弁護士自治

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弁護士自治(べんごしじち)とは、弁護士権力から独立し自治により職業集団としての弁護士を統括するあり方を言う。

概要[編集]

日本では、日本弁護士連合会による自治を表すこともある。日本弁護士連合会は各弁護士会を統括するものである。

沿革[編集]

1949年弁護士法によって定められた。司法大臣が弁護士の監督権を有していた戦前、対立する検事や裁判所からの請求により弁護士の懲戒がなされた結果、日本労農弁護士団などをはじめ多くの政治犯や思想犯が検挙・投獄されるなどの全体主義を経験したことを理由として設けられた制度である。

弁護士の育成、資格賦与、弁護士登録手続による自治[編集]

本来は弁護士会が弁護士の育成、資格を賦与の判断を独占することをいうが、日本においては法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)が同一の司法試験及び司法修習を終了した同一資格者であることを前提としているため、日本独特の変容を遂げている。

すなわち日本では、法曹三者が相互入れ替え可能な地位を有することを前提とし、判検交流弁護士任官、いわゆるヤメ判ヤメ検付審判制度および検察審査会強制起訴制度における指定弁護士による検察官職務執行、下級裁判所裁判官指名諮問委員会検察官適格審査会及び弁護士懲戒制度における、他の法曹三者の関与など、独自に様々な制度設計がなされている。

このため司法修習制度による弁護士の育成、資格賦与段階での弁護士自治の内容は、次の3点である。まず、司法試験段階においては、司法試験委員会および考査委員の構成員として弁護士資格者を必ず関与させることとしている。次に、司法修習段階では、司法研修所教官として弁護士資格者による弁護教官が指導をおこない、実務修習においても弁護修習を必須のものとし、弁護士会による関与が行われる。また、法曹資格付与の後には、弁護士会資格審査会が登録の審査を行う(弁護士法12条)。

また、法務大臣が認定した者に弁護士資格を付与する「弁護士資格認定制度」(弁護士法5条)に関しても弁護士自治の関与がある[1]。資格申請者は、認定前には法務省が指定する日本弁護士連合会の講習を受けることとなり、認定後には司法修習修了者と同様、弁護士会の資格審査会による登録の審査を受ける。

なお、弁護士資格・登録審査や懲戒処分については、公法的欠格事項を除き、日本弁護士連合会や弁護士会以外の公権力(行政不服審査会等)が介入することはできない[2]

弁護士の質や不正防止対策は各弁護士会や日本弁護士連合会の方針に基づいて行われているが、筑波大学元教授で弁護士の新井誠はNHKの番組で成年後見制度での不祥事件数の多さを取り上げ、こうした分野については弁護士はさらに研修を受け、修了した者だけが選ばれるようにするべきであると述べている[3]

なお、国際連合の決議『弁護士の役割に関する基本原則』は、弁護士育成と資格付与の機会は、様々な人種や地位のグループに対し平等に与えられるべきであるとしている。

懲戒制度上の自治[編集]

国際連合1990年国連憲章世界人権宣言に基づき、『弁護士の役割に関する基本原則』(Basic Principles on the Role of Lawyers[4])を設置し、弁護士についての懲戒手続は、法専門家による懲戒委員会や立法機関の中の独立した機関あるいは裁判所により取り行われ、さらに重ねて、懲戒手続は独立した法的機関の司法審査を受けられることが必須であるとした (第28条)。

ドイツでは、裁判所が弁護士の懲戒権を有している。

アメリカ合衆国では、それぞれの法曹団体が弁護士の非行行為の審査をする建前をとり弁護士自治が認められている(ただし、弁護士会が任意加入の州も多くある)が、審査の結果懲戒の必要を認めたときは裁判所へ懲戒の勧告を行なう制度をとっている。

イギリスでは、かつては法廷弁護士の私的な団体である法曹院が法廷弁護士について懲戒権を有し、裁判所や行政の司法審査に服しないとされていたが、弁護士に対する苦情の処理に関する要望が非常に高まったこと、また贈収賄法の制定が予定されていたこともあり、2010年には弁護士に対する苦情・報告を専門に受付ける独立の公的なオンブズマン制度が設置された[5]事務弁護士については、もとから法サービス理事会が懲戒権を有していた。

日本[編集]

日本のように弁護士会に自治権が認められている制度は諸外国ではむしろ少数派である。

大日本帝国憲法下では、司法省控訴院裁判所構成法や旧弁護士法などに基づき弁護士の懲戒を行っていたが、日本国憲法(1947年)の制定のち、元帝国議会衆議院議員であった弁護士花村四郎らが立案した全部改正の弁護士法 (1949年) が成立したことにより現在の自治制度が設置された。

弁護士への懲戒請求は日本弁護士連合会傘下の各弁護士会が受け付るか、日本弁護士連合会が自ら申立てるが(弁護士法60条)、非公開の審議で綱紀委員会が審査相当と判断すれば、懲戒委員会がこれもまた非公開の審議で懲戒相当か否かの判断をすることとなっている。

なお懲戒処分を受けた者は、東京高等裁判所に処分の取消しを求めることができるので、その限りで裁判所の介入はあるが、裁判所判例により、裁判所は弁護士会の自律性や裁量を考慮して判断することとされている。なお、実際には懲戒委員会や綱紀委員会に検察官・裁判官が委員として参与することが規定されているので[6]、事実上は「法曹三者による自治」である。

2016年には行政不服審査法が改正され、行政庁が審査庁としてする懲戒処分に対する不服審査の手続については、総務省行政不服審査会に諮問して答申が行われる制度が設けられたが、日本弁護士連合会懲戒委員会が審査請求に対してする判断の適否については行政審査の対象から除かれ、審査の実情が法曹以外には可視化が行われていない状態である。なお、日本弁護士連合会や弁護士会の会長以下委員会委員は、刑法においては「法令により公務に従事する職員公務員」(みなし公務員)とされている。

弁護士会・懲戒請求事案処理状況(2000-2009)[7]

日本での問題点[編集]

弁護士への苦情の申立ては毎年1万数千件程度も発生しているが、懲戒処分に至る件数は例年100件前後と極めて少ない。

弁護士法では懲戒手続きに付された弁護士は弁護士会登録換えを申請できないことになっているが、弁護士会は登録申請者が懲戒手続に付されているかを独自に調査できないため、懲戒手続に付されていることを申告せずに登録換えを行うことで調査を逃れることが事実上は可能となっている。また会則を開示しない弁護士会もあり、現場における制度運用の正当性が不可視である。

日本放送協会(NHK)は、特に1999年に始まった成年後見人制度や、2009年1月の最高裁判所判例が元となって増加した過払金返還訴訟に関連して、弁護士の不正問題を度々取り上げた[8]

日弁連は2004年に『営利業務及び公務に従事する弁護士に対する弁護士会及び日本弁護士連合会の指導・監督に関する基準』を制定し、また2011年には債務整理事件処理についても新たに規程を設置した[9]

しかしながら、最高裁判所が2010年6月に開始した成年後見人制度上の不祥事の統計によれば、2014年には、弁護士や司法書士など専門職がした不正利用による財産被害は合計11億円にも上った[3]。。

自民党は1997年、日本における弁護士自治制度を批判し、「司法制度改革の基本的な方針(案)-透明なルールと自己責任の社会へ向けて-」において、弁護士の懲戒について外部機関による審査方式を導入することを提案していた。しかし、現状の日本弁護士連合会や弁護士会は未だ特別の法律により設立される法人の対象外となっており、総務省行政評価局からは評価されることがない。

また、西田研志弁護士(法律事務所MIRAIO所長)は、国民を代表する監督機関のほうが弁護士会内部のしがらみにとらわれない公正な監督が期待できるとしている。

立法上の自治[編集]

日本弁護士連合会及び弁護士会はおのおの、総会の決議により、弁護士法の下に会則類を設置することができる。ただ規定を一切開示しない弁護士会もあり、規定の改正経緯も含めてほぼ開示しているのは日本弁護士連合会のみである[10]

財政上の自治[編集]

日本弁護士連合会及び弁護士会の運営資金は、会員弁護士が拠出する会費と寄付金、破産管財人負担拠出金などで賄われている(弁護士会による)。公益法人特別法人特殊法人としては扱われていないため、収支決算について会計検査院などの外部機関から監査を受けることがない[11]。また対外的に収支報告を行うという規定も設けられておらず、日本弁護士連合会が一般会計の一部分を弁護士白書に掲載しているのみである。

[編集]

  1. ^ 法務省ウェブサイト「弁護士資格認定制度
  2. ^ 登録を拒否されり懲戒を受けた者は、東京高等裁判所に処分の取消しを求めることができるので、その限りで裁判所の介入はある。
  3. ^ a b 視点・論点『後見人制度 不正防止対策を考える』(2015年9月)、NHK。2016年11月8日アーカイブ。
  4. ^ Basic Principles on the Role of Lawyers, United Nations, 1990.
  5. ^ Legal Ombudsman 公式サイト。
  6. ^ 日本弁護士連合会『日本弁護士連合会関連法規集』(2008年)、第二東京弁護士会『第二東京弁護士会会則集』(1997年1月)。
  7. ^ 懲戒請求事案集計報告(日本弁護士連合会・2009年)
  8. ^ 追跡!A to Z『正義の味方はなぜ堕ちた?~急増する弁護士トラブル~』(2010年9月)、あさイチ『増える“成年後見人”トラブル』(2016年2月)、NHK。2016年11月8日アーカイブ。
  9. ^ 日弁連ウェブサイト『債務整理の弁護士報酬に新たなルールを作りました』
  10. ^ 日本弁護士連合会ウェブサイト「弁護士法・会則・会規等
  11. ^ 公益法人は団体の内部留保率は、運用指針上30%程度以下であることが望ましいとされているが、日本弁護士連合会の内部留保は2015年の時点で50億円以上(内部留保率は少なく見積もっても150%以上)である。

関連項目[編集]