語順

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語順(ごじゅん、word order[1][2])とは、のなかで句やが並ぶ順番のこと[2]である。語順がただ一つに決まっていることもあれば、いくつかの異なる語順が認められることもある。可能な語順が複数ある場合には、基本語順 (basic word order)[1]または支配的語順 (dominant [word] order)[1] が求められる。

特定の要素が強調されて語順が変わることも多い。

主語と目的語と動詞

他動詞節に現れる主語[3] (S: subject)・目的語 (O: object)・動詞 (V: verb) の3つの要素の語順を考えると3!=6通りの可能性がある。他動詞の平叙文主語目的語の両方が代名詞でない完全な名詞句の場合では、6通りの語順全てが自然言語の基本語順として確認されているが、目的語が最初に来るOSV型OVS型は珍しい[4]

Dryer (2011a) は世界1377の言語を調べ、可能な語順が複数ある場合には使用頻度によって基本語順を決めた。この調査によれば、SOV型が一番多く565言語、次いでSVO型が488言語であった。他の4つのタイプはいずれも100言語以下で、VSO型が95言語、VOS型が25、OVS型が11、OSV型が4であった。同じくらいよく使われる語順が二つ以上ある言語は189あり、これらは頻度によって基本語順を決定できないため分類からは除かれている。

SOV型は世界中に分布しているが、中国・東南アジア・中東以外のアジアや、ニューギニアで特に支配的である。SVO型はサハラ砂漠以南のアフリカや、中国から東南アジア・太平洋西部にかけての地域、ヨーロッパに広く見られる[4][5]

OVS型の例(ニアス語[6]
i-rino vakhe ina-gu
3SG.REAL-炊く ABS.米 母-1SG.POSS
V O S
「私の母が米を炊いた」
OVS型の例(ヒシカリヤナ語[7]
toto y-ahosɨ-ye kamara
3:3-捕まえる-DIST.PST ジャガー
O V S
「ジャガーが男を捕まえた」
OSV型の例(ナドゥブ語[8]
awad kalapéé hapʉ́h
ジャガー 子供 見る.IND
O S V
「子供がジャガーを見る」

ラテン語フィンランド語は定型的な語順を持たない。しかし傾向として、前者が SOV 型、後者が SVO 型と見なせる。このように柔軟な語順で使用される言語は、文中における名詞の役割を表示するを有するのが普通である。同様に語順が比較的自由な日本語では格助詞がこの役割を担っている。またハンガリー語チェコ語のように、語順が主題焦点など情報構造を示す手段となる言語もある。

基本語順が決まらない言語

同じくらいよく使われる語順が二つ以上あるために基本語順を一つに決められない言語にも、いくつかのタイプがある。オーストラリアのヌングブユ語[9]のようにほとんど全ての語順が同じくらいよく使われる言語もあれば、ドイツ語オランダ語で主節ではSVOが優勢だが従属節ではSOVとなるように、統語的環境によって基本語順が変わる言語もある[10]

句の語順

  • 修飾語 + 被修飾語: 形容詞 + 名詞、副詞 + 動詞など。SOV 型に多い。
  • 被修飾語 + 修飾語: 名詞 + 形容詞、動詞 + 副詞など。VSO 型に多く、SVO 型にも比較的多い。

参考文献

  • Dryer, Matthew S. 2011a. Order of Subject, Object and Verb. Dryer & Haspelmath (eds.) Chapter 81 2011-08-27 閲覧
  • Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.) 2011. The World Atlas of Language Structures Online. Munich: Max Planck Digital Library.

脚注

  1. ^ a b c 『文部科学省学術用語集:言語学編』
  2. ^ a b 「語順」『言語学大辞典:第6巻 術語編』三省堂 1996: 567
  3. ^ ここでは、主語目的語は厳密な文法用語ではなく、他動詞の二つの項のうち行為者を表すもの(=主語)と行為の対象を表すもの(=目的語)という意味で用いられている (Dryer 2011a)。
  4. ^ a b Dryer 2011a
  5. ^ Dryer (2011a) による言語地図
  6. ^ Brown, Lea. “A Grammar of Nias Selatan”. Ph. D. Thesis. University of Sydney. 2001: 538
  7. ^ Derbyshire, Desmond C. Hixkaryana. North-Holland. 1979: 87
  8. ^ Weir, E. M. Helen. “Nadëb”. Kahrel, Peter and van den Berg, René (eds.) Typological Studies in Negation. John Benjamins. 1994: 309
  9. ^ Heath, Jeffrey. A Functional Grammar of Nunggubuyu. Humanities Press / Australian Institute of Aboriginal Studies. 1984: 507-513
  10. ^ ドイツ語およびオランダ語は、基底にただ一つの語順を仮定する生成文法の分析では SOV型に分類される。V2語順も参照。