ウラジーミル・ナボコフ

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ウラジーミル・ナボコフ
Владимир Набоков
Monument Nabokov Montreux 23.12.2006.jpg
誕生 1899年4月22日
Romanov Flag.svg ロシア帝国サンクトペテルブルク
死没 1977年7月2日(78歳)
スイスの旗 スイスモントルー
職業 作家詩人昆虫学者
国籍 アメリカ合衆国
代表作 ロリータ
配偶者 ヴェラ・ナボコフ
子供 ドミトリー・ナボコフロシア語版英語版(息子)
親族 ウラジーミル・ドミトリエヴィチ・ナボコフロシア語版英語版(父)
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ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・ナボコフロシア語:Владимир Владимирович Набоков ヴラヂーミル・ヴラヂーミラヴィチュ・ナボーカフ英語:Vladimir Vladimirovich Nabokov, 1899年4月22日ユリウス暦4月10日) - 1977年7月2日)は、帝政ロシアで生まれ、ヨーロッパアメリカで活動した作家詩人。少女に対する性愛を描いた小説『ロリータ』で世界的に有名になる。昆虫 (鱗翅目) 学者チェス・プロブレム作家でもある。アメリカ文学史上では、亡命文学の代表格の一人である。ウラジミール・ナボコフと表記されることもある。

ナボコフが1917年まで暮らした生家。サンクトペテルスブルクのMorskaya 通り47 番地。1階がナボコフ博物館として公開している。
ロシア時代、避暑に毎年訪れた一家の別荘。初めての恋人タマラ(Valentina Shulgina)と会ったのもこの家。文化財として保存され、ナボコフ記念館として公開されている[1]
1961年から亡くなるまでモントルーパラスホテル(Fairmont Le Montreux Palace )で暮らした。6階にナボコフの部屋がある。

略歴[編集]

ロシア帝国サンクトペテルブルク貴族の家に長男として生まれた。50人の使用人に囲まれ、非常に裕福な環境で育った。ロシア革命後、1919年西欧亡命。同年、トリニティ・カレッジ (ケンブリッジ大学)に入学、動物学やフランス語を専攻し、サッカーチームのゴールキーパーも務めた。1922年に大学卒業後、ロシア移民が多く住むベルリンに落ち着いていた家族と合流。同年、父親が暗殺される。文筆や教師などの仕事を始め、1925年に、同じくベルリンに亡命していたユダヤ系ロシア人のヴェラと結婚、1934年には息子ドミトリをもうけた。パリの生活を経て1940年に渡米、1945年にアメリカに帰化した。

ロシア時代より詩を書き始め、ベルリン、パリで「シーリン」の筆名でロシア語小説を発表、ロシア亡命文学界において高い評価を受ける。パリ時代の終わりから英語で小説の執筆を始める。渡米後はコーネル大学等でロシア文学・ヨーロッパ文学を講ずるかたわら、英語で創作活動を続ける。1955年に小説『ロリータ』の出版により国際的に著名な作家となり、1959年にスイスモントルーに移住、生涯執筆活動に専念する。自作の英語作品のロシア語訳、ロシア語作品の英訳(共訳)にもたずさわった。1961年からレマン湖畔にある老舗高級ホテル「モントルー・パラス」に夫婦で暮らし、執筆の傍ら、蝶の採集やテニスにも多くの時間を割いた。

鱗翅目研究者としては、ハーバード大学コーネル大学の研究所で、シジミチョウ分類学的研究を行っていた。ナボコフが集めた約4000の蝶の標本は、前述の大学のほか、アメリカ自然史博物館ローザンヌのスイス動物学博物館、セントペテルスプルクのナボコフ博物館に寄贈されている[1]

また趣味でチェス・プロブレムを作成しており、『Poems and Problems』や『ディフェンス』などチェスに関連した作品を複数残している[2]

家族[編集]

ウラジーミル・ドミトリエヴィチ・ナボコフロシア語版英語版はロシア時代、自由主義派の有力な政治家だったが、ベルリンに亡命後、政治集会で暗殺された。

弟セルゲイ。ナボコフの一歳下。同性愛と反ナチス的な言動を理由に強制収容所に送られ、ハンブルグ近くの収容所で病死した[3]

妻ヴェラ・ナボコフ (en) もユダヤ系の亡命ロシア人で、ベルリン時代に知り合い1925年に結婚した。当時、ロシア貴族がユダヤ人と結婚するのは珍しかった。ヴェラも作家志望だったが、結婚後はナボコフの秘書役に徹した。ナボコフはすべての作品を彼女に献呈している。彼女は『青白い炎』をロシア語に翻訳した。ナボコフは青年時代から反ユダヤ主義を憎み、高校時代の親友の二人がユダヤ人だったなど、生涯に渡りユダヤ系の友人、知己が多く、晩年はロシア系ユダヤ人の複数の協会に寄付してもいた[3]。ナボコフの曽祖父がキリスト教に改宗したユダヤ人であったとする研究もある[3]

息子ドミトリー・ナボコフロシア語版英語版, 1934年 - 2012年)も父の著作をロシア語から英語に、また英語からイタリア語に翻訳、父をめぐるエッセイなども著している。その他、オペラ歌手、登山家、レーシング・ドライバーとしても活躍した。

主な作品[編集]

代表作は『ロリータ』や『賜物』、『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』、『青白い炎』、自伝では『記憶よ、語れ』など。小説、詩・戯曲・翻訳・自伝・評伝など多方面で活躍、1923年には『不思議の国のアリス』をロシア語に翻訳した。プーシキンの『エヴゲーニイ・オネーギン』の英訳と膨大な註釈も出版している。

文学的な仕掛けと含意、遊び心に富んだきわめて技巧的な作家という評価が世界的にも定着しており、その「難解」さと言語遊戯にあふれた作風にもかかわらず、全ての作品が邦訳されたのみならず、直訳と重訳の双方が存在する作品まである。自作の英語・ロシア語翻訳も手がけたことがあり、その「翻訳」の過程で生まれた作品も存在する。

小説(ロシア語・英訳名)[編集]

  • 『マーシェンカ』"Машенька (Mary)" (1926年)
  • 『キング、クイーンそしてジャック』"Король, дама, валет (King, Queen, Knave)" (1928年)
  • ディフェンス"Защита Лужина (The Defense)" (1930年)
  • 『目』"Соглядатай (The Eye)" (1930年)
  • 『青春』"Подвиг (Glory)" (1932年)
  • 『マルゴ』"Камера Обскура (Laughter in the Dark)" (1932年)
  • 『絶望』"Отчаяние (Despair)" (1936年)
    • 大津栄一郎訳 白水社 1969年
    • 貝澤哉訳 光文社古典新訳文庫、2013年10月-ロシア語原典版での訳書
  • 『断頭台への招待』"Приглашение на казнь (Invitation to a Beheading)" (1938年)
    • 富士川義之訳、(世界の文学8 ナボコフ)集英社 1977年
  • 『賜物』"Дар (The Gift)" (1938年)
    • 大津栄一郎訳 白水社 1967年/改訳 福武文庫(上下) 1992年
    • 沼野充義訳、河出書房新社〈世界文学全集〉 2010年
  • 『魅惑者』"Волшебник (The Enchanter)" (1939年)
    • 出淵博訳、河出書房新社 1991年 英語版での訳書

小説(英語)[編集]

  • 『マグダ』"Magda" 
    • 川崎竹一訳 河出書房新社 1960年
    • 川崎加代子訳 「マクダ」 未知谷 2014年。ロシア語版での訳注
  • 『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』"The Real Life of Sebastian Knight" (1941年)
    • 富士川義之訳 講談社 1970年/講談社文芸文庫 1999年
  • 『ベンドシニスター』"Bend Sinister" (1947年)
  • ロリータ"Lolita" (1955年)
    • 大久保康雄訳、河出書房新社 1959年(上下)、新装版1977年ほか/新潮文庫、1980年
    • 若島正訳、新潮社 2005年/新潮文庫 2006年
  • 『プニン』"Pnin" (1957年)
  • 『青白い炎』"Pale Fire" (1962年)
    • 富士川義之訳 (筑摩世界文学大系81 ナボコフ・ボルヘス) 筑摩書房 1984年/ちくま文庫 2003年/岩波文庫 2014年。文庫は改訳版
  • 『アーダ』"Ada or Ardor" (1969年)
  • 『透明な対象』"Transparent Things" (1972年)
    • 若島正・中田晶子訳 国書刊行会〈文学の冒険シリーズ〉 2002年
  • 『道化師をごらん!』"Look at the Harlequins" (1974年)
  • 『ローラ』"The Original of Laura" (未完、1977年)
    • 若島正訳・解説「ローラのオリジナル」作品社 2011年

短編集[編集]

  • 『チョールブの帰還』"Возврашение Чорба" (1929年) - 「バッハマン」など
  • 『九つの物語』"Nine Stories" (1947年)
  • 『フィアルタの春』"Весна в Фиальте и Другие рассказы" (1956年)
  • 『ナボコフの一ダース』"Nabokov's Dozen" (1958年)
  • 『四重奏』"Nabokov's Quartet" (1966年)
  • 『ロシア美人』"A Russian Beauty and Other Stories" (1973年)
  • 『独裁者殺し』"Tyrants Destroyed and Other Stories" (1975年)
  • 『ロシアに届かなかった手紙』"Details of a Sunset and Other Stories" (1976年)
    • 1920年代から30年代にかけてロシア語で発表されたものを、作者みずからが英語になおしたもの。
    • 加藤光也訳、集英社 1981年
  • 『ナボコフ短篇全集』"The Stories of Vladimir Nabokov" (1995年)
    • 諫早勇一・貝澤哉・加藤光也・杉本一直・沼野充義・毛利公美・若島正訳、作品社 全2巻 2000年-2001年/増補版 全1巻 2011年

批評その他[編集]

戯曲[編集]

  • 『ワルツの発明』"The Waltz Invention" (1938年)

詩集[編集]

  • 『詩集』"Стихи"(私家版、1916年)
  • 『二つの道』"Альманах: Два пути" (1918年)
  • 『星団』"Гроздь" (1922年)
  • 『天上界の道』"Возвращение Чорба" (1923年)
  • 『詩集 1929-1951』"Стихотворения 1929-1951" (1952年)
  • 『詩集』"Poems" (1959年)
  • 『詩とチェスの詰め手問題』"Poems and Problems" (1971年)

翻訳[編集]

  • ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』(1923年) 英語→ロシア語
  • 訳詩集『三人のロシア詩人たち』(1945年) ロシア語→英語
  • レールモントフ『現代の英雄』(1958年) ロシア語→英語
  • イーゴリ遠征記』(1960年) ロシア語→英語
  • プーシキン『エヴゲーニイ・オネーギン』(1964年) ロシア語→英語
  • 自著『ロリータ』英語→ロシア語

関連文献[編集]

  • ブライアン・ボイド『ナボコフ伝』(上・下) 諌早勇一訳、みすず書房 、2003年
  • 富士川義之『ナボコフ万華鏡』 芳賀書店、2001年
  • 若島正・沼野充義編『書きなおすナボコフ、読みなおすナボコフ』 研究社、2011年
  • マーティン・エイミス『ナボコフ夫人を訪ねて―現代英米文化の旅』河出書房新社、2000/12

脚注[編集]

  1. ^ Lolita, Lepidoptera and usNatural History Museum, London、2014/08/21
  2. ^ オリバー・サックスによれば、ナボコフにとって音楽はイライラする音の連続にすぎず、音楽不能症で前頭葉のある部分の結合が欠けているという(『知の逆転』NHK出版新書 2012年p.150)。
  3. ^ a b c 見えないユダヤ人―半世紀後に読む『ロリータ』―中田晶子、南山大学紀要第37号、2009年

外部リンク[編集]