ファーストクラス
ファーストクラス(First Class)は旅客機の最上級クラス(客席)のことである。
概要
由来
多くの航空用語の例と同じく、元は客船で使われていた用語で、同じく最上級客室の事を指していた。各国の鉄道においても、ファーストクラスカー(First Class Car/一等車)、セカンドクラスカー(Second Class Car/二等車)、サードクラスカー(Third Class Car/三等車)と分けられていた。日本の国鉄でも、創業当初から1960年まで3階級制が敷かれていた。現在、主要な国の鉄道では、2階級制が多い。なお、客船では沈没など万一の非常事態発生の際、ファーストクラスの乗客が優先して救助される権利を有していた。
航空においては、1920年代以降に旅客機による旅行が本格化し、旅客機の収容人数が増えて機内客室がクラス分けされた際に、この名がつけられた。基本的により広い面積を持つシートの提供と、より充実したサービスの提供が行われる。
なお、ファーストクラスに代表される航空機における複数の座席クラスの提供は、ダグラスDC-4Bやブリストル・ブリタニアなどの近代的大型機材の本格導入により、搭乗客数が30人以上となる1950年代前後から本格化している。
また、1940年代までのように単一クラスの提供であった時代は、短距離ならば現在におけるビジネスクラスと同じレベルのサービスと食事が、遠距離ならば、当時航空運賃が非常に高いことも相まって現在のファーストクラスとほぼ同じレベルのサービスが提供されていた。
変遷
以前は、機内に専用のラウンジを設けたりする一方、座席そのものはエコノミークラスを単に大型化した程度のものであった。時代が下るにつれ、座席のリクライニング角度をより深く、占有スペースの大型化やシートピッチの拡大も進められた。1996年には床面に対して完全に平行になるフルフラットシートが、続いて隣席の無いソロ配置のシートが導入された。近年では更に個室型の座席の導入も進んでいる。
近年では、競争激化と技術の更新を背景に、激烈な競争に晒される路線では頻繁に新型座席に更新されている。
また近年では、ビジネスクラスの競争激化によるハード・ソフト両面のサービスの向上と、顧客企業の出張コスト削減によるファーストクラスの利用客の減少などにより、ビジネスクラスのサービスの向上と同時にファーストクラスを廃止したり、設定路線を縮小する航空会社も増えている。また、ヴァージン・アトランティック航空のように、「ファーストクラス並みのサービス内容を持つビジネスクラスを提供する」ということを理由に、はじめからファーストクラスを設定しない航空会社もある。
また、ビジネスクラスやエコノミークラス普通運賃を頻繁に利用する収益性が高い乗客に対しては、マイレージサービスの特典などとして、ファーストクラスの座席を提供する航空会社もある。
域内国際線や国内線の場合
区域内の短距離線や国内線の上級クラスを「ファーストクラス」として提供している航空会社も多いが、シートの大きさやサービス内容が中長距離国際線のビジネスクラスと同様程度という場合も多い。
日本航空が国内の3路線に導入している「国内線ファーストクラス」は、3クラスが設定されている日本航空の国内線クラスで最上級のものであり、専用カウンターや専用保安検査場、ラウンジや預かり手荷物の重量制限の割増、有名レストランや料亭と提携した機内食が提供されるほか、日本の航空会社の国内線として最大の130センチを超える前後幅を持つ本革シートを装備している。
また、ヴァージン・アメリカもアメリカ国内線にファーストクラスを設定しており、無料の機内食や130センチを超える前後幅の本革シート、無償の預かり手荷物などのサービスを提供しているが、日本航空の国内線と同じくシートの広さ自体は国際線における中長距離国際線のビジネスクラスに近い。
運賃・利用客層
主に国際線の旅客機に設定されており、基本的に、日本-東南アジア往復で数十万、ヨーロッパ、北部アフリカ方面あるいは北米往復で百数十万円~200万円前後、南米や南部アフリカ方面往復で百数十万円~300万円前後と、エコノミークラスの数倍から20倍程度、ビジネスクラスの2倍から5倍程度の運賃を徴収する[1]。
日本での利用客層は天皇・皇后以外の皇族[2]、閣僚、国会議員、大手企業の役員、会社経営者、宗教指導者、芸能人と言った人々であり、欧米諸国であれば「ジェット族」と呼ばれ、自家用機や社用機も保有するセレブリティが主である。
基本サービス
(航空会社、路線により異なる)
地上
- マイレージポイントの割増
- 空港からホテルなどへの無料送迎
- 事前の座席指定
- 専用チェックインカウンターの使用
- 専用出入国審査場あるいは優先通関レーンの使用
- チェックインカウンター手続時間締切の優遇
- 受託手荷物の重量制限緩和
- 到着時に優先で受託手荷物を受け取れる荷札
- 出発地・到着地空港の専用ラウンジの使用
- 専用ラウンジ内のビジネスセンターやバスルームの無償提供。
- 機内への最優先搭乗案内
- 到着時のゲートまでのカートによる出迎え
航空会社によって多種多様なサービスが用意されるが、空港内での待ち時間を充実、もしくは短縮するサービスを提供する航空会社が多い。
機内
ビジネスクラス利用の顧客に対する優遇サービス的な側面も持つため、ビジネスクラスのサービスの個々の質を更に上げたものを提供しているケースが多い。
- 機体前部に設けられた専用コンパートメント
- 150-210センチのピッチを持ち、床に対し水平(フルフラット)になる専用リクライニングシート
- 羽毛布団や座席の凹凸を少なくする就寝用のシーツ、ナイトガウンの貸与
- 有名化粧品ブランドの特別に選ばれたアメニティセット
- 15-23インチのサイズを持つパーソナルTV、内部プログラムのうち、映画や音楽は好きな時間に進めたり巻き戻しも可能
- 専門の訓練を受けた客室乗務員によるサービス(客室乗務員1人当たりの乗客担当人数の数が少ない)
- ア・ラ・カルトで選べる機内食。高級ワインやシャンパンなどのアルコール飲料の提供。一部の航空会社では数十種類のラインナップがある専用のメニューから好きな物を事前にリクエスト出来るケースも有る。
- 機内食は料理協会や高級ホテルの料理人を監修として招いている事が多い。
- 日米などの国内線では、普通席並びに中間クラスでは提供されない、機内食ならびにシャンパンなどのアルコール飲料が無料で提供される。
- 専用の機内トイレ。エミレーツ航空のA380型機には専用の機内トイレ内に専用のシャワールームが有る。
- シートピッチ、モニターの一例として、
- 中国国際航空「ファーストクラス」シート(全路線)が、150cm/モニター9インチ[4]
- ユナイテッド航空「ユナイテッド・ファースト・スイート」シート(長距離路線)が、192cm/モニター19インチ[5]
- カタール航空「ファーストクラス」シート(長距離路線)が、200cm/モニター15インチ[6]
- シンガポール航空「シンガポール航空スイート」シート(長距離路線、エアバスA380型機)が、205cm/モニター23インチ[7]
- スイスインターナショナルエアラインズ「ファースト・クラス」シート(長距離路線)が211cm/モニター19インチ[8]
- 日本航空「JALスイート」シート(長距離路線)が、211cm/モニター19インチ[9]
日本航空やカタール航空、エールフランスなどのファーストクラスは、シートと通路の間に胸の高さ程度の仕切りがあり「ソロ仕様」と呼ばれる。また、エミレーツ航空のエアバスA340-500型機やA380型機など、シンガポール航空のA380型機などの一部の航空会社のファーストクラスは、シートと通路の間にも扉と身長程度の仕切りがあり、個室を彷彿とさせるシート空間となっている。
ファーストクラスを設定している主な航空会社
(路線によっては設定していない)
アジア
- 日本航空
- 全日空
- 大韓航空
- アシアナ航空
- 中国国際航空
- 中国東方航空
- 海南航空
- チャイナエアライン
- キャセイパシフィック航空
- 香港ドラゴン航空
- マレーシア航空
- シンガポール航空
- タイ国際航空
- エア・インディア
- ジェットエアウェイズ
中近東
アフリカ
ヨーロッパ
アメリカ
南アメリカ
オセアニア
-
日本航空「スカイスリーパー・ソロ」
-
日本航空「スイート」
-
日本航空「スイート」
-
エールフランスのファーストクラス「ラ・プルミエール」
-
カンタス航空のファーストクラス
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ユナイテッド航空のファーストクラスシート
-
エミレーツ航空のファーストクラス
ファーストクラスより上位のクラス
コンコルド
かつてブリティッシュ・エアウェイズとエールフランスが運航していたコンコルドは、当時唯一の国際線を定期運航する超音速旅客機で、同じ路線を運航する両社のボーイング747やマクドネル・ダグラスDC-10のファーストクラスより20%程度高額な運賃で運航されていた。これは同機が超音速で飛ぶこと、運航コストが莫大であることが理由であったとされる。
搭乗ゲートやラウンジはコンコルド専用のものが用意されたほか、ロンドンやパリ、ニューヨークやリオ・デ・ジャネイロなどの定期就航地における離着陸は最優先とされた。しかし機内サービスは、飛行時間が短いことや搭載スペースが限られていたことからファーストクラスとそれほど変わりはなく、さらに座席も、機体が細いことや、飛行時間が直行便で長くても4時間程度しかないことから、他機種のエコノミークラスより少し座席ピッチが広い程度で、個人用テレビは装着されていなかった。
スカイスリーパー
1978年8月1日に日本航空は、一部の長距離路線のボーイング747型機の2階席に「スカイスリーパー[10]」と呼ばれる半個室の寝台の提供を開始した。定期路線への本格的な寝台導入はジェット機では世界初の試みであった。
寝台は長さ185.4センチ、幅68.5センチで、離着陸時以外はカーテンで仕切られた寝台として利用されるほか専用の毛布やまくら、ガウンなどが用意されていた。なお「スカイスリーパー」を利用できるのはファーストクラスの乗客のみで、利用料金はファーストクラス運賃のほかに、東京-ホノルル間で2万6,700円、東京-アメリカ西海岸で3万5,600円、東京-メキシコシティで4万3,900円の追加料金が必要であった[11]。
ファーストクラス・スイート
現在シンガポール航空のエアバスA380型機には、通常のファーストクラスより高額運賃を必要とする「シンガポール航空スイート」と称する座席が導入されている。個室で、他機種のファーストクラスよりよりゆとりをもった機内空間が提供されているが、「シンガポール航空スイート」が設定されている機材には、他機種と同様のファーストクラスは設定されていないため、「ファーストクラスより上位のクラス」ではない。