神経衰弱 (精神疾患)

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Neurasthenia
分類および外部参照情報
ICD-10 F48.0
ICD-9-CM 300.5
MeSH D009440

神経衰弱(しんけいすいじゃく、英:Neurasthenia, shinkei-suijaku)は、疲労感、不安抑うつ頭痛勃起不全、神経痛の症状を特徴とする状態の診断名である[1]。アメリカの神経学者のジョージ・ビアード英語版が、1869年にはじめて認識し、この Neurasthenia を造語した[1]。生活のストレスによる中枢神経系のエネルギーの枯渇の結果であると説明した[1]。主に過労が原因だとされる[2]。20世紀初頭にこの概念は世界的に受け入れられ、西洋では1930年代以降そうでもなくなった[1]。2013年時点ではこの診断名が使われることは滅多にない[2]DSM-IVでは、鑑別不能型身体表現性障害 (Undifferentiated Somatoform Disorder)である[2]

症状として精神的努力の後に極度の疲労が持続する、あるいは身体的な衰弱や消耗についての持続的な症状が出ることであり、具体的症状としては、めまい、筋緊張性頭痛、くつろげない感じ、いらいら感、消化不良などが出る。当時のアメリカでは都市化や工業化が進んだ結果、労働者の間でこの状態が多発していたことから病名が生まれた。戦前の経済成長期の日本で米社会と同じような状況が発生したことから、近代化社会がもたらす文明の病・過労の病として病名が輸入され日本でも有名になった。

知的労働を伴うデスクワークを行う、上流階級の人々に発生しやすいとされた[1]。日本でもエリートの病気とされた[3]

1895年に、ジークムント・フロイト(1856年 - 1939年)が、神経衰弱から不安が主な症状である神経症の一種を独立させて、不安神経症と命名した[4]。20世紀初頭にこの概念は世界的に受け入れられたが、西洋では1930年代以降そうでもなくなった[1]。2013年時点ではこの診断名が使われることは滅多にない[2]

アメリカ医療人類学会・博士論文学会賞を受賞した、日本のうつ病の歴史についての論文をもつ北中淳子によれば、神経衰弱が初の日常レベルの苦痛を治療対象とした[3]。19世紀の終わりから ドイツの神経精神医学から神経が磨り減る病気として浸透し始めた[3]。診断は第二次世界大戦の終わりごろには廃れ始めた[3]

1992年の世界保健機関の『ICD-10 第5章:精神と行動の障害』の診断コードF48に残っている[1]。1996年のアメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計マニュアル』第4版 (DSM-IV) では、鑑別不能型身体表現性障害に分類される[2]DSM-IV の付録Iにも「Shenjing shuairuo(Neurasthenia) 神経衰弱」にも記載されている[1]。2013年のDSM-5の付録の用語集にも shenjing shuairuo が記載されており、日本では shinkei-suijaku とされることが記載されている。

DSM-IVの鑑別不能型身体表現性障害は、身体症状を呈している身体表現性障害という大分類の中に分類されており、6か月以上持続しており、身体疾患や薬物、他の精神障害が原因でなく、著しい苦痛があり、身体的愁訴を訴えている状態である[5]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h Flaskerud 2009.
  2. ^ a b c d e G・R・ファンデンボス監修 『APA心理学大辞典』 繁桝算男・四本裕子監訳訳、培風館、2013年、第二版。ISBN 978-4-563-05234-8 APA Dictionary of Psychology, 2013
  3. ^ a b c d イーサン・ウォッターズ、阿部宏美(翻訳) 『クレイジー・ライク・アメリカ:心の病はいかに輸出されたか』 紀伊國屋書店、2013年、238-248頁。ISBN 978-4314011037
  4. ^ (編集)小此木啓吾、大野 裕、 深津千賀子 『心の臨床家のための必携精神医学ハンドブック』 創元社、1998年、162頁。ISBN 978-4422112053
  5. ^ DSM-IV日本語訳版 1996, §鑑別不能型身体表現性障害.

参考文献[編集]

関連項目[編集]