2030年札幌オリンピック構想

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2030年札幌オリンピック構想(2030ねんさっぽろオリンピックこうそう)は、札幌市が主体となって招致に取り組んでいた、2030年冬季オリンピック構想である。

札幌市は2014年より冬季オリンピックの招致活動を開始した。当初は2026年冬季オリンピックの招致を予定していたが、2018年9月に2026年大会の招致を断念し2030年大会の招致構想に変更。2023年10月には2030年大会の招致も断念し2034年以後の招致を目指すとしたが、2023年12月、招致活動の「停止」を宣言した。

2021年11月に札幌市が発行した開催概要計画(案)では、大会の名称は「2030北海道・札幌オリンピック・パラリンピック冬季競技大会」とされていた[1]。「北海道」が冠されているのは、全道を挙げた招致をアピールする目的からである[2]

招致及び計画検討の経緯[編集]

札幌市は過去に1972年冬季オリンピックを開催した経験がある。また、1940年大会の開催も決定していたが開催権を返上した経緯があるほか、1968年大会1984年大会にも立候補したが開催地投票で落選している。

2026年大会の招致構想と2030年大会への目標変更[編集]

2013年9月25日、当時の上田文雄札幌市長が札幌市議会において、札幌オリンピック招致の調査費を2014年度予算に計上する意向を明らかにした[3]

2014年11月6日、札幌市議会が「2026年冬季オリンピックの札幌招致に関する決議」を賛成多数で可決した[4][5]。また、10月に行われた市民1万人アンケートで66.7%が賛意を示したことや、札幌商工会議所も招致を求めたことなども受け、11月27日、上田文雄市長は市議会で2026年冬季オリンピックの招致を正式に表明した[6]

2016年7月7日、北海道議会が「2026年冬季オリンピック・パラリンピック競技大会の北海道招致に関する決議」を可決した[5]。同年10月6日に公表された開催概要計画において「2026北海道・札幌オリンピック・パラリンピック冬季競技大会」という呼称が採用された[2]。同年11月8日、札幌市は日本オリンピック委員会(JOC)に開催提案書を提出した[7][5]

2017年11月9日、JOCは2026年冬季オリンピックの国内候補地の公募を締め切った。国内からは札幌市だけが立候補した[8]。2018年3月末、国際オリンピック委員会(IOC)が2026年大会の立候補に向けた「対話ステージ」募集を締め切り、日本を含む7か国が参加することになった[9]

しかし、2018年平昌(韓国)、2022年北京(中国)に続けて、3大会を連続してアジアで開催するのは厳しいと予想されたことや、2030年度末に予定されていた北海道新幹線札幌延伸が前倒しされ、2030年大会に間に合う可能性が出てきたことから、2018年5月14日、秋元克広札幌市長がJOCの竹田恆和会長(当時)に面会し、招致ターゲットを2030年冬季大会に変更する意向を伝達した[10][11]。さらに、同年9月6日に北海道胆振東部地震が発生したため、招致活動が困難になったとして、9月17日、札幌市の町田隆敏副市長とJOCの竹田会長はIOCのトーマス・バッハ会長とスイスローザンヌで面会し、2026年大会の招致断念と、2030年大会招致への切り替えを通達した[12][13]

2030年大会の招致[編集]

2020年1月29日、JOCは、札幌市を2030年冬季大会の国内候補地として正式決定した[14]

2021年11月、開催概要計画(案)が公表された[15]

  • 施設整備費合計:800億円(うち、札幌市実質負担額450億円)
  • 大会運営費試算:2,000 - 2,200億円

2022年11月、北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会概要(案)更新版が公開された[16]

  • 施設整備費合計:770億円(うち札幌市実質負担額490億円)
  • 大会運営費試算:2,200 - 2,400億円

2022年9月8日、「北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック 冬季競技大会に向けて」と題して秋元克広札幌市長とJOC山下泰裕会長が共同声明を発表した[17]

2022年12月6日、IOCが2030年大会の開催地を2023年に実施する第140次IOC総会で決定しないことを公表した[18]

概要[編集]

大会開催概要計画やIOCへの提出書類の検討・作成のために複数の業務を発注しており、所管部署は札幌市スポーツ局招致推進部調整課となっていた。なお、オリンピック招致委員会(Olympic Games Bid Committee)は発足しなかった。「札幌、北海道はもとより全国、さらには世界に向けて、大会の開催意義や価値を伝え、多くの理解と共感を得ながら、オールジャパンで招致機運を高めることを目的」として、札幌市はJOCとともに「北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピックプロモーション委員会」を設立していた[19]

札幌市による大会招致に関わる業務の発注状況[編集]

年度 業務名 落札者 落札価格

(消費税及び地方消費税の額を含む)

備考
2017年度 冬季オリンピック・パラリンピック会場整備計画検討業務[20]
2018年度 冬季オリンピック・パラリンピック競技大会開催概要計画検討業務[21]
2019年度 冬季オリンピック・パラリンピック競技大会開催概要計画検討業務[22]
2020年度 冬季オリンピック・パラリンピック競技大会開催概要計画検討業務[23]
2021年度 冬季オリンピック・パラリンピック競技大会開催概要計画検討業務[24][25] パシフィックコンサルタンツ株式会社 北海道支社 落札時:106,975,000円 契約変更後:134,684,000円[26] 公募HP
2022年度 冬季オリンピック・パラリンピック競技大会開催概要計画検討・作成業務[27][28] 株式会社ドーコン 177,870,000円 公募HP

令和3年度当時の検討実施体制[編集]

令和3年度冬季オリンピック・パラリンピック競技大会開催概要計画検討業務の企画提案書に記載された基本的な考え方と取組体制 パシフィックコンサルタンツ(株)の下に、(株)ドーコン、(株)日建設計、(株)北海道日建設計、(株)電通北海道、(株)電通、EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)、(株)JTB、ぴあ(株)が参画しているのがわかる
令和3年度冬季オリンピック・パラリンピック競技大会開催概要計画検討業務の企画提案書に記載された基本的な考え方と取組体制

2021年度(令和3年度)に札幌市が発注した「冬季オリンピック・パラリンピック競技大会開催概要検討業務」[29]は建設コンサルタントのパシフィックコンサルタンツが受注している。業務計画書によると[30]、業務実施体制にはドーコン日建設計、北海道日建設計、電通北海道、電通、EYストラテジー・アンド・コンサルティング、スケール、JTBぴあが業務に参画していた。

また、企画提案書に記載された「基本的な考え方と取組体制」には、「東京2016・2020大会招致および東京2020大会の各種運営に携わるチーム」が検討に携わることが記載されていた[31]

開催スケジュール計画[編集]

開催概要計画(案)に記された2030年大会の開催スケジュールは以下の通りであった[1]

オリンピック
パラリンピック
  • 日数:10日間
  • 日程:2030年3月8日(金) - 17日(日)
  • 競技数:6競技80種目

会場配置計画[編集]

2023年8月時点での計画[32](■ - オリンピック競技、▲ - パラリンピック競技、※ - 札幌市外の施設)

招致断念[編集]

2022年になって2020年東京オリンピックをめぐる汚職・談合問題が表面化し、地元の支持が低下したことなどを受け、2022年12月20日、札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)は、合同記者会見において「積極的な機運醸成活動は当面休止する」と発表した[33][34]

その後も地元の支持が伸びず、また開催経費増大への不安も払拭できなかったことなどから、2023年10月11日、JOCと札幌市は、「現段階において住民の理解を十分に得ているとは言い難く、拙速に招致活動を進めることは、スポーツ及びオリンピック・パラリンピックが持つ価値そのものを損なう可能性がある」として、2030年大会の招致を断念し、2034年以後の招致を目指すと発表した[35][36][37]。ところが、10月15日、ムンバイで開かれていたIOC総会において、2030年大会と2034年大会の開催地を同時決定することが正式に決められたため、2034年大会の招致も絶望的となった[38]

2023年11月29日、IOCは理事会を開き、2030年大会の最優先候補地としてフランスオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏、2034年大会の最優先候補地としてアメリカ合衆国ユタ州ソルトレイクシティをそれぞれ選び、さらに2038年大会の「優先的な対話を進める候補地」にスイスを選んだ。このため、札幌市は2034年大会招致の可能性が消滅したのみならず、2038年大会の招致も絶望的となった[39]

2023年12月19日、札幌市は「冬季オリンピック・パラリンピック招致関係者意見交換会」を開き、2038年大会までの招致が困難となったこと、また、仮に2038年大会の招致が可能になったとしても15年先であり、そのときに札幌市がどのような課題を抱え、その解決に向けたまちづくりに対して大会の開催がどのような効果を発揮するのか見通せない、といったことを理由として、「現在の招致活動を停止する」と発表した[40]。事実上の撤退宣言であるが、将来の招致の可能性を残すため、「撤退」や「白紙」ではなく「停止」という表現とした[41]

IOCは札幌を2030年大会の本命と見なしていたといわれ、2022年12月に開催地決定を先送りしたのも、東京オリンピック汚職・談合事件等により地元の支持が低迷していた札幌に時間的猶予を与えるためだったといわれている。ところが2023年2月、JOCの山下泰裕会長はIOCのバッハ会長らと極秘会談を開き、2030年の招致は困難だと伝えた。これに対してIOC側が反発したため、以後の開催地決定プロセスで日本側は事実上蚊帳の外に置かれてしまったという[42]

引用リスト[編集]

  1. ^ a b 2030北海道・札幌オリンピック・パラリンピック冬季競技大会概要(案)” (pdf). 2024年1月24日閲覧。
  2. ^ a b 「26年五輪 近く計画書提出 札幌市 JOC、年内にも判断へ」『読売新聞』、2016年10月7日、北海道版、28面。ヨミダス歴史館で閲覧。
  3. ^ 「札幌市、冬季五輪招致へ調査費 「市民の議論 深めたい」」『朝日新聞』、2013年9月26日、北海道版、32面。 - 朝日新聞クロスサーチで閲覧。
  4. ^ 「札幌五輪招致を決議 市議会、共産党など反対」『読売新聞』、2014年11月7日、北海道版、33面。 - ヨミダス歴史館で閲覧。
  5. ^ a b c 2026北海道・札幌オリンピック・パラリンピック冬季競技大会 開催提案書”. 札幌市. 2024年1月21日閲覧。
  6. ^ 「札幌五輪 来年度に招致委 26年冬季 市長「夢と希望を」」『読売新聞』、2014年11月28日、北海道版、1面。 - ヨミダス歴史館で閲覧。
  7. ^ 「2026年冬季五輪招致 札幌市長が提案書 JOCへ提出」『読売新聞』、2016年11月9日、朝刊、27面。
  8. ^ 「26年冬五輪 札幌名乗り JOC公募に届け出」『読売新聞』、2017年11月10日、朝刊、19面。
  9. ^ 「五輪招致 強敵ぞろい 26年冬へ札幌市 「アジア3連続」の壁も」『読売新聞』、2018年4月5日、北海道版、27面。
  10. ^ 「札幌五輪 2030年にして 市、JOCに先送り意向」『読売新聞』、2018年5月10日、朝刊、34面。
  11. ^ 北海道)札幌市長、五輪招致「2030年」意向表明:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2018年5月14日). 2023年4月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年8月18日閲覧。
  12. ^ 「札幌五輪「26年断念」合意 JOC会長ら IOC会長と面会」『読売新聞』、2018年9月18日、朝刊、32面。
  13. ^ 札幌市、2026年冬季五輪の招致断念をIOCに伝達:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2018年9月17日). 2023年4月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年8月18日閲覧。
  14. ^ 札幌、30年冬季五輪候補地に ライバルはバルセロナか:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2020年1月29日). 2022年8月18日閲覧。
  15. ^ 札幌市. “2030北海道・札幌オリンピック・パラリンピック冬季競技大会概要(案)”. 札幌市. 2022年12月27日閲覧。
  16. ^ 札幌市. “北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会概要(案) 更新版”. 札幌市. 2022年12月27日閲覧。
  17. ^ JOC - 北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック 冬季競技大会に向けて”. 日本オリンピック委員会(JOC). 2022年12月27日閲覧。
  18. ^ Future Host Commission studying landscape of winter sport with a view to the Olympic Winter Games 2030 and beyond”. International Olympic Committee. 2022年12月28日閲覧。
  19. ^ https://www.city.sapporo.jp/sports/2030promotion.html
  20. ^ https://sg4.city.sapporo.jp/archives/detail?cls=gfile&pkey=306175
  21. ^ https://sg4.city.sapporo.jp/archives/detail?cls=gfile&pkey=408864
  22. ^ https://sg4.city.sapporo.jp/archives/detail?cls=gfile&pkey=490034
  23. ^ https://sg4.city.sapporo.jp/archives/detail?cls=gfile&pkey=523884
  24. ^ https://www.city.sapporo.jp/sports/keiyaku/documents/ippan2020/ippan51.html
  25. ^ https://sg4.city.sapporo.jp/archives/detail?cls=gfile&pkey=677115
  26. ^ 情報公開請求資料より転記
  27. ^ https://www.city.sapporo.jp/sports/keiyaku/documents/ippan2021/proposal5.html
  28. ^ https://sg4.city.sapporo.jp/archives/detail?cls=gfile&pkey=10128860
  29. ^ 「冬季オリンピック・パラリンピック競技大会開催概要計画等検討・作成業務」に係る公募型企画競争(プロポーザル)の実施について”. 札幌市. 2024年1月10日閲覧。
  30. ^ 冬季オリンピック・パラリンピック競技大会開催概要計画検討業務 業務計画書(パシフィックコンサルタンツ(株) 令和3年4月)
  31. ^ 冬季オリンピック・パラリンピック競技大会開催概要計画検討業務 企画提案書(パシフィックコンサルタンツ(株) 令和3年4月)
  32. ^ 北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会概要(案)更新版”. pp. 33-34 (2023年8月8日). 2024年1月21日閲覧。
  33. ^ 北海道・札幌2030大会招致 今後の進め方の見直しについて”. 北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会招致ウェブサイト (2022年12月20日). 2023年12月2日閲覧。
  34. ^ 札幌五輪招致、機運醸成を休止 「不信感払拭が先決」と市長」『47NEWS』、2022年12月20日。2023年12月2日閲覧。
  35. ^ 日本オリンピック委員会; 札幌市 (2023年10月11日). “今後の北海道・札幌冬季オリンピック・パラリンピック競技大会招致について” (pdf). 札幌市. 2023年12月2日閲覧。
  36. ^ 今後の北海道・札幌冬季オリンピック・パラリンピック競技大会招致について”. 北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会招致ウェブサイト (2023年10月11日). 2023年12月2日閲覧。
  37. ^ 2030年札幌五輪招致を断念 34年以降へ仕切り直し」『日本経済新聞』、2023年10月11日。2023年10月30日閲覧。
  38. ^ IOC、30・34年の五輪開催地を同時決定 札幌は絶望的に」『日本経済新聞』、2023年10月15日。2023年10月30日閲覧。
  39. ^ 札幌市、34年五輪招致から脱落 38年も絶望的 市長「衝撃的」」『毎日新聞』、2023年11月30日。2023年12月2日閲覧。
  40. ^ 今後の北海道・札幌オリンピック・パラリンピック冬季競技大会招致について(12月19日更新)”. 北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会招致ウェブサイト (2023年12月19日). 2023年12月23日閲覧。
  41. ^ 札幌市、9年間の冬季五輪招致に終止符 開催支持伸び悩み「撤退」」『毎日新聞』、2023年12月19日。2023年12月23日閲覧。
  42. ^ 「想定外だった」IOCの心変わり、JOCの情報収集力不足が失敗の一因…札幌招致停止」『読売新聞オンライン』、2023年12月20日。2024年1月21日閲覧。

外部リンク[編集]