閉所恐怖症

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閉所恐怖症(へいしょきょうふしょう、英語名:claustrophobia)は、恐怖症の一種。閉ざされた狭い空間・場所にいることに極度の恐怖を感じる症状のことである。

狭い空間・場所に対して過敏な反応を見せる恐怖症は他にも存在する。これらの症状は混同されがちだが、閉所恐怖症の場合「閉塞感」によって引き起こされることが多い。

症例[編集]

  • 病院に精密検査を受けるために訪れた者が、全身を覆うMRIに恐怖を感じ、MRI検査を拒否した。プロスポーツ選手でもこの症状を訴える者は存在し、詳細な診断・治療の妨げとなることもある[1]。現在では、閉所恐怖症を抱える人々に向けて、できるだけ圧迫感を与えないオープン型のMRIも開発されている。

治療[編集]

閉所恐怖症も恐怖症の一種であることから、曝露反応妨害法に行動実験・認知再構成法・モデリング等を組み合わせて実施される認知行動療法と、認知行動療法・薬物療法の併用治療が有効であると思われる[2]

認知行動療法[編集]

認知行動療法には次のような技法があり、曝露反応妨害法に行動実験・認知再構成法・モデリングなどを組み合わせて実施されることが多い。

  • 曝露反応妨害法:閉所恐怖症に対する曝露反応妨害法では、治療者や支援者のサポートのもと、患者が不安や恐怖を感じる狭い空間や場所に身を置き(曝露)、はじめは不安や恐怖を感じながらもその物や状況からの回避行動をとらないようにすることにより(反応妨害)、「狭い空間や閉ざされた場所からの回避行動をしなくても、実際には不安に思っていたことや恐怖を感じていたことが起こらない・起きていないということ(不安・恐怖と現実・事実との間のずれへの気づき)」・「回避行動をしなくても、時間の経過とともに不安や恐怖が和らいでいくということ(セッション内馴化:Within-Session Habituation)」・「曝露と反応妨害のセットを繰り返し行うごとに不安感や恐怖感が弱まっていくということ(セッション間馴化:Between-Session Habituation)」を身をもって学び、不安感・恐怖感と回避行動の低減が実現を図っていく[3][4]。また、曝露反応妨害法ではほとんどの場合、患者が実行しやすいように、弱い不安感をいだく空間・場所から強い不安感をいだく空間・場所までを段階的に並べた階層表(不安階層表)を作成し、比較的弱い不安を感じる物や状況から比較的強い不安を感じる物や状況へと段階的に曝露を行っていく[4]
  • 行動実験:不安感や恐怖感の妥当性を実験的手法により検証する行動実験(認知行動療法の一種)が、曝露反応妨害法とセットで用いられることがある。閉所恐怖症に対する行動実験では、狭い空間や閉ざされた場所に対する不安や恐怖が現実になる・事実であるという仮説や、不安を感じる空間や場所等を回避しなければ恐れていることが起こる・恐れている事態になるという仮説(これらの仮説は不安感や恐怖感、回避行動に妥当性があると仮定したものであり、のちに否定・棄却されることになる)をたて(1-仮説の構築)、治療者や支援者のサポートのもと、患者が実際に先ほどの仮説を検証してみることで(2-仮説の実際的検証)、不安や恐怖が現実にはならなかった・事実ではなかったということを知ったり、不安を感じる空間や場所を回避せずに生活しても実際には恐れていることが起こらなかった・恐れている事態にならなかったという結果を得たりすることにより(3-検証結果の把握)、先ほどの仮説を棄却し(4-結果に基づく仮説の棄却)、不安感や恐怖感、回避行動の妥当性を否定し、患者が新たな合理的な認知や行動を獲得していくこと(5-不安感や恐怖感、回避行動の否定と合理的な認知・行動の獲得)をサポートする。
  • 認知再構成法:患者がいだく狭い空間や閉ざされた場所への不安・恐怖の内容に温かく耳を傾けたうえで、不安感・恐怖感そのものと不安や恐怖を持つにいたった根拠を、事実・現実(もしくは事実・現実に根ざした情報)に基づいた説明・反証により否定し、恐れている空間・場所などの危険性に関する誤った認知の修正を行い、「恐れていた空間・場所は、実際には危険もしくは害のあるものではない」という適切な認知へと導く技法を、認知再構成法(認知療法の一種)と呼ぶ。この技法も曝露反応妨害法とセットで用いられることがある[5]
  • モデリング (心理学):「自分も他者と同じく人間であり、他者と同じような空間・場所で同じような行動・振る舞いをして自分だけが被害をこうむることは考えられない」という事実に根ざした認識に基づいて、不安感・恐怖感が発生する狭い空間や閉ざされた場所における他者の考え方を学ぶことや、そのような空間や場所における他者の行動・振る舞い方を観察・習得することなどをサポートし、適切な考え方や行動の獲得を支援する技法である。この技法も曝露反応妨害法と併用される場合がある[6]

脚注[編集]

  1. ^ http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140715-00000100-sph-base 【中日】ルナ、右ひじ痛で抹消へ MRI恐怖症で検査を拒否、スポーツ報知 2014年7月15日
  2. ^ ライト,J.H.,テーゼ,M.,&バスコ,M.R. 大野 宏(訳) (2007).認知行動療法トレーニングブック 医学書院
  3. ^ 田中 恒彦・岡嶋 美代・小松 孝徳 (2015).不安障害治療における行動療法でオノマトペがなぜ有用か?――内部感覚エクスポージャーにオノマトペを用いた実践報告―― 人工知能学会論文誌,30,282-290.
  4. ^ a b 坂野 雄二・丹野 義彦・杉浦 義典(編) (2006).不安障害の臨床心理学 東京大学出版会
  5. ^ ステファン・G・ホフマン 伊藤 正哉・堀越 勝(訳) (2012).現代の認知行動療法――CBTモデルの臨床実践―― 診断と治療社, ISBN 9784787819758
  6. ^ 坂野 雄二・丹野 義彦・杉浦 義典(編) (2006).不安障害の臨床心理学 東京大学出版会

関連項目[編集]