「オイラーの公式」の版間の差分

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[[Image:Euler's formula.svg|thumb|right|オイラーの公式の図形的な表現。グラフは横軸が実数軸、縦軸が虚数軸の複素平面であり、{{mvar|&phi;}} は複素数 {{math|''e<sup>i&phi;</sup>''}} の偏角である。]]
[[Image:Euler's formula.svg|thumb|right|オイラーの公式の図形的な表現。グラフは横軸が実数軸、縦軸が虚数軸の複素平面であり、{{mvar|φ}} は複素数 {{math|''e{{sup|iφ}}''}} の偏角である。]]
[[数学]]、特に[[複素解析]]における'''オイラーの公式'''(オイラーのこうしき、{{lang-en-short|Euler's formula}})は、[[指数数]]と[[三角関数]]の間に成り立つ以下の関係をいう。
[[数学]]、特に[[複素解析]]における'''オイラーの公式'''(オイラーのこうしき、{{lang-en-short|Euler's formula}})は、[[複素指数数]]と[[三角関数]]の間に成り立つ以下の関係をいう。
:<math>e^{i\theta} =\cos\theta +i\sin\theta.</math>
:<math>e^{i\theta} =\cos\theta +i\sin\theta</math>
ここで {{math|''e''<sup>'''&middot;'''</sup>}} は指数関数、{{mvar|i}} は[[虚数単位]]、{{math|cos '''&middot;''', sin '''&middot;'''}} はそれぞれ余弦関数および正弦関数である<ref group="注">指数関数 {{math|''e''<sup>'''&middot;'''</sup>}} は[[冪乗|累乗]]を拡張したもので、複素数 {{math|''x'', ''y''}} について {{math|''e''<sup>''x''</sup>&thinsp;&times;&thinsp;e<sup>''y''</sup> {{=}} e<sup>''x''+''y''</sup>}} という関係が成り立つ。{{math|''e'' {{=}} ''e''<sup>1</sup> {{=}} 2.718281828...}} は'''自然対数の底'''あるいは'''[[ネイピア数]]'''と呼ばれる。<br />虚数単位 {{mvar|i}} は {{math|''i''<sup>2</sup> {{=}} ''i''&thinsp;&times;&thinsp;''i'' {{=}} &minus;1}} を満たす複素数である。<br />余弦関数 {{math|cos&thinsp;'''&middot;'''}} および正弦関数 {{math|sin&thinsp;'''&middot;'''}} は三角関数の一種である。正弦関数 {{math|sin&thinsp;''&theta;''}} は、[[直角三角形]]の[[斜辺]]とその三角形の変数 {{mvar|&theta;}} に対応する角度を持つ[[鋭角]]の[[対辺]](正弦)の長さの比を表す。余弦関数 {{math|cos&thinsp;''&theta;''}} はもう一方の鋭角(余角)の対辺と斜辺の長さの比を表す。単位円(半径の長さを 1 とする円)の中心を原点とする直交座標系をとったとき、単位円上の点を表す {{math|''x'', ''y''}} 座標はそれぞれ {{math|cos&thinsp;''&theta;'', sin&thinsp;''&theta;''}} に等しい({{mvar|&theta;}} は円の中心と円周上の点を結ぶ直線と、{{mvar|x}} 軸のなす角の大きさに対応する)。<br />文献によっては、指数関数は、{{en|<u>exp</u>onent}}(指数)から3字取って {{math|exp&thinsp;''x'' ({{=}} ''e''<sup>''x''</sup>)}} と表される。また虚数単位には {{mvar|i}} でなく {{mvar|j}} を用いることがある。</ref>。任意の[[複素数]] {{mvar|&theta;}} に対して成り立つ等式であるが、特に {{mvar|&theta;}} が実数である場合が重要でありよく使われる。{{mvar|&theta;}} が[[実数]]のとき、{{mvar|&theta;}} は[[複素数]] {{math|''e''<sup>''i&theta;''</sup>}} がなす[[複素平面]]上の[[複素数#極形式|偏角]](角度 {{mvar|&theta;}} の単位は[[ラジアン]])に対応する。
ここで {{math|''e''{{sup|'''&middot;'''}}}} は指数関数、{{mvar|i}} は[[虚数単位]]、{{math|cos '''&middot;''', sin '''&middot;'''}} はそれぞれ余弦関数および正弦関数である<ref group="注">指数関数 {{math|''e''{{sup|'''&middot;'''}}}} は[[冪乗|累乗]]を拡張したもので、複素数 {{math|''x'', ''y''}} について {{math|''e''{{sup|''x''}} × e{{sup|''y''}} {{=}} e{{sup|''x''+''y''}}}} という関係が成り立つ。{{math|''e'' {{=}} ''e''{{sup|1}} {{=}} 2.718281828…}} は'''自然対数の底'''あるいは'''[[ネイピア数]]'''と呼ばれる。<br />虚数単位 {{mvar|i}} は {{math|''i''{{sup|2}} {{=}} ''i'' × ''i'' {{=}} &minus;1}} を満たす複素数である。<br />余弦関数 {{math|cos&thinsp;'''&middot;'''}} および正弦関数 {{math|sin&thinsp;'''&middot;'''}} は三角関数の一種である。正弦関数 {{math|sin ''θ''}} は、[[直角三角形]]の[[斜辺]]とその三角形の変数 {{mvar|θ}} に対応する角度を持つ[[鋭角]]の[[対辺]](正弦)の長さの比を表す。余弦関数 {{math|cos ''θ''}} はもう一方の鋭角(余角)の対辺と斜辺の長さの比を表す。単位円(半径の長さを 1 とする円)の中心を原点とする直交座標系をとったとき、単位円上の点を表す {{math|''x'', ''y''}} 座標はそれぞれ {{math|cos''θ''}}, {{math|sin''θ'''}} に等しい({{mvar|θ}} は円の中心と円周上の点を結ぶ直線と、{{mvar|x}} 軸のなす角の大きさに対応する)。<br />文献によっては、指数関数は、{{en|<u>exp</u>onent}}(指数)から3字取って {{math|exp ''x'' ({{=}} ''e''{{sup|''x''}})}} と表される。また虚数単位には {{mvar|i}} でなく {{mvar|j}} を用いることがある。</ref>。任意の[[複素数]] {{mvar|θ}} に対して成り立つ等式であるが、特に {{mvar|θ}} が実数である場合が重要でありよく使われる。{{mvar|θ}} が[[実数]]のとき、{{mvar|θ}} は[[複素数]] {{math|''e''{{sup|''''}}}} がなす[[複素平面]]上の[[複素数#極形式|偏角]](角度 {{mvar|θ}} の単位は[[ラジアン]])に対応する。


公式の名前は18世紀の数学者[[レオンハルト・オイラー]] ([[:en:Leonhard Euler|Leonhard Euler]]) に因むが、最初の発見者は[[ロジャー・コーツ]] ([[:en:Roger Cotes|Roger Cotes]]) とされる。コーツは[[1714年]]に
公式の名前は18世紀の数学者[[レオンハルト・オイラー]] ([[:en:Leonhard Euler|Leonhard Euler]]) に因むが、最初の発見者は[[ロジャー・コーツ]] ([[:en:Roger Cotes|Roger Cotes]]) とされる。コーツは[[1714年]]に

:<math> \log\left(\cos x + i\sin x \right)=ix \ </math>
:<math> \log\left(\cos x + i\sin x \right)=ix \ </math>
を発見した<ref name="Stillwell">{{Cite book |author=John Stillwell |title=Mathematics and Its History |publisher=Springer |year=2002 |url=http://books.google.com/books?id=V7mxZqjs5yUC&pg=PA315}}</ref>が、三角関数の周期性による対数関数の[[多価性]]を見逃した。

を発見した<ref name="Stillwell">{{cite book|author=John Stillwell|title=Mathematics and Its History|publisher=Springer|year=2002 | url = http://books.google.com/books?id=V7mxZqjs5yUC&pg=PA315}}</ref>が、三角関数の周期性による対数関数の[[多価性]]を見逃した。


1740年頃オイラーはこの対数関数の形での公式から現在オイラーの公式の名で呼ばれる指数関数での形に注意を向けた。指数関数と三角関数の級数展開を比較することによる証明が得られ出版されたのは1748年のことだった<ref name="Stillwell"/>。
1740年頃オイラーはこの対数関数の形での公式から現在オイラーの公式の名で呼ばれる指数関数での形に注意を向けた。指数関数と三角関数の級数展開を比較することによる証明が得られ出版されたのは1748年のことだった<ref name="Stillwell"/>。
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{{sfn|ファインマン|1977|pp=294, 307}}{{sfn|吉田|2010}}だと述べている。
{{sfn|ファインマン|1977|pp=294, 307}}{{sfn|吉田|2010}}だと述べている。


オイラーの公式は、[[変数 (数学)|変数]] {{mvar|&theta;}} が実数である場合には、右辺は実空間上で定義される通常の三角関数で表され、[[虚数]]の指数関数の実部と虚部がそれぞれ角度 {{mvar|&theta;}} に対応する余弦関数 {{math|cos}} と正弦関数 {{math|sin}} に等しいことを表す。このとき、偏角 {{mvar|&theta;}} を[[媒介変数|パラメータ]]とする[[曲線]] {{math|''e''<sup>''i&theta;''</sup>}} は、複素平面上の[[単位円]]をなす。
オイラーの公式は、[[変数 (数学)|変数]] {{mvar|θ}} が実数である場合には、右辺は実空間上で定義される通常の三角関数で表され、[[虚数]]の指数関数の実部と虚部がそれぞれ角度 {{mvar|θ}} に対応する余弦関数 {{math|cos}} と正弦関数 {{math|sin}} に等しいことを表す。このとき、偏角 {{mvar|θ}} を[[媒介変数|パラメータ]]とする[[曲線]] {{math|''e''{{sup|''''}}}} は、複素平面上の[[単位円]]をなす。
特に、{{math|''&theta;'' {{=}} {{π}}}} のとき(すなわち偏角が 180 度のとき)、
特に、{{math|''θ'' {{=}} {{π}}}} のとき(すなわち偏角が 180 度のとき)、
:<math>e^{i\pi}=-1</math>
:<math>e^{i\pi}=-1</math>
となる。この関係は'''[[オイラーの等式]]''' {{en|(Euler's identity)}} と呼ばれる<ref group="注">三角関数の周期性(従って複素指数関数の周期性)により、オイラーの等式が成り立つのは {{math|''&theta;'' {{=}} {{π}}}} に限らない。すなわち、任意の整数 {{mvar|z}} について {{math|''&theta;'' {{=}} {{π}} + 2{{π}}''z'' {{=}} 2{{π}}(''z'' + {{sfrac|1|2}})}} は {{math|''e''<sup>''i&theta;''</sup> {{=}} &minus;1}} を満たす。</ref>。
となる。この関係は'''[[オイラーの等式]]''' {{en|(Euler's identity)}} と呼ばれる<ref group="注">三角関数の周期性(従って複素指数関数の周期性)により、オイラーの等式が成り立つのは {{math|''θ'' {{=}} {{π}}}} に限らない。すなわち、任意の整数 {{mvar|z}} について {{math|''θ'' {{=}} {{π}} + 2{{π}}''z'' {{=}} 2{{π}}(''z'' + {{sfrac|1|2}})}} は {{math|''e''{{sup|''''}} {{=}} &minus;1}} を満たす。</ref>。


{{mvar|&theta;}} が純虚数である場合には、左辺は実空間上で定義される通常の指数関数であり、右辺は純虚数に対する三角関数となる。
{{mvar|θ}} が純虚数である場合には、左辺は実空間上で定義される通常の指数関数であり、右辺は純虚数に対する三角関数となる。


オイラーの公式は、三角関数 {{math|cos&thinsp;''&theta;'', sin&thinsp;''&theta;''}} が[[双曲線関数]] {{math|cosh(''i&theta;''), sinh(''i&theta;'')/''i''}} に対応することを導く。また応用上は、オイラーの公式を経由して三角関数を複素指数関数に置き換えることで、[[微分方程式]]や[[フーリエ級数]]などを利用しやすくする。
オイラーの公式は、三角関数 {{math|cos ''θ''}}, {{math|sin ''θ''}} が[[双曲線関数]] {{math|cosh(''''), sinh('''')/''i''}} に対応することを導く。また応用上は、オイラーの公式を経由して三角関数を複素指数関数に置き換えることで、[[微分方程式]]や[[フーリエ級数]]などを利用しやすくする。


== 指数関数と三角関数 ==
== 指数関数と三角関数 ==
実関数として定義される[[指数関数]] {{math|''e''<sup>''x''</sup>}} および[[三角関数]] {{math|cos&thinsp;''x''}}, {{math|sin&thinsp;''x''}} を各々[[マクローリン展開]]すれば<ref group="注">{{math|''x'' {{=}} 0}} の周りの[[テイラー展開]]をマクローリン展開 {{en|(Maclaurin expansion)}} と呼ぶ。また一般に関数を[[冪級数]]として表すことを冪級数展開と呼ぶ。</ref>
実関数として定義される[[指数関数]] {{math|''e''{{sup|''x''}}}} および[[三角関数]] {{math|cos ''x''}}, {{math|sin ''x''}} を各々[[マクローリン展開]]すれば<ref group="注">{{math|''x'' {{=}} 0}} の周りの[[テイラー展開]]をマクローリン展開 {{en|(Maclaurin expansion)}} と呼ぶ。また一般に関数を[[冪級数]]として表すことを冪級数展開と呼ぶ。</ref>
{{numBlk|:|<math>e^{x} = \sum^{\infin}_{n=0} \frac{x^n}{n!}\quad\mbox{ for all }x</math>|{{equationRef|Macl1|1}}}}
{{numBlk|:|<math>e^x = \sum^{\infin}_{n=0} \frac{x^n}{n!}\quad\mbox{ for all }x</math>|{{equationRef|Macl1|1}}}}
{{numBlk|:|<math>\cos x = \sum^{\infin}_{n=0} \frac{(-1)^n}{(2n)!} \, x^{2n}\quad\mbox{ for all } x</math>|{{equationRef|Macl2|2}}}}
{{numBlk|:|<math>\cos x = \sum^{\infin}_{n=0} \frac{(-1)^n}{(2n)!} \, x^{2n}\quad\mbox{ for all } x</math>|{{equationRef|Macl2|2}}}}
{{numBlk|:|<math>\sin x = \sum^{\infin}_{n=0} \frac{(-1)^n}{(2n+1)!} \, x^{2n+1}\quad\mbox{ for all } x</math>|{{equationRef|Macl3|3}}}}
{{numBlk|:|<math>\sin x = \sum^{\infin}_{n=0} \frac{(-1)^n}{(2n+1)!} \, x^{2n+1}\quad\mbox{ for all } x</math>|{{equationRef|Macl3|3}}}}
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:<math>\scriptstyle r=\lim_{n \to \infty}\left |\frac{a_{n}}{a_{n+1}}\right|</math>
:<math>\scriptstyle r=\lim_{n \to \infty}\left |\frac{a_{n}}{a_{n+1}}\right|</math>
が存在すれば、{{math|''R'' {{=}} ''r''}} である。(極限が存在しない場合、収束半径はこの方法では求まらない。)
が存在すれば、{{math|''R'' {{=}} ''r''}} である。(極限が存在しない場合、収束半径はこの方法では求まらない。)
{{math|''e''<sup>''x''</sup>}} の収束半径は
{{math|''e''{{sup|''x''}}}} の収束半径は
:<math>\begin{align}\scriptstyle
:<math>\begin{align}\scriptstyle
\lim_{n \to \infty}\left|\frac{1/n!}{1/(n+1)!} \right|
\lim_{n \to \infty}\left|\frac{1/n!}{1/(n+1)!} \right|
41行目: 39行目:
&\scriptstyle = \infty
&\scriptstyle = \infty
\end{align}</math>
\end{align}</math>
となる。{{math|cos ''x''}} の収束半径を求めるには、{{math|''y'' {{=}} ''x''<sup>2</sup>}} についての級数と考えて、その収束半径を求めればよい。
となる。{{math|cos ''x''}} の収束半径を求めるには、{{math|''y'' {{=}} ''x''{{sup|2}}}} についての級数と考えて、その収束半径を求めればよい。
:<math>\begin{align} \scriptstyle
:<math>\begin{align} \scriptstyle
\lim_{n \to \infty}\left|\frac{(-1)^n/(2n)!}{(-1)^{n+1}/\{2(n+1)\}!} \right|
\lim_{n \to \infty}\left|\frac{(-1)^n/(2n)!}{(-1)^{n+1}/\{2(n+1)\}!} \right|
57行目: 55行目:
&\scriptstyle =\infty
&\scriptstyle =\infty
\end{align}</math>
\end{align}</math>
であるので、任意の {{mvar|y}} で収束し、{{math|''y'' {{=}} ''x''<sup>2</sup>}} を代入した級数も任意の {{mvar|x}} で収束し、それに {{mvar|x}} をかけた級数(すなわち {{math|sin&thinsp;''x''}} のマクローリン展開)も任意の {{mvar|x}} で収束する。
であるので、任意の {{mvar|y}} で収束し、{{math|''y'' {{=}} ''x''{{sup|2}}}} を代入した級数も任意の {{mvar|x}} で収束し、それに {{mvar|x}} をかけた級数(すなわち {{math|sin&thinsp;''x''}} のマクローリン展開)も任意の {{mvar|x}} で収束する。


以上で {{equationNote|Macl1|(1)}}, {{equationNote|Macl2|(2)}}, {{equationNote|Macl3|(3)}} の右辺の収束半径が {{math|∞}} であることが証明された。</ref>。従ってこれらの級数は、{{mvar|x}} を複素変数と見て全複素平面上広義一様に[[絶対収束]]し、これらの級数によって表される関数は[[整関数]]である<ref group="注">全平面上正則な関数を整関数と言う。なおこれらは多項式でないので超越整関数であり、[[無限遠点]]を[[真性特異点]]に持つ</ref>。これら級数の収束性と[[正則関数]]に関する[[一致の定理]]により、[[解析接続|正則関数としての拡張]]は全平面でこの収束[[冪級数]]によって確定されるため、複素関数としての指数関数および、三角関数は通常、この級数展開式をもって定義される。
以上で {{equationNote|Macl1|(1)}}, {{equationNote|Macl2|(2)}}, {{equationNote|Macl3|(3)}} の右辺の収束半径が {{math|∞}} であることが証明された。</ref>。従ってこれらの級数は、{{mvar|x}} を複素変数と見て全複素平面上広義一様に[[絶対収束]]し、これらの級数によって表される関数は[[整関数]]である<ref group="注">全平面上正則な関数を整関数と言う。なおこれらは多項式でないので超越整関数であり、[[無限遠点]]を[[真性特異点]]に持つ</ref>。これら級数の収束性と[[正則関数]]に関する[[一致の定理]]により、[[解析接続|正則関数としての拡張]]は全平面でこの収束[[冪級数]]によって確定されるため、複素関数としての指数関数および、三角関数は通常、この級数展開式をもって定義される。


ここで、 {{math|''e''<sup>''x''</sup>}} の {{mvar|x}} を {{mvar|ix}} に置き換え、{{math|''e''<sup>''ix''</sup>}} の冪級数が絶対収束するために級数の項の順序を任意に交換可能である事を考慮すれば
ここで、 {{math|''e''{{sup|''x''}}}} の {{mvar|x}} を {{mvar|ix}} に置き換え、{{math|''e''{{sup|''ix''}}}} の冪級数が絶対収束するために級数の項の順序を任意に交換可能である事を考慮すれば
:<math>\begin{align}
:<math>\begin{align}
e^{ix}
e^{ix}
73行目: 71行目:


この公式は、歴史的には全く起源の異なる指数関数と三角関数が、[[複素数]]の世界では密接に結びついていることを表している。
この公式は、歴史的には全く起源の異なる指数関数と三角関数が、[[複素数]]の世界では密接に結びついていることを表している。
たとえば、三角関数の[[三角関数#加法定理|加法定理]]は、指数法則 {{math|''e''<sup>''a''</sup>''e''<sup>''b''</sup> {{=}} ''e''<sup>''a'' + ''b''</sup>}} に対応していることが分かる<ref name="複素関数を学ぶ人のために" /><ref group="注">{{math|''e''<sup>''a'' + ''b''</sup>}} を冪級数で表し、各項を[[二項定理|二項展開]]し、展開した項を改めて整理すれば、指数法則 {{math|''e''<sup>''a'' + ''b''</sup> {{=}} ''e''<sup>''a''</sup>''e''<sup>''b''</sup>}} を導出できる。
たとえば、三角関数の[[三角関数#加法定理|加法定理]]は、指数法則 {{math|''e''{{sup|''a''}}''e''{{sup|''b''}} {{=}} ''e''{{sup|''a'' + ''b''}}}} に対応していることが分かる<ref name="複素関数を学ぶ人のために" /><ref group="注">{{math|''e''{{sup|''a'' + ''b''}}}} を冪級数で表し、各項を[[二項定理|二項展開]]し、展開した項を改めて整理すれば、指数法則 {{math|''e''{{sup|''a'' + ''b''}} {{=}} ''e''{{sup|''a''}}''e''{{sup|''b''}}}} を導出できる。
:<math>\begin{align}\scriptstyle
:<math>\begin{align}\scriptstyle
e^{a+b}
e^{a+b}
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となる。{{equationNote|D2|(2)}} を {{equationNote|D1|(1)}} に代入すると次のようになる。
となる。{{equationNote|D2|(2)}} を {{equationNote|D1|(1)}} に代入すると次のようになる。
{{numBlk|:|<math>(\cos x-i\sin x)\cdot e^{ix} =1.</math>|{{equationRef|D3|3}}}}
{{numBlk|:|<math>(\cos x-i\sin x)\cdot e^{ix} =1.</math>|{{equationRef|D3|3}}}}
ここで {{equationNote|D3|(3)}} の両辺に、{{math|(cos&thinsp;''x'' - ''i''&thinsp;sin&thinsp;''x'')}} の[[複素共役]] {{math|(cos&thinsp;''x'' + ''i''&thinsp;sin&thinsp;''x'')}} を掛ければ、三角関数に関するピタゴラスの定理 {{math|sin<sup>2</sup>''x'' + cos<sup>2</sup>''x'' {{=}} 1}} よりオイラーの公式が得られる<ref name="複素数の取り扱い" />。
ここで {{equationNote|D3|(3)}} の両辺に、{{math|(cos&thinsp;''x'' - ''i''&thinsp;sin&thinsp;''x'')}} の[[複素共役]] {{math|(cos&thinsp;''x'' + ''i''&thinsp;sin&thinsp;''x'')}} を掛ければ、三角関数に関するピタゴラスの定理 {{math|sin{{sup|2}}''x'' + cos{{sup|2}}''x'' {{=}} 1}} よりオイラーの公式が得られる<ref name="複素数の取り扱い" />。
:<math>e^{ix} =\cos x+i\sin x.</math>
:<math>e^{ix} =\cos x+i\sin x.</math>
|drop=no}}{{math proof|
|drop=no}}{{math proof|
131行目: 129行目:
{{equationNote|D5|(5)}} を {{equationNote|D4|(4)}} に代入すると
{{equationNote|D5|(5)}} を {{equationNote|D4|(4)}} に代入すると
:<math>(\cos x+i\sin x)\cdot e^{-ix} =1</math>
:<math>(\cos x+i\sin x)\cdot e^{-ix} =1</math>
が導出される。この両辺に {{math|''e''<sup>''ix''</sup>}} を掛け、任意の複素数 ''a'', ''b'' に対して成り立つ指数法則 {{math|''e''<sup>''a''</sup>''e''<sup>''b''</sup> {{=}} ''e''<sup>''a'' + ''b''</sup>}} を利用すれば<ref name="複素関数を学ぶ人のために"/>
が導出される。この両辺に {{math|''e''{{sup|''ix''}}}} を掛け、任意の複素数 ''a'', ''b'' に対して成り立つ指数法則 {{math|''e''{{sup|''a''}}''e''{{sup|''b''}} {{=}} ''e''{{sup|''a'' + ''b''}}}} を利用すれば<ref name="複素関数を学ぶ人のために"/>
:<math>\begin{align}
:<math>\begin{align}
e^{ix}
e^{ix}
159行目: 157行目:
{{equationNote|DE3|(3)}} と {{equationNote|DE1|(1)}} より
{{equationNote|DE3|(3)}} と {{equationNote|DE1|(1)}} より
{{numBlk|:|<math>\frac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x} =iy</math>|{{equationRef|DE4|4}}}}
{{numBlk|:|<math>\frac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x} =iy</math>|{{equationRef|DE4|4}}}}
を得る<ref group="注">{{math|''i''<sup>2</sup> {{=}} &minus;1}} より {{math|''i'' {{=}} &minus;{{sfrac|1|''i''}}}} であることを利用した。</ref>。任意の 0 でない複素数 {{mvar|&alpha;}} について、関数 {{math|''e''<sup>''&alpha;x''</sup>}} は次の関係を満たす。
を得る<ref group="注">{{math|''i''{{sup|2}} {{=}} &minus;1}} より {{math|''i'' {{=}} &minus;{{sfrac|1|''i''}}}} であることを利用した。</ref>。任意の 0 でない複素数 {{mvar|&alpha;}} について、関数 {{math|''e''{{sup|''&alpha;x''}}}} は次の関係を満たす。
{{numBlk|:|<math>\frac{\mathrm d}{\mathrm{d}(\alpha x)}e^{\alpha x} = e^{\alpha x}.</math>|{{equationRef|DE5|5}}}}
{{numBlk|:|<math>\frac{\mathrm d}{\mathrm{d}(\alpha x)}e^{\alpha x} = e^{\alpha x}.</math>|{{equationRef|DE5|5}}}}
{{equationNote|DE4|(4)}} と {{equationNote|DE5|(5)}} を見比べ、{{math|''&alpha;'' {{=}} ''i''}} と置き換えれば、''f''(0) = 1 より
{{equationNote|DE4|(4)}} と {{equationNote|DE5|(5)}} を見比べ、{{math|''&alpha;'' {{=}} ''i''}} と置き換えれば、''f''(0) = 1 より
192行目: 190行目:
i = C_2
i = C_2
\end{align}</math>|{{equationRef|2DE5|5}}}}
\end{align}</math>|{{equationRef|2DE5|5}}}}
となるので<ref group="注">{{math|''e''<sup>0</sup> {{=}} 1}} および {{math|sin&thinsp;0 {{=}} 0, cos&thinsp;0 {{=}} 1}} を利用した。</ref>、{{equationNote|2DE5|(5)}} より {{equationNote|2DE3|(3)}} の線型結合はオイラーの公式を与える<ref name="kwansei-univ-euler" />。
となるので<ref group="注">{{math|''e''{{sup|0}} {{=}} 1}} および {{math|sin&thinsp;0 {{=}} 0, cos&thinsp;0 {{=}} 1}} を利用した。</ref>、{{equationNote|2DE5|(5)}} より {{equationNote|2DE3|(3)}} の線型結合はオイラーの公式を与える<ref name="kwansei-univ-euler" />。
:<math>e^{ix} = \cos x + i\sin x.</math>
:<math>e^{ix} = \cos x + i\sin x.</math>
|drop=no}}
|drop=no}}
202行目: 200行目:
ie^{ix} & -\sin x+i\cos x
ie^{ix} & -\sin x+i\cos x
\end{vmatrix}=e^{ix}(-\sin x + i\cos x) - e^{ix}(i\cos x - \sin x)=0</math>
\end{vmatrix}=e^{ix}(-\sin x + i\cos x) - e^{ix}(i\cos x - \sin x)=0</math>
として {{math|cos&thinsp;''x'' + ''i''&thinsp;sin&thinsp;''x''}} と {{math|''e''<sup>''ix''</sup>}} が線型従属であることを確認する。
として {{math|cos&thinsp;''x'' + ''i''&thinsp;sin&thinsp;''x''}} と {{math|''e''{{sup|''ix''}}}} が線型従属であることを確認する。
ここで、ある定数 {{mvar|C}} について
ここで、ある定数 {{mvar|C}} について
:<math>e^{ix} = C(\cos x + i\sin x)</math>
:<math>e^{ix} = C(\cos x + i\sin x)</math>
257行目: 255行目:
&= 1+na_{n}+\binom{n}{2}a_{n}^2+ \dotsb
&= 1+na_{n}+\binom{n}{2}a_{n}^2+ \dotsb
\end{align}</math>
\end{align}</math>
であるから、{{mvar|a<sub>n</sub>}} が小さいとき、{{mvar|n}} 乗すると誤差はおよそ {{mvar|n}} 倍されるが、{{mvar|a<sub>n</sub>}} が {{math|{{sfrac|1|n}}}} よりも早く {{math|0}} に近づくときには、極限に影響しない。
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本議論において
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2020年6月27日 (土) 21:25時点における版

オイラーの公式の図形的な表現。グラフは横軸が実数軸、縦軸が虚数軸の複素平面であり、φ は複素数 e の偏角である。

数学、特に複素解析におけるオイラーの公式(オイラーのこうしき、: Euler's formula)は、複素指数函数三角関数の間に成り立つ以下の関係をいう。

ここで e· は指数関数、i虚数単位cos ·, sin · はそれぞれ余弦関数および正弦関数である[注 1]。任意の複素数 θ に対して成り立つ等式であるが、特に θ が実数である場合が重要でありよく使われる。θ実数のとき、θ複素数 e がなす複素平面上の偏角(角度 θ の単位はラジアン)に対応する。

公式の名前は18世紀の数学者レオンハルト・オイラー (Leonhard Euler) に因むが、最初の発見者はロジャー・コーツ (Roger Cotes) とされる。コーツは1714年

を発見した[1]が、三角関数の周期性による対数関数の多価性を見逃した。

1740年頃オイラーはこの対数関数の形での公式から現在オイラーの公式の名で呼ばれる指数関数での形に注意を向けた。指数関数と三角関数の級数展開を比較することによる証明が得られ出版されたのは1748年のことだった[1]

この公式は複素解析をはじめとする純粋数学の様々な分野や、電気工学物理学などで現れる微分方程式の解析において重要な役割を演じる。物理学者のリチャード・ファインマンはこの公式を評して「我々の至宝」かつ「すべての数学のなかでもっとも素晴らしい公式」 [2][3]だと述べている。

オイラーの公式は、変数 θ が実数である場合には、右辺は実空間上で定義される通常の三角関数で表され、虚数の指数関数の実部と虚部がそれぞれ角度 θ に対応する余弦関数 cos と正弦関数 sin に等しいことを表す。このとき、偏角 θパラメータとする曲線 e は、複素平面上の単位円をなす。 特に、θ = π のとき(すなわち偏角が 180 度のとき)、

となる。この関係はオイラーの等式 (Euler's identity) と呼ばれる[注 2]

θ が純虚数である場合には、左辺は実空間上で定義される通常の指数関数であり、右辺は純虚数に対する三角関数となる。

オイラーの公式は、三角関数 cos θ, sin θ双曲線関数 cosh(), sinh()/i に対応することを導く。また応用上は、オイラーの公式を経由して三角関数を複素指数関数に置き換えることで、微分方程式フーリエ級数などを利用しやすくする。

指数関数と三角関数

実関数として定義される指数関数 ex および三角関数 cos x, sin x を各々マクローリン展開すれば[注 3]

(1)
(2)
(3)

となる。これらの級数の収束半径 であることはダランベールの収束判定法によって確認することができる[注 4]。従ってこれらの級数は、x を複素変数と見て全複素平面上広義一様に絶対収束し、これらの級数によって表される関数は整関数である[注 5]。これら級数の収束性と正則関数に関する一致の定理により、正則関数としての拡張は全平面でこの収束冪級数によって確定されるため、複素関数としての指数関数および、三角関数は通常、この級数展開式をもって定義される。

ここで、 exxix に置き換え、eix の冪級数が絶対収束するために級数の項の順序を任意に交換可能である事を考慮すれば

が成り立つ。この式と三角関数の冪級数展開を比較すれば

が得られる。

この公式は、歴史的には全く起源の異なる指数関数と三角関数が、複素数の世界では密接に結びついていることを表している。 たとえば、三角関数の加法定理は、指数法則 eaeb = ea + b に対応していることが分かる[4][注 6]

オイラーの公式を利用して三角関数を指数関数に置き換えることができる。たとえば余弦関数と正弦関数については直接的に、

という表現が得られる。

証明

この公式には、上記の冪級数展開による証明の他にも異なる幾通りかの証明が知られている。ここにいくつかの例を挙げる。ただし、以下の微分を用いた証明については、実変数を複素数変数におき換えても、これらの議論が成立していることを、別途で証明する必要がある(複素解析論)。

微分による証明

微分方程式による証明

2階線型微分方程式による証明

ロンスキー行列による証明

ド・モアブルの定理による証明

関連項目

脚注

参照

注釈

  1. '^ 指数関数 e·累乗を拡張したもので、複素数 x, y について ex × ey = ex+y という関係が成り立つ。e = e1 = 2.718281828… は自然対数の底あるいはネイピア数と呼ばれる。
    虚数単位 i
    i2 = i × i = −1 を満たす複素数である。
    余弦関数 cos 
    · および正弦関数 sin · は三角関数の一種である。正弦関数 sin θ は、直角三角形斜辺とその三角形の変数 θ に対応する角度を持つ鋭角対辺(正弦)の長さの比を表す。余弦関数 cos θ はもう一方の鋭角(余角)の対辺と斜辺の長さの比を表す。単位円(半径の長さを 1 とする円)の中心を原点とする直交座標系をとったとき、単位円上の点を表す x, y 座標はそれぞれ cosθ, sinθ に等しい(θ は円の中心と円周上の点を結ぶ直線と、x 軸のなす角の大きさに対応する)。
    文献によっては、指数関数は、exponent(指数)から3字取って exp x (= ex) と表される。また虚数単位には i でなく j を用いることがある。
  2. ^ 三角関数の周期性(従って複素指数関数の周期性)により、オイラーの等式が成り立つのは θ = π に限らない。すなわち、任意の整数 z について θ = π + 2πz = 2π(z + 1/2)e = −1 を満たす。
  3. ^ x = 0 の周りのテイラー展開をマクローリン展開 (Maclaurin expansion) と呼ぶ。また一般に関数を冪級数として表すことを冪級数展開と呼ぶ。
  4. ^ 級数
    の収束半径 R は、極限
    が存在すれば、R = r である。(極限が存在しない場合、収束半径はこの方法では求まらない。) ex の収束半径は
    となる。cos x の収束半径を求めるには、y = x2 についての級数と考えて、その収束半径を求めればよい。
    となるので、任意の y で収束し、したがって任意の x でも収束する。sin x もほぼ同様で、まず
    を考える。この級数の収束半径は
    であるので、任意の y で収束し、y = x2 を代入した級数も任意の x で収束し、それに x をかけた級数(すなわち sin x のマクローリン展開)も任意の x で収束する。 以上で (1), (2), (3) の右辺の収束半径が であることが証明された。
  5. ^ 全平面上正則な関数を整関数と言う。なおこれらは多項式でないので超越整関数であり、無限遠点真性特異点に持つ
  6. ^ ea + b を冪級数で表し、各項を二項展開し、展開した項を改めて整理すれば、指数法則 ea + b = eaeb を導出できる。
  7. ^ i2 = −1 より i = −1/i であることを利用した。
  8. ^ e0 = 1 および sin 0 = 0, cos 0 = 1 を利用した。
  9. ^ cos x + i sin x は関数として 0 でないので。
  10. ^ 三角関数の半角公式を利用した。

参考文献

  • リチャード・ファインマン 著、坪井忠二 訳『力学』 I、岩波書店〈ファインマン物理学〉、1977年、294, 307頁。ISBN 4-00-007711-2OCLC 47339138 
  • 吉田武『オイラーの贈物—人類の至宝 eiπ = −1 を学ぶ』(新装版)東海大学出版会、2010年。ISBN 978-448601863-6OCLC 502982012 
  • 小笠英志『相対性理論の式を導いてみよう、そして、人に話そう』ベレ出版、2011年、165-171頁。ISBN 978-486064-267-9 
  •  藤田宏『応用数学 (放送大学教材)』放送大学教育振興会、1993年。ISBN 978-4595-56532-8 
  • Dunham, William (1999). Euler: The Master of Us All. The Mathematical Association of America. ISBN 978-088385328-3. http://paginas.fisica.uson.mx/horacio.munguia/Personal/Documentos/Libros/Euler%20The_Master%20of%20Us.pdf 
  • 杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会〈基礎数学2〉、1980年。ISBN 978-4-13-062005-5 
  • 田村二郎『解析関数(新版)』裳華房〈数学選書3〉、1983年。ISBN 978-4-7853-1307-4