ヤマカガシ

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ヤマカガシ
Rhabdophis tigrinus IMG 6559.retouch.JPG
ヤマカガシ Rhabdophis tigrinus
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: 有鱗目 Squamata
亜目 : ヘビ亜目 Serpentes
: ユウダ科 Natricidae
: ヤマカガシ属 Rhabdophis
: ヤマカガシ R. tigrinus
学名
Rhabdophis tigrinus
(Boie, 1826)
和名
ヤマカガシ
英名
Tiger keelback

ヤマカガシ(山楝蛇、赤楝蛇、Rhabdophis tigrinus)は、ユウダ科ヤマカガシ属に分類されるヘビ。

分布[編集]

ヤマカガシ属では最北に生息する種である[要出典]

日本中国東部、台湾モンゴルロシア沿海州[1]

  • R. t. tigrinus

日本の本州、四国、九州、佐渡島、隠岐島、壱岐島、五島列島、屋久島、種子島に分布し、南西諸島小笠原諸島および北海道には分布しない[1][2]。富田(2007)では、同亜種が大陸にも分布するとする。

  • Rhabdophis tigrinus formosanus:タイワンヤマカガシ

台湾に分布する亜種。

形態[編集]

頭部

全長は70 - 150cm、頭胴長は55 - 120cm[1]。体色は地域により非常に変異に富むが、主に褐色の地に赤色と黒色、黄色の斑紋が交互に並んでいる[1]。関東地方の個体では斑紋がはっきりしているのに対し、関西地方の個体ではややぼんやりとしており、中国・四国地方の個体では濃紫色の個体が多い[1]。頸部背面には黄色の帯があり、幼体でより鮮やかで、成長するにつれてくすんでくる。この黄色の帯も個体によっては表れない。 胴中央付近の背面の体鱗数は19列[1]。鱗には強いキールがある。

有毒のヘビである。

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奥歯の根元のデュベルノワ腺 (Duvernoy's gland) と頸部に頚腺と呼ばれる腺を持つ[1]。他のナミヘビ科の有毒種同様、口腔の後方に毒牙を有する後牙類(後牙蛇)である。

デュベルノワ腺の毒は出血毒であるが、おもに血小板に作用して破壊する性質であるため、クサリヘビ科の出血毒とは違い、激しい痛みや腫れはあまり起こらない。噛まれてから20-30分後ぐらいから、血液の中で化学反応が起こり、血小板が分解されていくことで全身の血液が凝固能力を失ってしまい、全身に及ぶ皮下出血歯茎からの出血、内臓出血、腎機能障害血便血尿などが起こり、最悪の場合は脳内出血が起こる。その毒の強さは LD50=5.3μgと、ハブ(54μg)の10倍、マムシ(16μg)の3倍になる強力なものである[3]。ヤマカガシの毒に対する血清は、ジャパンスネークセンターが製造、保管を行っている。

また、頸部にも奥歯とは別種の毒を出す頸腺を持つ。危険が迫るとコブラのように頭を持ち上げ、頸部を平たくし、頭を揺すったりし、この頸腺を目立たせることで威嚇する[1]。頸腺から出る毒液を飛ばすこともあり、これが目に入ると結膜角膜の充血や痛みを生じ、結膜炎や角膜混濁、角膜知覚麻痺、瞳孔反応の遅延、虹彩炎などの症状の他、最悪の場合失明を引き起こす[1][4]。この頸腺の毒は、餌であるヒキガエルの持つ毒(ブフォトキシン)を貯蓄して使用していることが明らかになった[5][6]。ヒキガエルが生息しない金華山では、そこに生息するヤマカガシはこの頸腺の毒を持たないが、このヤマカガシがヒキガエルを捕食すると、この毒を分泌するようになった[6]

頚腺から毒液を出すことは古くから認識されていたが、毒牙は奥歯にあるため深く噛まれないと毒の注入が行われず、爬虫類研究者の間でも毒蛇であることはあまり認識されていなかったとされる。1972年中学生が噛まれて死亡する事故が起きてから、毒蛇として認識されるようになってきた。その後、1984年にも死亡事故が起き、死亡例は4例、重症例は30例以上が報告されている。

亜種[編集]

  • Rhabdophis tigrinus tigrinus (Boie, 1826) :基亜種 日本産
  • Rhabdophis tigrinus lateralis (Berthold, 1859) :タイリクヤマカガシ 中国大陸・朝鮮半島・ロシア沿海州・サハリン産 [要出典]
  • Rhabdophis tigrinus formosanus :タイワンヤマカガシ 台湾産

生態[編集]

ヤマカガシは水辺を好む
ヒキガエルを捕らえた様子

カガシとは日本の古語で「蛇」を意味し、ヤマカガシは、「山の蛇」となる。しかし実際には平地や、山地でも標高の低い場所に生息し、特に水辺や水田地帯、湿地周辺などに多い[1]

外的に攻撃されたり驚いた時に頸部を広げて威嚇する[1]。また、それでも相手が怯まない場合、仰向けになり擬死行動を行う[1]。それでも相手が怯まない場合は噛みついたり、相手に毒腺のある頸部をすりつける[1]。性質は一般に大人しいとされているが、中には非常に攻撃的な個体もいるため、注意が必要である。

食性は肉食でカエルを好むほか、オタマジャクシ魚類等を食べる[1]水田の土中に頭を入れて、土に潜ったトノサマガエルなども捕食する。他の蛇からは嫌われる有毒のヒキガエルも食べてしまう[1]。飼育下では、ドジョウ金魚捕食例もある。また他のヘビとは違い、ネズミは食べない[要出典]。2006年に改正された動物の愛護及び管理に関する法律により、特定動物に指定され、現在は飼育には許可が必要となった。ヘビが動物を飲むときは頭から飲み込むものだが、ヤマカガシがカエルを飲むときは、後ろから飲み込むことが多い。そのため口からカエルの頭だけが出ているという場面に出くわすことがある。

交尾は主に秋であるが、春に交尾を行う場合もある[1]。繁殖形態は卵生で、6 - 8月に1回に2 - 30個、最大で40個ほどの卵を産む[1]。卵は30 - 50日で孵化する[1]

天敵[編集]

天敵は人間以外では、猛禽類カラスイタチタヌキテンなどであるが、頚部の毒腺の存在により撃退してしまうこともある。また本種と生息域が重なり、蛇食性の強いシマヘビも、本種にとっては危険な天敵である。

人間との関係[編集]

本種はアオダイショウシマヘビとともに、日本本土でよく見かけるヘビの一種である。同じ毒蛇であるニホンマムシと比べても生息数は多く、水田などを活動の場とすることで人との関わりも深い。ヤマカガシはカエルを主な食料とするため、日本の農業、特に水田の発達と共にヒキガエルや他のカエルの繁殖地が増加していき、それに伴って発展していったものと考えられている。

しかし近年は、水田の減少、そしてそれに伴うカエルの減少と共に、個体数は減少しているようである。特に都市部では、本種を見かけることは極めてまれである。

参考文献[編集]

  • 『原色ワイド図鑑3 動物』、学習研究社、1984年、144頁。
  • 『爬虫類・両生類800図鑑 第3版』、ピーシーズ、2002年、324-325頁。
  • 『小学館の図鑑NEO 両生類はちゅう類』、小学館、2004年、127頁。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 富田京一、山渓ハンディ図鑑10 日本のカメ・トカゲ・ヘビ、山と渓谷社、2007年7月15日初版、pp. 190 - 195、ISBN 978-4-635-07010-2
  2. ^ 疋田努 『爬虫類の進化』 東京大学出版会 2002 ISBN 4-13-060179-2 p215
  3. ^ 蟾酥(センソ)その四”. 救心. 2013年10月19日閲覧。
  4. ^ 川本文彦、熊田信夫「自ら経験したヤマカガシ頸腺毒による眼障害」、『衞生動物』第40巻第3号、日本衛生動物学会、1989年9月15日、 211-212頁、 NAID 110003820162
  5. ^ JR Minkel. “Snake Bites the Toxic Toad That Feeds It--and Spreads Its Poison”. 2010年12月5日閲覧。
  6. ^ a b Deborah A. Hutchinson et al.. “Dietary sequestration of defensive steroids in nuchal glands of the Asian snake Rhabdophis tigrinus, PNAS,Vol. 104, 2007,pp. 2265-2270”. 2010年12月5日閲覧。

外部リンク[編集]