キセルガイ

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?キセルガイ

キセルガイ科の一種(イギリス
おそらくCochlodina laminata
分類
動物界 Animalia
軟体動物門 Mollusca
腹足綱 Gastropoda
有肺目 Pulmonata
キセルガイ科 Clausliidae
英名
door snails

キセルガイは、腹足綱有肺目キセルガイ科に分類される巻貝の総称。陸生の貝類で、いわゆるカタツムリナメクジに比べると人々の認知度は低いが、地域によっては木の幹や落ち葉の下、岩陰などに普通に生息する。

殻の内部に閉弁(へいべん:clausilium)と呼ばれる開閉式のドア様の構造を持つことが最大の特徴で、科の学名の Clausiliidae や英名の door snail はこれに因む。また、巻貝としては珍しく大部分が左巻きである。日本名は形が喫煙用具の煙管(きせる)に似ていることによる。中国名も「煙管螺」という。

ユーラシア南米を中心におよそ1500種ほどが知られ、さらにその下には多くの亜種も記載されており、陸産貝類としては種数の多い科の一つである。日本にはアジアギセル亜科に属する約150種ほどが生息するが、狭い地域や島嶼の固有種も多く、環境省や各県のレッドリストに挙げられている種も少なくない(貝類レッドリスト (環境省)を参照)。

目次

[編集] 形態

軟体は一般のカタツムリと同様であるが、殻は多少なりとも細長く、大部分の種は左巻きである。成長とともに次第に太くなるが、成貝では口の直前でやや細まるものが多い。完全に成長すると殻口が反り返り、入り口に複雑な隆起を生じる。最大の特徴は殻口の少し奥に閉弁(へいべん:clausilium)と呼ばれる殻の一部が伸びたハネ板状の構造を持つことである。これはバネ式の扉のように機能し、軟体部が殻の奥に引っ込むと自動的に閉まって外敵の侵入を阻み、貝が活動するために再び内部から出るときは、軟体に押されて殻の内壁にぴったりと押し付けられる。そのため弁は殻の内壁に沿った形に湾曲している。

殻の表面は滑らかで光沢のあるものから、縦の条刻をもつものまで様々あるが、螺状の彫刻はほとんど見られない。殻色も白色のものから淡褐色~濃褐色のものまで様々であるが、大部分が褐色系の単色で、明瞭な斑紋をもつものはほとんどない。大きさは殻高が1cm未満の種からオオキセルガイのように5cm以上に及ぶものまで変化があるが、多くは1~4cmの範囲である。

[編集] 生態

【分布】

世界での生息域は大きく3つに分かれており、1)ヨーロッパから西アジアにかけての温帯、2)東アジア東南アジアの温帯・熱帯、および3)西インド諸島南米大陸北西部に分布の中心がある。これらの地域では種数も多く、しばしば個体数も多い。これに対し、アフリカ大陸では極く僅かな種が極く限られた地域から知られるのみで、北米大陸オセアニアなどには全く生息しない。移動力が非常に小さいため、分布域では地域ごとの種分化が著しく、それほど大きくない島の内部でさえ種分化が起こっている例もある。日本では前述のとおり約150種ほどが知られ、地域ごとに異なる種や亜種が生息しているが、北日本には少なく、西日本から南西諸島にかけて多くの種が知られる。キセルガイ科の世界最大種とされるオオギセルは関東西部から四国にかけて生息する。

【行動】

体のわりに殻が大きく重いため活動は活発ではなく、殻を引きずるようにして移動し、一般的なカタツムリに比べても非活動的である。生息環境は種ごとに異なっており、落葉下や朽木の周辺、ガレ場の石礫間、岩の表面や裏側などのほか、石灰岩地に特有のものや、一生のほとんどを樹幹で過ごすもの、洞穴周辺のみに生息する種などもある。温帯の種では冬季は冬眠するのが一般的で、地中海地方などでは夏季に夏眠するものもある。ほとんどの種は数年もしくはそれ以上の寿命があると考えられている。

【繁殖】

雌雄同体であるが、普通は別の個体と交尾することで遺伝子交換を行う。多くは卵胎生で稚貝を直接産むが、一部に卵生のものもある。卵は親貝の大きさからすると比較的大型の楕球形で、普通は炭酸カルシウムの硬い卵殻を持たないため半透明白色で軟らかい。唯一黒海東部沿岸地域に産するPontophaedusa funiculumのみが他のカタツムリ同様の卵殻をもった卵を産む種として知られる。卵胎生の種では、稚貝は2-3巻きの殻をもった姿で孵化し、親同様に匍匐しながら餌を食べて成長するが、殻の巻き数が少なく、成貝になるまで殻口の歯や閉弁も形成されないため、外見は成貝とはやや異なっている。

【天敵】

捕食者としてはネズミなどの小型哺乳類、鳥類、甲虫類コウガイビルなどが知られる。これらは殻を割ったり、殻口付近から軟体部を捕食したりするが、特異な例としては、地中海地方のホタルモドキ科の Drilus 属の幼虫が、夏眠中のアオギセル類(Albinaria 属)の殻に穿孔して捕食寄生することが知られている。同地方では暑く乾燥しがちな夏の間、岩の表面で生活するアオギセル類は殻口を岩に固着させて夏眠するが、Drilus 属の幼虫は貝殻に楕円形の穴を穿って侵入し、軟体を捕食すると再び別の脱出口を穿って脱出する[1]

[編集] 分類

世界のキセルガイ類を総説したNordsieck (2007)[2]は以下の11亜科に分類しており、そのうちの2亜科は化石のみから知られる群のため、現生種は9亜科となる。下記の分布や属や種の数は凡そのもので、更にこれらの下には多くの亜属や亜種が記載されている。キセルガイ科は地理的な変異が大きく、それぞれの属・亜属、あるいは種・亜種をどう扱うかは研究者により多少異なることや、アジアや南米に分布するものでは調査研究が不十分な面があるため、今後も属・種の追加や変更があるはずである。ウィキスピーシーズも参照のこと。

  • Alopiinae A.J.Wagner, 1913 
    中新世~現生。19属360種以上。欧州の地中海中東部沿岸を中心に分布し、一部はアジアやアフリカにも分布する。
  • Baleinae A.J.Wagner, 1913
    中新世~現生。南東欧が分布の中心で、一部は中近東まで及ぶ。南大西洋の孤島群のトリスタン・ダ・クーニャにも生息する。約11属75種。そのうち3種は絶滅種。
  • Clausiliinae J.E.Gray,1855
    漸新世~現生。欧州中央部に分布。欧州北部や地中海地方などには分布しない。約16属60種以上。そのうち6属33種は絶滅種。
  • †Constrictinae H.Nordsieck, 1981
    漸新世鮮新世の化石亜科。欧州から2属6種が知られる。
  • Garnieriinae C.Boettger, 1926
    現生種のみが知られる。東南アジアビルマベトナム中国南部など)に分布。6属25種以上。
  • †Eualopiinae H.Nordsieck, 1978
    白亜紀後期(マストリヒチアン期)~中新世中期の化石亜科。欧州から9属32種+所属不明の1種が知られる。
  • Laminiferinae Wenz, 1923
    暁新世後期~現生。南西欧(ピレネー山脈)に分布。7属24種。そのうち5属22種は絶滅種。
  • Mentissoideinae Lindholm, 1924
    中新世~現生。欧州、アジア東部、アラビア半島、東アフリカ、南アフリカ(ナタール)などに分布。約25属118種が知られ、そのうち1属2種は中新世の化石種。
  • Neniinae Wenz,1923
    現生種のみが知られる。西インド諸島から南米大陸西部にかけて分布。アルゼンチン北西部が南限。約28属140種以上。
  • Phaedusinae A.J.Wagner, 1922 アジアギセル亜科
    現生種のみが知られる。東アジア東南アジアに分布する。約41属500種以上で未記載種も多いとされる。日本産の種はすべてこの亜科に含まれる。
  • Serrulininae Ehrmann, 1927
    中新生~現生。南東欧~中近東(イラン北部)に分布。約18属56種。そのうち4属35種は絶滅種。

[編集] 人とのかかわり

[編集] 民間薬

それほど大きくないことから恒常的な食用などに用いられることがなく、一般的なカタツムリに比べれば人とのかかわりは多くはないが、民間療法に用いられる例がある。日本では福島県郡山地方などで「カンニャボ」と呼ばれ、肝臓の薬としてキセルガイ類のエキスや粉末などが販売されている。原料となるのは同地方に普通のナミコギセルやヒカリギセルなどであるが、業者の一部はそれを「ツメキセル貝」と呼ぶ場合もある。ただし標準和名のツメギセル関東南部から静岡県にかけてのみ分布する全くの別種である。

またキセルガイ類が多産するギリシャクレタ島では、過去にアオギセル類(Albinaria属)が出血治療に用いられたとされ、貝類研究者のWelter-Schultesは、クレタ島で出会った古老の何人かは今でもその方法を知っていたと述べている[3]

[編集] 信仰

日本の九州地方とその周辺にはキセルガイ信仰がある。これは神社の大木の樹幹などに生息するシーボルトコギセルギュリキギセルなどを信仰対象としている。これらの貝は乾燥や飢餓に比較的強く、殻内に入ったまま長期間(数ヶ月以上)生存するため、旅や出征に赴く際に神社の樹から採ってお守りとして持ち歩き、無事帰還したときに再び神社の木に戻すなことなどが行われた。同様の信仰のある山口県下関市一の宮の住吉神社では、シーボルトコギセルを象ったお守りも販売されている。 さらに熊本県などではキセルガイを「夜泣き貝」といって、子供の夜泣きにも効くとされ、夜泣きする子の枕下に貝を入れ、治ればもとの樹に戻すという信仰があったという。

また、東京都府中市大國魂神社では、境内にある大イチョウの根元に生息するキセルガイを煎じて飲めば母乳の出がよくなるという信仰があった。イチョウは大木になると気根が垂れるため母乳信仰の対象となることがあるが、この神社ではそこにキセルガイが生息していたことで母乳と貝が関連付けられた可能性もある。

[編集] 脚注

  1. ^ Aydin Örstan, 2001. DRILL HOLES IN LAND SNAIL SHELLS FROM WESTERN TURKEY. (Schriften zur Malakozoologie13:31-36,1999に所載の同題論文の摘要)
  2. ^ Hartmut Nordsieck, 2007. Worldwide Door Snails (Clausiliidae), recent and fossil. ConchBooks ISBN 9783939767077 --キセルガイ科の総説。
  3. ^ Francisco Welter-Schultes, "Albinaria and other Aegean land snails"(2002年10月2日最終更新-2008年3月19日閲覧)

[編集] 参考文献

  • 青木淳一編著 (1999)『日本産土壌動物 : 分類のための図解検索』東海大学出版会 ISBN 448601443X --日本産キセルガイ科の属までの図解検索と解説。
  • 湊宏 (1944) 日本産キセルガイ科貝類の分類と分布に関する研究. 貝類学雑誌 別巻2. 212頁+74白黒図版. --日本産キセルガイ科の総説。