エンドニムとエクソニム

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外名(がいめい、: exonym)とは、第三者による特定の土地民族呼称のこと。対義語は内名(ないめい、endonym/autonym)。

外名の例

例を示せば、日本Japanと呼ぶのは外名、「にっぽん」または「にほん」は内名ということになる。このような例は世界中に無数にあり、原因としては各民族が独自の語彙で呼びならわした場合(ドイツ人:ドイツ語: Deutscherに対し、英語: Germanゲルマン人)、フランス語: allemandアラマンニ人)、イタリア語: tedescoスウェーデン語: tyskフィンランド語: saksalainenサクソン人)、ポーランド語: niemiec(疎通できない者達)、リトアニア語: vokietisなど)もあれば、内名と同じ語源をもちながらさまざまに転訛した場合(Japanという名称は中世中国語での「日本」の発音に由来する、ロンドンを英語・ドイツ語ではLondon 、ポルトガル語スペイン語フランス語ではLondres(ポルトガル語・スペイン語では「ロンドレス」、フランス語では「ロンドル」と発音は異なる) 、イタリア語ではLondraと呼ぶ、など)もある。

外名には、全く同じつづり字、同語源、同意味であっても、発音だけが異なる場合も含めることがある。例としてパリ(Paris) をフランス語では「パリ」、英語・ドイツ語では「パリス」と発音する。つまり日本語で表記し日本語的に発音している以上、日本における外国の地名、民族名は全て外名であると言えないことも無い。だが、それではあまりに意味を広く捉えすぎなので、ここではFranceを「フランス」、Italiaを「イタリア」とするような事例は外名には含めないことにする。

日本語の場合、古くから知られている地名に関してはポルトガル語やオランダ語の発音を、近年知られるようになったものに関しては英語の発音を音写する事例(但し一部は非英語発音由来。下記日本語における外名一覧を参照)が多いため、現地語の音とはだいぶ異なる名前で呼ぶ事が多い。

また、国名を他国語に翻訳したものも外名と考える場合もある(下記コートジボワールの例を参照)。ただし、Republic of 〜を「-共和国」とするように、国の形態を示す語を翻訳する事については外名と考える事はほとんどない。United States of Americaを「アメリカ合州国」ではなく「アメリカ合衆国」と訳すのは、単純な翻訳ではなく意訳が含まれるので外名であるとする意見もある。[1]

外名撤廃の動き

20世紀後半から外名撤廃の動きが現れ始め、近年特に旧宗主国によってつけられた外名や、民族名で差別的響きがある外名の撤廃の動きが勢いを増している。前者では「エベレスト山」の「チョモランマ」への言い換え、後者では「ジプシー」の「ロマ」への言い換えなどが特に有名な例であろう。また、このようなものではなくても、歴史的背景から敬遠されるエクソニムも存在する。例えばポーランドの都市グダニスク(Gdańsk)をドイツ語名のダンツィヒ(Danzig)と表記した場合、ポーランド侵攻に絡んで問題にされる場合もある。以上の例は場合によっては外交的国際問題にまで発展しかねない。

外名が撤廃された例として、南アメリカ諸国でトルコの首都アンカラを、スペイン語Angoraではなくトルコ語Ankaraと呼ぶのが通例となっていることなどが挙げられる。また、コートジボワールCôte d'Ivoire、フランス語で「象牙海岸」の意)は英語ではIvory Coast、ドイツ語ではElfenbeinküste、スペイン語ではCosta de Marfilというように各国語に訳されて呼ばれていたが、コートジボワール政府は各国に対して他言語に自国名が翻訳されることがないように要請している。

一方で議論の俎上に置いた時代に沿った名称を敢えて使用したり、国家の公用語とその地域で使われている言語が異なる場合に現地の言語を優先したり、既に学術用語として定着しているために古い名称を使用する場合もある。

外名と領土問題

領土問題が係争中の領域や、二国間に挟まれる領域の呼称に関しては、関係各国がそれぞれ自国の内名を主張することもあるため、たびたび混乱がおこる。日本に関する例としては、地図上の「千島列島」の表記を国後島択捉島にかけて表示するか択捉海峡の東側にするか、または「クリル列島」を併記するか、という問題や、「竹島」や「日本海」の呼称に関する問題が挙げられる。実際に各国においてどのように表記されるかは、国際的な慣習や各国政府の方針によるところが大きい。

国際連合の外名に対する態度

国連の地名標準化会議で外名の使用を減らそうという勧告をしているものの、下記に見られるように、外名に対し寛容な態度も示している。

Time has, however, shown that initial ambitious attempts to rapidly decrease the number of exonyms were over-optimistic and not possible to realise in the intended way. The reason would appear to be that many exonyms have become common words in a language and can be seen as part of the language’s cultural heritage.[2]

(しかしながら外名の使用数を急速に減らそうという当初の熱心な動きは、時が経つにつれ、かなり楽観的すぎた考えであり、元々の方法では実現できないことがわかってきた。一つの言語圏で多くの外名が一般化されていたり、言語的文化の伝統の一つとして捉えられるようになっているのが、その理由であろう)

日本の外名

漢字の各言語読み

「〜ポン」系

「〜パン」系

日本語における外名一覧

国名の外名

表には挙げないが、イギリスを表す「英国」、アメリカを表す「米国」なども外名である。

日本語名 内名 日本語名の由来
アイスランド Ísland(「イースラント」アイスランド語 英語のIcelandから。
アイルランド Éire(「エーラ」アイルランド語 英語のIrelandから。英語発音はアイアランド。
アラブ首長国連邦 إمارات(「イマーラート」アラビア語 英語のUnited Arab Emiratesの直訳から。
アルジェリア الجزائر(「アッジャザーイル」アラビア語) 英語のAlgeriaから。
アルゼンチン Argentina(「アルヘンティーナ」スペイン語 フランス語のArgentineから。
アルバニア Shqipëria(「シュチパリア」アルバニア語 イタリア語などのAlbaniaから。
アルメニア Հայաստանի(「ハイアスタン」アルメニア語 ラテン語などのArmeniaから。
アンドラ Andorra(「アンドッラ」カタルーニャ語 英語の発音から。
イギリス United Kingdom(「ユナイティッド・キングダム」英語) イングランドを意味するポルトガル語のInglezから。
インド भारत(「バーラト」ヒンディー語)、India(「インディア」英語)など ギリシャ語でインダス川を意味するΙνδόςから。
ウズベキスタン O'zbekiston(「オッズベキスターン」ウズベク語 ロシア語Узбекистанから。
エジプト مصر(「ミスル」アラビア語) 英語のEgyptから。英語発音はイージプト。
エストニア Eesti(「エースティ」エストニア語 英語などのEstoniaから。
エリトリア ኤርትራ(「エルトラ」ティグリニャ語 英語のEritreaから。
オーストリア Österreich(「エースタライヒ」ドイツ語バイエルン・オーストリア語)) 英語のAustriaから。
オランダ Nederland(「ネーデルラントオランダ語 ホラント州のポルトガル語訳であるHolandaがポルトガル人宣教師によって戦国時代に持ち込まれたもの。
カザフスタン Қазақстан(「カザクスタン」カザフ語 ロシア語Казахстанから。
カンボジア កម្ពុជា(「カンプチャ」クメール語 英語のCambodiaから。
北朝鮮 조선(「チョソン」朝鮮語 位置を明確にする為の方角を漢字表記に付加したもの。
ギニア Guinée(「ギネー」フランス語) 英語のGuineaから。英語発音はギニー。
ギリシャ Ελλάς(「エラス」ギリシャ語 ポルトガル語のGreciaから。
キルギス Кыргыз(「クルグズ」キルギス語 ロシア語のКиргизから。
クロアチア Hrvatska(「フルヴァツカ」クロアチア語 英語のCroatiaから。
ケニア Kenya(「ケニャ」スワヒリ語 英語の発音から。
サウジアラビア السعودية(「アル=アラビーヤ・アッ=サウーディーヤ」アラビア語) 英語のSaudi Arabiaから。
シエラレオネ Sierra Leone(「シエラ・リオーン」「シエラ・リオーニ」英語) スペイン語の発音から。
ジョージア საქართველო(「サカルトヴェロ」グルジア語 英語のGeorgiaから。
シリア سورية(「スーリーヤ」アラビア語)
سوريا(「スーリヤー」アラビア語)
英語のSyriaから。
スウェーデン Sverige(「スヴェリエ」スウェーデン語 オランダ語のZwedenの方言か。
スペイン España(「エスパーニャ」スペイン語) 英語のSpainから。
スロバキア Slovensko(「スロヴェンスコ」スロバキア語 英語などのSlovakiaから。
セルビア Србијa(「スルビヤ」セルビア語
タイ เมืองไทย(「ムアン・タイ」タイ語
ประเทศไทย(「プラテーット・タイ」タイ語)
単にไทย(「タイ」)と言うと形容詞になる。
チェコ Česko(「チェスコ」チェコ語
チュニジア تونس(「トゥーニス」アラビア語) 英語のTunisiaから。
チリ Chile(「チレ」スペイン語) 英語の発音から。
デンマーク Danmark(「ダンマハク」デンマーク語 英語のDenmarkから。
ドイツ Deutschland(「ドイチュラント」ドイツ語) オランダ語のDuitslandから。
トルクメニスタン Türkmenistan(「テュルクメニスタン」トルクメン語 ロシア語のТуркменистан、またトルコとの連想から。
トルコ Türkiye(「テュルキエ」トルコ語 ポルトガル語のTurcoから。
ナイジェリア Nigeria(「ナイジアリア」英語) 英語の誤読から。
ナウル Naoero(「ヌゥエッロ」ナウル語 英語のNauruから。
ノルウェー Norge(「ノルゲ」ノルウェー語ブークモール
Noreg(「ノレグ」ノルウェー語 ニーノシュク
英語のNorwayから。
ハイチ Haïti(「アイティ」ハイチ語フランス語 オランダ語などでの発音から。
パラオ Belau(「ベラウ」パラオ語)・Palau(「パラウ」英語) スペイン語のPalaosから。
バルバドス Barbados(「バーベイドス」英語) ポルトガル語の発音から。
ハンガリー Magyarország(「マジャロルサーグ」ハンガリー語 英語のHungaryから。
フィリピン Pilipinas(「ピリピーナス」フィリピン語 英語のPhilippinesから。
フィンランド Suomi(「スオミ」フィンランド語 英語またはスウェーデン語のFinlandから。
ブータン འབྲུག་ཡུལ་(「ドゥク・ユル」ゾンカ語 英語などのBhutanから。
ベルギー België(「ベルヒエ」オランダ語)
Belgique(「ベルジック」フランス語)
Belgien(「ベルギエン」ドイツ語)
ポーランド Polska(「ポルスカ」ポーランド語 英語のPolandから。
ボスニア・ヘルツェゴビナ Bosna i Hercegovina(「ボスナ・イ・ヘルツェゴヴィナ」ボスニア語 英語のBosnia and Herzegovinaから。英語におけるHerzegovinaの発音はハーツィゴウヴィーナ。
ホンジュラス Honduras(「オンドゥラス」スペイン語) 英語の発音から。
ミクロネシア連邦 Micronesia(「マイクロニージャ」英語) ギリシャ語などの発音から。
メキシコ México(「メヒコ」スペイン語) 英語などのMexicoから。
モザンビーク Moçambique(「ムサンビーケ」ポルトガル語) 英語などのMozambiqueから。
モルディブ ރާއްޖޭގެ(「ラーッジェ」ディベヒ語
モロッコ المغرِب(「アル=マグリブ」アラビア語) 英語のMoroccoから。
モンテネグロ Црна Гора(「ツルナ・ゴーラ」セルビア語 ヴェネト語のMontenegroから。
ヨルダン الأردنّ(「アル=ウルドゥン」アラビア語) ギリシャ語のΙορδανίαから。
リトアニア Lietuva(「リェトゥヴァ」リトアニア語 英語のLithuaniaから。
リベリア Liberia(「ライビアリア」英語) ラテン語などでの発音から。
ルーマニア România(「ロムニア」ルーマニア語 英語のRomaniaから。
ロシア Россия(「ラスィーヤ」ロシア語) 以前はロシヤと表記されたが、他のヨーロッパ諸国名に合わせて現在の表記になった。
レバノン لبنان(「ルブナーン」アラビア語) 英語のLebanonから。

地名・都市名の外名

日本語名 内名 日本語名の由来
アテネ Αθήνα(「アスィナ」ギリシア語 古典ギリシャ語及びラテン語形のἈθῆναι/Athenaeから。
アモイ 廈門(Xiàmén「シアメン」北京語、Ē-mn̂g「オームン」ビン南語) 英語のAmoyから。
エベレスト ཇོ་མོ་གླང་མ(「チョモランマ」チベット語
सगरमाथा(「サガルマータ」ネパール語
英語で、ヒマラヤ山脈を測量した時にインド測量局長官であったイギリス人のジョージ・エベレスト(George Everest)にちなむ。
エルサレム ירושלים(「イェルシャラーイェム」ヘブライ語
القُدس(「アル=クッズ」アラビア語)
ギリシャ語のΙερουσαλήμから。
キエフ Київ(「キーウ」ウクライナ語 ロシア語Киевから。
チベット བོད་(「プーチベット語 英語などのTibetから。
ハバナ La Habana(「ラ・アバーナスペイン語 英語のHavanaから。
バンコク กรุงเทพฯ(「クルンテープ」タイ語 英語のBangkokから。
ベニス Venessia(「ヴェネースィア」イタリア語ヴェネツィア方言)
Venezia(「ヴェネツィア」イタリア語)
英語のVeniceから。原音主義に則りヴェネツィアと呼ぶ事の方が多いが、慣用的にベニスヴェニス)と書くこともある(ヴェニスの商人など)。
ペキン 北京(普通話Běijīng「ペイチン」) 18世紀以前の中国語音(「京」を「キン」と発音した)を写したオランダ語の古い呼称 Pekingから。
マカオ 澳門(普通話:Àomén「アオメン」、広東語:Ou3mun4-2「オウムン」) 英語のMacaoから。
マドリード Madrid(「マドリー」スペイン語 英語の発音から。スペイン語では「マドリース」「マドリー」などと発音する。
マラッカ Melaka(「ムラカ」マレー語 英語のMalaccaから。
メキシコシティ Ciudad de México(「シウダー・デ・メヒコ」スペイン語 英語のMexico Cityから。なお現地では、以前の正式名称の略称DF(デー・エフェ、Distrito Federalの略)と呼ばれることも多い。
モントリオール Montréal(「モンレアル」フランス語 Montrealの英語式発音から。
リスボン Lisboa(「リジュボア」ポルトガル語 英語のLisbonから。

関連項目

脚注

  1. ^ この意見は明らかな誤りであり、例えば本多勝一の『アメリカ合州国』(1970年、朝日新聞社)などからこの謬説が社会に広く流通している。しかしながら、宮澤俊雅「「US漢号」覚書:「合衆国」考」『北海道大学文学研究科紀要』2003年 2月28日[1]、千葉謙悟「the United States と合衆國」『早稲田大学大学院文学研究科紀要. 第2分冊, 英文学フランス文学ドイツ文学ロシヤ文学中国文学』2003年[2]などが「合衆国」と表記することの正しさについて考証している。またUnited States of Americaを「合州国」と表記することは、通常「州」と翻訳されているstateを日本の行政単位である都道府県と同じものとする錯誤によるものでもある。以上の理由から、「アメリカ合衆国」ではなく「アメリカ合州国」と翻訳表記することの方にむしろ意訳を認めるべきだろう。
  2. ^ [3] 22nd Session of UNGEGN 2004, working paper 75 (submitted by Sweden)

外部リンク