ハプログループD (Y染色体)

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ハプログループ D (Y染色体)
ハプログループDの分布図
推定発生時期 64,700-83,000年前[1]
推定発生地 アフリカアジア[1]
親系統 DE
子系統 D1(D1a(D1a1D1a2、D1a3)、D1b)、D2
定義づけられる変異 CT3946, CTS4030/Z1605
高頻度民族・地域 チベットチベット民族)、日本列島大和民族琉球民族アイヌ)、アンダマン諸島オンゲ族ジャラワ族)、インド北東部(アルナーチャル人

ハプログループD (Y染色体)(ハプログループD (Yせんしょくたい)、: Haplogroup D (Y-DNA))とは、分子人類学で用いられる、人類Y染色体ハプログループ(型集団)の分類で、YAPと呼ばれる変異の型を持つもののうちの「CTS3946」に定義されるものである。

分布[編集]

現在、このハプログループDは、日本列島南西諸島アンダマン諸島チベット高原で高頻度に観察されるほかは、アジア、アフリカの極めて限られた地域で散発的にしか見つかっていない。チベットではD1a1-Z27276、日本ではD1a2⁻M55、アンダマン諸島ではD1a3-Y34537[2]が高頻度である。これらのハプログループは、同じハプログループDに属していても、サブグループが異なるため、分岐してから5万3000年以上の年月が経ている[3]

ハプログループDは、現在の日本中国朝鮮東南アジアにおいて多数派的なハプログループO系統や、その他E系統以外のユーラシア系統(C,I,J,N,Rなど)とは分岐から7万年以上の隔たりがあり、非常に孤立的な系統となっている。D系統は東アジアにおける最古層のタイプと想定できるが[4] 、一つの説として東アジア及び東南アジアにO系統が広く流入した為、島国日本や山岳チベットにのみD系統が残ったと考えられている。そのため形質人類学的には古モンゴロイドアイノイド)の分布と相関しているようである。

なお、同じくハプログループDEから分かれたハプログループEは、アフリカ大陸で高頻度、中東地中海地域で中~低頻度に見られる。またDEの子型でD系統にもE系統にも属さないDE*がチベット人でごくわずかに発見されている[5][4]

起源[編集]

ハプログループDの移動想定経路 (Haber et al. 2019)

最近の研究 (Haber et al. 2019) から、ハプログループDの最も古くに分岐した系統(D2系統)がナイジェリア人の3サンプルから見つかった。この系統は、ハプログループEの持たないSNPを、D1-M174と7つ共有している。このことから、ハプログループDはアフリカで既に誕生していたと推定されている[1]。D2は、西アジアサウジアラビアシリア)でも見つかっている[6]

従って、ハプログループDは、今より約7.3万年前にアフリカ[1]にてハプログループDEから発生、下位系統のハプログループD1のみが出アフリカを果たし、その後内陸ルートを通って東アジアへ向かったと考えられている[7]

各地の詳細分布[編集]

チベット人[編集]

チベットでは、D1a1a-M15が15.2%、D1a1b⁻P47が31.4%、とD1a1-Z27276系統だけで少なくとも半数近くの47%を占めている[8]。またインド北東部のチベット系民族の一部ではハプログループD-M174*(最新の系統図上での位置づけは不明)が0-65%観察される[9][10][11][12]

チベット以外の中国[編集]

2001年に発表された論文では寧夏回族自治区の回族男性54人のうち、3人(5.6%)がD-M174(xM15)に、2人(3.7%)がD-M15に、合計5人(9.3%)がD-M174に属している[13]

2006年に発表された論文の補足データによれば、D-M15に属するY染色体が中国南部に居住する複数の民族の男性から見つかっている: 四川省涼山彝族自治州布拖県彝族 7/43 = 16.3% D-M15、苗族 5/58 = 8.6% D-M15、湖南省土家族 1/49 = 2.0% D-M15、広西省ヤオ族 1/60 = 1.7% D-M15、台湾漢族 1/84 = 1.2% D-M15。なお、新疆ウイグル自治区のウイグル族男性67人中3人(4.5%)からD-P47に属するY染色体が見つかったという[8]

2006年に発表された別の研究では、DE-YAP(xE-SRY4064)に属するY染色体が羌族6/33 = 18.2%、回族4/35 = 11.4%、甘粛省蘭州市漢族2/30 = 6.7%、新疆ウイグル自治区イリの漢族1/32 = 3.1%、満州族 1/35 = 2.9%、広西省河池市巴馬ヤオ族自治県ヤオ族1/35 = 2.9%、新疆ウイグル自治区イリのウイグル族1/39 = 2.6%、シボ族1/41 = 2.4%から見つかっている[14]

2010年に発表された論文では、中国大陸南部の広西、雲南、貴州の山岳部に住むヤオ族の一派であるブヌ族(布努族)10人から採取したY染色体ハプログループの構成は、O1b1a1a*(O-M95)4人、DYAP)3人、C(C-M130)2人、O2*(O-M122)1人となっている[15]。同じ論文では江西省の漢族21人中1人、チワン族28人中1人、モン族49人中1人からもDE-YAPに属すY-DNAが見つかっている。

復旦大学の研究チームの手による2011年の論文では、華北出身者129人、華東出身者167人、華南出身者65人、合わせて361人の漢族男性のうち、7人(1.9%)のY-DNAがD-M174に属している[16]

アンダマン諸島[編集]

アンダマン諸島ではD1a3-Y34537[2]が高頻度であり、特にオンガン系オンゲ族(23/23)、ジャラワ族(4/4)では100%を占めるが、言語系統の異なる大アンダマン人では0%(0/10)である[17]

フィリピン・マクタン島[編集]

フィリピンセブ州マクタン島ラプ=ラプ市において、D1a1,D1a2に属さない、ハプログループD1bの人物が複数見つかっている[18]

日本[編集]

日本列島で見られる「ハプログループD1a2」は、ハプログループDの中でも、M64.1/Page44.1, M55, M57, M179/Page31, M359.1/P41.1, P37.1, P190, 12f2.2など少なくとも8つの特徴的なSNP(一塩基多型)によって、4万年以上前に分岐している。

アイヌ[編集]

アイヌにおいては「D1a2」が16人に14人の割合に当たる87.5%の高頻度で見られた。アイヌに見られるD1a2の内訳はD1a2*(81.25%)、D1a2a1(6.25%)である[19]

本土[編集]

日本本土(九州本州四国)は、近畿地方中国地方および四国北部九州など西日本の一部地域ではやや少なく、一方で関東地方東北地方など東日本のほか南部九州に多いなど地域差もあるが、おおよそ32%[20]~39%[21]のハプログループが「D1a2」であり、これは古代の縄文人の末裔である可能性が高い。下記にあげる「D1a2*」から「D1a2b2」まで様々なグループが見られる。

なお、チベットなど中国南西部に多いD1a1a-M15も本土日本人のサンプルで極わずかながら散見される(日本 1/23 D-M15[22]、 宮城県 1/7 D-M15[21]、大阪市の成人男性 1/241 D-M15[20]、川崎市の大学生 1/321 D-M15[20]、札幌市の大学生 1/302 D-M15)[20]

沖縄[編集]

沖縄本島では、糸満市で採集されたサンプル80人のうち、38人(47.5%)がYAP+のハプロタイプIIaを有しており、その他には具志頭村(7/19 = 36.8%), 読谷村 (10/32 = 31.3%), 勝連町 (8/29 = 27.6%)といった結果が1999年の論文で発表されている。しかし、八重山諸島西表島のサンプルではYAP+のハプロタイプが1/20 (5.0%)の低頻度で、波照間島のサンプルでは検出されなかった(0/7 = 0%)[23]

2006年の論文で発表された研究結果では、沖縄県のサンプルでは45人中25人(55.6%)がD-M55に属しており、その内訳はD-M55(xM116) 2/45 = 4.4%, D-M116(xM125) 14/45 = 31.1%, D-M125(xP42) 7/45 = 15.6%, D-P42 2/45 = 4.4%と、日本全国の平均よりはやや濃い分布を示しているが、その内訳には大差は無い: D-M55(xM116) 10/259 = 3.9%, D-M116(xM125) 43/259 = 16.6%, D-M125(xP42) 31/259 = 12.0%, D-P42 6/259 = 2.3%[8]

中央アジア[編集]

チュルク系南部アルタイ人(アルタイ・キジ)のサンプルに於いて、D-P47が120人中6人 (5.0%)に観察された例がある。[24] 別の研究では、コシ・アガチ村の南部アルタイ人7人中1人(14%)、クラダ村の南部アルタイ人46人中5人(10.9%)、あわせて南部アルタイ人96人中6人(6.3%)がハプログループD-M174(xM15)に属しているという結果が得られた。[25] また、中央アジアのチュルク系民族モンゴル系民族の中にD-P47とD-M15の両方が少数だけ見られる。

アフリカ・西アジア[編集]

アフリカ(ナイジェリア)、西アジア(シリア、サウジアラビア)では、ハプログループDのうち最も古くに分岐した系統であるD2が、最近になって新たに発見された[1][6]

その他地域[編集]

中国の少数民族であるミャオ・ヤオ語族と同様に、チベットビルマ語系の言語を話し、チベットに近い四川省雲南省のいくつかの少数民族の中にD系統が低頻度で見られる。朝鮮半島では、ハプログループD系統が見られるが、これは近世にチベットからモンゴル経由で入ってきたD1a1や、弥生時代日本列島から朝鮮半島へ北上したD1a2の系統であろうと推測されている。ハプログループCと異なり、ハプログループDは、南北アメリカ大陸(ネイティブ・アメリカン)の中では全く見つかっていない。

下位系統の頻度[編集]

D1a1-Z27276[編集]

D1a2-M55[編集]

D1a3-Y34637[編集]

D1-M174*[編集]

D1-M174*(xM15)
D1-M174*(xM15,P47,M64.1)

系統樹[編集]

2019年6月19日改訂のISOGGの系統樹(ver.14.106)による[27]


ヒトY染色体ハプログループ系統樹
Y染色体アダム (Y-MRCA)
A0 A1
A1a A1b
A1b1 BT
B CT
DE CF
D E C F
G H IJK
IJ K
I J K1 K2
L T MS NO P K2*
N O Q R

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d e Tyler-Smith, Chris; Xue, Yali; Thomas, Mark G.; Yang, Huanming; Arciero, Elena; Asan; Connell, Bruce A.; Jones, Abigail L. et al. (2019-06-13). “A Rare Deep-Rooting D0 African Y-Chromosomal Haplogroup and Its Implications for the Expansion of Modern Humans out of Africa” (英語). Genetics: genetics.302368.2019. doi:10.1534/genetics.119.302368. ISSN 0016-6731. PMID 31196864. https://www.genetics.org/content/early/2019/06/13/genetics.119.302368. 
  2. ^ a b c アンダマン諸島については、従来よりハプログループD-M174*(xD-M15,D-M55)が高頻度であるとのデータ(kumarasamy et al. 2003)があり、その後系統解析の研究の進展によりアンダマン諸島のD-M174*はD-Y34537であることがわかった(Y-Full)なお、Y-Fullでは、D-Y34537とD-M55が姉妹群を成すとしている。ただし両者の分岐年代は5万3000年以上前である(Mondal et al. 2017)。
  3. ^ Mayukh Monda Anders BergströmYali XueFrancesc CalafellHafid LaayouniFerran CasalsPartha P. MajumderChris Tyler-SmithEmail authorJaume Bertranpetit (2008); Y-chromosomal sequences of diverse Indian populations and the ancestry of the Andamanese. Human Genetics May 2017, Volume 136, Issue 5, pp 499–510
  4. ^ a b c Shi, Hong; Zhong, Hua; Peng, Yi; Dong, Yong-li; Qi, Xue-bin; Zhang, Feng; Liu, Lu-Fang; Tan, Si-jie et al. (October 29, 2008). “Y chromosome evidence of earliest modern human settlement in East Asia and multiple origins of Tibetan and Japanese populations”. BMC Biology (BioMed Central) 6: 45. doi:10.1186/1741-7007-6-45. PMC: 2605740. PMID 18959782. http://www.biomedcentral.com/1741-7007/6/45 2018年8月4日閲覧。.  オープンアクセス
  5. ^ Weale ME, Shah T, Jones AL et al. (September 2003). "Rare deep-rooting Y chromosome lineages in humans: Lessons for Phylogeography". Genetics 165 (1): 229–34. PMC 1462739. PMID 14504230.
  6. ^ a b Estes, Roberta (2019年6月21日). “Exciting New Y DNA Haplogroup D Discoveries!” (英語). DNAeXplained - Genetic Genealogy. 2019年7月8日閲覧。
  7. ^ 崎谷満『DNA・考古・言語の学際研究が示す新・日本列島史』(勉誠出版 2009年)
  8. ^ a b c d e f g h i Hammer MF, Karafet TM, Park H et al. (2006). "Dual origins of the Japanese: common ground for hunter-gatherer and farmer Y chromosomes". J. Hum. Genet. 51 (1): 47–58. doi:10.1007/s10038-005-0322-0. PMID 16328082.
  9. ^ Su, Bing; Xiao, Chunjie; Deka, Ranjan; Seielstad, Mark T.; Kangwanpong, Daoroong; Xiao, Junhua; Lu, Daru; Underhill, Peter et al. (2000). “Y chromosome haplotypes reveal prehistorical migrations to the Himalayas”. Human Genetics 107 (6): 582–90. doi:10.1007/s004390000406. PMID 11153912. 
  10. ^ Cordaux, R.; Weiss, G; Saha, N; Stoneking, M (2004). “The Northeast Indian Passageway: A Barrier or Corridor for Human Migrations?”. Molecular Biology and Evolution 21 (8): 1525–33. doi:10.1093/molbev/msh151. PMID 15128876. 
  11. ^ Chandrasekar, A.; Saheb, S. Y.; Gangopadyaya, P.; Gangopadyaya, S.; Mukherjee, A.; Basu, D.; Lakshmi, G. R.; Sahani, A. K. et al. (2007). “YAP insertion signature in South Asia”. Annals of Human Biology 34 (5): 582–6. doi:10.1080/03014460701556262. PMID 17786594. 
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  13. ^ Tatiana Karafet, Liping Xu, Ruofu Du, William Wang, Shi Feng, R. S. Wells, Alan J. Redd, Stephen L. Zegura, and Michael F. Hammer, "Paternal Population History of East Asia: Sources, Patterns, and Microevolutionary Processes." American Journal of Human Genetics 69: 615–628, 2001.
  14. ^ Yali Xue, Tatiana Zerjal, Weidong Bao, Suling Zhu, Qunfang Shu, Jiujin Xu, Ruofu Du, Songbin Fu, Pu Li, Matthew E. Hurles, Huanming Yang, and Chris Tyler-Smith, "Male Demography in East Asia: A North–South Contrast in Human Population Expansion Times." Genetics 172: 2431–2439 (April 2006).
  15. ^ Genetic origin of Kadai-speaking Gelong people on Hainan island viewed from Y chromosomes
  16. ^ Shi Yan, Chuan-Chao Wang, Hui Li, Shi-Lin Li, Li Jin, and The Genographic Consortium, "An updated tree of Y-chromosome Haplogroup O and revised phylogenetic positions of mutations P164 and PK4." European Journal of Human Genetics (2011) 19, 1013–1015.
  17. ^ a b c d e Kumarasamy Thangaraj, Lalji Singh, Alla G. Reddy, V.Raghavendra Rao, Subhash C. Sehgal, Peter A. Underhill, Melanie Pierson, Ian G. Frame, Erika Hagelberg(2003);Genetic Affinities of the Andaman Islanders, a Vanishing Human Population ;Current Biology Volume 13, Issue 2, 21 January 2003, Pages 86–93 doi:10.1016/S0960-9822(02)01336-2
  18. ^ D Haplogroup (Y-DNA) Project”. FAMILY TREE DNA (2013年6月1日). 2013年10月19日閲覧。
  19. ^ 田島等の2004年の論文"Genetic Origins of the Ainu inferred from combined DNA analyses of maternal and paternal lineages"による
  20. ^ a b c d e YOUICHI SATO, TOSHIKATSU SHINKA, ASHRAF A. EWIS, AIKO YAMAUCHI, TERUAKI IWAMOTO, YUTAKA NAKAHORI Overview of genetic variation in the Y chromosome of modern Japanese males.
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  22. ^ Peter A. Underhill, Peidong Shen, Alice A. Lin, et al., "Y chromosome sequence variation and the history of human populations." Nature Genetics, Volume 26, November 2000.
  23. ^ Toshikatsu Shinka, Keiko Tomita, Tatsushi Toda, Svetlana E. Kotliarova, Juwon Lee, Yoko Kuroki, Dong Kyu Jin, Katsushi Tokunaga, Hideki Nakamura, and Yutaka Nakahori, "Genetic variations on the Y chromosome in the Japanese population and implications for modern human Y chromosome lineage." Journal of Human Genetics (1999) 44: 240-245.
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  26. ^ Tajima,A. et al. (2004). "Genetic origins of the Ainu inferred from combined DNA analyses of maternal and paternal lineages". Journal of Human Genetics 49 (4): 187–193.
  27. ^ Y-DNA Haplogroup D and its Subclades - 2019
  28. ^ Y-DNA Haplogroup D and its Subclades - 2014

参考文献[編集]

関連項目[編集]