ミョウガ
ミョウガ | |||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
![]() ミョウガ
| |||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||
学名 | |||||||||||||||||||||
Zingiber mioga (Thunb.) Roscoe (1807)[1] | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
ミョウガ | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
Myoga |

ミョウガ(茗荷[2]、蘘荷、学名: Zingiber mioga)はショウガ科ショウガ属の宿根性の多年草[3]。ミョウガの英名にJapanese Gingerがあり食用で栽培されているのは日本だけとされる[3]。
名称[編集]
和名「ミョウガ」の名の由来は、大陸からショウガとともに持ち込まれた際、香りの強い方を「兄香(せのか)」、弱いほうを「妹香(めのか)」と呼んだ。これが後にショウガ・ミョウガに転訛した[注 1]との説が有力である[要出典]。
名前の由来に関しては、下記の俗説もある。
釈迦の弟子の中に、周利槃特という、特に頭の弱い者がいた。彼は自分の名前すら忘れてしまうため、釈迦が「槃特」と書いた旗を作らせ、背中に背負わせてやった。しかし旗を背負ったことさえも忘れてしまい、とうとう死ぬまで名前を覚えることができなかった。周梨槃特の死後、墓から見慣れない草が生えていた。そこで「名」を「荷う」ことから、この草を「茗荷」と名付けたという[4][注 2]。
英語名は、和名そのままに Myoga(ミヨガ)とよばれるほか[2]、Japanese Ginger(ジャパニーズ・ジンジャー:直訳すると「日本のショウガ」の意味)の異名もある[5]。
特徴[編集]
日本を含む東アジア原産といわれ、各地に自生している[5][2]。日本以外では台湾や韓国の一部にもみられる[3]。日本では野菜として栽培も行われており、食用にするのは日本だけである[5][2]。日本では奈良県の東大寺正倉院中倉に保管されてきた『正倉院文書』にも記述が見られるなど、その歴史は古い[2]。
草丈は40~100cmくらいに成長する[6]。葉は20~30cmで先端は尖っている[6]。花穂および若芽の茎が食用とされ、一般的には花穂の「花みょうが」を単にミョウガというが、幼茎を遮光して軟白栽培した「みょうがたけ」もある[3]。雌雄同株で、花器にも雄蕊、雌蕊とも揃っている両性花が開花するが、5倍体のため、受精しても親と同じ数の染色体数になることは稀である。繁殖は地下茎による栄養体繁殖が主体である。ごく稀に夏から秋にかけて温度が高い時に実を結ぶことがある。地上部に見える葉を伴った茎状のものは偽茎である[7]。
栽培[編集]
食用で栽培されているのは日本だけとされる[5][2][3]。江戸時代に早稲田村、中里村(現在の新宿区早稲田鶴巻町、山吹町)現在の新宿区牛込地域は茗荷の生産地で「牛込の茗荷は勝れて大きく美味」と謳われていた。赤みが美しく大振りで晩生(おくて)のみょうがである。
東京小石川、小日向に茗荷谷という地名があるが、これは江戸時代に牛込早稲田から小石川まで広がる茗荷畑を見下ろす谷であったことに由来する。
品種[編集]
蕾の発生時期によって早生の夏みょうがと中生または晩生の秋みょうががある[3]。産地ごとの土着の在来種がほとんどである[3]。
主な生産地[編集]
ミョウガの花穂(花みょうが)は、高知県が最大の産地でビニールハウスによる周年栽培で2016年において収穫量4901トン (t) を産しており、全国シェアの87パーセント (%) を占めている[4]。次いで、秋田県、奈良県などが続き、露地栽培を行っている[4]。
- (花)みょうが
- みょうがたけ
- 宮城県(軟白栽培)
食材としてのミョウガ[編集]
食用とするのは固く締まった蕾の部分(花穂)で、爽快な香りを持っているのが特徴である[5]。日本の夏の食卓には欠かせない食材で、香りと歯触りが好まれて酢漬けにしたり、刻んで薬味や汁の実にして食べられている[5]。食材としての主な旬は、夏に出回る小型の「夏みょうが」が6 - 8月、秋に出回る大きめの「秋みょうが」が8 - 10月とされる[5][2]。花穂がふっくらとしてツヤがあり、先端から花蕾が出ていないものが市場価値の高い良品とされる[5][2]。花がすでに出た花つきミョウガは、料理のあしらい(飾り)として使われる[2]。
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 50 kJ (12 kcal) |
2.6 g | |
食物繊維 | 2.1 g |
0.1 g | |
0.9 g | |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(0%) 3 µg(0%) 27 µg |
チアミン (B1) |
(4%) 0.05 mg |
リボフラビン (B2) |
(4%) 0.05 mg |
ナイアシン (B3) |
(3%) 0.4 mg |
パントテン酸 (B5) |
(4%) 0.20 mg |
ビタミンB6 |
(5%) 0.07 mg |
葉酸 (B9) |
(6%) 25 µg |
ビタミンC |
(2%) 2 mg |
ビタミンE |
(1%) 0.1 mg |
ビタミンK |
(19%) 20 µg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%) 1 mg |
カリウム |
(4%) 210 mg |
カルシウム |
(3%) 25 mg |
マグネシウム |
(8%) 30 mg |
リン |
(2%) 12 mg |
鉄分 |
(4%) 0.5 mg |
亜鉛 |
(4%) 0.4 mg |
銅 |
(3%) 0.05 mg |
セレン |
(1%) 1 µg |
他の成分 | |
水分 | 95.6 g |
水溶性食物繊維 | 0.4 g |
不溶性食物繊維 | 1.7 g |
ビオチン(B7) | 1.1 µg |
ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[9]。別名: 花みょうが、みょうがの子。
廃棄部位: 花茎 | |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
香辛野菜[編集]
通常「花みょうが」「みょうが」とよばれるものが花穂で[10]、内部には開花前の蕾が3〜12個程度存在する。そのため、この部分を「花蕾」と呼ぶ場合もある。一方、若芽を軟白栽培し、弱光で薄紅色に着色したものを「みょうがたけ(みょうがだけ)」とよぶ[5]。「みょうがだけ」は汁物や酢の物などにして食べられている[2]。地面から出た花穂が花開く前のものは「みょうがの子」とよばれる。
独特の香りとほのかな辛味が好まれ、麺類や冷奴の薬味など香辛菜として利用される[2]。そのほか、天ぷらや酢の物、味噌汁の具、刺身のつま、酢漬けなど独立した食材としても用いられる[10]。農家では山椒・ミツバと並び、果樹園や庭、屋敷林の木陰に、薬味用として育てておく代表的な植物である。灰汁があるので、料理に使うときは下ごしらえに切ってから水にさらして使うのが一般的であるが、長時間さらすと香りまで逃げてしまう[10]。
奈良県の吉野地方ではミョウガの新芽や葉を「たこな」と呼び、葉で鯖寿司を包んだ「たこな寿司」が作られる[11]。一部地方では、みょうがぼち(岐阜県)、みょうが饅頭(熊本県)、釜焼き餅(鳥取県東部)といった、みょうがの葉を使った菓子が食べられている。
可食部100グラム (g) あたりの熱量は12キロカロリー (kcal) ほどである[5]。栄養価として特に目立つものは含まれていないが[2]、ミネラルの一種であるマンガンがわずかに多く含まれる[10]。マンガンはカルシウムやリン、ビタミンDとともに骨の形成に寄与するといわれている[10]。無機成分では窒素とカリウムが多く含まれ、食物繊維(粗繊維)が多い。独特の香り成分はα-ピネンという成分で[5]、紅色の成分は水溶性植物色素アントシアニンの一種、マルビジンである。植物体内ではグルコース1分子と結合し、マルビジンモノグリコシドとして存在する。α-ピネンには、頭をスッキリさせたり、食欲増進、血液の循環をよくするなどの作用があるといわれている[5][2]。食欲がない夏場の夏バテ予防にも利用されている[2]。
収穫したミョウガを保存するときは、ラップなどに包んで乾燥を防ぎ、冷蔵保存すれば1週間ほど日持ちする[2]。
俗信[編集]
俗に「食べると物忘れがひどくなる」と言われており、落語にも宿屋の夫婦が預かった金のことを忘れさせようと飛脚にミョウガを食べさせる『茗荷宿』という噺がある[12]。だがミョウガを食べることによる記憶への悪影響に学術的な根拠はなく、栄養学的にそのような成分は含まれていない。それどころかミョウガの香り成分には集中力を増す効果があることが明らかになっている。
『世説故事苑』によれば、もともと『東坡志林』では「生薑(生姜)多食損智」と記されていた。日本では生姜(ショウガ)とミョウガの発音が似ているために、ミョウガにすりかわってしまったとされる[13]。また、『本草綱目』によれば、陶弘景が「生薑は久しく服すると志を少くし智を少くし心氣を傷つける」と記していたとされる[14]。
王介甫多思而喜鑿,時出一新說,既而悟其非也,則又出一言而解釋之,是以其學多說。嘗與劉貢父食,輟箸而問曰:孔子不撤薑食,何也。貢父曰:《本草》生薑多食損智,道非明民,將以愚之,孔子以道教人者也,故不撤薑食,將以愚之也。介甫欣然而笑,久之乃悟其戲己也。貢父雖戲言,然王氏之學實大類此。 庚辰二月十一日,食薑粥,甚美,歎曰:無怪吾愚,吾食薑多矣,因并貢父言記之,以為後世君子一笑。
(読み下し) 王介甫は多く思ひて喜び鑿(うが)つを喜ぶ。時に一新説を出し、既にして其の非なるを悟るや、則ち又た一言を出して之を解釋す。是を以て其の學に說多し。嘗(かつ)て劉貢父と與(とも)に食らふに、箸を輟(と)め問ひて曰く:孔子が薑を撤さず食らふは、何ぞや。貢父曰く:《本草》いはく生薑多く食らはば智を損す。道は民を明とするに非ず、將(まさ)に以て之れを愚とせんとす。孔子は道を以て人に教ふる者なり。故に薑を撤さずして食らふは、將に以て之れを愚とせんとするなりと。介甫欣然とし笑ひ、久しくして乃(すなは)ち其の己れを戲(たわむ)るを悟るなり。貢父戲言すと雖(いへど)も、然るに王氏の學實(まこと)に大いに此に類す。 庚辰二月十一日、薑粥を食らふ、甚だ美(うま)し。歎きて曰く、吾が愚なることを怪(あやし)むこと無し、吾が薑を食らふこと多かり。因(よつ)て貢父の言に并(あは)せて之を記し,以て後世君子の一笑と為す。
— 廣羣芳譜/卷013 東坡雜記
釈迦の弟子の周梨槃特の故事(#名称)から、俗信「物忘れがひどくなる」が派生した。上述の落語や類似の民話『みょうが宿』が知れ渡ったことで一般化した。
その他の利用[編集]
みょうがの煮汁はしもやけ治療の民間療法に用いられた[15]。
文化[編集]
- 領地のために命を張った戦国武士などは、戦闘で命が残る「冥加」にかけて、茗荷紋を好んで使用した。事例として「影茗荷」「鍋島茗荷」などがある。一般的に広まっている家紋として十大家紋に挙げられている。
- 俳句では夏の季語で、素麺の薬味などとして食される[12]。
参考画像[編集]
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Zingiber mioga (Thunb.) Roscoe ミョウガ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年11月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 169.
- ^ a b c d e f g “みょうがの需給動向”. 独立行政法人農畜産業振興機構. 2022年3月11日閲覧。
- ^ a b c “旬の食材百科(ミョウガ)”. フーズリンク. 2022年11月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l 主婦の友社編 2011, p. 255.
- ^ a b “ミョウガ”. 野田市. 2020年2月25日閲覧。
- ^ 物忘れする? ミョウガ - 所さんの目がテン!(日本テレビ) 第787回 2005年6月26日(archive版)
- ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
- ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
- ^ a b c d e 講談社編 2013, p. 112.
- ^ 「タコナ(茗荷の葉)寿司・スイレンボク」『こころはコロコロ日録』 2018年3月15日閲覧。
- ^ a b 【暦めくり】みょうが 忘れた頃に成長『読売新聞』朝刊2018年7月13日(くらし面)。
- ^ 諺語大辭典: 全 P.985 藤井乙男 1910年
- ^ 本草綱目/菜之一 (Wikisource)
- ^ 越尾淑子、原田真知子、「東京家政大学構内の役に立つ野草」東京家政大学研究紀要 2 自然科学 Vol.37 page.43-49 (1997), NCID AN10157480
参考文献[編集]
- 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、169頁。ISBN 978-4-415-30997-2。
- 講談社編 『からだにやさしい旬の食材 野菜の本』講談社、2013年5月13日、112頁。ISBN 978-4-06-218342-0。
- 主婦の友社編 『野菜まるごと大図鑑』主婦の友社、2011年2月20日、255頁。ISBN 978-4-07-273608-1。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 物忘れする? ミョウガ - 所さんの目がテン!(日本テレビ)第787回 2005年6月26日(archive版)