原子怪獣現わる

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原子怪獣現わる
The Beast from 20,000 Fathoms
監督 ユージン・ルーリー
脚本 ルー・モーハイム
フレッド・フリーバーガー
ユージン・ルーリー
ロバート・スミス
原作 レイ・ブラッドベリ
『霧笛』(The Fog Horn)
製作 ジャック・ディーツ
ハル・チェスター英語版
出演者 ポール・クリスチャン英語版
ポーラ・レイモンド英語版
セシル・ケラウェイ
音楽 デビッド・バトルフ英語版
撮影 ジャック・ラッセル
編集 バーナード・バートン英語版
配給 アメリカ合衆国の旗 ワーナー・ブラザース
日本の旗 大映
公開 アメリカ合衆国の旗 1953年6月13日
日本の旗 1954年12月22日[注釈 1]
上映時間 80分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
フランス語
製作費 $210,000[1]
興行収入 アメリカ合衆国の旗 $2,250,000[2]
世界の旗 $5,000,000[3]
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原子怪獣現わる』(げんしかいじゅうあらわる、The Beast from 20,000 Fathoms)は、1953年に制作されたユージン・ルーリー監督によるモノクロ特撮怪獣映画。製作はアメリカ合衆国ワーナー・ブラザース映画。

核実験で現代に蘇った恐竜と人間との攻防を描き、映画史上初めて核実験の影響を受けた怪獣が登場した作品[4][5]。『Monster from Beneath the Sea』のタイトルでも知られる。「核実験で蘇った巨大な怪獣が都市を襲撃する」という本作の設定や特撮技術は、『ゴジラ』(1954年)など後世の作品にも大きな影響を与えた[6][7]

あらすじ[編集]

北極圏核実験が行われる。様子を見ていた物理学者のトーマス・ネスビットは、「繰り返される核爆発がどのような結果をもたらすのか、今は誰にも分からないだろう」と予言じみたことをつぶやく。その翌日野外調査に向かったネスビットは、核実験でひび割れた氷原で巨大な生物を目撃する。しかし軍部を初めとして周囲の人間は誰も彼の発言を信じないのだった。

だがネスビットの証言は、古生物学者のサーグッド・エルソン教授と助手のリー・ハンターの目に留まり、教授はその姿から恐竜・リドサウルスではないかと推測する。やがて巨大生物は北アメリカ大陸東海岸を南下し、グランド・バンクス(ニューファンドランド島沖の大漁場)とマーケットで漁船を、メイン州灯台を襲撃する。ネズビットと教授らは生き残った漁師と面会を果たし、目撃した恐竜がリドサウルスであることを確かめた。

教授は軍部と掛け合い、リドサウルスと同種の化石がハドソン川流域で発見されたことを挙げ、恐竜は北極から南下していると推測。当初はネズビットの証言に動かなかった軍部も、この意見を受けてようやく重い腰を上げる。そして教授はリドサウルスを待ち構えようとハドソン川河口の海底谷潜水鐘で捜索し、予想通りリドサウルスが現れたものの、リドサウルスは潜水鐘を沈めて教授は帰らぬ人となってしまう。

やがてリドサウルスはマンハッタンに上陸。リドサウルスは市街地で暴れまわり、結果幾多の死傷者を出す大惨事を巻き起こす。駆けつけた軍隊はリドサウルスを電気柵で足止めし、バズーカを命中させて海に追い返すが、リドサウルスがまき散らした血液は謎の病原体を含んでおり、さらに多くの人が感染症の犠牲になってしまう。

血液を流出させずにリドサウルスを倒すため、ネスビットは新兵器アイソトープ弾の使用を提案する。一方、リドサウルスは再上陸を試み、コニーアイランド遊園地を襲撃する。軍隊の狙撃手のストーン伍長はアイソトープ弾を装填したグレネードランチャーを携えてリドサウルスと対決し、バズーカの傷跡にアイソトープ弾を撃ち込むことに成功する。リドサウルスは悲鳴を上げてのたうち回るが、ついに地面にくずおれ、息絶えるのだった。

キャスト[編集]

※括弧内は日本語吹替(テレビ版)

  • トム・ネスビット教授:ポール・クリスチャン(仲村秀生
  • リー・ハンター:ポーラ・レイモンド(小原乃梨子
  • サーグッド・エルソン教授:セシル・ケラウェイ早野寿郎
  • ジャック・エバンス大佐:ケネス・トビー木村幌
  • フィル・ジャクソン大佐:ドナルド・ウッズ
  • ジェイソン・ストーン伍長:リー・ヴァン・クリーフ
  • ルーミス軍曹:スティーブ・ブロディ
  • ジョージ・リッチー:ロス・エリオット
  • ジェーコブ・ボーマン:ジャック・ペニック
  • ウィリステッド軍曹:レイ・ハイク
  • ナレーター/ラジオアナウンサー:ウィリアム・ウッドソン(小林恭治

スタッフ[編集]

  • 監督:ユージン・ルーリー
  • 製作:ジャック・ディーツ、ハル・チェスター
  • 原作:レイ・ブラッドベリ
  • 脚本:ルー・モーハイム、フレッド・フリーバーガー、ユージン・ルーリー、ロバート・スミス
  • 撮影:ジャック・ラッセル
  • 音楽:デビッド・バトルフ
  • 美術:ユージン・ルーリー
  • 編集:バーナード・W・バートン
  • 特殊効果:ウィリス・クック
  • 特殊撮影:レイ・ハリーハウゼン

制作[編集]

企画[編集]

原作は1951年にレイ・ブラッドベリが執筆した短編小説『霧笛』(The Fog Horn)。特撮部分をレイ・ハリーハウゼンが担当している。制作陣は著名だったブラッドベリ作品の映画化を企画し、早期に映画化の権利を取得した。映画の宣伝にはブラッドベリの名前が広く使われ、「サタデー・イブニング・ポスト掲載のレイ・ブラッドベリ作品」とクレジットされている[8]。プロデューサーのジャック・ディーツとハル・チェスターは、『キングコング』のヒットに影響を受け、そこから「核兵器の影響で突然変異を起こした巨大生物」という構想を膨らませていった[9]

登場する巨大生物は、原作では「灯台のサイレンに反応して現れた」とされているが、映画では「水爆実験によって復活した」と設定が変更されている。「夜の灯台を怪獣が破壊する」というシーンに原作の名残が見られ、それが本作の名場面にもなっている。この怪物は、映画題名では「野獣(The Beast)」、劇中ではエルソン教授以外は「恐竜」「怪獣」と呼んでいた。後年の『恐竜の惑星』(1978年)にはリドサウルス風の恐竜が登場する。原作ではブロントサウルスをイメージしていたが、本作ではティラノサウルスをイメージしたデザインとなっている。初期デザインでは殻の頭をしていたり、くちばしのある恐竜として設定されていた[10]。このデザインはサタデー・イブニング・ポストに掲載された[9]。一時期は怪獣が「放射能性の炎」を吐くことが検討されたものの予算の関係で却下されたが、サタデー・イブニング・ポストにはそのままデザインが掲載された。この能力が、後のゴジラの放射火炎/放射熱線に影響を与えたのではないかとする説もある。[11]

後年の作品への影響[編集]

キング・コング』にも影響を与えた『ロスト・ワールド』(1925年
『原子怪獣現わる』と共に、近代型の怪獣映画の草分けの一つとして知られる[12]氷河の古代怪獣』(1942年

ハリーハウゼン自身が映画製作を目指すきっかけとなった『キング・コング[13]の他、銃弾を寄せ付けず都市を破壊する古代の恐竜型怪獣を題材にした映像作品自体は、1925年の『ロスト・ワールド』や1942年スーパーマン作品『氷河の古代怪獣』など『原子怪獣現わる』が初めてではない[注釈 2][12]。その一方で、『原子怪獣現わる』のヒットにより『ゴジラ』『放射能X』『海獣ビヒモス』『怪獣ゴルゴ』など「放射能の影響を受けた巨大生物」が登場する怪獣映画が数多く制作された[4][5][14]

とくに『ゴジラ』は、企画構想では「古代の恐竜がビキニ環礁での核実験で目覚めて東京に襲来し、架空の兵器で倒される」「企画段階の名称が『海底二万哩から来た大怪獣』と、本作の原題である『The Beast from 20,000 Fathoms』と似ている[注釈 3][15][16]、「撮影上の制約で着ぐるみに変更されたがゴジラもストップモーション・アニメーションでの撮影が計画されていた」、「怪物の人類への主だった最初の襲撃は漁船に対してである」、「事件を担当した学者が、件の怪獣または同族の出現に関して予言めいた発言をする」、上記の通り「怪物が放射能性の火炎を吐く」や「灯台を襲撃する」[17][18]というアイディアが存在したなど、いくつかの類似点が見られる。

ハリーハウゼン自身も、2005年のピーター・ジャクソンによる『キングコング』の公開に際したインタビューにて日本のゴジラを「filch(盗作)」だと表現している[19][注釈 4]。ハリーハウゼンは生前にゴジラを強く嫌悪していたとされており[注釈 5]、着ぐるみによる撮影方法やゴジラのキャラクター自体を決して嫌ってはいなかったが、『原子怪獣現わる』との類似性だけでなく、「ゴジラシリーズ」の躍進に帰結した『キングコング対ゴジラ』の製作によって発生した軋轢によってウィリス・オブライエンが関係者を訴えようとしたが資金不足で諦めて失意のうちに亡くなり[注釈 6]メリアン・C・クーパーも『キングコング対ゴジラ』の公開に反対して関係者を訴えようとしていた[22]など、東宝が『キング・コング』を強く意識していたりオブライエンのアイディアを利用したにもかかわらず[注釈 7]、師であるウィリス・オブライエンの顛末を含むハリーハウゼンが敬愛する『キング・コング』と(『キングコング対ゴジラ』によって躍進した)「ゴジラシリーズ(東宝)」の関係性がハリーハウゼンの「ゴジラ」への憎悪の最も大きな原因だったとも指摘されている[20]

ガメラも、当作品を日本で配給したのが大映であり、『大怪獣ガメラ』にて「北極圏の氷の下で眠っていた古代の怪獣が核爆発によってよみがえる」「灯台を襲撃する」という点が類似している。

リドサウルスをモデルにした怪物は『恐竜の惑星[25]、『恐竜時代』、『Dinosaurs Attack![注釈 8]、『ゴジラ ザ・シリーズ[注釈 9]などの数々の作品に登場した。 1956年12月発売のバットマンを題材にしたコミックシリーズの Issue 104 には「"The Creature from 20,000 Fathoms!"」という『原子怪獣現わる』を意識したタイトルの話が存在し、バボンガと呼ばれる鼻から火炎を噴く怪物が登場している。

1990年の映画『グレムリン2 新・種・誕・生』や2008年の映画『クローバーフィールド/HAKAISHA[26]では、リドサウルスが暴れる場面が挿入されている。

また、2013年公開のハリウッド映画『パシフィック・リム』では、エンドクレジットでハリーハウゼンへの賛辞があるだけでなく[27]、「怪獣が深海から突然現れ、怪獣の血液が毒性であるために人類がその対策を強いられる」という面が共通している。

原子怪獣リドサウルス(Rhedosaurus)[編集]

灯台を破壊するリドサウルス

北極バフィン湾で眠っていた1億年前の四足型巨大生物である。 体長は60.96メートルで体重は500トンと推定される[28]。 肉食であり、劇中では警官を捕食している。氷河に眠っていたが、アメリカ軍が行った水爆実験で氷が溶け、目を覚ました。劇中の設定によると、ニューヨーク沖の海底峡谷で同種の物とされる化石が見つかっており、かつての“生息地”であるニューヨークに上陸したと見られる。頭蓋骨は分厚く機関銃による銃撃にもびくともしない。血液に未知の細菌が含まれているため、うかつな攻撃はできない。水中を自在に泳ぎ、多くの漁船を破壊、エルソン教授を乗せた潜水鐘も沈めた。最後はコニー・アイランドにてアイソトープ弾を撃ち込まれ絶命した。

関連項目[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ キネマ旬報には封切日10月17日と記載。
  2. ^ キングコングへのパロディーである1933年のアニメ作品『King Klunk英語版)』にも、主役のゴリラと戦う相手として、背びれを持ち直立する肉食恐竜型のキャラクターが登場する。
  3. ^ ファゾム」も水深を表す単位である。
  4. ^ ハリーハウゼン作品の翌年に東宝作品から類似した怪獣が登場した事例は、アロサウルス恐竜100万年)とゴロザウルスキングコングの逆襲)が共に人間を襲撃する蒼灰色のアロサウルスの生き残り(怪獣大全集 1991, p. 73, 「東宝モンスター名鑑」)だというものがある。どちらの作品にも猿人/類人猿や大蛇が登場している。[独自研究?]
  5. ^ ゴジラのイラストがプリントされたTシャツを着用したファンが近づいただけでも不快感を示したというエピソードも残されている[20]
  6. ^ オブライエンの本来の企画であった『King Kong Meets Frankenstein』が無断で変更され、完成した『キングコング対ゴジラ』もオブライエンの趣旨から大きく外れていたり、オブライエンもクレジットタイトルから除外されていたなどの様々な不満要素があり、オブライエンの妻であるダーリーンは、『キングコング対ゴジラ』における騒動によるフラストレーションが夫の死の原因だったと述べている[21]
  7. ^ 田中友幸円谷英二は「ゴジラ」の以前に東宝用の『キング・コング』を製作することを望んでいたとされている[23]。また、『キングコングの逆襲』も『キングコング対ゴジラ』の影響を受けており、『フランケンシュタイン対地底怪獣』と『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』もオブライエンの本来の企画である『King Kong Meets Frankenstein』のアイディアの再利用であるが、オブライエンがコンセプトの由来としてクレジットタイトルにて言及されることもなかった[24]
  8. ^ ゴジラやゴルゴなどの他作品のキャラクターを思わせる恐竜たちと共に登場している。
  9. ^ 第37話「恋の行方」に登場したコモディスラックス。

出典[編集]

  1. ^ Van Hise 1993, p. 102.
  2. ^ "The Top Box Office Hits of 1953." Variety, January 13, 1954.
  3. ^ Johnson 1995, p. 61.
  4. ^ a b Jones 1995, p. 42.
  5. ^ a b Hood, Robert. "A Potted History of Godzilla." roberthood.net. Retrieved: January 30, 2015.
  6. ^ “【訃報】特撮の巨匠・レイ・ハリーハウゼン死去。ゴジラ、ルーカス、ピクサーに多大な影響”. DDN JAPAN livedoorニュース. (2013年5月8日). オリジナルの2013年5月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130527013315/http://news.livedoor.com/article/detail/7656547/ 2013年8月5日閲覧。 
  7. ^ 『幻想映画美術体系 大ゴジラ図鑑』[監修]西村祐次 [構成]ヤマダマサミ、ホビージャパン、1995年1月27日、pp.2、26頁。ISBN 4-89425-059-4 
  8. ^ Glut, Donald F. (1982) The Dinosaur Scrapbook, Citadel Press
  9. ^ a b Rovin 1989
  10. ^ "Concept art from 'The Beast from 20,000 Fathoms'."[リンク切れ] theseventhvoyage.com. Retrieved: January 30, 2015.
  11. ^ McKenna, A. T. (2016年9月16日). “Showman of the Screen: Joseph E. Levine and His Revolutions in Film Promotion”. University Press of Kentucky. 2018年12月3日閲覧。
  12. ^ a b Riley Black, 2009年, Superman vs. the Arctic Giant, スミソニアン
  13. ^ https://eiga.com/news/20130508/14/
  14. ^ Berry, Mark F. The Dinosaur Filmography, McFarland & Company
  15. ^ Godzilla Days. Shueisha. pp. 34-38. ISBN 978-4087488159.
  16. ^ 田畑 雅英, 2005年, "なぜゴジラは都市を破壊するのか", 都市文化研究, p.17, Vol.5, pp.16-29, Urban Culture Research Center, Graduate School of Literature and Human Sciences, 大阪市立大学
  17. ^ Ragone, August (2007). Eiji Tsuburaya: Master of Monsters. p.34. Chronicle Books. ISBN 978-0-8118-6078-9.
  18. ^ Ryfle, Steve (1998). Japan's Favorite Mon-Star: The Unauthorized Biography of the Big G.. p.25. ECW Press. ISBN 1550223488.
  19. ^ William Shaw, 2005, The origin of the species, The Observer, The Guardian
  20. ^ a b Eric Bartsch, 2022年3月7日, Ray Harryhausen’s grudge against Godzilla is now perfectly clear, Bam Smack Pow
  21. ^ レイ・ハリーハウゼン, トニー・ダルトン, 2008年, A Century of Stop Motion Animation: From Méliès to Aardman, p.111, Watson-Guptill.
  22. ^ Cotta Vaz, Mark, 2005年, Living Dangerously: The Adventures of Merian C. Cooper, Creator of King Kong, pp.361–363, Villiard.
  23. ^ Brett, Homenick, Stephen Mark Rainey, 2005年, Teruyoshi Nakano talks of Godzilla Past, Present, and Future, pp.53-54, G-Fan. No. 71, Daikaiju Enterprises, ASIN B000RRUUN8
  24. ^ レイ・モートン, 2005年, King Kong: The History of a Movie Icon from Fay Wray to Peter Jackson, p.131, Applause Theatre & Cinema Books, ISBN 978-1557836694
  25. ^ Biodrowski, Steven (2010年4月13日). “Rifftrax: Planet of the Dinosaurs”. Cinefantastique英語版). 2021年11月1日閲覧。
  26. ^ "Easter egg monster images." Cloverfield News. Retrieved: January 30, 2015.
  27. ^ 10 Monster Facts About Pacific Rim
  28. ^ Webber P. R., 2004, The Dinosaur Films of Ray Harryhausen: Features, Early 16mm Experiments and Unrealized Projects, McFarland
  29. ^ Mark F. Berry, 2015年, The Dinosaur Filmography, 36項, Performing Arts

参考文献[編集]

外部リンク[編集]