「マスカレード」シリーズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

「マスカレード」シリーズ[注 1]は、集英社から刊行されている東野圭吾の推理小説のシリーズ。

概要[編集]

一流ホテルである「ホテル・コルテシア東京」を舞台の中心に、捜査一課の若手刑事・新田浩介と女性フロントクラーク・山岸尚美の活躍を描いたシリーズ。2011年に刊行された『マスカレード・ホテル』から連なり、2015年には、前作の前日譚となる2作目『マスカレード・イブ』が発表された。2作とも『ホテル』の初出から『イブ』収録の短編も含め『小説すばる』が掲載誌となっている。

『ホテル』ではグランドホテル方式を採らずに群像劇で描かれる複数のドラマをシリーズにして描き、視点人物を刑事の新田とホテルマンの尚美に絞る手法を取っており、次作『イブ』でも新田もしくは尚美による一人称視点で綴られている。

本シリーズでは取材協力として東京都中央区日本橋蛎殻町にある「ロイヤルパークホテル」がクレジットされており[1]、同ホテルも「ホテル・コルテシア東京」のモデルとなっている[2][3]。タイトルの「マスカレード」が英語で仮面舞踏会を意味することであることから、4作品すべての表紙にはアイマスクが描かれている。

シリーズの累計発行部数は2014年10月時点で216万部[4]、第1作目の映画公開前である2018年12月時点で350万部[5]、第4作『マスカレード・ゲーム』発売の2022年4月時点で490万部[6]を記録する。

2019年に『マスカレード・ホテル』、2021年に『マスカレード・ナイト』が映画化された。

シリーズ一覧[編集]

マスカレード・ホテル
単行本:2011年9月9日 集英社 ISBN 978-4-08-771414-2 / 文庫:2014年7月18日 集英社文庫 ISBN 978-4-08-745206-8
新田浩介と山岸尚美、刑事とホテルマンの即席コンビの登場作。
マスカレード・イブ
2014年8月21日 集英社文庫 ISBN 978-4-08-745216-7
シリーズ初の短編集。新田と尚美が出会う前の、新人時代を含めたそれぞれのエピソード。
マスカレード・ナイト
2017年9月15日 集英社 ISBN 978-4-08-775438-4
『ホテル』から数年後。ホテルのカウントダウンパーティーに、殺人事件の密告状が届く。
マスカレード・ゲーム
2022年4月20日 集英社 ISBN 978-4-08-775461-2
3つの殺人事件。その被害者たちの関係者が、ホテル・コルテシア東京に宿泊することが判明する。

登場人物[編集]

演は実写映画版での俳優、声は2020年公開のスペシャルムービー、および朗読PVでの声優

主人公[編集]

新田浩介(にった こうすけ)
演 - 木村拓哉 / 声 - 中島ヨシキ[7][8]
警視庁捜査一課 警部補。年齢は30代半ばで精悍な顔つきの男性。両親と妹は現在シアトル在住で、父親は日系企業の顧問弁護士。高校に入るまでは父親の仕事の関係で2年間をロサンゼルスで過ごした帰国子女であり、その経験上から英語を流暢にこなせる。日本の高校に通った後は、ミステリ好きで知能犯との戦いを夢見てたことから、刑事になるために父親に苦言を呈されながらも大学の法学部に入学した。
相手の嘘や思惑を見破る眼力に長けており、色眼鏡をかけずに対象に疑いの目を向けられる資質を持ち合わせている。そして犯人目線で物事を考えたり、自ら現場周辺に身を置いて発見することにより大胆な推理力や閃き力を発揮し、犯罪者の思惑を見抜いていく。また相手の何気ない言動からもヒントを得る事が多い。以上のように頭が切れるもののプライドが高い自信家で、言葉遣いが悪く言動に謙虚さが欠けた一面がある。加えて本質的には短気であるため、尚美を始め周囲と反発したりしている。また功名心が強く、捜査で自分の手柄を立てることにこだわりを抱いているが、同時に自分の手柄に繋がらなくても悪を逃すことを良しとしない正義感を秘めている。女性の心理にやや疎いところがあり、捜査一課に配属して間もない頃には彼女がいたが、彼女の希望でシティホテルを利用した後に、化粧に時間をかける彼女のルーズさに呆れて別れている(彼女自身も新田の無神経さに我慢ならなかった模様)。嗅覚が鋭く、かすかに残った匂いを嗅ぎ分けられる。
【ホテル】
連続殺人事件の捜査のため、次の犯行場所として特定されたコルテシア東京にフロントクラークとして潜入捜査を開始、教育係の尚美や連続殺人事件の第1の現場の捜査でコンビを組んでいた品川警察署の刑事・能勢の協力を受けながら推理を働かせていった。当初はホテルマンに扮することに不承不承な態度を露わにし、職業や価値観の違いから教育係の尚美とは互いに反発していたが、共に怪しげな客達と関わっていく中で、プロとしての姿勢を崩さない尚美を捜査に関する情報をある程度は打ち明ける程に信頼し、その過程でこれまでの捜査を無駄にしたくはないという思いもあり、自分のこだわりを抜きに「正体を悟られずに、ホテルマンとして自然に振る舞う」という役割を完璧にこなせるようになるほどに成長していった。
【イブ】
『ホテル』より5年ほど前の時点では、捜査一課に配属されて間もない新人刑事だった[注 2]。その当時のホワイトデーに発生した実業家殺害事件の捜査を担当し、新人ながらも持ち前の推理力で犯人確保に貢献したものの、根底にある女性の仮面を暴けなかったことで辛酸を舐めることとなった。その後は大学教授殺害事件の捜査でも大胆な閃きにより事件の壮大な秘密すらも暴いていったが、その時に組んでいた八王子南署生活安全課の女性警官・穂積理沙を介して『ホテル』で出会う前から尚美と関わっていたことがある。
【ゲーム】
捜査一課係長に昇進している。警部。
山岸尚美(やまぎし なおみ)
演 - 長澤まさみ / 声 - 伊藤美来[7][8]
ホテル・コルテシア東京のフロントクラーク。地方出身で大学進学を機に上京、大学では映画研究会のサークルに参加していた。大学受験のために宿泊したコルテシア東京で、スタッフ達のプロとしての仕事ぶりやホテルに忘れたお守りを試験会場に届ける手配してくれた気配りを目の当たりにし、お守りのお礼を言おうとした時に声を掛けてくれた藤木から受けた影響がホテルマンの仕事に憧れを抱くきっかけとなった。
責任感が強く仕事熱心な生真面目な性格で、新人時代には自主的な研鑽に励むなど勤務時間外でもホテルのために寝食を削り居残ることも辞さない。ホテルマンとしての意識が高く、ともすれば公正とは言えない客の要望にも「お客様がルール」と臨機応変に応えていき、客の安全を守り尽くすことを信念としている。観察力に優れており、訪れる客が宿泊代等を踏み倒すスキッパーか否かを見極めたり、わけありの客の本性や秘密に気付いていくが、ホテルマンの矜持としてたとえ客が見下げた人物であっても無暗に立ち入らずに、客の秘密を暴かず守ることに務めている。こうした真面目さの反面、上述の通り立ち入りはしないものの自分と年代的に近い女性の宿泊客の身なりを観察したりしてしまうなど、好奇心を働かせてしまうところがある。しかし色恋沙汰に関する彼女の女性ならではの発想が、新田の推理に一役買うことがあった。本人は後輩の指導に苦手意識があり、助言は的確でわかりやすいが、自他共に認めるように厳しくなりすぎるきらいがあるため、指導を受けた新田には陰で「三十路は超えている」と毒づかれた。恋愛面においては、高校時代に交際の経験はあるが、大学入学前にDVDで観た映画グランド・ホテルの話で意気投合した同じサークルの先輩だった宮原隆司とは2年以上関係が続いていた。
【ホテル】
コルテシア東京で連続殺人事件の潜入捜査に参加した新田の教育係を務め、彼のサポートもすることになった。当初は新田の不遜な態度や、あくまで刑事として客達を疑いの目を向けて取り組む姿勢に反感を抱いていたが、新田の物事の裏を読む視点に学び取るところを感じとり、次第にホテルマンとして振る舞えるほどになった新田を気にかけていき、互いの立場や信念、事件を未然に防ぎたいという想いを共有していくことになる。
【イブ】
コルテシア東京に就職して4年目で、当初からの希望だったフロントクラークに配属される。それからも元彼の愛人捜索や有名な“女流作家”の素性秘匿を依頼され、それぞれのトラブルの解決に奔走し、客の仮面の下の秘密を守ることに尽くしてきた。ある時、藤木から命じられ、後輩の教育係・応援としてコルテシア大阪に派遣された際、ある宿泊客が新田の捜査する殺人事件の容疑者だったことから、聞き込みに来た新田の相棒の女性刑事・穂積理沙の懸命さに心打たれて「証言として採用しないこと」を条件に自分の名前を出さない約束も含めて容疑者となった客の情報を提供し間接的に新田に協力したことがある。
【ナイト】
コンシェルジュに昇格している。終盤で、コルテシア・ロサンゼルスに転任する。

その他の人物[編集]

『ホテル』『ナイト』『ゲーム』共通で登場した人物。

能勢(のせ)
演 - 小日向文世
品川警察署の刑事。事件発生当初に新田とバディを組んだ。
新田がホテルに潜入捜査してからもバディ解消していないと考えていて、自腹でホテルに泊まったり、独自に捜査する。
中年で体型はずんぐりとしていて一見愚鈍に見えるが新田も一目置いている。
【ナイト】
品川警察署から異動し、捜査一課。鑑取り捜査担当。
【ゲーム】
捜査一課 梓警部の部下。

『ホテル』『イブ』『ナイト』『ゲーム』共通で登場した人物。

本宮(もとみや)
演 - 梶原善
警視庁捜査一課刑事。新田の先輩で、『イブ』の時点では彼の教育係としてコンビを組んでいたことがある。『ホテル』では宿泊客に扮して新田と共にコルテシア東京での潜入捜査に参加した。黒髪をオールバックにした痩せ型の体躯で、風貌はその筋の人にしか見えず、おまけに細い眉の上に5cmくらいの傷跡がある。妻帯者でヘビースモーカー。
【ナイト】
捜査一課、新田の上司。
【ゲーム】
新田と同じく、捜査一課係長に昇進している。警部。
稲垣(いながき)
演 - 渡部篤郎
警視庁捜査一課係長。新田と本宮の上司。年齢は50歳前後の顔が大きい短髪の男性で、一見温厚に見えるが、目は世の中の暗部を知り尽くしたかのような不気味な光を宿し、時折強い眼光を放つことがある。
【ゲーム】
管理官。
藤木(ふじき)
演 - 石橋凌
ホテル・コルテシア東京の総支配人。自身が副支配人だった頃に尚美と出会い、彼女がホテルマンとなることを決定づけた人物。温厚な人柄で、後に尚美がコルテシア東京に就職してからも彼女を目にかけている。ホテルの仕事はチームプレイで、一人のスタッフのミスでもホテルで起こった問題はホテル全体の責任だという信条を持ち、総じて何か大きな問題が起きれば、部下に失態を押し付けずに、ホテル全体の責任者である自分自身が責任を取るという覚悟を秘めている。しかし『ホテル』終盤ではある意味でコルテシア東京を守るために狡猾さを垣間見せた。
久我(くが)
演 - 東根作寿英
ホテル・コルテシア東京のフロントオフィス・マネージャー。まだフロントクラークとして新人だった尚美の指導にあたっており、彼女には「ホテルに来る人々はお客様という仮面を被っている、ホテルマンはそれを剥がそうとしてはならない」と教えた。普段は穏やかな表情をたたえるが、予約の際に客が高い部屋を利用するように計算を働かせる商売人としての一面も覗かせる。

『ホテル』『イブ』共通で登場した人物。

杉下(すぎした)
演 - 五刀剛
ホテル・コルテシア東京のベルキャプテン。尚美の1年先輩で客と接することが多いことから、尚美の相談をよく聞いている。

ホテル・コルテシア東京[編集]

シリーズの舞台になる一流ホテル。系列のホテルに大阪に新装オープンした「コルテシア大阪」があり尚美が一時期派遣されたことがある。

東京都中央区に位置し、近くには人形町がある他、地下鉄とも直通である。地下一階にはバーと理髪店、最上階にはフレンチレストランや鉄板焼きの店が構えてある。2階には宴会場とブライダルコーナーがあり、ホテル中央部が吹き抜けになってるため2階のフロアから1階のロビーが見渡せる。『ホテル』ではブライダルコーナーは新田が尚美や能勢との密談に使った。またホテルで結婚式と披露宴を執り行った宿泊客にはスイートルームを1日1泊できるサービスを提供している。ホテルの隣にはスタッフのみが利用する「コルテシア東京別館」があり、2階は総務課や人事課などの事務部門、3階が宿泊部のオフィスで従業員の更衣室や仮眠室があり、『ホテル』では新田ら捜査員達が現地での捜査会議に使用した。

地下鉄と繋がっていることやフレンチレストランや鉄板焼きの店の位置などモデルとなったロイヤルパークホテルと類似している[3]

注釈[編集]

  1. ^ タイトルの表記は特設サイトに準拠。
  2. ^ その頃と重なる出来事として、ホワイトデーの頃に一緒にシティホテルに彼女と泊まったことが描かれているが、『ホテル』142頁において、その時期を5年ほど前と言及している。

出典[編集]

外部リンク[編集]