1796年アメリカ合衆国大統領選挙

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大統領当選者
ジョン・アダムズ
大統領選挙結果の図。[1]緑色はジェファーソンが勝利した州、赤色はアダムズが勝利した州、茶色は州でないため選挙人を出せない領土を示す。数字は各州に割り当てられた選挙人数である。

1796年アメリカ合衆国大統領選挙(1796ねんアメリカがっしゅうこくだいとうりょうせんきょ、英:United States presidential election, 1796)は、アメリカ合衆国大統領選挙としては3回目にして初めて競合があり、大統領副大統領を対立する党派から選んだことでも最初のものとなったので、当初の選挙人選挙の仕組みの欠陥を曝すことになった。

現職の副大統領ジョン・アダムズが、トマス・ピンクニーを副大統領候補として連邦党から出馬した。アダムズが勝って大統領となったが、対立するトマス・ジェファーソンがピンクニーより多くの票を獲得して副大統領になった。

一般選挙[編集]

候補者[編集]

選挙運動[編集]

現職の大統領ジョージ・ワシントンが3期目の出馬を拒んだので、現職の副大統領ジョン・アダムズが連邦党の大統領候補となり、知事の経験があるトマス・ピンクニーが次に人気のある連邦党員として副大統領候補となった。対抗馬は民主共和党のトマス・ジェファーソンであり、副大統領候補にはアーロン・バー上院議員を指名した。ただし、この時点では副大統領候補という制度が正式には無かったので、どの党から出てこようと各人が大統領候補であった。

それまでの2回の選挙が結果は既定の事実であったのとは異なり、情勢が伯仲していたので、民主共和党はジェファーソンを、連邦党はアダムズを一生懸命応援した。議論は辛辣なものとなり、連邦党は民主共和党をフランスの過激な革命派と結びつけ、民主共和党は連邦党を君主主義や貴族政治に賛成していると非難した。外交政策では、民主共和党がジェイ条約はあまりにイギリスの肩を持ちすぎていると言って連邦党を非難し、一方、フランス大使は選挙直前に公然と民主共和党を支援し、連邦党を攻撃することで民主共和党を当惑させた。

結果[編集]

当時の選挙の仕組みでは、選挙人が2票を持っており、どちらも大統領候補に投じられた。大統領選で2位になったものが副大統領に選ばれた(これはアメリカ合衆国憲法修正第12条が成立するまでの方法であり、憲法修正第12条では副大統領候補を指名する方法に変えた)。各党は、選挙人が1票を大統領候補と目される者に投じ、もう1票を副大統領候補と考えられる別の者に投じさせ、副大統領候補が大統領候補より少し少なく票を獲得するように工夫した。だが、この仕組みは幾つかの要因で複雑なものとなった。

  • 全選挙人の投票は同じ日に行われた。当時、州間の連絡は時間が掛かっていたので、副大統領候補に少なく投票させる調整が難しかった。
  • ジェファーソンに票を投じる南部の選挙人が、アレクサンダー・ハミルトンに強制されて2番目の票をピンクニーに投票し、アダムズの代わりにピンクニーを大統領に選ぶことを期待しているという噂があった。実際に、ピンクニーの出身州サウスカロライナ州の選挙人8人全員と少なくともペンシルベニア州の1人はジェファーソンとピンクニーに投票したことが分かった。

その結果、アダムズに票を投じた選挙人の多くが第2票をピンクニーに投票することなく、アダムズが大統領に選ばれたが、対抗馬のジェファーソンが副大統領に選ばれた。これは民主共和党がフランス革命を支持していたことも一部寄与したが、民主共和党の支持者がジェファーソンを副大統領に選ぶに足るほどの勢いがあったことによっていた。

選挙人投票の結果
候補者    党   出身州   得票数
(a)(b)(c)
得票率 選挙人得票数 
ジョン・アダムズ 連邦党 マサチューセッツ州 35,726 53.4% 71
トーマス・ジェファーソン 民主共和党 バージニア州 31,115 46.6% 68
トマス・ピンクニー 連邦党 サウスカロライナ州 - - 59
アーロン・バー 民主共和党 ニューヨーク州 - - 30
サミュエル・アダムズ 民主共和党 マサチューセッツ州 - - 15
オリバー・エルスワース 連邦党 コネチカット州 - - 11
ジョージ・クリントン 民主共和党 ニューヨーク州 - - 7
ジョン・ジェイ 連邦党 ニューヨーク州 - - 5
ジェイムズ・アイアデル 連邦党 ノースカロライナ州 - - 3
ジョージ・ワシントン なし バージニア州 - - 2
ジョン・ヘンリー 民主共和党 メリーランド州 - - 2
サミュエル・ジョンストン 連邦党 ノースカロライナ州 - - 2
チャールズ・コーツワース・ピンクニー 連邦党 サウスカロライナ州 - - 1
合計 66,841 100 264
選出必要数 67

(a) 連邦党に対する票はジョン・アダムズに割り当てられ、民主共和党に対する票はトマス・ジェファーソンに割り当てた。
(b) 16州のうち9州のみが一般選挙を採用した。
(c) 一般選挙で選挙人を選んだ州では、その選挙権についての財産規定で州毎に大きなばらつきがあった。

組み合わせによる詳細[編集]

選挙人投票の結果 (a)
大統領候補   副大統領候補  得票数 
ジョン・アダムズ トマス・ピンクニー 45 - 49
トマス・ジェファーソン アーロン・バー 25 - 30
トマス・ジェファーソン サミュエル・アダムズ 14 - 15
ジョン・アダムズ オリバー・エルスワース 11
トマス・ジェファーソン トマス・ピンクニー 9 - 14
トマス・ジェファーソン ジョージ・クリントン 6 - 7
ジョン・アダムズ ジョン・ジェイ 5
トマス・ジェファーソン ジェイムズ・アイアデル 3
ジョン・アダムズ サミュエル・ジョンストン 2
ジョン・アダムズ トマス・ジェファーソン 1 - 6
トマス・ジェファーソン ジョージ・ワシントン 1
トマス・ジェファーソン チャールズ・コーツワース・ピンクニー 1
ジョン・アダムズ アーロン・バー 0 - 4
トマス・ピンクニー アーロン・バー 0 - 4
ジョン・アダムズ ジョン・ヘンリー 0 - 2
トマス・ジェファーソン ジョン・ヘンリー 0 - 2
トマス・ピンクニー ジョン・ヘンリー 0 - 2
アーロン・バー ジョン・ヘンリー 0 - 2
ジョン・アダムズ ジョージ・ワシントン 0 - 1
トマス・ピンクニー ジョージ・ワシントン 0 - 1
アーロン・バー ジョージ・ワシントン 0 - 1
サミュエル・アダムズ ジョージ・ワシントン 0 - 1
ジョージ・クリントン ジョージ・ワシントン 0 - 1

(a) これまでの調査では、メリーランド州、ペンシルベニア州およびバージニア州の選挙に1名の投票内容が決定されるまで至っていない。それ故に上表の数値は可能性があるところに最大値、最小値で示した。

ごく少数は党派に跨る投票を行った。すなわち、1票は民主共和党のジェファーソンに、もう1票を連邦党候補者にという結果である。

  • サウスカロライナ州の選挙人8人は全て(少なくとも1人のペンシルベニア州選挙人も)同州生まれのトマス・ピンクニーに投票した。
  • ノースカロライナ州の選挙人3人は同州生まれのジェイムズ・アイアデルに投票した。
  • メリーランド州の少なくとも1人の選挙人はアダムズとジェファーソンに投票した。

その後[編集]

アメリカ合衆国の歴史の中で唯一、大統領と副大統領が反対党から選ばれた。ジェファーソンは副大統領職を梃子にしてアダムズの政策を攻撃し、次の選挙ではホワイトハウスに到達することができた。

この選挙はアメリカ合衆国憲法修正第12条の最初の動機付けになった。1797年1月6日、サウスカロライナ州選出の下院議員ウィリアム・L・スミスは大統領選挙人が誰を大統領に、誰を副大統領にと指名できる憲法修正案を下院に提出した[2]。しかし、その提案に対して有効な行動が取られず、1800年アメリカ合衆国大統領選挙では暗礁に乗り上げることになった。

選挙人の選出[編集]

選挙人投票の結果
選挙人の選定方法   州   
各選挙人は州議会で指名 コネチカット州
デラウェア州
ニュージャージー州
ニューヨーク州
ロードアイランド州
サウスカロライナ州
バーモント州
州を選挙人選挙区に分割し、その地区毎の選挙で1人の選挙人を選出 ケンタッキー州
メリーランド州
ノースカロライナ州
バージニア州
州全体の投票で選挙人を選出 ジョージア州
ペンシルベニア州
2人の選挙人は州議会で指名。残りの選挙人は下院議員選挙区毎に上位2名の得票者リストから州議会で選定 マサチューセッツ州
各選挙人は州全体の投票で選定。ただし、過半数を獲得した候補がいない場合、州議会が得票数上位2名を指名 ニューハンプシャー州
州を選挙人選挙区に分割し、各選挙区あたり1人の選挙人を選出。各郡は一般投票で選挙人代議員を選出。
選挙人選挙区内の郡代議員が選挙人を選出
テネシー州

脚注[編集]

  1. ^ アメリカ合衆国憲法修正第12条の成立までは、選挙人は大統領と副大統領に対する票を区別しなかったので、この図の大統領に対する票はアダムズまたはジェファーソンに対する票を示す。このことは変則的な結果を生んだ。メリーランド州の選挙人は10人だったが、連邦党が7票、民主共和党が4票入ったことになっている。原因は少なくとも1人の選挙人がジェファーソンとアダムズの組み合わせで投票したことである。
  2. ^ United States Congress (1797). Annals of Congress. 4th Congress, 2nd Session. pp. 1824. http://memory.loc.gov/cgi-bin/ampage?collId=llac&fileName=006/llac006.db&recNum=154 2006年6月26日閲覧。. 

関連項目[編集]

参考文献[編集]

外部リンク[編集]