自律神経失調症

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自律神経失調症
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
精神医学, 心身医学
ICD-10 G90
ICD-9-CM 337.9
MeSH D001342
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自律神経失調症(じりつしんけいしっちょうしょう)とは、症候症状名であり、精神科の病気である神経症(ノイローゼ)の表現形である身体症状症(somatic symptom disorder; 身体化障害; ヒステリー )の中の内臓自律神経症状のこと[1]。心因性自律神経障害(psychogenic autonomic dysfunction)とも呼ばれる。

脳神経内科脳神経外科整形外科・代謝科等の病気による真の自律神経不全(autonomic failure, 起立性低血圧尿閉イレウス睡眠時無呼吸など)と異なり、機能検査は正常から軽度異常にとどまり、知覚過敏がしばしば認められる。

概念[編集]

(こころ、情動)の病気である神経症では、不安(悩みごと / そわそわ / 心配 / 落ち着かない / 居ても立っても居られないなど)・焦躁(いらいら / カッとなる / きれる)・恐怖(人前であがる / おどおどする・自信がない / 対人恐怖 / ひきこもり・閉所 / 高所 / 先端恐怖等)・うつ気分(しょげる / へこむ / 気が晴れない・沈む / 心が辛い / 無口 / 表情が暗い / 元気がない)・強迫(潔癖 / 手洗い・自傷等)などの不適応行動・不眠などの睡眠異常と共に、様々な身体症状を呈することが少なくない。神経症に伴う身体症状を、身体症状症 somatic symptom disorder; SSD(心身症 psychosomatic disorder、ヒステリーとも称される)といい、以下のような多彩な症状がみられる。

睡眠:不眠(熟睡できない / 疲れが取れないなど、精神科疾患で特徴的にみられる)[2]

意識:昏睡 / 意識障害(ぼーっとする / 上の空 / 視点が定まらない / 頭がいっぱいになるなど) / 記憶障害 / 人前で頭が真っ白になる / 仕事が手につかないなど)[3]

運動:麻痺(片麻痺 / 対麻痺 / 人の前で動作がきこちなくなる / 身が縮む / 体がすくむ / がんじがらめになる / 腰が抜けるなど) / 構音障害(上手く話せずしどろもどろになる / 声が上ずる / 何もしゃべれなくなる・失声[4]など)・表情変化(顔がこわばる / 頬がひきつるなど)・痙攣 / 不随意運動(膝がふるえる / 唇がふるえるなど)

感覚:感覚低下、過敏、かゆみ / 顔面の違和感 / 全身の痛み](身が引き裂]かれる) / 頚肩腕症候群[5](肩の荷が下りない/首肩がこる) / 疲労[6](ばてる / へとへと / だるい / 何もする気が起きないなど) / 緊張性頭痛(頭が重い / 頭がいたい / 頭を締め付けられるなど) / 顎関節痛[7] / 喉の締め付け・息が詰まる・息苦しいなど(ヒステリー球)[8] / 舌痛[9] / 胸部痛(胸が痛む / 胸が張り裂ける / 胸を締め付けられる)など

特殊感覚:視力低下[10](目がかすむ / 求心性視野狭窄)・過敏、複視(輻輳調節痙攣)[11]、聴力低下[12]・過敏[13](些細な物音にいらいらするなど) / 耳鳴[14] / 良性発作性頭位めまい[15]、嗅覚味覚低下[16]・過敏

内臓自律神経: 後述。これらの中で、神経症に由来する内臓自律神経症状を、心因性自律神経障害 / 自律神経失調症(東邦大学、阿部達夫・筒井末春1967年)という場合がある。


内臓自律神経機能の異常の原因として、脳神経内科 / 脳神経外科疾患によるもの(真の自律神経不全 neurogenic autonomic dysfunction/failure)(臥位から立位をとることにより血圧が50-100 mmHg下降して失神したり、尿閉やイレウスで緊急受診する場合もある)と、精神科疾患によるもの(自律神経失調症 / 身体症状症としての自律神経症状 psychogenic autonomic dysfunction)(脳神経内科疾患と異なり、一般に程度は軽度から正常のことが多く、感覚過敏・痛みをしばしば伴う)との2型があり、両者を「機能性」と称する。すなわち、自律神経失調症の診断のためには、自律神経不全を充分に鑑別しておく必要がある。

  • 解説
    • 整形外科 / 脳神経外科の病気の1つに脊髄損傷がある。頚部で脊髄損傷をきたすと、病気の部位から下に麻痺、感覚低下 / しびれ痛みと同時に、真の自律神経不全、すなわち尿閉(排尿が出来ない状態)、便秘(しばしば高度)、起立性低血圧(臥位から立位をとることにより血圧が下降する状態)を来す。精神科の病気(身体症状症)がこれらの意識・運動・感覚・自律神経 / 内臓症状を真似る(mimic)場合があり、その診断には、整形外科 / 脳神経外科 / 脳神経内科の病気を鑑別することが必要となる。

心因性内臓自律神経症状[編集]

動悸(どきどき、心臓が激しく速く鼓動する) / 血圧が激しく上下する、立ち眩み(顔が蒼ざめて意識が遠のくなど) / 朝起きられない(神経調節失神)、口が乾く(ドライマウス[17]) / つば(固唾)を飲む / 空気嚥下症[18] / 吐き気 / 胃痛(大事な用があると胃が痛くなる)/腹痛(大事な用があるとおなかが緩くなる) / 胃もたれ / 下痢 / 便秘(過敏性腸症候群)、頻尿(大事な用の前に尿意を催す) / 排尿困難(トイレで後ろに立たれると排尿できない)、発汗(手が汗ばむ) / 目が乾く(ドライアイ[19]) / 赤面[20]・ほてり・のぼせ / 冷感(背筋が凍る)などの自律神経症状を呈する(出現の仕方が、自律神経不全のそれと異なる)。

特徴として

  1. 機会依存性(人と会った時のみ症状が出るなど)がしばしばみられる。
  2. 通勤通学の困難・引きこもりといった情動精神症状、手足・肩・頭の痛みやしびれといった疼痛・感覚症状、耳鳴り / めまいがする(良性発作性頭位めまい)・目が見えにくいといった特殊感覚症状、食事に関する症状(やせ / 拒食(心因性食思不振症)、肥満 / 過食[21]、稀に多飲(水中毒)[22])、不眠症[23]などの睡眠障害、頭が締め付けられぼーっとするといった意識の症状、イライラ、過換気症候群などの内臓症状以外の症状がしばしば同時にみられる。

病態[編集]

上述の如く、精神疾患に伴う内臓自律神経症状に対して、機能検査を行うと、程度は軽度から正常のことが多く、感覚過敏・痛みをしばしば伴う。情動(うつ病・神経症)の脳内機序として、脳内セロトニンGABAの低下、脳内CRFの上昇が知られ、脳内ノルエピネフリンについて上昇と低下の両者が報告され一定していない。うつ病・神経症での末梢自律神経の指標である末梢血ノルエピネフリン(交感神経)[24]、アセチルコリンエステラーゼ(副交感神経)については、共に上昇が報告されており[25]、交感神経と副交感神経のバランスがくずれる / 乱れがある / 異常がある、とは言えないように思われる。

  • 解説
    • 更年期障害:遺伝性卵巣癌高リスク女性(BRCA突然変異キャリア(35-40歳))に対して行われる、予防的卵巣摘出術(手術的閉経 / 卵巣ホルモン低下)の研究では、同手術後に①顔のほてり・発汗過多(hot flush、血管運動系内臓症状)がみられた[26]が、②うつ焦燥(ストレス症状)は増加しなかった[27]。このことから、自然閉経期(45-56歳)女性に良くみられる症状(更年期障害)の中で①は卵巣ホルモン低下によるもの、②はそれ以外によるものも考えられる。

治療[編集]

症状の改善のためには、元の病気の治療が必要といえる。各身体臓器科の病気が十分にチェックされ、脳神経内科 / 脳神経外科 / 整形外科の病気が十分にチェックされた場合、心(こころ)の病気である神経症の可能性が高い。精神科の病気である「神経症」が[28]病名=治療のターゲットといえる。神経症は、精神科の病気の中で最も有病率が高くしばしばみられる(不眠・いらいらなどで精神科を受診することが多い)。統合失調症、双極性障害(躁鬱病)、薬物依存と異なる。由来する内臓自律神経症状に対して、精神科(心療内科)医師と、消化器科 / 循環器科 / 泌尿器科等の身体科医師が協力して、神経症(ノイローゼ・ストレス)の診療を同時に行うことが、治療の近道と考えられる[29]。治療には精神科医師による精神療法・行動療法や、抗不安薬等を用いた薬物療法などが行われている。また、心(こころ)・ストレスをコントロールするための自律訓練法autogenic training、自己訓練法。自律神経系の自律と異なる)や心(こころ)をリラックスさせる筋弛緩法も有効である。

補助的な治療として、ライフスタイルのサポートも行われる。太陽とともに起床することで体内時計を調整したり、夜ぬるめのお風呂にゆっくりと入ることで心(こころ)をリラックスさせたり、眠りやすい環境を整えることで入眠を楽にしたりすることで、心のストレスがコントロールされ、症状が回復していく場合がある。

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ 東野英明、「自律神経異常に起因する疾病とその対策」『日本良導絡自律神経学会雑誌』 2006年 51巻 3号 p.94-104, doi:10.17119/ryodoraku1986.51.94
  2. ^ 内山真「「睡眠障害をめぐって」不眠症と過眠症」『日大医学雑誌』第69巻第1号、日本大学医学会、2010年、 11-16頁、 doi:10.4264/numa.69.11ISSN 0029-0424NAID 130004548803
  3. ^ 樋上巧洋, 兼子唯, 巣山晴菜, 伊藤理紗, 佐藤秀樹, 松元智美, 並木伸賢, 矢島涼, 鈴木伸一「特性不安とストレス負荷が記憶成績に及ぼす影響」『早稲田大学臨床心理学研究』第15巻第1号、早稲田大学人間科学学術院心理相談室、2015年12月、 27-34頁、 NAID 120005744166
  4. ^ 矢野純, 牛嶋達次郎「心因性失声症の治療について」『日本耳鼻咽喉科学会会報』第90巻第6号、日本耳鼻咽喉科学会、1987年、 852-859頁、 doi:10.3950/jibiinkoka.90.852ISSN 0030-6622NAID 130000808542
  5. ^ 小林雅文「抗不安薬服用によって頸肩腕症状を消退させた1例」『日歯心身』第9巻、1994年、 84-91頁、 NAID 10010924625
  6. ^ 榎戸芙佐子, 窪田孝, 中川東夫, 渡邉健一郎, 亀廣摩弥, 大原聖子, 地引逸亀, 野田実希「神経衰弱,慢性疲労症候群(CFS),うつ病の三者間における概念と診断 : 3症例の検討を通して」『心身医学』第46巻第10号、日本心身医学会、2006年、 897-905頁、 doi:10.15064/jjpm.46.10_897ISSN 0385-0307NAID 110004839540
  7. ^ 和気裕之, 小見山道「顎関節症診療における歯科医師と精神科医の連携」『日本顎関節学会雑誌』第26巻第3号、日本顎関節学会、2014年、 183-190頁、 doi:10.11246/gakukansetsu.26.183ISSN 0915-3004NAID 130004843348
  8. ^ 大越俊夫「咽喉頭異常感への対応」『耳鼻咽喉科臨床』第99巻第11号、耳鼻咽喉科臨床学会、2006年11月、 891-896頁、 doi:10.5631/jibirin.99.891ISSN 00326313NAID 10018304508
  9. ^ 海野智「I-2.舌痛症の精神療法 : その治療プロセスの検討(一般演題,第108回日本心身医学会関東地方会演題抄録)」『心身医学』第48巻第5号、日本心身医学会、2008年、 378頁、 doi:10.15064/jjpm.48.5_378_1ISSN 0385-0307NAID 110006654622
  10. ^ 気賀沢一輝「心因性視覚障害」『心身医学』第56巻第5号、日本心身医学会、2016年、 467-472頁、 doi:10.15064/jjpm.56.5_467ISSN 0385-0307NAID 130005149616
  11. ^ 野口清子, 生田由美, 久保田伸枝「内斜視を主訴とした調節痙攣の治験例」『日本視能訓練士協会誌』第29巻、日本視能訓練士協会、2001年11月、 243-247頁、 doi:10.4263/jorthoptic.29.243ISSN 03875172NAID 10027691079
  12. ^ 甲斐智朗「成人心因性難聴の2例」『耳鼻咽喉科臨床』第95巻第7号、耳鼻咽喉科臨床学会、2002年7月、 679-684頁、 doi:10.5631/jibirin.95.679ISSN 00326313NAID 10009157923
  13. ^ 神崎晶, 小川郁, 熊崎博一, 片岡ちなつ, 田副真美, 鈴木法臣, 松崎佐栄子, 粕谷健人, 藤岡正人, 大石直樹「聴覚過敏を主訴とした複数の感覚過敏を有する症例の検討:―"Sensory Modulation Disorder"という疾患概念と耳鼻咽喉科医が留意すべき点について―」『日本耳鼻咽喉科学会会報』第123巻第3号、日本耳鼻咽喉科学会、2019年、 236-242頁、 doi:10.3950/jibiinkoka.123.236ISSN 0030-6622NAID 130007829466
  14. ^ 高橋真理子「耳鳴に対する認知行動療法」『AUDIOLOGY JAPAN』第62巻第5号、日本聴覚医学会、2019年、 356-357頁、 doi:10.4295/audiology.62.356ISSN 0303-8106NAID 130007751763
  15. ^ 三輪徹, 蓑田涼生「熊本県耳鼻咽喉科における地震後めまい調査についての報告」『Equilibrium Research』第78巻第2号、日本めまい平衡医学会、2019年、 93-101頁、 doi:10.3757/jser.78.93ISSN 0385-5716NAID 130007659572
  16. ^ 根本純江, 冨田寛「心因性味覚障害患者における心理的治療法の効果の検討」『口腔・咽頭科』第27巻第2号、日本口腔・咽頭科学会、2014年、 165-172頁、 doi:10.14821/stomatopharyngology.27.165ISSN 0917-5105NAID 130005438105
  17. ^ 豊福明「歯科心身症への新しいアプローチ」『口腔病学会雑誌』第74巻第3号、口腔病学会、2007年10月、 161-168頁、 doi:10.5357/koubyou.74.161ISSN 03009149NAID 10019774552
  18. ^ 木村浩子「空気嚥下症(いわゆる噛みしめ呑気症候群)と頭頸部不定愁訴に関する臨床統計的検討」『日本歯科心身医学会雑誌』第22巻第2号、日本歯科心身医学会、2007年、 73-83頁、 doi:10.11268/jjpsd1986.22.73ISSN 0913-6681NAID 130004308076
  19. ^ 戸田郁子「ドライアイと眼不定愁訴」『あたらしい眼科』第9巻、1992年、 1115-1120頁、 NAID 50003671211(Paid subscription required要購読契約) 医中誌Web
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  23. ^ 中尾睦宏 内科医が知っておきたいメンタルヘルスプロブレムへの対応 不眠 雑誌 medicina 誌面サンプル 44巻2号(2007年2月号)
  24. ^ Goekoop, Jaap G. de Winter, Remco F.P. Wolterbeek, Ron Van Kempen, Godfried M.J. Wiegant, Victor M., "Increased plasma norepinephrine concentration in psychotic depression". Therapeutic Advances in Psychopharmacology February 9, 2012, 2(2), p.51-63.
  25. ^ Ullas Kamath S, Chaturvedi A, Bhaskar Yerrapragada D, Kundapura N, Amin N, Devaramane V. Increased Levels of Acetylcholinesterase, Paraoxonase 1, and Copper in Patients with Moderate Depression- a Preliminary Study. Rep Biochem Mol Biol. 2019;7(2):174-180, PMID 30805397.
  26. ^ Finch A, Metcalfe KA, Chiang JK, Elit L, McLaughlin J, Springate C, Demsky R, Murphy J, Rosen B, Narod SA. The impact of prophylactic salpingo-oophorectomy on menopausal symptoms and sexual function in women who carry a BRCA mutation. Gynecol Oncol. 2011 Apr;121(1):163-8. doi: 10.1016/j.ygyno.2010.12.326. Epub 2011 Jan 8. PMID 21216453.
  27. ^ Kotsopoulos J, Gronwald J, Lubinski J, McCuaig J, Lynch HT, Neuhausen SL, Foulkes WD, Weitzel JN, Senter L, Tung N, Eng C, Karlan B, Sun P, Narod SA; Hereditary Breast Cancer Clinical Study Group. Does preventive oophorectomy increase the risk of depression in BRCA mutation carriers? Menopause. 2020 Feb;27(2):156-161. doi:10.1097/GME.0000000000001437. PMID 31644510.
  28. ^ 溝部宏二, 中込和幸「神経症性障害ストレス関連障害及び身体表現性障害(摂食障害を含む)の疾患の概念と病態の理解 (PDF) 」 『精神神經學雜誌』第109巻第12号、日本精神神経学会、2007年12月、 1157-1164頁、 ISSN 00332658NAID 10024577586
  29. ^ 「日常診療における身体科・精神科連携ガイド」を作成しました。 障害者施策推進部精神保健医療課

関連項目[編集]

外部リンク[編集]