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アラビア語の文法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

アラビア語の文法は、セム語派に属する言語として、以下のような特徴を持つ。

類型論的には、アラビア語は屈折語に分類され、膠着語的要素も併せ持つ。古典アラビア語の基本語順はVSO型(動詞-主語-目的語)とされるが、現代標準アラビア語ではSVO型も広く用いられる。

名詞は(男性・女性)、(単数・双数・複数)、(主格・属格・対格)によって変化する。形容詞は名詞と同様に変化し、被修飾名詞と性・数・格・限定性において一致する。動詞は主語の人称・性・数に応じて活用し、さらに完了形・未完了形というアスペクトの区別を持つ。

文には述語が動詞である動詞文と、述語が名詞または形容詞的要素である名詞文の2種類がある。名詞文では繋辞(be動詞に相当)が無標の状態(過去でも未来でもない一般的叙述)では現れない。

語根と呼ばれる通常3つの子音からなる基本形から、規則的な母音パターンや接辞の付加によって多様な派生語が生成される語根派生システムが発達しており、語彙の意味的関連性を理解する上で重要である。

文の種類と基本語順

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アラビア語の文は、述語の種類によって動詞文名詞文の2つに大別される。

動詞文

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動詞文は述語が動詞である文で、古典アラビア語ではVSO型(動詞-主語-目的語)が基本とされる。VSO語順では、動詞は主語の前に置かれ、主語の人称・性と一致するが、数については(主語が複数であっても)単数形を取る。

例:كَتَبَ الطَّالِبُ الدَّرْسَ(kataba ṭ-ṭālibu d-darsa, 学生が課題を書いた)

しかし、現代標準アラビア語では、主語を文頭に置くSVO型の語順が広く用いられる。SVO語順では、動詞は主語の人称・性・数のすべてと完全に一致する。主語を強調する場合や、話題を明示する場合に特にSVO型が選好される。

例:الطَّالِبُ كَتَبَ الدَّرْسَ(aṭ-ṭālibu kataba d-darsa, 学生が課題を書いた)

名詞文

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名詞文は述語が名詞、形容詞、前置詞句、副詞句などである文で、基本的には主語-述語の語順を取る。一般的・恒常的な状態や属性を表す場合、繋辞(be動詞に相当)は用いられず、主語と述語を直接並べる。

例:الطَّالِبُ مُجْتَهِدٌ(aṭ-ṭālibu mujtahidun, 学生は勤勉だ)

この構文は、時制に関係なく、主体の本質的・恒常的な属性を表す。一方、特定の時点での状態(過去・未来)や、一時的な状態を表す場合には、動詞كَانَ(kāna, であった)やその派生形を用いる。

語末に付加される母音等にかかわる文法規則

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主格・属格・対格3つの格

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アラビア語の名詞・形容詞には主格属格対格の3つのがあり、文中の役割に応じて語尾が変化する[1]

主格 (Rafʿ)
動詞文の主語、名詞文の主語および述語などに用いられる。基本の母音は -u (ダンマ)。
属格 (Jarr)
前置詞の後ろに来る名詞、およびイダーファ構文(所有構文)の修飾語(第2要素)などに用いられる。基本の母音は -i (カスラ)。
対格 (Naṣb)
動詞の目的語、副詞的用法、「〜である」を表す動詞カーナ (kāna) の述語などに用いられる。基本の母音は -a (ファトハ)。

特定の語形(二段変化名詞や双数・複数形など)や、語末が母音で終わる名詞では、上記とは異なる変化をするか、あるいは変化が表面に現れない場合がある。

二段変化(diptote、アラビア語で مَمْنُوع مِن الصَّرْف, mamnūʿ min aṣ-ṣarf)と呼ばれる特定の名詞類では、以下の特徴を持つ[2]

  • 主格では語尾に -u(ダンマ)を取る
  • 属格・対格ではいずれも語尾に -a(ファトハ)を取る(通常の三段変化では属格は -i を取るが、二段変化では -a となる)
  • 非限定形ではタンウィーンを取らない(定冠詞が付いた限定形では通常の名詞と同様に変化する)

二段変化をする名詞には、以下のようなものがある:

  • 固有名詞(多くの人名・地名)
  • 複数形の多く(特に女性複数語尾 ـَات を持たない不規則複数)
  • 形容詞の最上級比較級أَفْعَل の形)
  • فَعْلَان の形の形容詞
「エジプト」を意味する مِصْر (miṣr) の格変化
非限定(不定)限定(定)
主格مِصْرُ (miṣru)مِصْرُ (miṣru)
属格مِصْرَ (miṣra)مِصْرِ (miṣri)
対格مِصْرَ (miṣra)مِصْرَ (miṣra)

アラビア語では形容詞修飾において形容詞は名詞の直後に置かれ、被修飾語である名詞の性・数・格・限定性に一致する。

限定・非限定

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名詞には限定非限定という概念を持つ。限定とは特定のものをさし、非限定とは不特定多数のものをいう。定冠詞は名詞を限定化させるはたらきを持つが、限定化はそれ以外によっても行われる。この限定と非限定の活用も語尾の母音で示されるのが普通だが文脈や構文による判断が必要なこともある。

非限定かつ三段変化する名詞では、格語尾に タンウィーン(n音の付加)を伴うため、格母音+n音が合わさって主格 -un 、属格 -in 、対格 -an となる。

なお対格のタンウィーンでは書記慣習によって表記が分かれており、アリフの前の子音にファトハターンを書く كتابًا と、アリフの真上にファトハターンを書く كتاباً とに分かれる。

古典的な文語の朗読規則にはワクフ(Waqf、休止形)があり、文末や息継ぎの箇所では語末の短母音やタンウィーンを発音しない(ただし対格のタンウィーン -an は -ā と長音化して読まれる)。現代標準アラビア語(フスハー)の会話やニュースの読み上げ等においても、文末の母音は省略される傾向にあり、口語(アーンミーヤ)では格母音自体がほとんど消失している。

性別

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男性と女性

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名詞は基本的に男性または女性のを有する[3]ドイツ語ロシア語などに見られるような中性形はない。性は動物のように実際の雌雄に基づいたものと、それ以外の分類で性別が決まったものとに分かれる。動詞指示代名詞にも性別があり、主格もしくは修飾される語の性にそって活用・変形する。

ター・マルブータのつく女性名詞

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女性名詞の多くは語尾がター・マルブータة)である[3]。これは基本形が男性形である一般名詞に女性化の機能を持つター・マルブータを語尾に付けることで女性形にしたものである。

ター・マルブータとは「結ばれた ت(ター)」という意味で ت(ター)の両端が結ばれて丸くなった形をしている。これは、この文字が本来の女性語尾 t の音価を持つ一方で、休止形(ワクフ)では h と発音される性質を持つことから、ه(ハー)の形に ت(ター)の点2つを付加して作られたものである。ター・マルブータは直前の文字の母音価を a にする(直前が長母音 ā の場合もある)。

本来のフスハー文法では息継ぎせず直後の語をそのまま読み上げる非休止形ではt、文末に来た時や直後に息継ぎした時の休止形ではhで読まれる。しかし現代フスハー会話(古典的フスハーを簡略化したタイプの発音が見られる)や口語では後ろから属格支配を受けた時を除きター・マルブータのt音は発音されず、休止形のワクフ発音で行われていたhも発音されず、直前のaまでしか読まれない。

例外的な名詞性

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女性にしか無い性質(「妊娠している」等)にはター・マルブータはつかない[3]。また、アリフ・マクスーラで終わることで女性名詞であることを表す単語もある。

مصرエジプト)、بيروتベイルート)のような国名地名は、「土地」や「町」を意味する名詞が女性名詞であることから、基本的に女性名詞として扱われる[4]。しかし、例外的に男性名詞として扱われる国名も存在する。主な例は以下の通りである:لبنانレバノン)、العراقイラク)、الأردنヨルダン)、السودانスーダン)、المغربモロッコ)、اليمنイエメン)、الصومالソマリア)など。また、対をなすの部分の名前も女性名詞である[4]عين)、أذن)、يد)、قدم)。(ただし対になっていても頬خدّのように男性名詞もありそうした例外は個別に覚えることとなる。)

他にはأرض土地)、حرب戦争)やنار)のような女性名詞がある。また、طريق)やسكينナイフ)のような、男性名詞としても女性名詞としても使われる名詞もある。

またزوجのように元々は同じ語が男性も女性も表せる名詞もある。

人名だと女性名詞が男性名に、男性名詞が女性名として使われていることも多い。そのような場合は本人が男性であればこれにかかる動詞や修飾語も男性形が使われ、女性であれば動詞や修飾語も女性形になる。また、性別の混在する場合や不明であるときは原則として男性形が用いられ男女混合の集団はهم(彼ら)で受ける。

また「非常に知識のある者、学識者(عَلَّامَة, ʿallāma(tun), アッラーマ)」のように、男性を指す場合でもター・マルブータがつく名詞が存在する[4]。男性名詞の不規則複数語末にター・マルブータがつくことも少なくなく、女性名詞の単数として扱わないよう注意が必要である。

なお、سوق (sūq) のように、男性と女性のどちらで扱っても良い名詞も存在する[4]

外来語と語尾

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アラビア語圏における外来語の場合、慣習的に ا が語尾にくる名詞は女性形として扱われる。外来語の取扱いなどについてはアラビア文字化を参照。

文法の数と数詞

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アラビア語における数の表現

名詞・人称代名詞・指示語・形容詞・動詞の類は単数形双数形複数形がある。単数形とはそれが1つであること、双数形とは2つであること、複数形は3つ以上であることをさす。

文法上物体や人間以外は3以上ある複数でも三人称女性単数として扱い、形容詞や動詞も一致させて女性単数とするのが一般的。ただし正則文法として物体の女性複数を女性単数ではなく女性複数等の形容詞で受ける用例なども並存しており、特に古典アラビア語においては画一的ではない。

数を示す場合1つ、もしくは2つの時は単数形や双数形のみで事足りるが、基数詞である1と2を名詞の直後に形容詞修飾の形で後置し添えることもできる。

3つ以上の数量には基数詞が必要となる。また1・2と同様基数詞である3~を名詞の直後に形容詞修飾の形で後置し添えることもできる。

(序数詞などを含む、アラビア語の文法における数の扱い方はアラビア語の数詞で詳しく解説する。)

なお、双数形や規則変化複数形に人称代名詞の結合形が使われた場合は語尾のnは省かれる[5]

名詞の規則変化[6]
性別双数主格双数斜格複数主格複数斜格
男性 ـانِ (-āni) ـَيْنِ (-ayni) ـُونَ (-ūna) ـِينَ (-īna)
女性 ـَتَانِ (-atāni) ـَتَيْنِ (-atayni) ـَاتٌ (-ātun) ـَاتٍ (-ātin)

複数形

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アラビア語の複数形は複雑である。規則変化のものもあるが、「جَمْعُ التَّكْسِيرٍ」(jamʿ al-taksīr, 実際の発音:ジャムウ・ッ=タクスィール, ジャムウ・アッ=タクスィール、直訳は「破壊の複数形」でいわゆる不規則複数のこと)と呼ばれる不規則変化の名詞(特に男性名詞)が非常に多い。不規則と呼ばれてもいくつかのルールがある一方、اِمْرَأَة(女) - نِسَاء(女たち)のような語根を共有していない(補充形)対応関係もある。また、1つ以上の複数形がある名詞も多い[7]

不規則変化する名詞の例
単数形複数形意味
fuʿul型
كِتَاب (kitāb)كُتُب (kutub)
سَبِيل (sabīl)سُبُل (subul)道・方法
أَسَاس (asās)أُسُس (usus)基礎
رَسُول (rasūl)رُسُل (rusul)使者
هِرّ (hirr)هِرَرَة (hirara)猫(オス)
قَلْب (qalb)قُلُوب (qulūb)心臓・心
عِلْم (ʿilm)عُلُوم (ʿulūm)知識・科学
جُحْر (juḥr)جُحُور (juḥūr)穴・巣穴
fiʿāl型
كَلْب (kalb)كِلَاب (kilāb)
ظِلّ (ẓill)ظِلَال (ẓilāl)
رُمْح (rumḥ)رِمَاح (rimāḥ)
جَمَل (jamal)جِمَال (jimāl)ラクダ
رَجُل (rajul)رِجَال (rijāl)
طَوِيل (ṭawīl)طِوَال (ṭiwāl)長い・背が高い
afʿāl型
يَوْم (yawm)أَيَّام (ayyām)
جِنْس (jins)أَجْنَاس (ajnās)種類・性
لُغْز (lughz)أَلْغَاز (alghāz)謎・パズル
سَبَب (sabab)أَسْبَاب (asbāb)原因・理由
عُمْر (ʿumr)أَعْمَار (aʿmār)寿命・年齢
عَمُود (ʿamūd)أَعْمِدَة (aʿmida)
صَدِيق (ṣadīq)أَصْدِقَاء (aṣdiqāʾ)友達
سَعِيد (saʿīd)سُعَدَاء (suʿadāʾ)幸せな
كَاتِب (kātib)كُتَّاب (kuttāb)
كَاتِبُونَ (kātibūn)
作家・書記
طَابَع (ṭābaʿ)طَوَابِع (ṭawābiʿ)切手
جَاهِل (jāhil)جُهَّال (juhhāl)
جَهَلَة (jahala)
無知な人
سَاجِد (sājid)سُجَّد (sujjad)跪く人
صَارُوخ (ṣārūkh)صَوَارِيخ (ṣawārīkh)ロケット
دَفْتَر (daftar)دَفَاتِر (dafātir)ノート
فُنْدُق (funduq)فَنَادِق (fanādiq)ホテル
مَلْبَس (malbas)مَلَابِس (malābis)衣服
مَسْجِد (masjid)مَسَاجِد (masājid)モスク
صُنْدُوق (ṣundūq)صَنَادِيق (ṣanādīq)
فِنْجَان (finjān)فَنَاجِين (fanājīn)カップ
دِينَار (dīnār)دَنَانِير (danānīr)ディナール(通貨)
مِفْتَاح (miftāḥ)مَفَاتِيح (mafātīḥ)
مَكْتُوب (maktūb)مَكَاتِيب (makātīb)手紙・書かれたもの
سَفِينَة (safīna)سُفُن (sufun)
سَفَائِن (safāʾin)
غُرْفَة (ghurfa)غُرَف (ghuraf)部屋
شَقَّة (shaqqa)شِقَق (shiqaq)アパート・部屋
قِطَّة (qiṭṭa)قِطَط (qiṭaṭ)猫(メス)
قَائِمَة (qāʾima)قَوَائِم (qawāʾim)リスト
رِسَالَة (risāla)رَسَائِل (rasāʾil)手紙・メッセージ
جَزِيرَة (jazīra)جُزُر (juzur)
جَزَائِر (jazāʾir)
مِنْطَقَة (minṭaqa)مَنَاطِق (manāṭiq)地域

イダーファ(属格構文)

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修飾語を伴った名詞構文をイダーファ(إِضَافَة, ʾiḍāfa)と呼ぶ。これは「追加」や「付加」を意味し、名詞と名詞を結合して所有・所属関係や限定を表す構造である。

基本構造

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イダーファでは、被修飾語(最初の名詞)と修飾語(後続する名詞)が直接結合し、修飾語は属格となる。被修飾語からは定冠詞 الـタンウィーンが除かれ、その代わりに修飾語の限定性が構造全体の限定性を決定する。

  • 修飾語が限定(定冠詞付き)→ イダーファ全体が限定

例:كِتَابُ الطَّالِبِ(kitābu ṭ-ṭālibi, その学生の本)

  • 修飾語が非限定(定冠詞なし)→ イダーファ全体が非限定

例:كِتَابُ طَالِبٍ(kitābu ṭālibin, ある学生の本)

連続するイダーファ

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イダーファは複数の名詞を連続させて、より詳細な修飾を行うことができる。この場合、最後の名詞以外はすべて属格となり、定冠詞もタンウィーンも持たない。

例:كِتَابُ صَدِيقِ الطَّالِبِ(kitābu ṣadīqi ṭ-ṭālibi, その学生の友人の本)

イダーファと形容詞修飾

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イダーファ全体を形容詞が修飾する場合、形容詞はイダーファの後に置かれ、被修飾語(最初の名詞)の性・数・格・限定性と一致する。

例:كِتَابُ الطَّالِبِ الْجَدِيدُ(kitābu ṭ-ṭālibi l-jadīdu, その学生の新しい本)

イダーファ内部の名詞(第2要素以降)を形容詞が修飾する場合、形容詞をその名詞の直後に挿入することはできない。代わりに以下の方法を用いる。

  • 関係節を用いる:كِتَابُ الطَّالِبِ الَّذِي هُوَ جَدِيدٌ(kitābu ṭ-ṭālibi lladhī huwa jadīdun, 新しい学生の本)
  • イダーファを解消して前置詞句を用いる:كِتَابٌ لِلطَّالِبِ الْجَدِيدِ(kitābun li-ṭ-ṭālibi l-jadīdi, 新しい学生の本)

イダーファにおける曖昧性

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形容詞の位置によって、修飾対象が変わることに注意が必要である:

  • كِتَابُ الطَّالِبِ الْجَدِيدُ - 「新しい本」(形容詞は「本」を修飾)
  • كِتَابُ الطَّالِبِ الْجَدِيدِ - 「新しい学生の本」(形容詞は「学生」を修飾、関係節の代わりに前置詞句として解釈)


人称代名詞・指示代名詞

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アラビア語の人称代名詞は主格に用いられる独立形と、それ以外で使われる接続形とがある。

主格指示代名詞

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主語となり、これに続けて対格となる名詞をおくことで存在を表現できる。別章で解説するようにアラビア語にはbe動詞に相当するものがないため、これだけでもっとも基本的な構文が完成する。

「この〜は」というような名詞用指示代名詞は、日本語では「この〜」「その〜」「あの〜」という3つの距離に分けられるが、アラビア語フスハーにおいては至近距離と遠距離しか存在しない。おおむね手が届いたり、相手の手元にあるような場合は至近距離で、それよりも遠くで、且つ視界に入る範囲であれば遠距離になる。視界にも入らず、その場にないものを名詞を伴わずに示すときは通常の3人称を使う。なお、伴う名詞には定冠詞 الـ が付けられる。

人称代名詞の独立形[8]および指示代名詞[9]
人称性別単数双数複数
1人称
(私は)
男・女 أَنَا
(anā)
نَحْنُ
(naḥnu)
2人称
(あなたは)
أَنْتَ
(anta)
أَنْتُمَا
(antumā)
أَنْتُمْ
(antum)
أَنْتِ
(anti)
أَنْتُنَّ
(antunna)
3人称
(彼・彼女は)
هُوَ
(huwa)
هُمَا
(humā)
هُمْ
(hum)
هِيَ
(hiya)
هُنَّ
(hunna)
至近距離
(これは)
هٰذَا
(hādhā)
هٰذَانِ
(hādhāni)
هٰؤُلَاءِ
(hāʾulāʾi)
هٰذِهِ
(hādhihi)
هَاتَانِ
(hātāni)
遠距離
(あれは)
ذٰلِكَ / ذَاكَ
(dhālika / dhāka)
ذَانِكَ
(dhānika)
أُولٰئِكَ
(ulāʾika)
تِلْكَ
(tilka)
تَانِكَ
(tānika)

なお2人称に関しては目上の人物を أَنْتَ(anta, アンタ)と呼ぶのは不躾・失礼だとみなされるため、その人の地位・職業に応じた名詞と人称代名詞接続形とを組み合わせて حَضْرَتُكَ(ḥaḍratuka, ハドラトゥカ, 「あなた様、貴殿」の意)等とするのが通例である。女性単数、複数などについても同様。

人称代名詞接続形

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単語の語尾に接続し、属格もしくは対格としての人称代名詞となる。前に来て接続する単語は名詞、動詞、前置詞などで、多くの場合名詞に接続するとその名詞を代名詞の所有格にする。たとえば「事典」を意味する「 موسوعة 」に「 ـي 」が付けば موسوعتي (私の事典)になる。動詞や前置詞に接続すると、多くは目的語になる。動名詞に接続すると意味上の主語になったりする。

人称代名詞の接続した語は、その代名詞によって限定される。属格支配を受ける語からは非限定を示すタンウィーンや限定を示す定冠詞الが取れ、格変化は一人称単数を除き人称代名詞の直前つまり属格支配を受ける語の語末で行われる。

人称代名詞の結合形[10]
人称性別単数双数複数
1人称(私の / 私を)男・女 対格:ـنِي (-nī)
属格:ـِي (-ī)[注釈 1]
ـنَا (-nā)
2人称(あなたの / あなたを) ـكَ (-ka) ـكُمَا (-kumā) ـكُمْ (-kum)[注釈 2]
ـكِ (-ki)ـكُنَّ (-kunna)
3人称(彼・彼女の / 彼・彼女を) ـهُ (-hu)[注釈 3] ـهُمَا (-humā)[注釈 3] ـهُمْ (-hum)[注釈 3][注釈 2]
ـهَا (-hā)ـهُنَّ (-hunna)[注釈 3]

ただし、أَب (ab)、أَخ (akh)、حَم (ḥam)、فَم (fam)、ذُو (dhū)は特殊な変化をする[11]

五つの名詞の格変化
変化(代名詞あり)発音(参考)単独の場合
主格أَبُوكَabū-kaأَبٌ (abun)
属格أَبِيكَabī-kaأَبٍ (abin)
対格أَبَاكَabā-kaأَبًا (aban)

形容詞

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アラブ式文法では形容詞という独立した品詞の分類は存在しない。能動分詞(ないしは能動分詞と同じ語形だが分詞類似語に分類される語)、受動分詞、分詞に類似した語で継続的な性質・状態を示す語、動名詞などが諸外国語の形容詞と同様に機能するが、分詞に関しては動詞と名詞の性質を持ち合わせているため名詞的・形容詞的・動詞的な働きを示す。

形容詞的な働きをする語

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アラブ式文法では名詞に分類されるが、ここでは日本式教授法に基づき「形容詞」として説明する。

多くの形容詞は以下のような形を取っている。女性形の複数は基本的に規則複数となるが、男性形の複数は上述の不規則変化が非常に多い。

能動分詞由来
عَادِلٌ (ʿādil):公正な
受動分詞由来
مَعْرُوفٌ (maʿrūf):知られた、有名な
分詞類似語由来
كَبِيرٌ (kabīr):大きい、大きな
動詞が示す状態を表す形容詞的語形;
كَسْلَانُ (kaslān):怠惰な、怠け者の[注釈 4]

能動分詞

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能動分詞(اسم الفاعل, ism al-fāʿil)は動詞から派生し、「〜する者」「〜している状態」を表す語形で、形容詞的に用いられることが多い。第I形動詞の能動分詞は、動詞の母音パターンによって以下のような複数の語形パターンを持つ:

فَاعِل (fāʿil) 型
最も一般的なパターン。多くの第I形動詞の能動分詞がこの形をとる。
例:كَاتِب (kātib, 書く者・作家)、عَادِل (ʿādil, 公正な)、جَالِس (jālis, 座っている)
فَعِيل (faʿīl) 型
例:سَمِيع (samīʿ, よく聞く・聴覚の)、عَلِيم (ʿalīm, 全知の)、قَدِير (qadīr, 全能の)
فَعِل (faʿil) 型
例:فَرِح (fariḥ, 喜んでいる)、حَذِر (ḥadhir, 用心深い)
فَعَل (faʿal) 型
例:حَسَن (ḥasan, 善い・美しい)
فَعْل (faʿl) 型
例:صَعْب (ṣaʿb, 困難な)
فَعْلَان (faʿlān) 型
例:عَطْشَان (ʿaṭshān, 喉が渇いた)、جَوْعَان (jawʿān, 空腹の)、غَضْبَان (ghaḍbān, 怒っている)
فُعَال (fuʿāl) 型
例:صُدَاع (ṣudāʿ, 頭痛)
فَعَّال (faʿʿāl) 型
例:نَجَّار (najjār, 大工)、حَدَّاد (ḥaddād, 鍛冶屋)

第II形以降の派生形の能動分詞は規則的なパターンをとり、すべて مُـ (mu-) で始まる形となる(#動詞派生形一覧を参照)。

色・身体的特徴の形容詞

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基本色や身体的特徴(主に障碍)を表す形容詞などは単に女性化の ة(ター・マルブータ)を付加するのとは違った語形となる。

男性ーأَزْرَقُ(ʾazraq(u), アズラク):青い

女性ーزَرْقَاءُ(zarqāʾ(u), ザルカー(ゥ)):青い

複数ーزُرْقٌ(zuruq(un), ズルク(ン)):青い

形容詞を含む基本構文

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いわゆる形容詞修飾をする場合、修飾語は必ず名詞の後に置かれる。数・性・定/不定・格などは全て被修飾語に合わせる。

هٰذَا بَيْتٌ كَبِيرٌ

hādhā baytun kabīrun(ハーザー・バイトゥン・カビールン)

This is a big house. これは大きな家です。

*ハーザーが主語。指示代名詞のため限定。バイトゥン・カビールンのバイトゥンは男性名詞「家」の単数・非限定・主格の時の語形で、カビールンはバイトゥンを修飾する形容詞で「大きい、大きな」の意味。アラビア語には「です、ます」「is、are、am(be動詞)」に相当するものが無いが、主語ハーザーが限定名詞であるのに対して述部であるバイトゥン・カビールンは非限定となっており、そこから構文上の切れ目が分かるようになっている。

اَلْبَيْتُ كَبِيرٌ

ʾal-baytu kabīrun(アル=バイトゥ・カビールン)

The house is big.

その家は大きいです。

*al-(アル=)は定冠詞で名詞 بَيْت(bayt, バイト)に接頭。これで「その家(the house)」という限定名詞となる。バイトゥの「ゥ」は名詞「家」が主語であることを示す格母音「u」。述語は非限定の形容詞で「大きい」という意味の كَبِير(kabīr, カビール)の単数・男性・非限定・主格語形「カビールン」。主語が限定、述語が非限定なのでそこから構文上の切れ目が分かるようになっている。

اَلْبَيْتُ الْكَبِيرُ جَمِيلٌ

ʾal-baytu-l-kabīru jamīlun(アル=バイトゥ・ル=カビール・ジャミールン)

The big house is beautiful.

その大きな家は美しい。

*al-(アル=)は定冠詞で名詞 بَيْت(bayt, バイト)に接頭。これで「その家(the house)」という限定名詞となる。「その家は大きい」ではなく「その大きな家」と形容詞修飾させるために後続する修飾語 كَبِير(kabīr, カビール)は被修飾語との一致を行い定冠詞の接頭による限定・単数・男性・主格語形となる。そして「美しい」という意味の形容詞 جَمِيل(jamīl, ジャミール)が最後に置かれるが、こちらは述語なので主語に合わせて単数・男性に。そして述語であることを示す主格語形「ジャミールン」とし、非限定形のままとする。主部が限定、述語が非限定なのでそこから構文上の切れ目が分かるようになっている。

なお形容詞と全く同じ語形でも名詞として使われることも多い。

كَبِيرُ الْقَوْمِ

kabīru-l-qawmi(カビール・ル=カウミ)

民衆の中の大物、民の長

*「大きい」という意味で使われる كَبِير(kabīr, カビール)が「大物、重鎮、長」という名詞として使われている例。後ろから定冠詞が接頭した「民」という意味の名詞 قَوْم(qawm, カウム)による属格支配を受けている。

先行する名詞に後続する形容詞がその名詞に関係のある別の主語について叙述している形容詞修飾構文

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アラビア語では上記のような単純な形容詞修飾に加え、被修飾語に包含される事物がどのような状態であるかを表現する構文も存在する。このような構文では形容詞は常に単数・形容詞の性は先行する名詞ではなく「形容詞に後続する名詞+先行する名詞を受ける代名詞」に合わせる。

هَاتَانِ صُورَتَانِ جَمِيلٌ إِطَارُهُمَا

hātāni ṣūratāni jamīlun ʾiṭāruhumā(ハーターニ・スーラターニ・ジャミールン・イタールフマー)

これら2つはそのフレームが美しい写真です(これら2枚の写真はフレームが美しいです)

文頭から主語の指示代名詞・主格「これら2つ(は)」+述部の非限定名詞・女性・双数・主格「2枚の写真(です)」+述部(2枚の写真)を修飾する形容詞・単数・男性(後続の真の主語に合わせる)・主格「美しい」+形容詞の実際の主語・主格「フレーム(額縁)」+前の名詞「フレーム(額縁)」を属格支配する人称/指示代名詞接続形「それら2つの」。「それら2つの」は2枚の写真のこと。

ニスバ

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名詞の語尾を ـِيٌّ(-iyy / -īy)とすることで「~の」「~製の」「~に関連した」「~的な」といった意味を持つ名詞/形容詞を作ることができる。女性形は ة(ター・マルブータ)をつけて ـِيَّةٌ(-iyya(h/tun) / -īya(h/tun))となる。

これはニスバ形容詞(関連形容詞、関係形容詞)と呼ばれ、物の素材・人名フルネームなどの出自表示・抽象的概念を示すのに使われるなどする。

وَرَقٌ(waraq, ワラク):紙

ニスバ形容詞男性形ーوَرَقِيٌّ(waraqiyy/waraqīy, ワラキー(ィ)):紙の、紙製の

ニスバ形容詞女性形ーوَرَقِيَّةٌ(waraqiyya(h/tun)/waraqīya(h/tun), ワラキーヤ(トゥン)):紙の、紙製の

مِصْرُ(miṣr, ミスル):エジプト

ニスバ形容詞男性形ーمِصْرِيٌّ(miṣriyy/miṣrīy, ミスリー(ィ)):エジプトの、エジプト人

ニスバ形容詞女性形ーمِصْرِيَّةٌ(miṣriyya(h/tun)/miṣrīya(h/tun), ミスリーヤ(トゥン)):エジプトの、エジプト人

比較級と最上級

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アラビア語の比較級と最上級は、特定の語形パターン أَفْعَل (ʾafʿal) を用いて形成される[12]

比較級

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比較級は أَفْعَل の形をとり、「〜より...」は前置詞 مِنْ (min) を用いて表現する:

  • كَبِير (kabīr) - 大きい → أَكْبَر (ʾakbar) - より大きい
  • صَغِير (ṣaghīr) - 小さい → أَصْغَر (ʾaṣghar) - より小さい
  • جَمِيل (jamīl) - 美しい → أَجْمَل (ʾajmal) - より美しい

例:هَذَا الْبَيْتُ أَكْبَرُ مِنْ ذَلِكَ (hādhā l-baytu ʾakbaru min dhālika) - この家はあの家より大きい

最上級

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最上級も同じ أَفْعَل の形を用い、通常は限定形(定冠詞付き)または属格支配(イダーファ構文)で表現される:

  • الْأَكْبَر (al-ʾakbar) - 最も大きい(限定形)
  • أَكْبَرُ الْبُيُوتِ (ʾakbaru l-buyūti) - 家々の中で最も大きい(属格支配)

比較級・最上級の女性形は فُعْلَى (fuʿlā) の形をとる:

  • كُبْرَى (kubrā) - より大きい(女性)/ 最も大きい(女性)

なお、比較級・最上級は二段変化であり、タンウィーンを受け入れず、属格では母音が -a となる。

副詞と対格の副詞的用法

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アラビア語には独立した副詞の品詞分類が存在しない場合が多いが、様々な方法で副詞的な意味が表現される。

対格による副詞的用法

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名詞を対格にすることで、様態・時・場所などの副詞的意味を表すことができる。

  • جَاءَ مُسْرِعًا (jāʾa musriʿan) - 彼は急いで来た(直訳:急いでいる状態で来た)
  • سَافَرَ صَبَاحًا (sāfara ṣabāḥan) - 彼は朝に旅立った

動詞と同じ語根から派生した動名詞を対格にして、動作の様態や程度を強調する:

  • ضَرَبَهُ ضَرْبًا شَدِيدًا (ḍarabahu ḍarban shadīdan) - 彼を激しく殴った(直訳:激しい殴打で殴った)

前置詞句による副詞的表現

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前置詞句も副詞的な機能を果たす:

  • فِي الْبَيْتِ (fī l-bayti) - 家の中で
  • بِسُرْعَةٍ (bi-surʿatin) - 速く、急いで

副詞的に用いられる語

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一部の語は常に副詞的に用いられる:

  • هُنَا (hunā) - ここで
  • هُنَاكَ (hunāka) - そこで
  • الْآنَ (al-ʾāna) - 今
  • أَمْسِ (ʾamsi) - 昨日(常に対格)
  • غَدًا (ghadan) - 明日(常に対格)
  • أَيْضًا (ʾayḍan) - また、同様に(常に対格)

冠詞

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アラビア語には الـ (al-) という定冠詞があり、綴りの上では接頭語の形をとる。後続する名詞が太陽文字(ت، ث، د، ذ، ر، ز، س、ش، ص، ض، ط、ظ、ل、ن)で始まる場合、定冠詞の ل (l) は発音されず、後続の子音が重子音化(シャッダ)する。例えば、「太陽」を意味する شَمْس (shams) に定冠詞が付くと الشَّمْس (ash-shams) となる。

一方、月文字(太陽文字以外の子音)で始まる名詞の場合、定冠詞の ل はそのまま発音される。例えば、「月」を意味する قَمَر (qamar) に定冠詞が付くと الْقَمَر (al-qamar) となる。

語根と派生形システム

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アラビア語の語彙の大部分は、語根جذر, jidhr)と呼ばれる通常3つの子音から構成される基本形から派生する。例えば、k-t-b(ك ت ب)という語根は「書く」という意味に関連する語を生成する。

語根には、3つの強子音(破裂音摩擦音など)から成る「強語根」のほか、ワーウ(w)、ヤーウ(y)、ハムザ(ʾ)などの弱文字を含む「弱語根」が存在する。弱語根の動詞は、活用の過程で弱文字が脱落・変化・長母音化するなど、特殊な変化を示す。また、2つの子音から成る「ダブル動詞」や、4つの子音から成る「4字語根動詞」も存在する。

この語根に特定の母音パターンや接辞を適用することで、以下のような派生語が規則的に形成される:

  • كَتَبَ (kataba) - 彼は書いた(動詞基本形)
  • كِتَاب (kitāb) - 本(名詞)
  • كَاتِب (kātib) - 書く人、作家(能動分詞)
  • مَكْتَب (maktab) - 事務所、机(場所名詞)
  • مَكْتُوب (maktūb) - 書かれたもの(受動分詞)
  • مَكْتَبَة (maktaba) - 図書館、書店(場所名詞)

動詞の語根からは、第I形(基本形)から第X形までの派生形が生成され、それぞれ使役、受動、相互などの意味を付加する。この語根派生システムはアラビア語文法の特徴的な要素であり、語彙の生成と語の間の意味的関連を示す体系的な仕組みとなっている。語根を理解することで、未知の単語でもその意味を推測することが可能になる場合がある。

動詞

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名詞文における時制とコピュラ動詞

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現在時制の肯定名詞文ではコピュラ(be動詞)を用いない。しかし、過去や未来、否定などの意味を加える場合には、كَانَ (kāna, であった) やその姉妹語を用いる。

これらが名詞文に先行すると、主語は主格のままだが、述語は対格に変化する。

  • 現在: الطَّالِبُ مُجْتَهِدٌ (aṭ-ṭālibu mujtahidun) - その学生は勤勉だ。
  • 過去: كَانَ الطَّالِبُ مُجْتَهِدًا (kāna ṭ-ṭālibu mujtahidan) - その学生は勤勉だった。

一般動詞

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一般動詞はまず完了形と未完了形の大きく2つの活用に分けられる。さらにそれぞれ、男性形と女性形、1〜3人称、単〜複数形に活用する。

完了形と未完了形は、時制(過去・現在・未来)というよりも、むしろアスペクト(動作の完了性や継続性)を表す文法範疇である。完了形は動作の完了・実現を表し、最も一般的には過去の出来事を表すが、文脈によっては現在完了や確実性の高い未来を表すこともある。未完了形は動作の継続・反復・未完了を表し、文脈や付加される不変詞によって現在・未来・習慣などの意味を表す。

1人称形のみ男女の別がなく、また双数形もない。動詞自体に主語となる人称代名詞が含まれるため、一般動詞を用いる構文ではこれを置かないことが文法的には正しく、フスハーではそうなっている。しかし別途に主語を置くことは日常的に行われており、「私は勉強する」を「 أنا أدرس 」のように言うことは珍しくない。

アラビア語の動詞における基本形は完了形3人称男性単数であり、「彼は〜した」という意味になる。多くはアリフバーター3文字から成り、これを語根と呼ぶ。動詞によっては語根が2文字、または4字のものもあり、前者をダブル動詞、後者を4字語根動詞と呼ぶ。オノマトペのほとんどは4字語根動詞となる。

完了形と未完了形は、時制(過去・現在・未来)よりも、むしろアスペクト(動作の完了性)を表す文法範疇である。

完了形は、動作の完了・実現を表す。最も一般的には過去の出来事を表すが、文脈によっては現在完了(「たった今、勉強が終わった」)や、確実性の高い未来(「明日彼が来たら、私は出発する」という条件文の帰結節)を表すこともある。

未完了形は、動作の継続・反復・未完了を表す。文脈や付加される不変詞によって、以下のような時制を表す:

  • 現在時制:يَدْرُسُ(yadrusu, 彼は勉強している)
  • 未来時制(سَـ(sa-)またはسَوْفَ(sawfa)を付加):سَيَدْرُسُ(sa-yadrusu, 彼は勉強するだろう)
  • 習慣・反復:كَانَ يَدْرُسُ(kāna yadrusu, 彼はよく勉強していた)
  • 接続法(目的:لِـを付加):لِيَدْرُسَ(li-yadrusa, 勉強するために)
  • 要求法(禁止:لَمْまたはلَاを付加):لَمْ يَدْرُسْ(lam yadrus, 彼は勉強しなかった)

このように、完了形・未完了形は相を表す基本範疇であるが、実際の時制は文脈や付加される要素によって決定される。

接続法は、目的を表すلِـ(li-, 〜するために)や否定の未来を表すلَنْ(lan, 決して〜しない)などの不変詞の後に置かれる際に用いられ、未完了形の末尾のuをaに変えることで得られる。ただし、nで終わる形(双数・2女単・2/3男複)からはnを取る。

要求法(短縮法)は、否定の過去を表すلَمْ(lam, 〜しなかった)や禁止のلَا(lā, 〜するな)の後に用いられ、末尾のuをスクーン(無母音)に変える。nの脱落規則は接続法と同じである。

動詞はいずれも、ほぼ規則的な活用変化をみせる。また、語根の頭や間に同じく規則的な活用をすることで受け身使役要求などの形になる。

目的語として人称代名詞の結合形を用いる差異、三人称男性の活用ではアリフが省略され、二人称男性複数ではワーウが書き加えられる[13]

第三語根がターやヌーンの場合、その文字からはじまる活用語尾が接続する活用においてはシャッダ記号を用いることになる[14]

動詞派生形

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西欧の言語学およびそれに影響を受けた教授法では、動詞の語形に応じて分類を行い、これに数字を付けて区別している。これを派生形と呼び、語根のみからなる基本形は第I形(第1形、原形)、以降は第II形(第2形)…と続く。一方、アラブ式文法では派生形という概念は用いず、完了形3人称単数男性形の文字数によって分類する(「ルバーイー」「フマースィー」など)。

現代フスハーも含め古くから多用されているのは第1形(原形)~第10形で、学習書では通常多用される第10形までしか掲載していない。第11~第15形については元々使用が少なかったが、ごくわずかな例を除いて現代フスハーは用いられていない。

なおアラブ式文法ではこのような派生形の概念を用いず、完了形の3人称・単数・男性の語形が何文字から構成されるかによって رُبَاعِيّ(rubāʿī, ルバーイー, 「4文字の(物)、4文字からなる(物)」)、خُمَاسِيّ(khumāsī, フマースィー, 「5文字の(物)、5文字からなる(物)」)のように分類される。

動詞派生形一覧

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動詞の派生形は、完了形・未完了形だけでなく、動名詞や分詞の語形も規則的に変化する。以下に第I形から第X形までの主なパターンを示す。

完了形未完了形動名詞能動分詞受動分詞主な機能・意味
Iفَعَلَ (faʿala)
فَعِلَ (faʿila)
فَعُلَ (faʿula)
يَفْعَلُ (yafʿalu)
يَفْعِلُ (yafʿilu)
يَفْعُلُ (yafʿulu)
(不規則)فَاعِل (fāʿil)[注釈 5]مَفْعُول (mafʿūl)基本形
IIفَعَّلَ (faʿʿala)يُفَعِّلُ (yufaʿʿilu)تَفْعِيل (tafʿīl)مُفَعِّل (mufaʿʿil)مُفَعَّل (mufaʿʿal)強調、使役
(〜させる、強く〜する)
IIIفَاعَلَ (fāʿala)يُفَاعِلُ (yufāʿilu)مُفَاعَلَة (mufāʿala)مُفَاعِل (mufāʿil)مُفَاعَل (mufāʿal)関与、相互
(〜に働きかける)
IVأَفْعَلَ (ʾafʿala)يُفْعِلُ (yufʿilu)إِفْعَال (ʾifʿāl)مُفْعِل (mufʿil)مُفْعَل (mufʿal)使役
(〜させる)
Vتَفَعَّلَ (tafaʿʿala)يَتَفَعَّلُ (yatafaʿʿalu)تَفَعُّل (tafaʿʿul)مُتَفَعِّل (mutafaʿʿil)مُتَفَعَّل (mutafaʿʿal)再帰 (IIの受動)
(〜された状態になる)
VIتَفَاعَلَ (tafāʿala)يَتَفَاعَلُ (yatafāʿalu)تَفَاعُل (tafāʿul)مُتَفَاعِل (mutafāʿil)مُتَفَاعَل (mutafāʿal)相互 (IIIの再帰)
(互いに〜し合う)
VIIاِنْفَعَلَ (infaʿala)يَنْفَعِلُ (yanfaʿilu)اِنْفِعَال (infiʿāl)مُنْفَعِل (munfaʿil)(なし)受動、反射
(〜される、〜してしまう)
VIIIاِفْتَعَلَ (iftaʿala)يَفْتَعِلُ (yaftaʿilu)اِفْتِعَال (iftiʿāl)مُفْتَعِل (muftaʿil)مُفْتَعَل (muftaʿal)再帰、熟慮
(自ら〜する)
IXاِفْعَلَّ (ifʿalla)يَفْعَلُّ (yafʿallu)اِفْعِلَال (ifʿilāl)مُفْعَلّ (mufʿall)(なし)色・身体的欠陥
(〜色になる)
Xاِسْتَفْعَلَ (istafʿala)يَسْتَفْعِلُ (yastafʿilu)اِسْتِفْعَال (istifʿāl)مُسْتَفْعِل (mustafʿil)مُسْتَفْعَل (mustafʿal)要求、判断
(〜しようと求める、〜だとみなす)

アラビア語の辞書は、その多くが語根によって引く体裁をとっており、派生形や名詞形は当該語根の項目に並べる。したがって辞書を引くためには語根が何かを理解していなければならない[15]

第I形動詞の動名詞

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第I形動詞の動名詞(مَصْدَر, maṣdar)は不規則であり、動詞ごとに個別に覚える必要がある。主な動名詞のパターンには以下のようなものがある。

パターン例(動詞)例(動名詞)意味
فَعْل (faʿl)فَتَحَ (fataḥa)فَتْح (fatḥ)開けること
فِعْل (fiʿl)ذَكَرَ (dhakara)ذِكْر (dhikr)記憶・唱念
فُعْل (fuʿl)شَكَرَ (shakara)شُكْر (shukr)感謝
فَعَل (faʿal)طَلَبَ (ṭalaba)طَلَب (ṭalab)要求
فُعُول (fuʿūl)دَخَلَ (dakhala)دُخُول (dukhūl)入ること
فُعَال (fuʿāl)سَعَلَ (saʿala)سُعَال (suʿāl)
فِعَال (fiʿāl)جَهَدَ (jahada)جِهَاد (jihād)努力・ジハード
فَعَالَة (faʿāla)تَجَرَ (tajara)تِجَارَة (tijāra)商業
فِعَالَة (fiʿāla)زَرَعَ (zaraʿa)زِرَاعَة (zirāʿa)農業
فُعُولَة (fuʿūla)جَلَسَ (jalasa)جُلُوس (julūs)座ること
فَعِيل (faʿīl)صَرَخَ (ṣarakha)صَرِيخ (ṣarīkh)叫び
مَفْعَل (mafʿal)رَجَعَ (rajaʿa)مَرْجِع (marjiʿ)参照・帰還
مَفْعِل (mafʿil)سَكَنَ (sakana)مَسْكِن (maskin)住居

なお、第II形以降の派生形の動名詞は規則的なパターンに従う(#動詞派生形一覧を参照)。

特殊な動詞

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ダブル動詞
第二語根と第三語根が同一である動詞を指す。

ダブル動詞の第I形には語根2文字しか存在しないため、第II形以降の活用を行うためには第3語根を増やさなければならない。このときの第3語根は第2語根と同じ文字、子音が用いられる。また、ダブル動詞第I形の第2語根はシャッダが付く。ここから、ダブル動詞とは第2語根と第3語根が同じ子音からなる音便の結果として、第I形では第2、第3語根が合わさってシャッダ化したものとみることができる。

完了形未完了形動名詞補足情報
ダブル動詞の例
Iمَدَّ (madda)يَمُدُّ (yamuddu)مَدّ (madd)基本形。第2語根の母音が移動/消去して同化。
IVأَمَدَّ (ʾamadda)يُمِدُّ (yumiddu)إِمْدَاد (ʾimdād)未完了形で母音が第1語根へ移動。動名詞では長母音が割り込むため同化が解ける。
VIتَمَادَّ (tamādda)يَتَمَادُّ (yatamāddu)تَمَادّ (tamādd)第2語根の前に長母音āがあっても第2語根と第3語根が隣接すれば同化は維持される。
VIIاِنْضَمَّ (inḍamma)يَنْضَمُّ (yanḍammu)اِنْضِمَام (inḍimām)接頭辞inがあっても基本形と同様に第2語根の母音が脱落して同化。
VIIIاِمْتَدَّ (imtadda)يَمْتَدُّ (yamtaddu)اِمْتِدَاد (imtidād)間にtが介入しても第2語根と第3語根が隣り合えば同化。
Xاِسْتَمَدَّ (istamadda)يَسْتَمِدُّ (yastamiddu)اِسْتِمْدَاد (istimdād)IV形と同じく、母音移動による同化と動名詞での解離が起きる。
語頭(第一語根)ワーウ首弱動詞
第1語根が و(ワーウ)である動詞。
未完了形において原則として頭のワーウが脱落する。
  • 例: وَصَلَ (waṣala, 到着した) → يَصِلُ (yaṣilu, 到着する) / 命令形 صِلْ (ṣil)
窪み動詞(中弱動詞)
第2語根が و または ي (または ا )である動詞。
完了形の3人称単数では弱文字が長母音 ا (ā) に変化する。語末に子音で始まる人称接尾辞(ـتُ -tu など)が接続して第3語根がスクーン化すると、長母音は短母音化する。その際、第1語根の母音は、元の語根がワーウなら u に、ヤーウなら i に変化して痕跡を残す。
  • ワーウ由来の例: قَالَ (qāla, 言った) → قُلْتُ (qultu, 私は言った)
  • ヤーウ由来の例: بَاعَ (bāʿa, 売った) → بِعْتُ (biʿtu, 私は売った)
(第三語根)ワーウ弱動詞
第3語根が و である動詞。
完了形3人称単数では ا (alif) で終わる形となる。未完了形や派生形では、語尾変化に伴い弱文字が脱落したり、母音と同化したりする。
  • 例: دَعَا (daʿā, 呼んだ) → يَدْعُو (yadʿū, 呼ぶ)
(第三語根)ヤーウ弱動詞
第3語根が ي である動詞。
完了形3人称単数では ى (alif maqṣūra) で終わる形となるものがある。
  • 例: رَمَى (ramā, 投げた) → يَرْمِي (yarmī, 投げる)
語頭ハムザ動詞
第1語根が ء である動詞。
語中ハムザ動詞
第2語根が ء である動詞。
語末ハムザ動詞
第3語根が ء である動詞。
4語根動詞
語根が4つある動詞(ルバーイー)。
基本形(第I形)は فَعْلَلَ (faʿlala) / يُفَعْلِلُ (yufaʿlilu) のパターンをとる。
  • 例: تَرْجَمَ (tarjama, 翻訳した) → يُتَرْجِمُ (yutarjimu, 翻訳する)
非人称動詞
ほとんどの動詞はその活用によって「誰が〜した(〜する)」という意味になるが、一般動詞であっても主語が「人」にならないものがある。たとえば أمكن を「〜ができる」の意味で使うとき、その可能となる動作の主語が誰であっても基本的に يمكن の形となる。これは أمكن という動詞が、「何が可能か」というその動作自体が主語として機能するという特殊な構造になっているからである。つまり、この動詞における主語が「行為者(人)」ではなく「行為(動作そのもの)」となっている。たとえば「私は走ることができる」という文をアラビア語で表すと、يمكنني أن أجريとなる。يمكن は三人称単数形であり、ني は一人称単数の代名詞の対格で、直接この非人称動詞につながる。「أن」+動詞の部分が主語になっている。

命令形

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命令形は未完了形から派生し、2人称に存在する。

基本的な形成手順は以下のとおりである。

  1. 未完了形2人称から接頭辞تـを除去する。
  2. 語末の母音を除去する(要求法と同じ)。
  3. 語頭が子音連続になる場合اを付加する[注釈 6]
未完了形接頭辞除去命令形意味
تَكْتُبُ (taktubu)اُكْتُبْ (uktub)書け
تَفْتَحُ (taftaḥu)اِفْتَحْ (iftaḥ)開けろ
تَذْهَبُ (tadhhabu)اِذْهَبْ (idhhab)行け

未完了形の特徴母音が u である場合、アリフの母音は u になる。

  • 例:اُكْتُبْ (uktub, 書け) ← يَكْتُبُ (yaktubu)

未完了形の特徴母音が a または i である場合、アリフの母音は i になる。

  • 例:اِفْتَحْ (iftaḥ, 開けろ) ← يَفْتَحُ (yaftaḥu)

動詞を用いない所有表現

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「持っている」「ある」「いる」といった所有や所在をあらわす動詞は英語だとhaveやbe動詞+前置詞が使われるが、アラビア語では所在・所有をあらわす前置詞 عِنْدَ(ʿinda, インダ, 「~のところに」の意-今手元に無く自宅や倉庫に所有している場合も含む)、مَعَ(maʿa, マア, 「~と共に、◯◯は~を携帯していて」)、 لِ(li, リ, 「~の所有で、~に所有されていて」の意)などを用いて「〜は…のところにある」「~は…の所有である」という表現をすることの方が多い。

これらを「私の」を意味する人称代名詞の接続形 ـِي(前置詞語末の母音がiになった上で長母音īをなす子音字ي)と組み合わせ、所有されている物事を主部、前置詞句を述部とする名詞文(名詞先行文)の形とする。「a pen」(قلمٌ, qalam(un), カラム(ン))のように持ち物が非限定(不定)の場合は述部が先行し、「the pen」(اَلْقَلَمُ, al-qalam(u), アル=カラム)のように持ち物が限定(定)の場合は述部が通常の語順通り後方に置かれる。

عِنْدِي قَلَمٌ

ʿindī qalam(un), インディー・カラムン

私はペンを1本持っている、私のところにペンが1本ある【今手元にあるか自宅に持っているかのどちらか】

اَلْقَلَمُ عِنْدِي

al-qalamu ʿindī, アル=カラム・インディー

そのペンは私のところにある、私はそのペンを持っている【先に話題に上った特定の既知のペン1本について】【今手元にあるか自宅に持っているかのどちらか】

لِي قَلَمٌ

lī qalamu(un), リー・カラムン

私はペンを1本持っている、私はペンを1本所有している【ペンの所有権の明示】

اَلْقَلَمُ لِي

al-qalamu lī, アル=カラム・リー

私はそのペンを持っている、私はそのペンを所有している、そのペンは私のものだ【ペンの所有権の明示】

アラビア語ではこのように主語と述部のみで「I have a pen.」ないしは「The pen is mine.」と同等の文章を作ることができるが、主部が非限定(不定)の場合、口語アラビア語では文頭に人称代名詞を改めて置き、主語+【述部先行の名詞文(述部+主部)】という形式になることが多い。

【口語的】أَنَا عِنْدِي سَيَّارَةٌ

ana ʿindī sayyāra(tun), アナ・インディー・サイヤーラ(トゥン)

直訳:私は、私のところに車が1台ある

意味:私は車を1台持っている、私のところには車が1台ある

オノマトペ

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アラビア語以外の多くの言語における擬音語または擬態語は動詞、もしくは名詞の形をとる。具体的には、たとえば犬の鳴き声であればオノマトペ「nabaḥa」から取った語「 نبح 」であり、動詞として扱うのであれば「犬が鳴く」、名詞として扱うのであれば「犬の鳴き声」という意味になる。

日本語では「ワンワン」「ドキドキ」のような擬音語擬態語オノマトペ)が副詞として発達し、独立した語として用いられるが、アラビア語では音や状態を表す語も、動詞や名詞の語根体系の中に組み込まれているという特徴がある。

具体的には、音を模した語根から動詞が派生する。例えば、犬の鳴き声であれば「 نبح (nabaḥa) 」((犬が)吠える)という動詞や、「 نُبَاح (nubāḥ) 」(吠え声)という名詞として扱われる。また、4字語根動詞(ルバーイー)には、زلزل (zalzala, ザルザラ=グラグラと揺らす/地震が起きる)や رفرف (rafrafa, ラフラファ=ひらひらとはためく)のように、音や状態の繰り返しを語根の中に含み、日本語のオノマトペと似た響きを持つものも多く存在する。

名詞形

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名詞の多くは動詞の名詞的活用によって構成される。アラビア語文法では学派によっては「動名詞は動詞から派生する語ではなく、逆に動詞が動名詞から作られる」という考え方をとることもあり、動名詞が مَصْدَر(maṣdar, マスダル, 「源、出所」の意味)と呼ばれるなどしている。

たとえば語頭にم(ミーム)を付すことで英語の「-er」のような意味合いになる。具体例を示すと「学ぶ」を意味する動詞「 درس (darasa=彼は学んだ) 」ならば「学ぶ場所」で مدرسة (madrasa=マドラサ)になり、第II形の使役に付けば「学ばせる(=教える)人」で مدرس (mudarris=教師)になる。モロッコのことをアラビア語では المغرب(al-maghrib=マグリブ) というが、これは「日が沈む」という意味の動詞「 غرب (gharaba)」に م が付いた形であり、つまり「日の没する場所」という字義である。また日没の方角ということから転じて غرب(gharb)を名詞として用いれば「西」の意になる。

語根の間に長母音を置くことで「〜すること」もしくはその行為や現象自体が示される。しばしば「聖戦」と訳される「 جهاد 」(ジハード)は語根「 جهد 」の派生語であり、これは「ひじょうに疲れる」を意味する。綴りをそのまま名詞として用いると「努力」であるが、これの第2語根と第3語根の間に ا を挿入した派生語が جهاد である。字義としては「努むること」となり、イスラームの宗教的な意味を帯びて用いられる。この語に前述の م が付くと「ジハードを行う者」の意の「 مجاهد 」になり、これが複数形になったものが مجاهدين (ムジャーヒディーン)である。

動詞「 سلم 」は「安全である」もしくは「免れている」という意味であり、上記のように第2語根と第3語根の間に ا を挿入すると「安全であること」、すなわち سلام (平和)になる。また、動詞「 سلم 」をIV形にし、これをさらに動名詞形とすると、 إسلام (イスラーム)となる。同じくIV形に、する者をあらわす م が付くと مسلم (ムスリム)になる。

従属節と関係節

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条件文

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アラビア語の条件文には、実現可能な条件を表すものと、反実仮想を表すものがある。

実現可能条件

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実現可能な条件は、إِنْ(ʾin)またはإِذَا(ʾidhā)を用いて表現される。これらは完了形または未完了形の動詞を伴い、条件節と帰結節の両方で用いられる。

  • إِنْ جَاءَ زَيْدٌ أَكْرَمْتُهُ(ʾin jāʾa Zaydun ʾakramtuhu, もしザイドが来たら、私は彼を歓待する)

إِذَاは一般に未来の条件に、إِنْはより一般的・仮定的な条件に用いられる傾向がある。

反実仮想

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反実仮想(事実に反する仮定)はلَوْ(law)を用いて表現され、通常は完了形の動詞を伴う。

  • لَوْ جَاءَ زَيْدٌ لَأَكْرَمْتُهُ(law jāʾa Zaydun la-ʾakramtuhu, もしザイドが来ていたら、私は彼を歓待しただろう[実際には来なかった])

帰結節には通常、لَـ(la-)という不変詞が付加される。

その他の条件表現

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  • لَوْلَا(lawlā):「もし〜がなければ」(反実仮想の否定)
  • لَوْ أَنَّ(law ʾanna):「もし〜であったならば」(名詞文の反実仮想)

関係節

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関係節は関係代名詞الَّذِي(alladhī)とその派生形を用いて形成される。関係代名詞は先行詞の性・数によって変化する:

性・数関係代名詞
男性単数الَّذِي(alladhī)
女性単数الَّتِي(allatī)
男性双数اللَّذَانِ(alladhāni, 主格) / اللَّذَيْنِ(alladha yni, 対格・属格)
女性双数اللَّتَانِ(allatāni, 主格) / اللَّتَيْنِ(allatayn i, 対格・属格)
複数(共通)الَّذِينَ(alladhīna, 男性・主格) / الَّذِينَ(alladhīna, 対格・属格) / اللَّاتِي(allātī, 女性)

例:الطَّالِبُ الَّذِي يَدْرُسُ(aṭ-ṭālibu lladhī yadrusu, 勉強する学生)

先行詞が非限定(不定)の場合、関係代名詞は用いられず、動詞や分詞が直接先行詞を修飾する形となる。

疑問文と否定文

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疑問文

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アラビア語の疑問文には、Yes/No疑問文と疑問詞疑問文がある。

Yes/No疑問文

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Yes/No疑問文は、疑問助詞 هَلْ (hal) または أَ (ʾa-) を文頭に置くことで形成される:

  • هَلْ أَنْتَ طَالِبٌ؟ (hal ʾanta ṭālibun?) - あなたは学生ですか?
  • أَتَدْرُسُ الْعَرَبِيَّةَ؟ (ʾa-tadrusu l-ʿarabīya?) - あなたはアラビア語を勉強しますか?

疑問詞疑問文

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疑問詞を用いた疑問文では、疑問詞が通常文頭に置かれる。主な疑問詞:

  • مَنْ (man) - 誰
  • مَا / مَاذَا (mā / mādhā) - 何
  • أَيْنَ (ʾayna) - どこ
  • مَتَى (matā) - いつ
  • كَيْفَ (kayfa) - どのように
  • لِمَاذَا (li-mādhā) - なぜ

例:مَنْ أَنْتَ؟ (man ʾanta?) - あなたは誰ですか?

否定文

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否定文の形成は、動詞文と名詞文で異なる。

動詞文の否定

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  • 完了形:مَا (mā) または لَمْ (lam) + 未完了形要求法
    • مَا كَتَبَ (mā kataba) - 彼は書かなかった
    • لَمْ يَكْتُبْ (lam yaktub) - 彼は書かなかった
  • 未完了形:لَا (lā) + 未完了形
    • لَا يَكْتُبُ (lā yaktubu) - 彼は書かない
  • 未来:لَنْ (lan) + 未完了形接続法
    • لَنْ يَكْتُبَ (lan yaktuba) - 彼は書かないだろう

名詞文の否定

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  • لَيْسَ (laysa) を用いる(動詞のように活用する):
    • لَيْسَ هُوَ طَالِبًا (laysa huwa ṭāliban) - 彼は学生ではない

命令法の否定(禁止)

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  • لَا (lā) + 未完了形要求法
    • لَا تَكْتُبْ (lā taktub) - 書くな

接続詞

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و

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و は英語のandに相当する語である。表記上は接頭語となり、綴りは後続する単語に接続する。このときの後続単語は名詞や動詞といった別を問わない。ただし昨今では可読性を高める意味から繋げずに記述することもある。

順接並列のほか、添加転換の意味にも使われ、言葉を続けたり、相手の話を引継ぐ場面でも用いられる。このため、文頭にあらわれる頻度はひじょうに高い。「しかし」を意味する「 لكن 」もその直前の言葉を受けた上で逆説として続ける語でありフスハーの文法では ولكن という形をとる。

直前の文章を受けてさらに続けるという性格上、ある種の語と組み合わさると特別な意味を持つことがある。「〜以外」を意味する「 إلا 」の前に付いて وإلا の形をとると字義としては「そしてそれ以外は〜」になり、全体として仮定のニュアンスを含んだ「さもなければ」という意味になる。

إذا

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إذن とも綴り、「それでは」の意味になる。話の引継ぎや転換、物事の結論に使われ、 و よりも自然な表現である。接頭語にはならないが、 وإذا の形にはなる。

仮定をあらわす إذا とは別の語であり発音も'idhanである。

لكن

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لكن は英語のbutにあたり、逆接をあらわす。 و の節で解説したようにフスハーの文法では原則として و が語頭に付くが、口語ではこの限りではない。

フスハーでは ولكني のように語尾には接続指示代名詞が付くため、文法上では動詞または名詞に位置付けられるが活用はしない。

ف

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理由結果をあらわし、「何故ならば〜」や「したがって〜」の意味になる接頭語。 إذا とは異なり、自ら行う言及に対して用いられる。

يا

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関係詞である يا は相手への呼び掛けに用いられる。フスハーにおいては原則として後続する語は相手の人名であるが、それ以外の一般名詞を置いた口語表現での使われ方も含めて感動詞と解釈しても間違いではない。

字義意味
يا سلام平穏よ何ということだ
يا الله神よさあ、それ、いけーっ
افتح يا سمسمゴマよ開け開けゴマ千一夜物語の台詞)

「開けゴマ」という日本語訳になるためにしばしば誤解を受けるが、この「ゴマ」はの名前や開けるための道具をさしているものではなく、扉を開ける存在そのものである。もし「ゴマ」が扉の名前であるならば動詞は第V形でなければならず、に相当するような道具であるならば前置詞 بـ が付かなければならない。

このほか、パレスチナスローガン يا قدس (エルサレムよ)のように人格のないものに対しても使われることがある。

前置詞

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アラビア語の前置詞(حُرُوفُ الْجَرِّ)は、後続する名詞を属格にする。名詞だけでなく、人称代名詞(接続形)も接尾辞として後続することができる。

主な前置詞一覧

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1文字の前置詞(接頭辞として単語に結合する)と、独立した語となる前置詞がある。

前置詞アルファベット転写主な意味備考
主な前置詞一覧[16]
بِـbi手段(〜で)、場所(〜にて)定冠詞 الـ が続くと بِالـ (bi-l-) となる。
لِـli目的(〜のために)、所有(〜の物)定冠詞 الـ が続くと ا が脱落し لِلـ (li-l-) となる。
代名詞が接続すると原則 لَـ (la-) になる(1人称単数を除く)。
كَـka比喩(〜のように)定冠詞 الـ が続くと كَالـ (ka-l-) となる。
مِنْmin起点(〜から)、部分定冠詞が続くと مِنَ الـ (mina l-) と補助母音 a が入る。
عَنْʿan根源(〜について)、離脱定冠詞が続くと عَنِ الـ (ʿani l-) と補助母音 i が入る。
فِي内部(〜の中に)
إِلَىʾilā方向・到達(〜へ、〜まで)
عَلَىʿalā上(〜の上に)、義務
مَعَmaʿa同伴(〜と一緒に)
عِنْدَʿinda場所・所有(〜の元に)

人称代名詞との接続

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人称代名詞が接続する場合、原則として属格の接続形(ـِي -ī, ـكَ -ka, ـهُ -hu 等)がそのまま付加されるが、一部の前置詞では音韻変化が起きる。

لِـ (li) の母音変化
1人称(لِي lī, 私には)を除き、母音が a に変化する。
例: لَكَ (laka, あなたには)、لَهُ (lahu, 彼には)
مِنْ (min), عَنْ (ʿan) の子音重複
1人称単数(ـِي)が接続する場合のみ、語末の n が倍加(シャッダ化)する。
例: مِنِّي (minnī, 私から)、عَنِّي (ʿannī, 私について)
語末が ى (alif maqṣūra) の前置詞
إِلَى (ʾilā), عَلَى (ʿalā) などは、代名詞が接続すると語末が二重母音の ay (ـَيْـ)に変化する。
例: إِلَيْهِ (ʾilayhi, 彼へ)、عَلَيْكَ (ʿalayka, あなたの上に)
لَدَى (ladā, 〜の元に) → لَدَيْهِ (ladayhi) も同様。

前置詞と定冠詞の結合

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前置詞の後に、定冠詞 الـ (al-) を伴う名詞が続く場合、つづりや発音に変化が生じる。

1文字の前置詞(接頭辞)の場合

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名詞と連結して書かれる1文字の前置詞(بِـ, كَـ, لِـ)は、定冠詞のアリフ(ハムザ・アル=ワスル)を飛ばして発音する。特に لِـ (li) の場合は、つづり上もアリフが脱落する。

後続の名詞が太陽文字で始まる場合(例:شَمْس)、定冠詞の ل は発音されず、続く子音が重子音化(シャッダ)する。

独立した前置詞の場合

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独立した前置詞であっても、定冠詞 الـ との境目で「無母音(スクーン)の連続」が発生するため、発音上の調整(補助母音の挿入や短母音化)が行われる。

補助母音の挿入
語末が子音の前置詞。
  • مِنْ (min) + الـمِنَ الـ (mina l-)
    عَنْ (ʿan) + الـعَنِ الـ (ʿani l-)
長母音の短母音化
語末が長母音の前置詞。つづりは変わらないが、発音上は長母音が脱落して短くなる。
  • فِي (fī) + الـ → (fi l-)
    إِلَى (ʾilā) + الـ → (ʾila l-)
    عَلَى (ʿalā) + الـ → (ʿala l-)

形態音韻論による説明

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アラビア語の音韻変化は、無数の例外の集まりではなく、以下の規則に基づいている。

  1. 二重スクーンの回避
    アラビア語には「母音を持たない子音(スクーン)が2つ連続してはならない」という音節制約がある。これが活用や接続において発生した場合、以下のいずれかの処理が行われる。
    1. 弱い文字の削除(短母音化)
      2つの無母音文字が衝突した場合、音声的に「弱い」方の文字(主に長母音や弱文字)が削除される。長母音(ā, ī, ū)は構造上「母音+無母音の弱文字」とみなされるため、この制約を受ける。
      • 例(中空動詞の完了形): قَالْتُ (qāltu) → قُلْتُ (qultu) / 私は言った
    2. 補助母音の挿入(ハムザトゥル・ワスル)
      語頭が「無母音」で始まることを回避するために、一時的な発音の足場としてハムザトゥル・ワスル(همزة الوصل、接続のハムザ)が導入される。
      文中で直前の単語に母音がある場合、その母音と連結できるため、このハムザは発音上は脱落する。文頭(発話の開始)にある場合のみ、以下の規則に従って特定の母音を帯びる。
      1. 母音決定の規則
        挿入される母音(a, i, u)は以下の環境によって厳密に決定される。
      2. 第1文型動詞の命令形
        動詞の第3文字目(語根の第2子音)の母音を参照して決定する。
        1. 第3文字が「u」の場合:ハムザも連動して「u」になる。
          • 例:كْتُبْ (ktub) → اُكْتُبْ (uktub) / 書け ※yaktubu(彼は書く)由来
        2. 第3文字が「a」または「i」の場合:ハムザは一律で「i」になる。
          • 例:فْتَحْ (ftaḥ) → اِفْتَحْ (iftaḥ) / 開け ※yaftaḥu(彼は開く)由来
          • 例:جْلِسْ (jlis) → اِجْلِسْ (ijlis) / 座れ ※yajlisu(彼は座る)由来
      3. 派生形の過去・命令・動名詞
        第7~10文型の過去形、命令形、および動名詞の語頭に付くハムザは、常に「i」で固定される。なお、第4文型(أَفْعَلَ)の語頭は「ハムザトゥル・カトゥ(切断のハムザ)」であり、常に「a」で発音され、決して脱落しない。
        • 例(第10文型):اِسْتَغْفَرَ (istaghfara) / 許しを求めた
        • 例(第7文型):اِنْكَسَرَ (inkasara) / 割れた
      4. 定冠詞
        定冠詞「アル(ال)」に付くハムザは、「a」で固定される。
        • 例:اَلْكِتَاب (al-kitāb) / その本
      5. 特定の名詞群(伝統的な固定)
        「名前(ism)」「息子(ibn)」などの特定の名詞は、語頭が二重子音で始まるため、「i」を補って発音する。
        • 例:اِسْم (ism) / 名前
      6. 脱落の規則
        直前に母音が存在する場合、ハムザトゥル・ワスルの母音は発音されず、直前の母音から直接次の子音へと音が繋がる。
        • 例:وَ (wa) + اُكْتُبْ (uktub) → وَاكْتُبْ (waktub) / そして書け
        • 例:فِي () + اَلْكِتَاب (al-kitāb) → فِي الْكِتَاب (fi l-kitāb) / 本の中に
  2. 弱文字の規則(الإعلال、イウラール)
    弱文字である「w(و)」と「y(ي)」は半母音であり、特定の子音や母音と隣接した場合、以下の規則が適用される。
    1. 転換(القلب、カルブ)
      「w」または「y」自身が母音を持ち、かつ直前の文字の母音が「a」である場合、「w」や「y」は、直前の「a」に引っ張られて「長母音のアリフ」に変化する。この際、元の弱文字の種類によって表記(正書法)が異なる。
      1. アリフ・マクスーラ(ى)になる場合
        変化した弱文字の起源が「y」である場合、あるいは3文字を超える単語(派生形など)の語末である場合、点のないヤーの形(アリフ・マクスーラ)で表記される。
        • 例(欠損動詞・y語根): رَمَيَ (ramaya) → رَمَى (ramā) / 彼は投げた
        • 例(派生形・w語根): أَعْطَوَ (a‘ṭawa) → أَعْطَى ('a‘ṭā) / 彼は与えた
      2. 直立したアリフ(ا)になる場合
        3文字の単語で、かつ変化した弱文字の起源が「w」である場合、直立したアリフで表記される。
        • 例(欠損動詞・w語根): دَعَوَ (da‘awa) → دَعَا (da‘ā) / 彼は呼んだ
        • 例(中空動詞): قَوَلَ (qawala) → قَالَ (qāla) / 彼は言った
    2. 移動(النقل、ナクル)
      弱文字が「母音」を持ち、かつその直前の子音が「無母音(スクーン)」である場合、弱文字の母音は直前の強い子音に移動する。母音を失った弱文字は、その新しい母音と同質の長母音に変化するか、削除される。
      • 例(未完了形): يَقْوُلُ (yaqwulu) → يَقُولُ (yaqūlu) / 彼は言う
    3. 削除(الحذف、ハズフ)
      弱文字が特定の「挟み撃ち」に遭った場合、あるいは形態素の境界で不要と判断された場合、完全に削除される。
      1. 連辞削除
        語頭の「w」が、未完了接頭辞の「ya」と、第2語根の母音「i」に挟まれた場合、脱落する。
        • 例:يَوْقِدُ (yawqidu) → يَقِدُ (yaqidu) / 燃える・点く
      2. 末尾削除
        要求形や命令形において、語尾の弱文字は文法的な標識として削除される。
        • 例:يَرْمِي (yarmiyu) → يَرْمِ (yarmi) / 彼は投げよ
  3. 子音の同化(الإدغام、イドガーム)
    第2語根と第3語根が同じ子音である場合、後ろの子音(第3語根)が母音を持っていれば、2つは融合する。なお、مَدَدْتُ (madadtu / 私が伸ばした) のように、第3語根が無母音化する場合は融合できない(二重スクーン回避則の優先)。
    • 例:مَدَدَ (madada) → مَدَّ (madda) / 彼は伸ばした
  4. 子音の置換(الإبدال、イブダール)
    主に第8文型において、挿入音「t(ت)」と語根の第1子音が衝突した際、調音部位を同化させるために子音そのものを置き換える現象である。
    1. 弱文字との衝突
      第1語根が「w」の場合、挿入音「t」に同化し、シャッダを用いて表記する。
      • 例(w-q-y):اِوْتَقَيَ (iwtaqaya) → اِتَّقَى (ittaqā) / 敬虔に恐れた
    2. 強勢音との衝突
      第1語根が強勢音「ṣ, ḍ, ṭ, ẓ(ص ض ط ظ)」である場合、後続の「t」も強勢音に引きずられて変化する。「ṣ, ḍ, ṭ」の場合は「ṭ(ط)」になり、「ẓ」の場合は「ẓ(ظ)」になってシャッダを用いて表記する。
      • 例(ṣ-b-r):اِصْتَبَرَ (iṣtabara) → اِصْطَبَرَ (iṣṭabara) / 忍耐した
    3. 有声音との衝突
      第1語根が有声音「d, z, dh(د ز ذ)」である場合、後続の「t」は有声音の「d(د)」に変化する。「dh(ذ)」の場合は「d(د)」のシャッダに変化する。
      • 例(z-h-r):اِزْتَهَرَ (iztahara) → اِزْدَهَرَ (izdahara) / 繁栄した
      • 例(dh-k-r):اِذْتَكَرَ (idhtakara) → اِدَّكَرَ (iddakara) / 想起した
    4. thとの衝突
      第1語根が「th(ث)」である場合、後続の「t」は「th(ث)」に変化してシャッダで表記される。
      • 例(th-'-r):اِثْتَأَرَ (ithta'ara) → اِثَّأَرَ (iththa'ra) / 復讐した
  5. ハムザの軽減(تخفيف الهمزة、タフフィーフ・アル=ハムザ)
    1. 二重ハムザの回避
      2つのハムザが連続し、かつ2つ目が無母音(スクーン)である場合、2つ目のハムザは直前の母音と同質の長母音に変化する。
      • 例('-m-n 第4形):أَأْمَنَ (’a’mana) → آمَنَ (’āmana) / 信じた
    2. 弱文字との相互変換
      1. 能動分詞における変化
        中央の語根が弱文字である動詞の能動分詞を作る際、長母音のアリフと弱文字が衝突すると、弱文字はハムザに変換される。
        • 例:قَاوِلٌ (qāwilun) → قَائِلٌ (qā'ilun) / 言う者
      2. 語尾の弱文字のハムザ化
        語末で長母音のアリフの後に弱文字が来た場合もハムザに変換される。
        • 例:إِعْطَاو (’i‘ṭāw) → إِعْطَاء (’i‘ṭā) / 与えること

関連項目

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脚注

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注釈

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  1. 格によらず同形どなる。
  2. 1 2 この後にハムザトゥルワスルが続く場合、 kum は kumu に、 hum は humu になる。
  3. 1 2 3 4 3人称の「-hu」からはじまる語尾は、直前の母音がiであるか、直前にyが来る場合、-hi, -himā, -him, -hinnaと変化する。
  4. كَسْلَانُ(kaslān(u), カスラーン(/カスラーヌ))の女性形は كَسْلَى(kaslā, カスラー)だが、現代アラビア語では男性形を三段変化の كَسْلَانٌ(kaslān(un), カスラーン(/カスラーヌン))、女性形を كَسْلَانَةٌ(kaslāna(tun), カスラーナ(トゥン))とすることがかなり広まってきている。
  5. #能動分詞を参照。
  6. 語頭がスクーンではじまっていない場合は2.の段階で命令形になる。

出典

[編集]
  1. 新妻 2022, p. 22.
  2. 新妻 2022, p. 26.
  3. 1 2 3 新妻 2022, p. 24.
  4. 1 2 3 4 新妻 2022, p. 25.
  5. 新妻 2022, p. 33.
  6. 新妻 2022, pp. 31–32.
  7. フスハー(正則語) 文法 複数形:解説”. www.coelang.tufs.ac.jp. 2021年4月18日閲覧。
  8. 新妻 2022, p. 28.
  9. 新妻 2022, p. 57.
  10. 新妻 2022, p. 29.
  11. 新妻 2022, p. 30.
  12. 新妻 2022, p. 104.
  13. 新妻 2022, p. 68.
  14. 新妻 2022, p. 69.
  15. 新妻 2022, p. 65.
  16. 新妻 2022, pp. 48–49.

参考文献

[編集]
  • 新妻仁一『アラビア語文法ハンドブック』(増補新版)白水社、2022年2月25日。ISBN 9784560089330 
  • 依田純和『アラビア語(世界の言語シリーズ17)』大阪大学出版会、2021年3月31日。ISBN 9784872593426