ハプログループD (Y染色体)

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ハプログループD (Y染色体)(ハプログループD (Yせんしょくたい)、: Haplogroup D (Y-DNA))とは、分子生物学人類遺伝学で用いられる、人類Y染色体ハプログループ(型集団)の分類で、YAPと呼ばれる珍しい変異の型を持つもののうちの「M174」に定義されるもの。

概要[編集]

ハプログループDは、東アジアに住むためにアラビアから南アジアの沿海岸を通って東南アジアへ、さらに東南アジアから北方への経路を進んで移住していったと想定されるが、現在のインド中国漢民族)やその他の地域では全くその痕跡が見当らない。地球上で、ハプログループDが人口比に対して高頻度で見つかるのは日本チベットヤオ族アンダマン諸島フィリピンマクタン島グアム島、だけで、世界でも孤立した限られた地域でしか見つかっていない。しかし、これらのハプログループは、同じハプログループDに属していても、サブグループが異なるため、分岐してから数万年を経ていることを示している。またハプログループDは、中国朝鮮東南アジアにおいて一般的なハプログループOとはさらに遠く隔たっている。

起源[編集]

ハプログループDは、今より約5万年前、アフリカにおいてハプログループDEから分岐し、沿海ルートを通ってアジアへ向かったと考えられている。今日、このハプログループDは、アジアの極めて限られた地域でしか見つかっていない。一方、同じくハプログループDEからわかれたハプログループEは、アフリカや中東、ヨーロッパなどで見つかっている。

特徴[編集]

チベット人[編集]

チベットでは、D1が16%、D3が33%、とD系統だけで約半数の49%を占めている。

ヤオ族[編集]

広西、雲南、貴州の山岳部に住むヤオ族の一つであるブヌ族(布努族)のY染色体ハプログループの構成は、C(C-M130)20%、DYAP)30%、O2a*(O-M95)40%、O3*(O-M122)10%となっている[1]

アンダマン諸島[編集]

アンダマン諸島ジャラワ族において、Dは56%と高頻度で見られる。彼等はDのサブクレードであるD1,D2,D3に属さない「D*」である。

フィリピン・マクタン島[編集]

フィリピンセブ州マクタン島ラプ=ラプ市において、アンダマン諸島と同様 D1,D2,D3に属さない、ハプログループD4の人物が複数見つかっている[2]

グアム島[編集]

グアム島ではD1,D2,D3に属さない「D*」が見つかっている[3][4]

日本[編集]

日本列島で見られる「ハプログループD2」は、ハプログループDの中でも、M55など少なくとも5つの一塩基多型の変異によって、チベットアンダマン諸島等のグループと明確に区別される。

アイヌ[編集]

アイヌにおいては「D2」が16人テスト中、14人、87.5%と高頻度で見られた。アイヌに見られるD2の内訳はD2*(81.25%)、D2a1(6.25%)である[5]

本島[編集]

日本本土(九州、本州、四国)は、地域差もあるが、30〜40%のハプログループが「D2」であり、これは古代の縄文人の末裔である可能性が高い。下記にあげる「D2*」から「D2a3」まで様々なグループが見られる。

沖縄[編集]

沖縄北部では、56%がハプログループが「D2」に属している。

他の地域[編集]

タジキスタン中央アジア南部の他の何ヶ所かで「ハプログループD3」が総計1%ほどいる。中央アジアのチュルク語派とモンゴル語族の中に少数だけ見られる。また、中国の少数民族であるミャオ・ヤオ語族と同様に、チベットビルマ語系の言語を話し、チベットに近い四川省雲南省のいくつかの少数民族の中に低頻度で見られる。朝鮮半島では、ハプログループD系統が0.001%以下の頻度で見られるが、これは近世にチベットからモンゴル経由で入ってきたD1や、弥生時代日本列島から朝鮮半島へ北上したD2の系統であろうと推測されている。

また、近年の研究では、タイ人の間で見つかったハプログループのうち「D*」(恐らくハプログループDの別の単一系の分枝)は10%ほどはいると思われる。ハプログループCと異なり、ハプログループDは、南北アメリカ大陸(ネイティブ・アメリカン)の中では全く見つかっていない。

言語[編集]

崎谷満は、ハプログループDに属する人々は、日本語文法の特徴である、SOV型語順の言語を話していた、とする説を唱えている。

ハプログループDの分岐[編集]

系統樹[編集]

ハプログループDの分岐については2014年のISOGGの系統樹による[6]

  • DE
    • D (M174/Page30, IMS-JST021355)
      • D* - アンダマン諸島ジャラワ族)、グアム島
      • D1 (M15) - チベット
        • D1*
        • D1a (N1)
      • D2 (M55, M57, M64.1/Page44.1, M179/Page31, M359.1/P41.1, P37.1, P190, 12f2.2) - 日本列島
        • D2*
        • D2a (M116.1)
          • D2a*
          • D2a1 (M125)
            • D2a1*
            • D2a1a (P42)
              • D2a1a*
              • D2a1a1 (P12_1, P12_2, P12_3)
            • D2a1b (IMS-JST022457)
              • D2a1b*
              • D2a1b1 (P53.2)
              • D2a1b2 (IMS-JST006841/Page3)
                • D2a1b2*
                • D2a1b2a (CTS3397)
                  • D2a1b2a*
                  • D2a1b2a1 (Z1500)
                    • D2a1b2a1*
                    • D2a1b2a1a (Z1504)
                      • D2a1b2a1a*
                      • D2a1b2a1a1 (CTS5406)
          • D2a2 (M151)
          • D2a3 (P120)
          • D2a4 (CTS6609)
            • D2a4*
            • D2a4a (CTS1897/Z1574)
              • D2a4a*
              • D2a4a1 (CTS218/Z1527, IMS-JST022456)
                • D2a4a1*
                • D2a4a1a (CTS6909)
              • D2a4a2 (CTS1964)
        • D2b (CTS583/Z1516)
          • D2b*
          • D2b1 (CTS220)
      • D3 (P99) - チベット
        • D3*
        • D3a (P47)
          • D3a*
          • D3a1 (M533)
      • D4 (L1366, L1378, M226.2) - フィリピンマクタン島


ヒトY染色体ハプログループ系統樹
Y染色体アダム(Y-MRCA)
A0 A1
A1a A1b
A1b1 BT
B CT
DE CF
D E C F
G H IJK
IJ K
I J LT K(xLT)
L T M NO P S
N O Q R

脚注[編集]

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  1. ^ Genetic origin of Kadai-speaking Gelong people on Hainan island viewed from Y chromosomes
  2. ^ D Haplogroup (Y-DNA) Project”. FAMILY TREE DNA (2013年6月1日). 2013年10月19日閲覧。
  3. ^ Y-haplogroup D in Cebu, Philippines”. A Genetic Genealogy Community (2012年5月12日). 2014年3月3日閲覧。
  4. ^ In Andaman Islanders (in the Bay of Bengal, east of India - actually closer to Burma than to India - with D* at a frequency somewhere between 50 and 70%), In Tibetans (with combination of D1 and D3 at about 50%), In Japanese (with D2 about 35% in general, and higher than 85% in Ainu), In medium to small percentages in other parts of mainland Southeast and East Asia, especially among speakers of Tibeto-Burman (such as Qiang with D1 at 30%), Hmong-Mien aka Miao-Yao (such as Yao with D1 at about 10%), and Daic aka Tai-Kadai languages (such as Thai with D* at 10%), In tiny percentages in southern Central Asia (primarily as D3) among Mongolians, Altaians, Kazakhs, and Uzbeks, and in small or tiny percentages of Pacific Islanders (as D*), such as Guam. Note that Guam is listed in a research paper with D* at 17%, but this was one person with a positive result out of six persons tested.
  5. ^ 田島等の2004年の論文"Genetic Origins of the Ainu inferred from combined DNA analyses of maternal and paternal lineages"による
  6. ^ Y-DNA Haplogroup D and its Subclades - 2014

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]