オニヤンマ
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メスのオニヤンマ | ||||||||||||||||||||||||
| 分類 | ||||||||||||||||||||||||
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| 学名 | ||||||||||||||||||||||||
| Anotogaster sieboldii Sélys, 1854 | ||||||||||||||||||||||||
| 英名 | ||||||||||||||||||||||||
| Golden-ringed dragonfly |
オニヤンマ(鬼蜻蜓、馬大頭、学名:Anotogaster sieboldii Sélys, 1854)は、トンボ目オニヤンマ科に分類されるトンボの一種。日本最大のトンボとして知られる。
特徴
[編集]成虫の腹長はオス70 mm・メス80 mm、後翅長はオス55 mm・メス65 mmほど。頭部から腹の先端までは9 - 11 cmほどに達する。メスはオスより大きく、尾部に産卵弁が突き出る。
左右の複眼は頭部中央でわずかに接する。生体の複眼は鮮やかな緑色だが、標本にすると黒褐色に変色してしまう。体色は黒だが、胸の前に「ハ」の字模様、胸の側面に2本の斜め帯、腹の節ごとに1本の細い横しまと、体の各所に黄色の模様が入る。
- 体をぶら下げて止まるメス(福島県)
- 木陰で休むオス(正面)
- 左と同個体(横から)
コオニヤンマとの相違点
[編集]コオニヤンマ(Sieboldius albardae Sélys,1886)は、名前に「オニヤンマ」とあるが、オニヤンマ科ではなくサナエトンボ科に分類される。成虫の複眼が頭部の左右に離れて接しないことや、止まるときには身体を水平姿勢に保つこと、幼虫は体が上から押しつぶされたように平たくて円盤状をしており渓流の石につかまって生活することは、サナエトンボ科の特徴である。また頭部の小ささや後足の長さなど、一目見てもオニヤンマとは似ていない。
- 左:コオニヤンマ 右:オニヤンマ
コオニヤンマは頭部が小さく、複眼がやや小さく左右が離れており、オニヤンマは複眼が大きく、頭部中央で左右が接する。
分布と地域変異
[編集]以前は北海道から沖縄県八重山諸島まで日本全土に分布するとされていたが、2012年に八重山諸島の個体群がヒロオビオニヤンマとされ[1]、2025年には奄美、沖縄の個体群も別種アマミオニヤンマとして分離された。従って分布は北海道から屋久島までとなる。
本土では市街地から少し外れた小規模な河川でみられるなど、かなり広範囲に生息している。
地域個体群によって体の大きさに差異があり、北海道、御蔵島、屋久島、鹿児島県黒島産などは体長8 cmほどと他地域より小型になることが知られる。
生態
[編集]成虫がよく見られるのは、水のきれいな小川の周辺や森林のはずれなど日陰の多い涼しい場所だが、活動域は広く平地の湿地から山間部の渓流まで見られる。これらに隣接する都市部にも出現し、人々を驚かせることもある。ヤンマ科のような他の大型トンボ類が好むような広い池や湖などを生息場所としないため、これらの広大な水域の開発や水質汚染などによって減少傾向が強いヤンマ科などのトンボ類に比べ、小川や林の中の流水といった環境が残されている地域でよく見られる。一方、南西諸島では上記のように生息域が山地の源流部とかなり局限される。
成虫は6月から9月頃に発生し、未熟時期には山頂付近や丘陵地の林道などでよく目撃され、また、都市部では車道や歩道に沿って飛行する姿を見かける。成熟すると流水域に移動し、メスを求めて往復飛翔する。
大柄にもかかわらず飛行中の体温は他のヤンマ類と同じか若干低めで40℃前後、パトロール速度は平均して毎秒2mで、気温の低い朝晩は速く、日中の気温が高いと遅くなる。また、パトロール時の水面からの飛行高度はおおむね20cm以下で、気温が低くなる時期には飛行高度が低くなる。
草木に止まって休むときは、トンボ科やサナエトンボ科のように腹を水平方向に持ち上げて止まることはなく、ヤンマ科と同様に脚の爪を草木に引っかけて大きな体をぶらさげる体勢をとる。
トンボ類は家庭で使用する扇風機などの回転体にしばしば反応して接近するものがあるが、ひもの先に小石などをくくりつけたものをぐるぐる回して採集する方法が知られており、トンボの前で指をぐるぐる回すと捕獲できるのと同じ理屈である。

トンボ一般と同じく食性は肉食性で、ガ、ハエ、アブ、ハチ、ほかのトンボ類などを空中で捕食する。樹の枝に止まり、ニイニイゼミやスズメバチを捕食した事例もある。これを利用して体に付けて虫よけにするオニヤンマの模型の商品が販売されている[2][3]。オニヤンマの黒と黄に似たトラロープでも虫よけになる。大顎の力も強く、噛みつかれると出血することもある。主な天敵としては、鳥類やコウモリなどが挙げられる。
生活史
[編集]オニヤンマのオスは流れの一定区域をパトロールし、侵入する同種個体に接触を図る。オスに出会うと激しく追いかけて排除し、メスに出会うと捕まえて交尾をおこなう。
交尾の終わったメスはオスから離れ、単独で水のきれいな小川や湧き水の流れ込む水たまりなどに向かう。産卵が行われ幼虫が育つ水域は、巨大な体に似合わず、大規模な河川や湖沼ではなく、小規模で緩やかに水が流れあるいは入れ替わる小水域である。メスは適度な産卵場所を見つけると、体を立てて飛びながら、ストンと体を落下させるようにして水際ぎりぎりの浅い水底の柔らかい泥や砂の中に産卵弁を腹の先ごと何度も突き立てる動作を行う。泥に産卵弁が突き立った瞬間に、泥の中に産卵する。
卵は1箇月ほどかかって孵化する。孵化した幼虫(ヤゴ)は半透明の白色で、成虫のような翅がなく、腹部も短い。本種のヤゴは、ヤンマ類のものとは異なり、途中にくびれがなく、足も太短く、全身に細かい毛が生えている。幼虫は水底の砂泥に浅く潜り、目だけを出して獲物を待ち伏せる。獲物が上を通りかかると、鋏がついた下唇を伸ばしてすばやく捕獲し、大顎で齧って食べる。最初はミジンコやアカムシ、ボウフラなどを捕食するが、やがてオタマジャクシや小魚、他種のヤゴなどを捕食するようになり、えさが少ないと共食いも行い、強い個体が生き残って成長する。多くのトンボのヤゴと異なり、体内に水を取り込んで肛門から水を排出して泳ぐことはできない。捕獲されると、反り返って下唇を伸ばして噛みつく自衛行動を起こすが、成虫同様に幼虫も噛まれると出血するほど力が強い。
本種が成虫になるまでの期間は5年といわれ(幼虫で越冬)、その間に10回ほど脱皮する。脱皮を繰り返し成長した幼虫は、複眼が斜め上に飛び出し、下唇の鋏部分がマスクのように口を覆う独特の風貌となる。終齢幼虫は体長が5cmほどになり、背に鱗状の翅ができる。
よく晴れた夏の夜、泥をかぶった幼虫は羽化をするために水面上の石や杭などに姿を現す。体が滑り落ちないように爪を立てた後に、背が割れて薄緑色の成虫が現れる。成虫は頭部と胸部を抜き、一度腹端だけで幼虫の殻に引っかかって逆さ吊りになった後に、起き上がって腹部を抜く。翅は、白く縮んだ状態で殻から抜け出すが、体液を送り込むことで伸展する。同時に腹部も伸びる。
朝になる頃には体が固まって黒と黄色の模様ができ、翅も固まって透明になる。抜け殻を残して飛び立った成虫は1,2ヵ月の間に小昆虫を捕食して生殖巣を成熟させ、繁殖行動を行う。
名前
[編集]標準和名は「オニヤンマ」とされ、『日本産昆虫総目録Ⅰ』(1989)[4]、『日本昆虫目録 第2巻旧翅類』(2017)[5]にはこの名前で掲載されている。
成虫の方言名は大きいトンボであることを示すものが多く「おおやまとんぼ」、「おにとんぼ」、「うしとんぼ」、「とのさまとんぼ」、「くまんぼお」などが見られる。これらの名前はギンヤンマなどの大きいトンボとはしばしば共通し、本種だけを指すものは殆どない[6]。「どぉら」(埼玉県)、「はぼた」・「ほのぼおり」(鹿児島県)など由来のよくわからないものも知られる。トンボ類は不完全変態の昆虫のわりに、成虫と幼虫で姿が大きく違うために成虫とは別に名前を持つ。いわゆるヤゴであるが、これも他のトンボのヤゴとはそれほど区別されない。トンボのみならず、ゲンゴロウ類やガムシ類の幼虫のような水生で細長い体形のものともしばしば混同される。「がむし」、「たいこたたき」、「やごめ」が知られる。西日本では特にオニヤンマのヤゴを指して「とおめ」と呼ぶという[6]。
種小名"sieboldii" は、日本の生物研究に功績を残したシーボルトに対する献名である。属名の Anotogasterは「腹に耳が無い」という意味で、an(無)+oto(耳のある)+gaster(腹)の合成だという[7]。
近縁種
[編集]- アマミオニヤンマ Anotogaster amamiensis
- 奄美群島(奄美大島、加計呂麻島、請島)と沖縄島のものは本土産に比べて、オスの複眼が青緑色で、オスメスとも腹部の黄色が腹面で広がるなどの特徴から、2025年に別種とされた。同時に、腹部腹面の黄斑が奄美群島産はオレンジ色を帯びることなど沖縄島産と変異があることから、別亜種とされた。
ミナミヤンマ科
[編集]ミナミヤンマ科 Chlorogomphidaeはオニヤンマ科に分類されていたが、オニヤンマとの形態の差やDNA分析の結果などから、独立したミナミヤンマ科に分けられるようになった。日本には四国以南に3種2亜種が分布する。

オニヤンマとの違いは、複眼が一点で接しているオニヤンマと異なり、前述のコオニヤンマほどではないが、完全に離れている事が挙げられる。
- カラスヤンマ Chlorogomphus brunneus brunneus Oguma,1926
- 体長7.5 cmほど。オスの翅はほぼ透明だが、メスの翅は基部から3分の2くらいまで黒褐色になるものから、翅全体が黒褐色になるものまでみられる。「カラス」の名はこのメスの翅に因んだものである。沖縄本島にのみ分布する。
- アサトカラスヤンマ C. b. keramensis Asahina,1972
- カラスヤンマの亜種で、慶良間諸島(渡嘉敷島)に分布する。絶滅危惧Ⅱ類。
- ミナミヤンマ C. b. costalis Asahina,1949
- カラスヤンマの亜種。体長7.5 - 8.5 cm(一般に本土のものは大きく、南西諸島産は小さい)。オスの翅はほぼ透明で、メスの翅には前縁に黒褐色の縁取りがある。メスの翅の模様には著しい地域変異があり(一般に南へ行くほど黒褐色の縁取りが濃い)、メスを見れば採集地がほぼ分かるといわれるが、同じ生息域での個体変異も著しい。四国南部・九州南部から徳之島にかけて分布する。
- オキナワミナミヤンマ C. okinawensis Ishida,1964
- 体長7.5 cmほど。オスの翅は透明で、メスの翅には前縁にごく薄い縁取りがある。オス・メス共に腹部の黄斑が顕著である。台湾にすむヒロバヤンマ C. brevistigma Oguma,1926 に近縁で、ヒロバヤンマの亜種とする見解もある。沖縄本島北部のごく限られた場所に分布する。絶滅危惧Ⅱ類
- イリオモテミナミヤンマ C. iriomotensis Ishida,1972
- 体長8 cmほど。オスの翅はほぼ透明で、メスの翅には全体を取り囲むように縁取りがある。オス・メス共に腹部の黄斑が顕著である。台湾のタイワンミナミヤンマ C. risi Chen,1950 に近縁である。西表島のみに分布する。
脚注
[編集]- 出典
- 1 2 苅部 et al. 2012, p. 106.
- ↑ 井上 慧果「服に付けるだけで虫よけ効果あり? 釣り人に人気の「おにやんま君」の実力とは」『Jタウンネット』J-CAST、2021年5月17日。2026年6月13日閲覧。
- ↑ “おにやんま君”. サンライン. 2026年6月13日閲覧。
- ↑ 平嶋義宏 監修,九州大学農学部昆虫学教室・日本野生生物研究センター 編 (1989) 『日本産昆虫総目録Ⅰ』. 九州大学農学部昆虫学教室, 福岡. doi:10.11501/13643318(国立国会図書館デジタルコレクション)
- ↑ 中村剛之, 枝重夫, 笹本彰彦 共編(2017)『日本昆虫目録 第2巻旧翅類』 櫂歌書房, 福岡. ISBN 978-4-434-23772-0
- 1 2 阿部光典 著、神奈川昆虫談話会 編 (2013) 『昆虫名方言事典 : 昆虫名方言を求めて』. サイエンティスト社, 東京. ISBN 978-4-86079-071-4
- ↑ 小野展嗣(2009)『動物学ラテン語辞典』. ぎょうせい, 東京. ISBN 978-4-324-08802-9
参考文献
[編集]- 井上清・谷幸三『トンボのすべて』トンボ出版 ISBN 4-88716-112-3
- 朝比奈正二郎監修『野外観察図鑑1 昆虫』旺文社 ISBN 4-01-072421-8
- 伊藤修四郎他監修『学生版 日本昆虫図鑑』北隆館 ISBN 4-8326-0040-0
- 福田晴夫他 『昆虫の図鑑 採集と標本の作り方』南方新社 ISBN 4-86124-057-3
- 苅部治紀、二橋亮、笹本彰彦、川島逸郎「Taxonomic revision of Japanese odonate species, based on nuclear and mitochondrial gene genealogiesand morphological comparison with allied species. Part I」『TOMBO』第54巻、日本トンボ学会、2012年4月30日、75-106頁、NAID 40019355395。