ハナイグチ

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ハナイグチ
Suillus grevillei LC0109.jpg
分類
: 菌界 Fungi
: 担子菌門 Basidiomycota
亜門 : 菌蕈亜門 Hymenomycotina
: 真正担子菌綱 Homobasidiomycetes
: イグチ目 Boletales
: ヌメリイグチ科 Suillaceae
: ヌメリイグチ属 Suillus
: ハナイグチ S. grevillei
学名
Suillus grevillei
(Klotz.) Sing.
和名
ハナイグチ

ハナイグチ(花猪口、学名Suillus grevillei)は、ヌメリイグチ科ヌメリイグチ属に属するキノコの一種。

形態[編集]

かさは半球形から開いてほぼ平らになり、赤褐色~橙褐色の地に厚い粘液層をかぶって強い粘性を示し、径3~15㎝程度、表皮は多少剥れやすい。肉は厚く、比較的柔らかくて水分に富み、淡黄白色を呈し、常は傷つけても変色しないが、まれに淡灰紫色または淡青色に変わることがあり、味もにおいも温和である。かさの裏面はスポンジ状の管孔状をなしており、幼時は薄い膜に覆われるが次第に露出し、淡い黄色~濃レモン色であるが成熟すれば汚れた灰褐色~暗褐色となり、孔口は円形~やや多角形、管孔層はかさの肉から剥がしやすくて比較的厚い。柄はほぼ上下同大、長さ3~8㎝、径5~15㎜程度、なかほどに膜質で比較的長く残る「つば(内被膜)」を備え、それより上は淡黄色で、しばしば同色の繊細な網目状隆起をあらわし、つばより下方は繊維状で淡赤褐色~淡褐色を呈し、柄の内部は充実している。

胞子紋は鮮やかな黄褐色を呈する。胞子は黄褐色・平滑で細長い紡錘状楕円形を呈する。シスチジアは管孔の内壁面にも縁にも多数存在し、細長いこん棒状~紡錘状で淡黄色ないし黄褐色である。かさの表皮は、互いに絡み合いつつ厚いゼラチン層に埋没した菌糸で構成されており、それらの菌糸の外面には暗褐色の色素粒が沈着する。すべての菌糸はかすがい連結を持たない。

生態[編集]

夏から秋にかけ、カラマツ属の樹下に生える。外生菌根を形成する樹種がカラマツ属に限定されるため、それ以外の針葉樹の下には発生しない。

比較的に樹齢の若いカラマツ林分(樹齢15年生以上)に多いといわれ、その菌糸の生長温度は4~30℃(至適温度範囲は 23~25℃)、子実体発生に適する温度範囲は10~18℃であるとされる[1]

菌糸生長に適する炭素源と窒素源との比率(C/N比)は、種の中での菌株間でも相違があったが、おおむね40程度であるといい、炭素源としてはグルコースマンノーストレハロースあるいはマルトースを利用するが、セルロースリグニンイヌリンでんぷんグリコーゲンなどを資化する能力はないという。いっぽう、窒素源としては、アンモニア態窒素化合物や尿素アミノ酸類(アラニンセリングルタミン酸アスパラギン酸アスパラギンアルギニンなどが好まれ、ペプトンカザミノ酸も利用する。さらにチアミンを与えることで、菌糸の生長は大きく促進されるという。ただし、これらの生理的性質については、菌株間での違いも認められ、ハナイグチにはある程度の種内変異が含まれている可能性があると考えられている[2]

分布[編集]

日本中国ヨーロッパソビエト(沿海州)・北米など、カラマツ属の分布に随伴して各地に分布する。オセアニア(オーストラリアおよびニュージーランド)にも産するが、これは、帰化したものであるとの疑いがある。日本国内でも、カラマツが普通に分布している北方(あるいは高所)に多い。

類似種[編集]

日本では未記録であるが、やはりカラマツ林に発生し、子実体の外観が酷似するものにスゥイールス・クリントニアヌス(Suillus clintonianus (Peck) O. Kuntze)がある。かさの赤みが強く、肉を傷つけると淡桃色ないし淡サケ肉色に変わることや、胞子がやや幅広い点で区別される[3]が、これをハナイグチの品種あるいは変種とする研究者もある[4]

同様にカラマツ属の樹下に限って発生するきのことしてはシロヌメリイグチが知られているが、かさや柄が赤みを帯びず、むしろ帯褐灰白色を呈する点で簡単に見分けることができる。また、管孔もレモン色を帯びず、その孔口はより大形でやや放射状に配列すること・胞子紋が緑色を帯びた灰褐色~暗褐色を呈することでも異なっている。

同属のヌメリイグチチチアワタケなどは、実用上ではしばしば混同されているが、ともにアカマツクロマツなどの二針葉マツに外生菌根を形成することで、容易に区別される。また、前者はかさがより暗色(暗褐色~暗紫褐色)であり、つばより上部において柄の表面に暗紫褐色の微細な粒点を密布することで異なり、後者はまったくつばを欠く点で相違している。


利用[編集]

まぎらわしい毒キノコは知られておらず、収量が多くて味もよいので、キノコ狩りの対象として各地で人気がある。付着している落ち葉などを取り除き、味噌汁大根おろし和え・煮込みうどん鍋料理の具などに使う。水分が多くて腐敗しやすく、消化もあまりよくない点に注意を要する。

方言[編集]

長野県ではジコボウジコウボウ)またはリコボウリコウボウ)、北海道および秋田県下ではラクヨウ石川県下においてはイクチなど、さまざまな地方名[5][6]で呼ばれ、キノコ狩りの目標として人気がある。

栽培[編集]

カラマツに限って外生菌根を形成するキノコであるため、原木栽培菌床栽培は不可能であり、菌根形成の相手となるカラマツ林の発生環境の整備と、野生のハナイグチの子実体を接種源とした林床接種が主となる。3~5 月ごろに、カラマツ林地内に生えている雑木や下草および厚く堆積した落ち葉層の除去を行う。カラマツの落葉には、ハナイグチの菌糸生長を阻害する成分(ポリフェノール系化合物と思われる)が含まれる[7]ため、厚い腐植層を除去することは、ハナイグチの菌糸の蔓延ならびに子実体形成に有利に働くと考えられる。

9~10 月には、前もって別の林で採取したハナイグチ子実体の管孔層を粉砕し、水で適度に希釈した液を林床に散布する。散布は降雨の直前あるいは夕方が望ましく、1年に1~2回の頻度で2年程度行う必要がある。発生環境の整備開始から3年目になると子実体が発生し始めるが、3年目までは採集(収穫)を行わない。3年目以降から子実体の採取を始めるが、かさが開いて食用適期を過ぎたと考えられる子実体は、これを次代の胞子生産源とするために採取を避ける[8]

脚注[編集]

  1. ^ 柴田尚、2000.本州中部の亜高山帯針葉樹林のきのこ. 森林科学30:8-13.
  2. ^ [1]村田義一、ハナイグチとシロヌメリイグチの培養性質.
  3. ^ Korhonen, M., Hyvönen, J., and T. Ahti, 1993. Suillus grevillei and S. clintonianus (Comphidiaceae), two boletoid fungi associated with Larix. Karstenia 33:1-9.
  4. ^ Phillips, R., 1991. Mushrooms of North America. Little Brown & Co., Boston,
  5. ^ 松川仁、1980.キノコ方言 原色原寸図譜.東京新聞出版部. ISBN 9784808300302
  6. ^ 奥沢康正・奥沢正紀、1999. きのこの語源・方言事典. 山と渓谷社. ISBN 9784635880312
  7. ^ [2]吉田亜紀、カラマツ針葉の化学成分が菌根菌の生長におよぼす影響.
  8. ^ きのこの栽培方法 イグチ科ヌメリイグチ属(Boletaceae Suillus) (PDF) 特許庁

関連項目[編集]

外部リンク[編集]