す択一式の各州共通司法試験(Multistate Bar Examination)と、当該州の州法を中心とした州独自の試験の二本立てからなる。また、一定の与件のもとで意見書等の法律文書を作成させるといった、法律知識のみならず実務能力を試す試験を実施している州もある。さらにほとんどの州では、司法試験の他に、法曹倫理に関する共通試験(Multistate Professional Responsibility Examination)で一定の成績をとることが要求されている。以上のような試験に合格すればその州での法曹資格を得ることができるので、日本の[[司法修習]]のような合格後の訓練制度はない。

2009年9月23日 (水) 07:47時点における版

弁護士(べんごし)とは、法的手続において当事者の代理人、被告人の弁護人として法廷で主張・弁護等を行うほか、各種の法律に関する事務を行う職業、またはその資格を持った者をいう。当事者の代理人としての委任契約等で報酬を得る。 日本では、その職掌・資格に関しては弁護士法などで規定されている。シンボルは中央に天秤を配した向日葵(ひまわり)で、徽章(バッジ)もこのデザインによる。

歴史

中世の西欧

現在の弁護士制度は西ヨーロッパにおいて発達したものに由来する。地域及び担当する裁判所の種類によって名称は様々であり、また、代理を行う者(代訴人事務弁護士)と弁論を行う者(代言人法廷弁護士)が区別されることも多く、現在でもそのような区別が残っている国も多い。

中世ヨーロッパでは法律家を養成するため、各大学に法学部が設置されていた。

中近世の日本

日本では鎌倉時代六波羅探題等で争議に際して弁論・口述の長けた代官が存在している。

江戸時代の「公事宿(くじやど)」「公事師(くじし)」は、日本において独自に発達したもので、弁護士に類似するとも考えられるが、その性格は大きく異なる。詳細はそれぞれの項目を参照。明治のはじめの代言人は少なからず公事師が衣替えした者であり、俗に訴訟1件を300文(実際に300文だった訳ではなく、二束三文のように価値の少ないことを表す)で引き受け、不適切な活動を行うという、いわゆる三百代言の語源ともなった。現在でも弁護士を罵倒するのに三百代言という言い方をすることがある。

近代

日本の弁護士の制度は、明治時代になり近代的司法制度の導入とともにフランスの代言人(advocat)に倣って創設されたもので、「代言人(だいげんにん)」と呼ばれていた。ただ、代言人の地位は決して高くはなく、軽蔑されることも多く、また、初期にはきちんとした資格制度が存在していなかったために、中には悪質な者も存在した。

1893年に近代的な「弁護士法」が制定され、「代言人」に代わって「弁護士」という名称が使われるようになった。だが、当時の弁護士は司法省検事正)の監督のもとにおかれ、その独占業務も法廷活動に限られていた。弁護士は裁判官検察官よりも格下とされ、試験制度も異なっていた。1936年の改正によって、弁護士の法廷外での法律事務の独占が認められるようになった。

戦後、1949年に新しい弁護士法が制定され、国家権力からの独立性が認められた。これを弁護士自治という。同年、日本弁護士連合会(日弁連)が結成された。また、司法試験及び司法修習によって裁判官検察官、弁護士の資格試験及び修習制度が一元化されることとなった。

業務

弁護士の業務は、主に法律事務ないし法務である。これはいくつかの観点から分類が可能である。

一般民事、企業法務(広義)、刑事その他

一般民事とは、主として私人から依頼される民事上の法律問題を扱うカテゴリーである。過払い金返還のように依頼者が私人であり、相手方が企業であっても一般民事とカテゴライズされるのが一般的である。一般民事はさらに、例えば民事事件、消費者事件、家事事件、損害賠償請求事件、労働事件(労働者側)などの分野に分かれている。

企業法務とは、主として依頼主が法人たる会社である法律問題を扱うカテゴリーである。相手方は法人だけでなく私人となることもある。企業法務は、例えば商事事件、労働事件(使用者側)、渉外事件、企業統治、ファイナンス、M&A、税務などの分野に分かれている。なお、会社組織は数万人の社員を擁する場合から、一人会社の場合まであり、例えば個人事業主の貸し金回収などは、場合によっては一般民事とも考えられ、その区別は相対的なものである。

刑事とは、主として被疑者や被告人の弁護を扱うカテゴリーである。公判における法廷活動だけでなく、不起訴に向けた活動、示談交渉や保釈請求、勾留中の被疑者被告人と外部との連絡役なども含まれる。

その他のカテゴリーとしては、行政事件や人権に関わる事件などがあると思われる。しかし、依頼主によって一般民事ないし企業法務との位置づけも可能である。(もっとも、公共団体等からの依頼であれば、一般民事でも企業法務でもない分野とはいえよう) 結局のところ、各分野は相互に重なり合う部分があり、その区別は基本的に相対的なものである。

臨床法務、予防法務、戦略法務

インハウスローヤーとそれ以外

世界各国の弁護士制度

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国においては、弁護士(attorney-at-law, counselor-at-lawなど)は州ごとの資格である。したがって、厳密にいえば「米国弁護士」という資格はなく、たとえば「ニューヨーク州弁護士」であったり、「カリフォルニア州弁護士」であったりするわけである。当然司法試験も各州当局により実施されており、受験資格や合格基準も州により異なるが、多くの州に共通する部分を概説すると次のとおりである。司法試験を受験するためには、原則としてアメリカ法曹協会が認定するロー・スクールにおいてジュリス・ドクターの学位を取得する必要がある。ただし、英米法系の国において同様と認められる法学教育を受けた者や、非英米法系の国で法学教育を受けた後、アメリカのロー・スクールで一定の単位を取った者にも受験資格が認められることがある。

ほとんどの州においては、司法試験は、主要法域における米国の一般的法理に関する知識を試す択一式の各州共通司法試験(Multistate Bar Examination)と、当該州の州法を中心とした州独自の試験の二本立てからなる。また、一定の与件のもとで意見書等の法律文書を作成させるといった、法律知識のみならず実務能力を試す試験を実施している州もある。さらにほとんどの州では、司法試験の他に、法曹倫理に関する共通試験(Multistate Professional Responsibility Examination)で一定の成績をとることが要求されている。以上のような試験に合格すればその州での法曹資格を得ることができるので、日本の司法修習のような合格後の訓練制度はない。

州ごとの資格であるため、資格のない州の裁判所で依頼人を代理する等他州の法律に関する法律業務を行うことは原則としてできない。ただし、他州の資格のみを持つ弁護士が一時的に自州の裁判所で弁論することを認めたり(pro hac vice)、一定の資格・経験のある他州の弁護士に、自動的に、または略式の司法試験により自州の法曹資格を与えることがある。

アメリカには、100万人を超える弁護士がいるといわれ、2万人強に過ぎない日本と比較してその多さが指摘されることがある[1]が、アメリカにおいては日本の隣接法律職の業務の多くを弁護士が行っていることに注意すべきである。たとえば、司法書士行政書士といった資格はアメリカにはなく、その業務は明らかに弁護士の業務の一部である。弁理士の業務を行うのは特許弁護士(patent attorney)と出願代理人(patent agent)であるが、前者は弁護士である。さらに、税理士の業務も税務弁護士(tax attorney)と会計士(accountant)が行っているといえる。さらに、日本では、企業の法務部等で法務業務を行っている者の多くは我が国の弁護士資格を有していないが、アメリカの企業の法務部(Legal Department, General Counsel's Office)で法務業務を行う者(インハウスローヤー)は原則として弁護士である。ちなみに、米国と日本とで企業の契約書を比べた際に、米国の契約書の方が細かいのは、米国は法務部に弁護士が係わっているからだ、という指摘がある[2]

弁護士が加入する保険が分野ごとに分かれていることも一因で、弁護士の専門分野が細分化されている。

イギリス

フランス

ドイツ

サウジアラビア

サウジアラビアで弁護士制度が誕生したのは1958年と新しく、本格的に弁護士が法廷で活動するようになったのは1980年代に入ってからであり、弁護士という職業そのものがシャーリアに存在しない職業であるため裁判官(カーディー)や法学者(ムフティー)と比べるとその地位も社会的尊敬も低く、法律家としては下位の職業であると認識されている。2000年以降になってからは国内で教育を受けた人権思想の強い弁護士も現れ始めアブドゥル・ラハマン・アル=ラヒム弁護士など欧米で人権擁護の功績を認められた弁護士も誕生している。

サウジアラビアの法律はワッハーブ派の教義に基づくイスラーム法であるため弁護士はワッハーブ派ムスリムであることが必須条件であった。弁護士資格以前にワッハーブ派ムスリムにしか国籍を認めていなかったという事情もあった。しかし2006年からシーア派のムスリム、ズィンミーであるキリスト教徒、ユダヤ教徒、ヒンドゥー教徒にも一定の条件下では弁護士資格が認められるようになった。 弁護士はシャーリアに存在の根拠を持たないため、裁判官などと異なり異教徒がなってもかまわない職業であるとされている。 その多くはサウジアラビアと政治的に関係が深いアメリカに居ると言われている。 サウジアラビアにおける弁護士の地位は日本や欧米に比べると弁護士自治が低く、裁判の判決に不服従であれば資格を剥奪されたりするし、国王、国家、宗教指導者などを訴えることも実質的に出来ない。

刑事裁判では弁護人は必須ではなく国選弁護人などの制度もない。このため大半の刑事裁判は弁護士無しで行われている。 そもそもシャーリアの裁判において弁護人となる者は被告が所属する部族の部族長などの部族有力者、王族、ウラマーなどのイスラム法学者などであり、ムフティーに自分の正当性を証明してもらうファトワーを依頼するという手段もある。古くからワスタと呼ばれる仲介者を介して弁護人を頼む社会習慣によって運営されており、現代でも運用されている。 弁護士が法廷で弁護するということはワスタと呼ばれる仲介者へのコネが無い人間が金銭によって弁護人を雇うと言うことであり、有力なコネが無い人間にとっては弁護士が最後の頼みの綱でもある、このため海外の人権擁護団体などが被告を擁護する場合に雇う事例も多い。

弁護士資格の取得は法曹関係者による審議会で審議され相応しいと認められれば弁護士になれる。審査基準は非公開であるが一般的には、国内の大学の法学部卒業者、海外で法学の学位を取得したもの、外国の弁護士資格を有する者などと言われている。その判断はコネによる部分が大きく恣意的な物であると批判されることもある。 日本ではサウジアラビアの弁護士に対して相互主義原則に反するなどの理由から外国法事務弁護士の登録を認めていない。

シャーリアと英米法の折衷とも言うべき独特な弁護士法はサウジアラビアで最初の弁護士であり、王家の法律顧問でもあるアハマド・ザキ・ヤマニが作成している。 長年にわたり国内に法学の専門教育を行う教育機関が満足に無かったこともあり、弁護士の多くは留学して教育を受けていたが、現在ではキングアブドゥルアズィーズ大学法学部の卒業生が弁護士になり完全な国産弁護士が誕生している。しかし、2008年に初めて女性の卒業生が出たが法務省が弁護士業務の認可を出さないと発表し女性弁護士は誕生していない。

なお、サウジアラビアでは裁判官は宗教学部卒業者で占められており、弁護士は法学部卒業者で占められていることから、日本や欧米とは異なり裁判官や検事が弁護士になることはほとんどない。

日本の弁護士制度

以下本稿では戦後日本における弁護士制度について述べる。

民事訴訟では原告被告等の訴訟代理人として、それらの主張が認められるように主張や立証活動等を行い、刑事訴訟では弁護人として被告人無罪を主張し、あるいは(弁護人・被告人の観点から)適切な量刑が得られるように、検察官と争う。なお、弁護と弁護は別の概念であり、弁護士は、弁護人の立場になることのできる代表的な資格であるが、弁護士でない者が「特別弁護人」として弁護活動を行うこともある。破産民事再生会社更生法の申請などの法的倒産処理手続やこれに関連する管理業務などの法律事務を行い、関連する法律相談も行う。これら倒産手続を含む法廷手続を担当する専門職というのが古典的・典型的な弁護士の職掌である(近時の職域の拡大については、後述)。

また、公務員職権濫用刑法193条)、特別公務員職権濫用・同致死傷(刑法194条、196条)、特別公務員暴行陵虐・同致死傷(刑法195条、196条)、破壊活動防止法45条、団体規制法42条、43条の罪について、刑事訴訟法262条の付審判請求に基づき、裁判所が審判に付する旨の決定をした場合(準起訴手続)、裁判所から指定された弁護士が公訴の維持に当たり、検察官の職務を行う(刑事訴訟法268条)。検察審査会が起訴議決した場合も、裁判所から指定された弁護士が公訴を提起及び維持にあたり、検察官の職務を行う。

2009年5月1日時点での日本における弁護士数は、26,956名(外数として準会員3名、沖縄特別会員11名)である。これは、アメリカなど主要先進諸国に比べても低い値であるが、特に、弁護士の大都市部への偏在の問題を抱えている。(→後述

弁護士となり得る者

日本で弁護士になるには、現在のところ2つの経路がある。1つは法務省の司法試験委員会が行う司法試験(現在の名称旧司法試験)に合格し、司法研修所での司法修習を修了する(弁護士法4条、裁判所法66条、司法試験法附則10条、旧司法試験法)。もう1つは、法科大学院課程を修了し、法務省の司法試験委員会が行う新司法試験に合格し、司法研修所での司法修習を修了するというものである(弁護士法4条、裁判所法66条、司法試験法)。

このほか、最高裁判所の裁判官の職にあった者は弁護士の資格を有し(弁護士法6条)、司法試験合格後に国会議員、内閣法制局参事官や大学で法律学を研究する大学院の置かれているものの法律学を研究する学部専攻科若しくは大学院における法律学の教授若しくは准教授の職などに在った期間通算5年以上経験した者、あるいは司法試験合格後に公務員や民間人として立法作業や契約書等の作成に従事した期間が通算7年以上経験した者、特別考査に合格して検察官副検事を除く)として5年以上在職するなど、特定の職業に一定期間就き、日本弁護士連合会の研修を修了して法務大臣がその修了を認定した場合には、弁護士の資格が与えられる(同法5条)。

なお、経過措置として、司法試験に合格しなくても、2004年4月1日現在で法律学を研究する学部、専攻科若しくは大学院における法律学の教授若しくは助教授の職歴を通算5年以上有する者などについては弁護士資格が与えられる(平成16年法律第9号附則3条)。

また、弁護士会に加入し、弁護士登録をすることが業務を行う要件である(弁護士法8条)。

弁護士による業務の独占

弁護士法により、弁護士資格を持っていない者が弁護士を名乗ることは禁じられている(名称独占。弁護士法74条)。

また、弁護士資格を持たない者が、報酬を得る目的で、紛争性のある事案について法律事務を業とすることも、原則として禁止されている(弁護士法72条)。このように弁護士は業務独占資格の一つである。

なお、近年の司法改革において、いわゆる隣接法律職に対して弁護士業務の一部が規制緩和された。この背景には、隣接法律職による職権拡大運動が存在し、また現在も法曹改革とあわせて法曹三者と隣接法律職との職分の住み分けが議論の対象となっている。一方、弁護士の数は近年急増しており、仕事のない弁護士が出現しつつある。この現状を踏まえると、隣接「法律」職によるこれ以上の職域拡大が成功する可能性は低いと思われる。

弁護士法72条の解釈と弁護士との職域関係

非弁活動を参照。

弁護士の権力からの独立性

地方裁判所管轄区域(=北海道の4ブロックと都府県)ごとに置かれる弁護士会日本弁護士連合会(日弁連)が弁護士の監督を行う(ちなみに戦前は司法省に弁護士・弁護士会を監督する権限が与えられていた)。これらの弁護士の公権力からの自立性を弁護士自治という。このため、弁護士会及び日弁連は強制加入団体となっている。弁護士の懲戒については、弁護士会が自治的に行っている。もっとも、これについては、なれ合いではないかという批判や、民主主義的な弁護士監視機関を設けるべきだとする意見もある。

弁護士の組織活動

日本の弁護士の多くは、法律事務所において自ら経営するか、または勤務して活動している。日本の法律事務所は、アメリカ・イギリスなどの大規模法律事務所と比べ規模が小さいが、近年は日本の法律事務所も合併などにより大型化し、四大法律事務所のように200人以上の弁護士が所属する法律事務所も増えている。法人化を認める弁護士法の改正がなされたことから、一部の法律事務所は法人化しており(その場合の名称が上記「弁護士法人」である。)、法人化した場合には、事務所を複数持つことができるなどのメリットがある。また、最近は企業に直接雇用される弁護士や、行政庁にて勤務する弁護士も増えている(「インハウスローヤー」)。

一般に弁護士が所属する事業体を指して「弁護士事務所」又は「法律事務所」と表現することがあるが、法的にはこれらは、単なる1人の個人事業か、任意組合か、あるいは弁護士法人である。

弁護士の事務所には、経営弁護士が複数の場合、組織法的には、民法上の組合弁護士法人の2種類がある。アメリカなどの法律事務所によく見られる有限責任組合(LLP)の形態は日本法では許されていない。

一方、法的観点を離れた組織のあり方としては、共同事務所(複数の弁護士が経営を共同するもの)と個人事務所といった種類がある。扱う案件の内容によっては、渉外事務所(国際案件をも対象とする事務所、あるいは、かつて国際案件を主に対象としていた大規模な事務所)と国内系事務所、総合事務所(対象範囲が全般的ないしは広い)とブティック(専門分化し特定分野に強みがある)などのような分類がされることがある。

構成人数としては、弁護士が1人のものから400人以上のものに至るまで様々であるが、大人数の事務所は東京大阪(特に東京)に集中している。

他の法律関係資格との兼ね合い

日本の弁護士は、司法書士行政書士社会保険労務士海事代理士の職務を行うことができるが、公認会計士土地家屋調査士の業務については行うことができない。弁理士税理士については、弁護士法上、当然にこれらの職務を行うことができる(弁護士法3条2項)。司法書士行政書士社会保険労務士海事代理士の職務について弁護士がこれらを行うには、弁護士としての職務に付随していなければならないかどうかについては議論がある(司法書士について後述)。

また、弁護士となる資格を有する者は、その資格をもって弁理士税理士行政書士社会保険労務士海事補佐人の資格登録をすることができるが、司法書士や海事代理士の資格は、弁護士であることを理由として登録をすることはできない(なお、「弁護士となる資格を有する者」とは、司法試験合格のみでは足らず、司法修習を修了した者を指す。弁護士法4条)。

なお、埼玉司法書士会と弁護士との間で職域が争われた事件(埼玉司法書士会職域訴訟)で、裁判所は、登記の代理(司法書士の独占業務)は弁護士の職務である一般法律事務に当たるため、そもそも弁護士の本来業務であるとして、弁護士業務に付随しなければ登記の代理は出来ないとの司法書士会の主張を退けた(浦和地判平成6年5月13日判例時報1501号52頁、東京高判平成7年11月29日判例時報1557号52頁)。

日本の弁護士の現状と問題点

弁護士の専門化

日本において、弁護士は医師、公認会計士とともに三大国家資格と称されることがある。旧司法試験において問われる科目は、いわゆる六法(憲法民法刑法商法刑事訴訟法民事訴訟法)のみであり、新司法試験ではこれに行政法と選択科目1科目が加わるものの、それらの試験に合格したから、また司法修習を経たからといって、すべての法律に関する知識を有するわけではなく、あらゆる事例に精通するものではない。弁護士の専門性は、多くの場合、弁護士登録後の実務の中で獲得されることとなる。 近時、規制緩和や行政指導中心の制度からの脱却に伴い、弁護士が担当する分野は拡大し続けている。従来的な弁護士のイメージである法廷活動のみならず、予防法務を含む日常的な企業法務から大規模買収事案、企業金融、倒産処理、国際間取引、知的財産権などのジャンルで、ビジネス分野の弁護士活動の領域が広がっている。

このような職域の拡大とともに、最近の弁護士資格取得者の増加による競争の激化により、弁護士には専門的な知識が要求され、必然的に各弁護士の専門領域は限定されていく傾向にある。

弁護士の偏在

2008年7月1日時点での日本における弁護士数(弁護士会登録数合計、特別会員、準会員を含まない)は、25,026名(うち女性3,603名)であるが、大都市への偏在が指摘されている。東京(東京弁護士会第一東京弁護士会第二東京弁護士会)に登録している弁護士数が約11,000名、大阪弁護士会に登録している弁護士数が約3,000名となっており、両者を併せると全国の弁護士数の60%を超えることになる。特に弁護士の不足が著しい地方では悪質商法への初動対処といった身近な法律サービスが受けにくく地方の主に家庭裁判所簡易裁判所での裁判官の資質の低下と共に「司法格差」及び「治安格差」の原因の一つにもこの偏在の事実は挙げられる[要出典]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。

利用しやすさの問題

弁護士という職業の存在は世間で広く認識されているが、個人が実際に利用することは極めて稀である。弁護士の関与が望ましいはずの契約交渉、民事紛争処理等においても、可能な限り法的色彩を持たせずに、当事者間の話合い等により解決することが望ましいという風潮が強い。裁判等の法的手段に訴えることが紛争処理の最終手段として考えられており、弁護士の関与も最後の手段の一部としての認識が根強い。

以前は、弁護士は、職業の性格上、宣伝広告をすべきでないという考え方が一般的で、弁護士や法律事務所広告は法律で規制されていた。この規制は2000年10月より撤廃され[3]、大都市を中心に債務整理破産手続等を担当する法律事務所を中心に、広く一般に対する広告(鉄道バスの車内広告、スポーツ新聞タウンページ、インターネット広告)が増えてきている。

弁護士報酬(依頼者が弁護士に対して支払う費用)は、原則として各弁護士が定めるものであって統一的・客観的な基準はなく、同様に専門家のサービスの提供を受ける医療と比べても、保険制度(医療なら、医療機関を受診する際に使用する健康保険制度)が存在しないことから、あまり明確に共通認識がなされていない。実際、個人の依頼者にとっては、その報酬(費用)は高額(例えば、タウンページの広告やインターネット上の法律事務所のHPでは、大体、30分あたり5000円という相談料金が多い。)とのイメージとなりがちであり、資金面での不安から依頼を躊躇する者も多いのが現状である。医療分野における公的保険制度の存在は、誰でも医療サービスを受ける可能性があり、かつ、受ける必要がある場合にはその資力に関わらず受けることができなければならない、という社会的コンセンサスが背景に存在する。これに対して、法律サービスにおいて公的保険制度がないことは、法律サービスについては同様の社会的コンセンサスがないことが背景に存在する。

資力の乏しい者が弁護士の援助を受ける方法としては、日本司法支援センター(法テラス)による法律扶助の制度があり、「勝訴の見込みがないとはいえない」場合に、弁護士費用や裁判費用の援助が受けられる。ただし、法テラスの援助は適用基準が不明確であり、50音順に地域の弁護士を紹介するのみだったりして、援助は極めて例外的なケースに留まっている。また、日本人または適法に在留する外国人に限られ、難民認定申請や在留特別許可の申請、不法滞在者の労働問題などは日本弁護士連合会が自主事業として援助を行っている。また、刑事事件では、被疑者となった場合に、1回に限り無料で弁護士の出動を依頼できる当番弁護士制度、無資力の被疑者のために弁護士費用を援助する被疑者弁護扶助制度、刑事被告人に資力がないときに裁判所が被告人のために弁護人を選任する国選弁護制度などの制度があり、また一定の重罪事件については、被疑者段階でも無資力の被疑者のために国選弁護人を付する被疑者国選弁護人制度が設けられているなど、各種の制度が整いつつある。もっとも、当番弁護士制度は弁護士自身の負担で維持されている状況であり、国選弁護人に対する報酬が低廉であること、被疑者弁護扶助制度について十分に知られておらず、貧しいために被疑者段階で本来必要な弁護人の援助を受けられない者もおり、捜査機関から弁護人を選任しないよう被疑者や被疑者の家族に対して働き掛けがなされるなど、問題点も多い。

代理権の付与拡大

訴訟代理は、従来、弁護士の独占業務であり、弁護士資格を有しない者にはできないものとされており、弁護士へのアクセスの難しい地方や少額の事件については、当事者は、弁護士を立てずに行う本人訴訟を余儀なくされていた。このような状況を改善するため、司法制度改革の一環として、弁護士以外の特定の法律専門資格の保持者(司法書士)にその関係分野や一定の金額までの紛争に限定して訴訟代理権を与えることや、隣接法律職に法廷以外での紛争解決制度(ADR)を設ける動きが広がっている。

例としては、2003年に、一定の研修を受け、認定試験に合格した司法書士(簡裁代理認定司法書士)には簡易裁判所での訴訟代理権が認められた。以前は、司法書士は法的裁判所に提出する書類の作成はできたが, 訴訟代理権は認められていなかった。簡裁代理認定司法書士は、簡易裁判所における通常訴訟や少額訴訟、民事調停、裁判外の示談交渉、和解手続(ただし、簡易裁判所の民事訴訟の対象となるものに限る)等の代理を行うことができるようになった。これらの権限の拡大に伴い、紛争当事者の権利を保護するために懲戒規定の強化がなされている。

また、代替的紛争解決制度における代理権(ADR代理権)は、司法書士の他、弁理士土地家屋調査士社会保険労務士の4士業について付与されることとなった。なお、行政書士不動産鑑定士税理士などについては、ADR法の施行後に、手続実施者としての実績等を見極めた上で、将来の検討課題とすることとされた。

弁護士の収入

個人や会社から収入を得る業務の他に、裁判所に選任され裁判所が報酬を決定する業務や日本司法支援センター(法テラス)との契約により報酬が支払われる業務などがある(刑事被疑者・被告人の国選弁護人業務、破産管財人業務、相続財産管理人業務など)。

日弁連の2000年の調査によると、弁護士の所得は平均1,701万円(粗収入から必要経費を差し引いた額)。もっとも、平均値は一部の高額所得者に引っ張られているので、中央値によれば、平均所得は1300万円となる。更に言うならば、500万円未満、1,000万円未満が4割を占めている(裁判官、検察官の退職者の多くが弁護士登録をしていることに注意。これらの弁護士の中には高齢で本格的に弁護士として稼動していないにも関わらず、名誉顧問などの名称で各事務所のパートナークラスの収入を得ている者もおり、実稼働弁護士の実質年収はさらに低下する可能性もある。)。

厚生年金や福利厚生、自営業であることから退職金などもないことを考えると、それらによって得られる利益を差し引くと、実質的な収入はさらに下がる。したがって、実労働時間の長さ、ミスを犯したとき多額の損害賠償請求を受けることも考えると、ハイリスク・ローリターンの職業だともいえる[4]。また、そもそも日弁連の調査は任意のアンケート方式のため、低年収の弁護士(特にいわゆるイソ弁・軒弁・宅弁)は回答を避ける傾向にあるのではないかとしてその回答の正確性に疑問を呈する向きもある。「平成18年の厚生労働省 賃金構造基本統計調査等」によると弁護士の平均年収は現在772万円とされている。なお、この調査に回答した弁護士の平均年齢は32.0歳・平均勤続年数は2.6年である。刑事弁護を専門として行っている弁護士の収入は100万円前後ともいわれる。

司法制度改革で司法試験合格者が急増(2010年には3千人を突破見込み)した結果、弁護士になっても就職できない状況が生まれつつある。雑誌ではSPA!において「年収300万『下流弁護士』大量発生の闇(2007年10月16日号)の特集があり[1]<読売ウィークリーにも同趣旨の記事があったが掲載日時未確認>、TV番組でも毎日放送VOICE 」が、2008年1月22日3月14日[2]などに取り上げている。

以前は独立までの間、「イソ弁」(居候弁護士の略とされる)として先輩事務所に有給で勤務するのが一般的であったが、先輩の事務所に所属はするものの無給となり「ノキ弁(電話や机を借りるだけ―軒先を借りるから)」と呼ばれる例が少なからずでてきている。軒先も借りられないのでいきなり自宅開業する「タク弁」、携帯電話のみで開業の「ケータイ弁護士」も出てきているとの指摘してもある。「試験にパスしたが年収200万」という「下流弁護士」が弁護士会で大きな問題になりつつあるという指摘もある(07年10月22日付東京新聞)。ちなみに、弁護士法人や合同事務所に勤務したり企業の法務部等に勤務するのでなければ、弁護士は自営業者である。

さらに、「司法試験に合格しても職場がない-"新卒”弁護士激増の時代」の特集でも、1990年ごろまでは毎年500人程度だった司法試験合格者が、全国津々浦々の市民に司法サービスとの要請に2007年は2500人が就職活動をしている。その中で、「カップラーメンばかり食べている『ワーキングプア・ロイヤーズ(法律家)』もいる。年収数億円の弁護士もいれば、200万円台の人もいる」と階層化が進むという指摘がある。結局「イソ弁(上記参照)」が慣わしだったのが、「ノキ弁(イソ弁と違い、無給であり軒先だけ貸すから)」、中には弁護士会の会費が払えず、弁護士登録していない「潜在的弁護士」が出現。結果として事件の取り合い、闇にも手を出し、暴力団と手を組むなどの質の低下を招くとの指摘がある。このような中でも、弁護士が大都市に集中する傾向は変わらず、滋賀県長浜、福岡県柳川、大分県杵築のように地方裁判所支部の管轄区域内に弁護士が全くいない、あるいは一人だけしかいないような「ゼロワン地域」の解消になっていないという指摘もある(07年10月23日付東京新聞、なお、ゼロ地域問題は、最後のゼロ地域であった滋賀県長浜に2008年6月2日に法律事務所が開業したことによって解消された)。なお、日弁連では、地裁支部を地域単位にゼロワン地帯を定め、鹿児島地裁加治木支部ではいまだにゼロ名であると指摘している(2009年2月)。なお、利益相反の問題があることから、訴訟になった場合、弁護士が1名では相手方に弁護人が立てられないという問題があるため、いまだ解消されたというには程遠い状況であるといえよう。

国選弁護人の報酬を必要時間で割った時給は、弁護士の平均時給の半分以下となっているとされる(弁護士の平均時給が平均1万5,032円であるのに対し、国選弁護人の業務による時給は6,033円という調査結果がある[要出典]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。)。このため、法務省は2007年11月1日から、刑事裁判において被告人が無罪となった場合には報酬を2倍に引き上げるなど、国選弁護人の収入が増えるようにした[5]

不良弁護士の問題

社会正義の実現や弁護士倫理などが常に重要視されている一方で、暴力団等反社会勢力への脱法行為の指南、また弁護士自身が暴力団組織の一員となり、弁護士資格を失ったケースもあり、弁護士のモラルの低さが非難されている。法に熟知し、違法であっても訴追されないように違法行為を行うものも多く、争い事が無くなれば仕事が無くなる職業上の宿命から、弁護士に社会的正義の実現を要請することは困難である。近年、弁護士が実刑判決を受けるケースが増えており、暴力団を除けばわずかな弁護士集団から毎年これだけの実刑判決を受けるような組織はないとして、東京地検特捜部長や最高検公判部長などを歴任した河上和雄弁護士は、この現状を厳しく批判している(参考文献・『正義の作法』講談社)。

関連団体

弁護士を題材にしたテレビドラマ

脚注

  1. ^ 「司法と経済」研究会に出席して(弁護士・川村明)ADR JAPAN
  2. ^ ダニエル・H・フット 『裁判と社会―司法の「常識」再考』 溜箭将之訳、NTT出版、2006年10月、ISBN:9784757140950
  3. ^ 「弁護士のあり方」について--司法制度改革審議会 日弁連プレゼンテーション--全文 司法制度改革審議会・第28回会議配付資料(2000年8月29日)。
  4. ^ 『日本の法律事務所2000―弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査報告書』自由と正義53巻13号。
  5. ^ 「刑事被告無罪なら国選弁護人の報酬2倍に」『読売新聞』2007年11月1日付配信

関連項目

外部リンク