特定の恐怖症

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Specific phobia
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
精神医学, 心理学, 心理療法
ICD-10 F40.2
ICD-9-CM 300.29

特定の恐怖症(とくていのきょうふしょう、英語: specific phobia)は、特定の対象や状況に対して著しい恐怖反応を示す不安障害に分類される精神障害である。正常な恐怖との鑑別は重要であり、子供でも蛇を恐れ、何かに対する恐怖が数回酷くなったという経験もよくあり、たいてい著しい苦痛や機能の障害を示さないため、精神障害であるとはみなされない[1]。診断名の日本語訳が統一性を欠いている。『精神障害の診断と統計マニュアル』第3版のDSM-IIIでは単一恐怖(英:Simple Phobia)、第4版のDSM-IVでは特定の恐怖症(英:Specific Phobia)、第5版のDSM-5では限局性恐怖症(同じくSpecific Phobia)である。世界保健機関のICD-10では特異的(個別的)恐怖症(Specific (isolated) phobias)である。

治療としては、系統的に恐れる対象に暴露する暴露療法(行動療法)が最も効果的で、EMDR認知療法は選択肢ではない[2]。薬物療法では抗不安薬ベンゾジアゼピン抗うつ薬の利益はわずかである[2]。例外的にD-シクロセリン英語版は恐怖の減少を促進している[2]

DSM-IVの特定の恐怖症の類型では以下が挙げられている。

  • 動物型:あるいは虫
  • 自然環境型:高所、嵐、水
  • 血液・注射・外傷型
  • 状況型:飛行機、エレベーター、閉所、トンネル
  • その他、窒息、嘔吐

またICD-10は以下を挙げている。 動物、雷、闇、閉所、飛行、高さなどを挙げ、高所恐怖症、動物恐怖症、閉所恐怖症、単一恐怖を含み、醜形恐怖症、疾病恐怖症を含まない。

環境から導かれる場合がある(例えば、肉親に単一恐怖を持つものがいて、その人に影響されて)。

定義[編集]

精神医学的障害の一種である。

診断[編集]

DSM-IVの診断基準Bは、恐怖の対象に暴露されるとただちに不安反応を起こしパニック発作の形をとることもあることを示している。

診断基準Eが、回避、不安、苦痛のために、著しい苦痛や生活機能上の障害を感じていることを要求している。

鑑別診断[編集]

正常な恐怖は、大きな問題を引き起こさない[1]過剰診断英語版に注意が必要であり、恐れを抱く回路は生まれつき備わっているため、チンパンジーや子供でも蛇を恐れる[1]。何かに対する恐怖が数回酷くなったという経験もよくあり、たいてい著しい苦痛や機能の障害を示さないため精神障害であるとはみなされない[1]

社交不安障害では、社交状況に対する恐怖である[1]心的外傷後ストレス障害では、恐ろしかった以前の経験に似た状況を恐れる[1]強迫性障害では、強迫的な儀式のきっかけとなる状況を恐れる[1]

治療[編集]

心理療法では、系統的に恐れる対象に暴露する暴露療法(行動療法)が最も効果的であることを示している[2]。治療者と患者が協働して、系統的な暴露を展開していくことが望まれる[3]。それにより、恐れていた対象は実際には危険ではなく恐れるに値しないものであるということや、慣れれば大丈夫であるということを、患者が学び体感する支援を行うことができる[4]。それをバーチャルリアリティにおいて行う、コンピュータ支援暴露療法については証拠は不十分である[2]EMDR(眼球運動による脱感作および再処理法)も証拠が限られており、暴露の代替手段とはみなせない[2]認知療法についても、特定の恐怖症のための選択肢ではない[2]。また、暴露の前に学習理論をふまえた心理教育が行われたり、暴露の際に恐怖を感じていない第三者を観察しその第三者のまねをして一緒に暴露を受けるというモデリングの技法が用いられたりすることで、さらに治療効果が高まる[4]

上記の暴露療法を行う際に、患者に暴露の重要性を理解してもらうことが重要であるとされる[5]。そこでは、

  • 不安に対して回避と暴露という二つの方略があるということ。
  • 不安に対して回避行動をとった場合、短期的には不安が減少するが、不安な状況や物に慣れ、それらが実際には危険ではないということを知る機会を失うため、また同じ状況や物に直面した時にも同じくらいの不安を感じることになるということ。
  • 不安に対して暴露(不安な状況に身を置いたり恐怖を感じる物に接したりして、回避行動をしないこと)を選んだ場合、時間経過とともに不安感は自然に低下する。これは、身体の調整機構が働きだし、副交感神経系が作動して、生理的な覚醒が落ち着くためであり、慣れが生じるためである。同時に、暴露をすることで、恐れていた状況や物が実際には危険ではなかったということを改めて知ることもできる。そのため、次に同じ状況や物に直面した時には、以前より不安感が少なく、より速やかに不安感が減少していくということ。

などを説明し、暴露療法へ取り組む意欲を高めることをサポートする[6]

薬物療法では、抗不安薬が処方されることがあるが、研究はこのような使用を支持しない[2]。ベンゾジアゼピンの使用は行動療法に比較して、追跡調査の再発率が高く、再発は薬を中止した際に一般的である[2]。抗うつ薬ではパロキセチンエスシタロプラムの研究があるが、追跡調査が行われていない[2]。このように、薬物療法の利益はわずかである[2]。その例外は、D-シクロセリン英語版であり、NMDAグルタミン酸受容体への部分作動薬として働き、恐怖の減少を促進している[2]

1回だけの暴露セッションによる認知行動療法の一種は、子供や青年の特定の恐怖症に有効である[7]

また、介入を構成する認知的かつ補助的な要素として、恐怖対象や恐怖状況の再評価や再ラべリングなどを活用する場合もあり、暴露を導入する手助けとなるとされている[3]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g アレン・フランセス 2014, pp. 89-91.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l Hood & Antony 2012.
  3. ^ a b カーウェン, B., パーマー, S., ルデル, P. 下山晴彦(監訳) (2004).認知行動療法入門――短期療法の観点から―― 金剛出版,205頁.
  4. ^ a b 遠藤 季哉 (2014).広場恐怖と特定の恐怖症 近藤 直司(編) 斎藤万比古・市川 宏伸・本城 秀次(監修) 不安障害の子どもたち (pp. 62-63) 合同出版
  5. ^ ホフマン,S.G. 伊藤 正哉・堀越 勝(訳)(2012).現代の認知行動療法――CBTモデルの臨床実践―― 診断と治療社,51頁.
  6. ^ ホフマン,S.G. 伊藤 正哉・堀越 勝(訳)(2012).現代の認知行動療法――CBTモデルの臨床実践―― 診断と治療社,51-54頁.
  7. ^ “Intensive Treatment of Specific Phobias in Children and Adolescents”. Cogn Behav Pract (3): 294–303. (2009年). doi:10.1016/j.cbpra.2008.12.008. PMC 2747757. PMID 20161063. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2747757/. 

参考文献[編集]