カマキリ

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カマキリ目(蟷螂目)
生息年代: 145–0 Ma
白亜紀現世
Rhombodera basalis
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: カマキリ目 Mantodea
学名
Mantodea
Burmeister1838
和名
カマキリ目(蟷螂目)
英名
Mantis

カマキリ(蟷螂、鎌切、蠅取虫)は、昆虫綱カマキリ目(蟷螂目、学名Mantodea・ mantis )に分類される昆虫の総称。前脚が状に変化し、他の小動物を捕食する肉食性の昆虫である。漢字表記は螳螂、蟷螂(とうろう)、鎌切。

名前の由来については、「鎌切」という表記があることからわかるように、「鎌で切る」から「鎌切り」となったという説と、「カマキリ」は、「鎌を持つキリギリス」の意味で、この「キリ」はヤブキリクサキリササキリなどのキリギリスの仲間の名にふくまれる「キリ」と同じであるという説とがある。分類法によっては、ゴキブリシロアリなどとともに網翅目(もうしもく、Dictyoptera)とすることもある(その際、カマキリ類はカマキリ亜目になる)。かつてはバッタキリギリスなどと同じバッタ目(直翅目、Orthoptera)に分類する方法もあったが、現在ではこれらとはそれ程近縁でないとされている。カマキリに似たカマキリモドキという昆虫がいるが、アミメカゲロウ目(脈翅目)に属し、全く別の系統に分類される。またおなじくカマキリに似た前脚を持つミズカマキリカメムシ目(半翅目)に属し、全く別の系統である。これらは収斂進化の例とされている。

概要

全世界で2,000前後といわれるが、研究者により1,800-4,000種の開きがある。特に熱帯亜熱帯地方に種類数が多い。体は前後に細長い。6本ののうち、前脚(前肢)は先端を除く大半が状(亜鋏状)に変化し、多数のがある。頭部は逆三角形で、2つの複眼大顎が発達する。前胸は長く、頭部と前胸の境目は柔らかいため、頭部だけを広角に動かすことができる。触角毛髪状で細長く、中脚と後脚も細長い。

成虫には細長い前翅と扇形に広がる後翅があるが、多くのカマキリは飛行が苦手で、短距離を直線的に飛ぶのが精一杯である。翅を状に広げて威嚇に使うことが多い。地上性のカマキリには翅が退化したものもいて、これらは飛ぶことができない。また、雄は身体が細身で体重が軽く、飛翔性が高くてよく飛んで移動するが、雌は雄よりも太目で身体が頑強で重いために雄のような飛翔行動をすることはなく、翅はもっぱら威嚇のために使用される。

カマキリの体腔内に寄生する寄生虫としてハリガネムシが知られる。充分成長したハリガネムシは寄生主を水辺へと誘導し、水を感知すると産卵のためにカマキリの体内から脱出する。そのため、カマキリの成虫を水で濡らすとハリガネムシが体をくねらせて姿を現すことがある。ハリガネムシが脱出したカマキリは急激に衰弱し、死ぬこともある。平地に棲むオオカマキリにはあまり見られないが、山間地に棲むハラビロカマキリの成虫にはハリガネムシの寄生がよく見られる。

捕食

ツクツクボウシを捕食するハラビロカマキリ
バッタを捕食するカマキリ(Mantis religiosa
オオカマキリ 交尾の際に雄を捕食する雌

食性は肉食性で、自身より小さい昆虫や小動物を捕食するが、大きさによってはスズメバチキリギリスショウリョウバッタオニヤンマ等の大型肉食昆虫やヘビクモカエルトカゲミミズなど昆虫以外の小動物を捕食することもある。また、獲物が少ない環境では共食いすることもある。捕食するのは生き餌に限られ、死んで動かないものは基本的に食べない(動かないものを獲物としてほぼ認識しない。飼育下では、餌を動かしたりすることでカマキリが興味を持てば掴んで食べる)。捕食の際は鎌状の前脚で獲物を捕えて押さえつけ、大顎でかじって食べる。食後は前脚を念入りに舐めて掃除する。

獲物を狙う時には、体を中脚と後脚で支え、左右の前脚を揃えて胸部につけるように折りたたむ独特の姿勢をとって、じっと動かずに待ち伏せする。一方で天敵や自身よりも大きい相手に遭遇した場合は身を大きく反らして翅を広げ、前脚の鎌を大きく振り上げて威嚇体勢をとることがある。獲物を捕らえる際に体を左右に動かして獲物との距離を測ることが多い。獲物や捕食者に見つからないために何かに擬態した色合いや形態をしていることが多い。一般には茶色か緑色の体色で、植物の枝や細長いに似たものが多いが、熱帯地方ではカラフルな花びらに擬態するハナカマキリ、地面の落ち葉に擬態するカレハカマキリ、木の肌に擬態するキノハダカマキリもいる。

共食い

カマキリ類では、同じ種類でも体の小さいオスが体の大きいメスに共食いされてしまう場合がある。交尾の際も共食いが行われ、オスはメスに不用意に近づくと、交尾前に食べられてしまうので、オスは慎重にメスに近づいて交尾まで持ち込む。飼育環境下では交尾前に食べられてしまうこともあるが、自然環境下では一般的に交尾の最中、メスはオスを頭から生殖器までむしゃむしゃと食べる(食べられないこともある)。

一般に報告されている共食いは、飼育下で高密度に個体が存在したり餌が不足したりした場合のものであり、このような人工的な飼育環境に一般的に起こる共食いと、交尾時の共食いとが混同されがちである。交尾時の共食いも、雌が自分より小さくて動くものを餌とする習性に従っているにすぎないと見られているが、詳しいことは未だ研究中である。

共食いをしやすいかどうかの傾向は、種によって大きく異なる。極端な種においてはオスはメスに頭部を食べられた刺激で精子をメスの体内に送り込むものがあるが、ほとんどの種の雄は頭部や上半身を失っても交尾が可能なだけであり、自ら進んで捕食されたりすることはない。日本産のカマキリ類ではその傾向が弱く、自然状態でメスがオスを進んで共食いすることはあまり見られないとも言われる。ただし、が深まって捕食昆虫が少なくなると他の個体も重要な餌となってくる。

カマキリのオスは生涯に複数回の交尾が可能なため、一匹のメスに食べられて自分の子孫の栄養となることが、自分の子孫をより多く残すために必ずしも有利となるわけではない。オスがメスから逃げ切って別のメスと交尾することで、複数のメスからより多くの子孫を残すという戦略も有効である。一方で、オスがメスに食べられた場合は、その栄養でメスに食べられなかった場合よりも多くの子供が生まれることが分かっており、メスに食べられることで一匹のメスからより多くの子孫を残すという戦略も有効である。

生活史

ハラビロカマキリの産卵
オオカマキリの卵鞘
孵化した直後のオオカマキリ

カマキリは、 - 幼虫 - 成虫という不完全変態を行うグループである。

メスは交尾後に多数の卵を比較的大きな卵鞘(らんしょう)の中に産み付ける。卵鞘は卵と同時に分泌される粘液が泡立って形成される。大きさや形は種によって決まっている。1つの卵鞘には数百個前後の卵が含まれ、1頭のメスが生涯に数個程度の卵鞘を産む種が多い。卵は卵鞘内で多数の気泡に包まれ、外部からの衝撃や暑さ寒さから守られる。卵鞘は「螵蛸」(おおじがふぐり)という別名を持ち、これは「老人の陰嚢」の意味である。伝承上では、カマキリは雪が積もるであろう高さより上に卵鞘を産むとして、積雪を予測する力があるとされた。工学博士の酒井與喜夫は事実であるとして、私費を投じて研究を行っている[1]。一方で、昆虫学研究者の安藤喜一は、カマキリの卵鞘は野外では大半が雪に埋もれているが生存可能であり、酒井の研究は「補正と称して実際のカマキリの卵の高さを積雪深に合うように調整している」ものであり、積雪量予測は誤りであるとしている[2][3][4]。昆虫写真家の海野和男も雪に埋もれるカマキリの卵を観察していることから、その説に疑問を持っている[5][6]


卵から孵化した幼虫は薄い皮をかぶった前幼虫(ぜんようちゅう)という形態で、脚や触角は全て薄皮の内側にたたまれている。前幼虫は体をくねらせながら卵鞘の外へ現れるが、外に出ると同時に薄皮を脱ぎ捨てる最初の脱皮を行う。

前幼虫からの脱皮を終えた幼虫は、体長数mm程度しかないことと翅がないことを除けば成虫とよく似た形態をしている。一令幼虫はまずタカラダニトビムシアブラムシなど手近な小動物を捕食するが、この段階ではアリも恐ろしい天敵の一つである。体が大きくなるとショウジョウバエなどを捕食できるようになり、天敵だったアリも逆に獲物の一つとなる。このようにして、ひとつの卵鞘から孵化した数百匹の幼虫も、成虫になれるのはわずか数匹のみである。種類や環境にもよるが、幼虫は1日1匹の割合で獲物を捕食し、成虫になるまでに数回の脱皮を行う。充分に成長した幼虫は羽化して成虫となる。成虫の寿命は数か月ほどだが、この間にも獲物を捕食して卵巣など体組織の成熟を図る。

人間との関わり

文化

祇園祭の蟷螂山

カマキリの特殊な姿や行動は、古くから多くの人間に観察されており、前脚を持ち上げて待ち伏せする姿を祈っているようだと見て、日本では俗に拝み虫(おがみむし)とも呼ばれる。また斧虫(おのむし)とも言う[7]

カマキリ類の学名は、ギリシャ語の名前"mántis"に由来し、"mántis"は、「予言者」の意味でもある。これは、英名のmantismantidの元にもなっている。英語では、praying(祈る) mantisとも呼ばれる。また、さらにはその生態から同音語のpreying(捕食する) mantisとの混乱も見られる。

韓詩外伝に「蟷螂の斧(とうろうのおの)」という故事があり、斉国の君主だった荘公はある日馬車で出かけたが、道の真ん中に一匹のカマキリがいて、逃げださず前足をふりあげて馬車に向かってきた。荘公はその勇気を賞して、わざわざ車の向きを変えさせ、カマキリをよけて通ったという。国君が一匹の虫に道を譲ったこの故事は日本に伝来し、カマキリは勇気ある虫とされ、戦国期のには、カマキリの立物を取りつけたものがある[8]。現在の日本では意味が転じ、己の無力を知らない無謀さを揶揄する場合に用いる。祇園祭では「蟷螂の斧」の故事を元とした「蟷螂山」という山鉾があり、からくり仕掛けで動くカマキリが載っている。


1995年(平成7年)7月4日発売の700円普通切手の意匠に酒井抱一の『四季花鳥図巻』のカマキリが採用された。

中国ではカマキリの動きを真似たという蟷螂拳という武術が現在まで伝わっている。

ギリシア神話には交尾時の共食いが与える印象から派生した、メスカマキリを意味するエンプーサという夢魔が登場する。また、ポルノ映画『五月みどりのかまきり夫人の告白』などのように、「男を食い殺す悪女」の象徴としてカマキリのイメージを重ね合わせる使用例もある。

カマキリの特徴的な容姿と生態から、目付きが悪く細身の姿で、陰険かつ嫌味な性格の人物を男女問わず「カマキリ」と揶揄する例がある。

飼育

肉食性のうえ、共食いもするため単独飼育が基本である。そのため、オオカマキリチョウセンカマキリ等の大型種は特に累代飼育が難しい。野生下においては、関東以西では雄個体は10月中 - 下旬頃、雌個体は11月上 - 下旬まで見られる。飼育下では、餌やり・温度管理をすれば雌個体の場合12月下旬頃までは飼育できる。大人の指でも、はね除け、傷つけてしまうほどの強い力と好戦的な性質を持つ。

死んで動かない餌は食べない。餌が動かないでいると顔を近づけて観察し、前脚で触って生きているかどうか確認する。飼育において購入することのできる主な生き餌は、ヨーロッパイエコオロギフタホシコオロギミールワーム等。ただし死んでいても動けば餌と認識するようで、魚肉ソーセージの切り身などをピンセット割り箸などで口元で動かせば捕食する。

分類

日本産のカマキリ

日本には、カマキリ科とハナカマキリ科に属する2科9種が生息している。

カマキリ科 Mantidae

オオカマキリ(褐色型)
オオカマキリ Tenodera aridifolia Stoll, 1813
体長:オス68 - 90mm、メス75 - 95mm
分布:北海道本州四国九州対馬、日本以外では朝鮮半島中国東南アジア
日本最大のカマキリで、体色は緑色型と褐色型が知られる。チョウセンカマキリやウスバカマキリとよく似ているが、後翅の付け根を中心とした大部分が暗紫褐色なので区別できる。前脚の内側に模様がなく、左右の前脚の間の胸は目立たない淡い黄色、もしくは黄色斑紋上部縁側がエンジ色をしている。川原や林縁の草むらに生息する。
チョウセンカマキリ(カマキリ) Tenodera angustipennis Saussure, 1869
体長:オス65 - 80mm、メス70 - 90mm
分布:本州、四国、九州、対馬、沖縄本島、日本以外では中国と朝鮮半島
単にカマキリとも呼ばれる。体色は緑色型と褐色型がある。後翅の前縁部と中央に並ぶ暗褐色の短い筋を特徴とする。前脚の内側に模様はなく、左右の前脚の間の胸は山吹色をしている。
ウスバカマキリ(オーストリア産)
ウスバカマキリ Mantis religiosa Linnaeus, 1758
体長:オス50 - 66mm、メス59 - 66mm
分布:世界各地に分布。日本でも北海道南西部以南に分布する。欧州や、世界で一般に「カマキリ」と呼ばれるのは本種であり、ファーブルの『昆虫記』に登場する種(和名:オガミカマキリ)もこれに入るが、日本産の個体数はオオカマキリに比べて少なく、県によってはRD指定を受けている程で、見つけるのは難しい。
淡い緑色、または茶色で、複眼後部に黄色い横線模様が入っていて、前脚の基節内側に黒い楕円形紋がある。
コカマキリ
ハラビロカマキリ
コカマキリ Statilia maculata Thunberg, 1784
体長:オス36 - 55mm、メス46 - 63mm
分布:本州、四国、九州、対馬、日本以外では台湾など
小型のカマキリ。体色は褐色もしくは薄い紫褐色だが、まれに緑色や赤褐色のものがいる。前胸腹板には黒色帯があり、前脚の基節と腿節内側にはそれぞれに黒い模様がある。林縁の草むらや河川敷の草が生い茂った場所に生息しているが、地上性が強い。都市部にも生息している。
ハラビロカマキリ Hierodula patellifera Serville, 1839
体長:オス45 - 65mm、メス52 - 71mm
分布:東南アジアに広く分布する。日本では本州以南
通常緑色型で、前翅に白い斑点がある。前脚基節前縁に3から5ぐらいの突起がある。他のカマキリに比べ前胸が短く、腹部は幅が広く見える。樹上性で、林縁の日当たりの良い木の上や開けた草原の樹上に生息している。
少ないながらも茶色も見られる。
ヒナカマキリ Amantis nawai Shiraki, 1911
体長:オス12 - 15mm、メス13 - 18mm
分布:台湾、日本では本州以南
褐色の非常に小型のカマキリ。翅は小さく鱗片状。台湾産のものには翅が長くなる個体があるのが知られているが、日本国内では見つかっていない。胸部背面の中央にこげ茶色の縦筋がある。森林の落ち葉の上に生息する。また、建物の壁面にも見られる。
地上で生活するため、茶色や黒といった枯れ葉や土に似せた色合いの個体しか見られない。

ハナカマキリ科 Hymenopodidae

ヒメカマキリ

複眼は大きく横または上方に突き出す。複眼の間には複眼よりも小さな突起がある。

ヒメカマキリ Acromantis japonica Westwood, 1849
体長:オス25 - 33mm、メス25 - 36mm
分布:本州、四国、九州、対馬、屋久島、奄美大島
樹上性で小型のカマキリ。緑色型と褐色型が存在。オスの羽は黒っぽく艶があるが、メスは艶があまりなく褐色に濃い褐色の斜めの縞模様がある。後翅が長くて前翅よりも後ろにはみ出し、その両側がとがる特徴がある。この科の幼虫は腹部を持ち上げるような格好が多く見られるが、コカマキリの初齢やハラビロカマキリにも見られるので、本科だけの特徴ではない。明かりにも飛来する。
体が小さい分動きが素早く、追い詰められると他のカマキリにはあまり見られない擬死行動を採る。オオカマキリの褐色型のような体色が殆ど。
サツマヒメカマキリ Acromantis australis Saussure, 1871
分布:九州

記録が少ない種

ナンヨウカマキリ Orthodera burmeisteri Wood-Mason
体長:オス36mmほど、メス39mmほど
分布:小笠原諸島に少数が存在する。
ムナビロカマキリ[9]
体長:オス74 - 88mm、メス68 - 92mm
分布:南西諸島
卵嚢はチョウセンカマキリとほぼ同型。体全体が太く頑丈で外観はオオカマキリに似ているが、体の各部特徴はチョウセンカマキリに同じ。
オキナワオオカマキリ(マエモンカマキリ) Tenodera sp.
体長:オス77 - 101mm、メス93 - 105mm
分布:奄美群島徳之島以南)から八重山諸島にかけて分布。
緑色型と褐色型がある。緑色型の頭楯や上唇は黄色または黄色味が強い。メス緑色型の前胸背面は背中線を中心に赤褐色が顕著に現れる場合が多い。前脚の内側に模様はなく、左右の前脚の間の胸は周りと同色。卵嚢はオオカマキリに似ているがより大型であまり角ばらず楕円に近い。
ヤサガタコカマキリ Statillia sp.
体長:オス36 - 40mm
分布:八重山諸島
緑色型やメスは未知。前胸は短めで体形は華奢。前脚紋の違うコカマキリ。
スジイリコカマキリ Statillia sp.
体長:オス41 - 51mm、メス50 - 57mm
分布:沖縄諸島と八重山諸島。宮古諸島からは記録が無い。
褐色型と緑色型がある。前脚紋の違うコカマキリ。
オガサワラカマキリ Orthodera sp.
肩が尖った小型のカマキリ。ナンヨウカマキリと同じ種類かは不明。

日本以外に生息するカマキリ

ハナカマキリ幼虫

日本産と同様に草や枯葉に擬態し、緑色や茶色の体色をしたものがほとんどだが、一部には通常のカマキリとは異なる体型で、鮮やかな花や枯れ枝、落ち葉に擬態した種類が存在する。

ハナカマキリ Hymenopus coronatus Oliver, 1792
分布:東南アジア
1齢幼虫は花には似ておらず、赤と黒の2色で同地域のカメムシの1種に似ており、ベイツ型擬態と見られる。2齢幼虫は脚の腿節が水滴型に平たくなり、体色もピンクや白で、ラン科の花に体を似せており、英名も"Orchid Praying Mantis"(ランカマキリ)と呼ばれる。擬態をしている昆虫として代表的なものである。ただし成虫になると体が前後に細長くなってカマキリらしくなり、あまりランの花には似なくなる。日本の近縁種であるヒメカマキリとは性質が大きく異なり、共食いもする。オスは体長3cmほどで7cmほどあるメスの半分にも満たない。
ケンランカマキリ
ケンランカマキリ Metallyticus splendidus
分布:東南アジア
「ハンミョウカマキリ」とも呼ばれるようにハンミョウのような金属光沢の緑色の体色が特徴で、世界一美しいカマキリといわれる。
ゴキブリのように素早く動き、メスは緑の地色に赤が混じり、オスは青が入る。
オオカレエダカマキリ Paratoxodera cornicollis
分布:東南アジア
枯れ枝のような細長く茶色い体の所々に葉に似せた鰭状のものがついている。ドラゴンマンティスとも呼ばれる最大のカマキリ。
カレエダカマキリ Euchomenella heteroptera De Haan, 1842
分布:東南アジア
和名通り枯れ枝に似ている。気配を感じると前肢を伸ばして枯れ枝に擬態する。
ボクサーカマキリ Acromantis gestri 英名 Boxer Mantis
分布:東南アジア
体長3cm。近縁種も小型種が多く、体に比べて前肢が太くカマが円盤状で厳ついところがボクサーグローブに似て、体を起こすと、ファイティングポーズを採るボクサーに似ることからこの名がある。ハナカマキリ科のグループだが、日本のヒメカマキリはハナカマキリよりはこちらに近く、体色も似ている。
カレハカマキリ Deroplatys spp.
分布:東南アジア
前胸が左右に広がっていて落ち葉によく似ている。落ち葉に覆われた森林の地上に生息する。
キノハダカマキリ Theopompa sp
分布:東南アジア オーストラリア
樹皮に擬態するハナカマキリ科のグループ。体が平たく、木の幹を素早く走る。
ニセハナマオウカマキリ(幼虫)
ニセハナマオウカマキリ Idolomantis diabolica
分布:中央アフリカから南アフリカにかけて。
アフリカに生息するカマキリでは最大の美麗種で、上から見ると薄緑色の体色だが、腹側から見ると鮮やかな赤と青が混じった目玉模様や脚が目立つ派手な色彩をしている。
英語で「デビルフラワーマンティス(悪魔の花蟷螂)」と呼ばれるが、派手な色の成虫とは対照的に、幼虫は地味な茶褐色で、枯れ葉などに擬態している。体長13cmほど。
アフリカメダマカマキリ Pseudocreobotra wahlbergii
分布:アフリカのタンザニア
体色はハナカマキリに似て白い。前翅に大きな目玉模様がある。
マルムネカマキリ
分布:中南米
中南米一帯に暮らすカマキリ。名前の通り胸が円形をしている。全体的に見ると木の葉そっくりに見える。体長10cm。

脚注

  1. ^ 酒井與喜夫『カマキリは大雪を知っていた:大地からの"天気信号"を聴く』農山漁村文化協会〈人間選書〉、2003年。ISBN 4-540-03114-7 
  2. ^ 古橋嘉一「ザ レジェンド オブ マンティス -ある間違いへの挑戦-」『News Letter』第29巻、農林害虫防除研究会、2012年8月。 
  3. ^ 安藤喜一 著「オオカマキリの耐雪性」、田中誠二・小滝豊美・田中一裕編著 編『耐性の昆虫学』東海大学出版会、2008年。ISBN 978-4-486-01790-5 
  4. ^ カマキリ博士の積雪予報は当たっていた!?”. 上越タウンジャーナル (2010年1月28日). 2011年11月15日閲覧。
  5. ^ 海野和男 (2005年9月30日). “オオカマキリの産卵”. 海野和男のデジタル昆虫記. 2011年11月15日閲覧。
  6. ^ 海野和男 (2002年12月21日). “雪の日のキタテハとオオカマキリの卵”. 海野和男のデジタル昆虫記. 2011年11月15日閲覧。
  7. ^ 『これは重宝漢字に強くなる本十三版』株式会社光文書院1979年6月15日発行全622頁中622頁 編集佐藤一郎 浅野通有 出版 十三版発行発行者 長谷川凱久 印刷 日本デザイン工房 開成印刷 製本 小泉製本、高田紙器
  8. ^ 奇跡の地球物語 鎧兜〜受け継がれてきた和の心〜”. テレビ朝日 (2012年4月29日). 2013年7月20日閲覧。
  9. ^ 所蔵標本データベース ムナビロカマキリ 琉球大学博物館

参考文献

関連項目

  • プロトファスマ - カマキリとゴキブリの共通の祖先とされる。
  • シャコ目 - 英名の mantis shrimp やドイツ名の Fangschreckenkrebs を直訳すると「カマキリエビ」の意味となる。

外部リンク