GAU-8 (機関砲)
GAU-8 アヴェンジャー | |
概要 | |
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種類 | ガトリング砲 |
製造国 | アメリカ合衆国 |
設計・製造 | GE |
性能 | |
口径 | 30mm |
銃身長 | 2,299mm |
使用弾薬 | 30x173mm |
装弾数 | 1,350発 |
作動方式 | 電気モーター・油圧回転方式×2 |
全長 | 6.40m |
重量 |
281kg(銃本体) 1,830kg(システム重量) |
発射速度 | 毎分3,900発 |
銃口初速 | 1,067m/s |
有効射程 | 1,220m |
GAU-8 Avenger(アヴェンジャー)は、GE製の30mm ガトリング砲である。
"Avenger"とは英語で「(正義に基づく)復讐者」を意味する。アメリカ空軍のA-10 サンダーボルトIIなどに搭載され、アメリカ軍の航空機搭載機関砲のなかで最大・最重そして、攻撃力の点で最強を誇る。主に対戦車攻撃に利用され、強力な30mm弾を高初速・高サイクルで発射する。
開発
GAU-8は、A-X(次期攻撃機計画)と並行して開発が進められた。1970年に計画段階の諸元がGEとフィルコ・フォードによって計画された。
A-Xの機体として開発されたA-10 サンダーボルトIIとYA-9は、初期段階の時期にGAU-8を搭載することができず、その間はM61 バルカンが暫定的に使用され、GAU-8が装備されたA-10は1977年に就役した。GAU-8は、A-10の機体の1/3ほどの大きさ・空虚重量の1/4もの重量があり、専用のドリー(台車)が作られている。GAU-8は、機体中心線から少しだけ左にずらして設置されているが、これは弾丸を発射する砲身が機体中心線の位置になるよう配置したためである。また前部降着装置(ランディング・ギア)は、GAU-8をかわすため右側にずらして取り付けられている。
GAU-8は現在では生産が行われておらず、開発・生産したGEに代わってマーティン・マリエッタ(現:ロッキード・マーティン)により保守整備が行われている。
設計
各砲身は非常にシンプルな構造であり、砲身と砲尾そして、遊底からなっている。GAU-8の構造の基礎となったガトリング砲と同様に、砲身の回転によるカムの動きで発射速度が変化する(つまり、砲身の回転が速いほど発射レートも早くなり、遅いほど遅くなる)。砲身は、油圧モーターで駆動する。
GAU-8単体の重量は281kgであるが、給弾システムやPGU-14(焼夷徹甲弾)を満載したドラムマガジンなどを含めた全備重量は1,830kgにもなる。また、銃口から機関部までの長さは5.81mであり、ドラムマガジン単体では長さが1.82m、直径が86cmある。このドラムマガジンには最大で1,350発の30mm機関砲弾を搭載できるが、1,174発がごく一般的な搭載量となっている。焼夷徹甲弾(API)の初速は990m/sであり、GAU-8の小型版ともいえるM61 バルカンの20mm機関砲弾とほぼ同一の初速を得る。
通常のミッションにおいては、対装甲用焼夷徹甲弾PGU-14/B(弾頭重量425g)と焼夷榴弾PGU-13B(弾頭重量360g)が4:1の割合で使用される。PGU-14/B弾は、対戦車戦において非常に強力な武器となる。給弾はリンクレス給弾方式で、リンクがない分携行弾薬を軽量化でき、リンクとの分離不良による弾詰まりの可能性を減らすためである。また、発射前後での機体バランスの悪化を防止する目的もあり、空薬莢は機外に放出せず、弾倉に回収する。
GAU-8の発射速度は、毎分1,800発と4,200発の選択式であったが、後に改修されて最高発射速度が毎分4,200発から3,900発になった。後に最低発射速度である毎分1,800発の発射レートも取り消された。これは敵発見時に、できるだけ高サイクルで砲弾を発射することで敵を瞬時に殲滅し(低サイクルなら敵に十分なダメージを与えられず再び射撃地点に旋回して敵上空を飛行しなければならない可能性があるため)、作戦機の生存性を上げる狙いがあった。実際にGAU-8を使用する際は、砲身の過熱や砲弾の無駄遣いを防ぐために1-2秒のバースト射撃をするようになっている。また、砲身の寿命も重要な要素である。アメリカ空軍では各砲身において21,000発の発射回数をもって、砲身の交換をすることとしている。
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GAU-8/Aの砲口
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GAU-8の30mm砲弾
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専用ドリー(台車)に載せられたGAU-8/Aとビートル
派生機種
GAU-8は、航空機関砲だけでなく、艦載機銃としても用いられている。まずGAU-8を単装に配したEX-83砲架が開発され、1981年にはスプルーアンス級駆逐艦「メリル」において試験が行われた[1]。またGEでは、オランダのシグナール社(現在のタレス・ネーデルラント)と共同で、このEX-83に射撃指揮システム(FCS)と捕捉レーダーを連動させた近接防御火器(CIWS)としてゴールキーパーを開発した[2]。
また、GAU-8の砲身を4本に減らすなど軽量化を図ったGAU-13も開発されており[3]、連射速度は毎秒65発から40発に低下したが、反動力も68%の3,060重量キログラムに低減された。アメリカ空軍では、これを収容したGPU-5/AガンポッドをF-16A/B戦闘機に搭載して、A-10攻撃機のかわりに近接航空支援に投入することも検討しており、このポッドを搭載する機体はF/A-16と俗称された。湾岸戦争で実戦投入されたものの、反動による飛行への影響を補正するソフトウェアが未完成で、外装式だったこともあって弾着が安定せず、わずか1日で使用は中止された[4]。その後、海兵隊がこのガンポッドを譲り受け、海軍のLCAC-1級エア・クッション型揚陸艇に搭載して上陸戦での火力支援に使用することを構想し、1995年秋にはLCAC-66を用いた試験が行われた[3]。
GAU-8の技術は、AV-8B ハリアーIIなどに搭載される25mm口径のGAU-12 イコライザーの開発にも生かされている。このGAU-12/Uは、サイズ的にはGEのM61 バルカンと同程度だが破壊力が格段に高い。
GAU-8に関する伝説
GAU-8に関する都市伝説として、「飛行速度の低下」が挙げられる。砲の反動が機体の推進力に匹敵し、飛行速度が機関砲の発射によって落ち、撃ち続けると機体が失速して墜落してしまうというものである。中には機体が後方に進みだすといった滑稽な伝説もある。もちろん、これらの話はあくまで冗談に過ぎない。
GAU-8/Aのホームページでは砲の反動が45kNとされている。対してA-10 サンダーボルトIIの両エンジンからの最大出力は80kNであり、飛行機を止めることはできないが、わずかな速度低下を引き起こすことができる。実際にアメリカ空軍ではGAU-8の砲身先端にマズルブレーキをつけて反動を低減する仕様が試されたが、試験の結果、保有する機体にこの種の改造をする必要はないと結論付けられたという。また、発射反動は砲の取り付け位置にも影響を与えている。機関砲弾はGAU-8を正面から見て凡そ九時の方向(向かって左側)に砲身が到達した際に発射されるので、そのリコイルが丁度機体中心に来るように機関砲全体を少々左側にずらして設置している。これは、開発中にGAU-8を機体の中心に据え付けたところ、上記の発射特性のため反動で機体の姿勢が乱れた結果、着弾点がずれてしまったことに起因している。
アリゾナ州ツーソンのデビスモンサン空軍基地の第335戦術飛行隊隊長によると、GAU-8発射時の反動に起因する問題は無いという。GAU-8には機関砲格納庫と取り付けマウントの間にリコイルアダプターと呼ばれる反動吸収装置が組み込まれており、発射時の反動を軽減する働きがある。
また、A-10のエンジンに砲の発射ガスが入り込むことでエンジンがストップしてしまうのではないかという疑惑もある。これは、発射ガスに酸素が含まれていないからで、エンジン内部での燃焼の妨げになるという意見に起因するものである。
A-10の開発にあたり、実用試験の際に、発砲時の砲口炎と排煙の排出量が多量のため、操縦士の視界に与える悪影響やエンジンが発砲煙を吸うことへの懸念(故障、特に飛行中のエンジン停止の要因となる)が生じることが判明したため、初期型の就役後には砲口に発砲煙を散らすためのデフレクターであるGFU-16/A、通称" Tickler"が装着されたが[5]、効果が低い上に乱流を発生させることによる問題が発生し、その後順次撤去された(装着したままの機体も存在している)。砲口部をフェアリングで覆う形状とすることも検討されたが、テストの結果空力特性の悪化などの問題が生じ、砲口は露出式のままとなった[6]。発砲煙による問題に対しては、発砲時は自動式の風防前面洗浄装置とエンジンの再点火装置を連動して作動させることで対処している[5]。
なお、GAU-8の発射ガスは実際にはほとんどがA-10の機体下部を通るように流れるため、たとえ機体にマイナスGが掛かる機動中であっても、発射ガスが機体上部のエンジンに入り込むことは稀であった。
劣化ウラン弾について
GAU-8の用いる対装甲用焼夷徹甲弾PGU-14/Bは弾芯に劣化ウラニウムを使用する、いわゆる“劣化ウラン弾”である。
劣化ウラン弾については、攻撃を受けた生存者、弾丸の装填要員に放射線の影響を与えるとし、使用反対を訴える団体などが「湾岸戦争の直後、イラクの様々な場所での出産障害が急増した原因は、作戦中に放たれ土中に残留した劣化ウランである」と主張する一方、出産障害と劣化ウラン弾の関連性を示す根拠が薄弱(統計学的な有意差が出ていない)であることから、WHOなどは健康被害との因果関係を否定する見解を発表している。
なお、劣化ウランは重金属である。したがって、他の重金属と同様に重金属中毒の原因となり、主に腎臓の障害を引き起こす。ただし、重金属としての劣化ウランの毒性は鉛や水銀よりも低く、(猛毒とされる)ヒ素と同程度である。
スペック
登場作品
映画
- 『トランスフォーマー』
- 出動したA-10 サンダーボルトIIが、スコルポノックへの攻撃に使用する。
- 『マン・オブ・スティール』
- A-10がスーパーマンを含むクリプトン人を攻撃する際に使用。
- 『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』
- サイバトロン所属のパワーグライドが、A-10にトランスフォームし使用する。
アニメ
- 『機動警察パトレイバー』
- 旧OVA第6話にて、香貫花が米軍より調達、98式AV プロトタイプが使用した。
ゲーム
- 『Wargame Red Dragon』
- NATO陣営のアメリカ軍デッキで使用可能なA-10A サンダーボルトIIの武装として登場する。
- 『バトルフィールドシリーズ』
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- 『BF2』
- A-10 サンダーボルトIIに搭載されている。
- 『BF3』
- A-10に搭載されている。
- 『BF4』
- A-10に搭載されている。
- 『メタルギアソリッド』
- XGAU-8/Rという架空の6砲身型がメタルギアREXに搭載されている。
- 『War Thunder』
- A-10に搭載されている。
脚注
注釈
出典
- ^ Prezelin 1990, pp. 799–802.
- ^ Friedman 1997, pp. 440–441.
- ^ a b Friedman 1997, pp. 466–467.
- ^ 関賢太郎 (2020年10月13日). “A-10攻撃機が機関砲を撃つと減速する伝説は本当だった! 最強機関砲は反動もヤバい!”. 乗りものニュース
- ^ a b THE WAR ZONE>This A-10 Warthog Ground Trainer Still Has A 'Tickler' Muzzle Device On Its Cannon (Updated) ※2020年2月15日閲覧。
- ^ THE WAR ZONE>Early On, The A-10 Warthog's Legendary Gun Was Both a Blessing and a Curse ※2020年2月15日閲覧。
参考文献
- Friedman, Norman (1997). The Naval Institute guide to world naval weapon systems 1997-1998. Naval Institute Press. ISBN 9781557502681
- Prezelin, Bernard (1990). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 1990-1991. Naval Institute Press. ISBN 978-0870212505