パウリ行列

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パウリ行列(パウリぎょうれつ, Pauli matrices)、パウリのスピン行列(-ぎょうれつ, Pauli spin matrices)とは、下に挙げる3つの2×2複素行列の組みのことである。\sigmaシグマ)で表記されることが多い。量子力学スピン角運動量や、部分偏極状態の記述方法に関連が深い。


\sigma_1 =
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
1 & 0 \\
\end{pmatrix}\mbox{, } \quad
\sigma_2 =
\begin{pmatrix}
0 & -i \\
i & 0 \\
\end{pmatrix} \mbox{, } \quad
\sigma_3 =
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & -1 \\
\end{pmatrix}

添字は数学では 1, 2, 3 が使われるが物理学では x, y, z が使われる。また、座標系によって添字と3つの行列の対応が違ったり、あるいは符号が違ったり、さらには一見全く違って見えることもあるが、本質的な性質は変わらない。

上記3つに単位行列を加えた4つの行列をパウリ行列と呼ぶこともある。


\sigma_0 =
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1 \\
\end{pmatrix}

基本的な性質[編集]

パウリ行列はエルミート行列であり、ユニタリー行列でもある。

パウリ行列 \sigma_k(k=1,2,3)トレース (Tr) と行列式 (det) は次のとおり。


\begin{cases}
\operatorname{Tr}(\sigma_k) &= 0 \\
\det(\sigma_k) &= -1
\end{cases}

また \sigma_0(2×2単位行列)では 
\operatorname{Tr}(\sigma_0) = 2
, 
\det(\sigma_0) = 1
である。

固有値・固有ベクトル[編集]

それぞれのパウリ行列は、固有値+1−1を持つ。それぞれの規格化された固有ベクトルは、

{\begin{aligned}&|\sigma _{{1,+}}\rangle ={\frac  {1}{\sqrt  {2}}}&{\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}},&&|\sigma _{{1,-}}\rangle ={\frac  {1}{\sqrt  {2}}}&{\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}}\\&|\sigma _{{2,+}}\rangle ={\frac  {1}{\sqrt  {2}}}&{\begin{pmatrix}1\\i\end{pmatrix}},&&|\sigma _{{2,-}}\rangle ={\frac  {1}{\sqrt  {2}}}&{\begin{pmatrix}1\\-i\end{pmatrix}}\\&|\sigma _{{3,+}}\rangle =&{\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}},&&|\sigma _{{3,-}}\rangle =&{\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}}\end{aligned}}

パウリ行列の積・交換関係[編集]

パウリ行列の積については

 \sigma_1^2 = \sigma_2^2 = \sigma_3^2 = \sigma_0
 \sigma_1 \sigma_2 = i \sigma_3, \quad
        \sigma_2 \sigma_3 = i \sigma_1, \quad
        \sigma_3 \sigma_1 = i \sigma_2

すなわち i, j = 1,2,3 について


\begin{cases}
\sigma_i^2 &= \sigma_0 \\
\sigma_i \sigma_j &= -\sigma_j \sigma_i \qquad (i \ne j)
\end{cases}

が成り立つ。これは定義から直接計算すればわかる。これらをまとめて

 \sigma_i \sigma_j = \delta_{ij} \sigma_0 + i \epsilon_{ijk} \sigma_k \qquad (i,j,k = 1,2,3) \,

と書くことができる(ここで \delta_{ij}クロネッカーのデルタ\epsilon_{ijk}エディントンのイプシロン)。これにより交換関係反交換関係

\begin{align}[]
[ \sigma_i, \sigma_j ] &= \sigma_i \sigma_j - \sigma_j \sigma_i &=& 2i \epsilon_{ijk} \sigma_k \\
\{ \sigma_i, \sigma_j \} &= \sigma_i \sigma_j + \sigma_j \sigma_i &=& 2\delta_{ij} \sigma_0
\end{align}

となる。

複素行列の実係数展開[編集]

任意の2×2複素行列はパウリ行列(単位行列を含めた4つの行列)の線形結合で書ける。このとき係数は一般に複素数である。

また、任意の2×2エルミート行列をパウリ行列の線形結合で書いたとき、係数実数になる。

部分偏極状態を表現するコヒーレンス行列はエルミート行列であるが、これをパウリ行列で展開した係数を要素とするベクトル(実ベクトル)はストークスベクトルと呼ばれる。ストークスベクトルは、ある種の射影空間であるポアンカレ球の座標系を作る。

関連項目[編集]